ー次元航行艦 アースラ
「というわけでジャック、近々君には働いてもらうことになる。しばらくは今まで通り生活していて構わない。」
ジュエルシードの回収作業がもう間もなく終わるという頃
ギル・グレアムはジャックを呼び出し、減刑の条件である奉仕活動について話し始めた。
「違法研究所のがさ入れだ。危険度は高いが奉仕度は高い。今なら拒否できるぞ?」
「はっ!上等じゃねえか。なんだってやってやるよ。」
こうしてジャックは依頼を受け、次回の強制捜査への協力が決定。
ジャックには通信端末が渡された。
ー数日後
「アレックス。対象の施設の関係機関は掴めたか?雇われの傭兵はいたか?」
ギル・グレアムは若い情報官に尋ねた。
情報官の下積みを兼ねた指令だった。
下手な魔導士よりも傭兵の方が厄介な場合があるのだ。
特に違法研究所はどこからか潤沢な資金を手に入れて施設の防衛を強化している。
下手に踏み込めばこちら側が危険だった。
「最近は野良の魔導士も増加している。考えられる斡旋元から辿ってみろ。」
念入りな事前調査には理由があった。
ジャックの初任務になるので安全確認を念入りにしておきたかったのだ。
英雄のチームの手際の良さや
現場でのチームワーク
圧倒的な正義の力
それらを有望な魔導士に見せつけて引き込む思惑があった。
「それらしき記録はありませんね。大丈夫ですよ!」
若い情報官は自信を持って答えた。
「確かに大型の物資の輸送の痕跡はありますが、人員はメンタルヘルスや耐震のメンテ業者みたいですよ。」
「?違法研究所にメンタルヘルスか。時代は変わったな。」
英雄はしみじみと考えた。
彼が踏み込む研究所は職員は皆、狂気に染まっていた。
狂ったように研究に打ち込む彼らはメンタルヘルスを必要とはしていなかったように思った。
やはり効率を重視するべきと世間の考えは変わっているようだった。
「隠ぺいがお粗末だな。だが好都合だ。研究所の端末へは侵入できそうか?」
記録の改ざんをしていないずさんさ。
今回の相手は初陣には持って来いのようだった。
「、、、おかしいですね。枝を辿ってもそれらしきものはありません。本丸の防壁だけは想定を上回ります。どうしますか?時間を頂ければもう少し潜りますが。」
「、、、構わん。それよりもう一度出入り業者を洗ってくれ。この施設はセキュリティがチグハグ過ぎる。」
ずさんなセキュリティの中に本命のように隠れる巧妙な隠ぺい。
余りにも不釣り合いだった。
英雄の勘は告げる。
本命を叩けばデカいネタを掘り出せそうだ。と
ーさらに数日後
「遊撃班は正面からお邪魔しろ。ジャックは遊撃班の仕事を見学。非殺傷が使えないお前は攻撃を避けるように。」
英雄は作戦を説明する。
「第二突入部隊は建物入って右の通信ケーブルを確保。こちらへバイパスしてくれ。本丸の情報を引き抜く。」
「職員をノックアウトしたのちに被害者の回収。生体反応はこちらでナビゲートする。回収ポイントは建物裏手だ。端末を確認するように。」
「作戦開始は1時間後だ。全員装備を再確認しておけ。」
「「了解!」」
「、、、」
テンポの良い指示にジャックは圧倒されていた。
緊張感のある会議に出席したのは初めてだった。
場に飲まれた彼の心臓は存在を激しく主張していた。
彼は統率された集団の気迫に圧倒され、なにより自分が余りにも場違いとわかっていた。
結果、とりあえず先頭集団について行くだけでいいかと理解をした。
「おーい。坊主はこっちだぞ。」
先輩風を拭かせた隊員がニヤニヤしながら手招きをしていた。
ー施設入り口
「ま、坊主はそこでよーく見てな。俺たちが悪い魔導士しょっ引くの見てしっかり勉強してけよ?」
相変わらず先輩風を吹かせる隊員は突入部隊の若手の筆頭
将来を有望視されるだけの自負もあった。
「そろそろだ。気を引き締めろ!」
2人は隊長らしき人物に怒られた。
ジャックはすっかり委縮して槍を呼び出せるように準備する。
素早く配置に着き、突入の合図を待つ。
と、隊長に肩を叩かれた隊員がハンマーで入り口の扉をロックごと破壊した。
突入部隊はそれを皮切りに順番に、定められたプログラムに従うロボットのように施設へと順々に侵入していった。
ダダダダダッ
突如施設内から銃声がなった。
「!なんだ」
「おい、カルロ!入り口から援護!あいつらいっちょ前に武装していやがるぞ。」
そう言って隊員は杖から光弾を発射した。
2人は焦った。
焦った2人は身を屈めながら叫ぶ。
「お、おい!なんで銃なんて持ってんだ!」
「坊主の言う通りですよ!出入り業者にそれらしき名前はなかったじゃないですか!!」
ダダダダダッ
身を隠した壁が煙を吐く。
若い隊員はみっともない姿を晒しながらも仕事をこなす。
「うるせえ!知るか!これぐらいは覚悟しとけクソガキども!」
ダダダダダッ
2人に一番近い隊員は目を向けることもなく野太い声で怒鳴った。
ダダダダダッ
「まずい、本丸叩く前に意味消失されちまうぞ!」
誰かが通信で叫ぶ。
と、
「ジャック!」
グレアムから通信が入る。
ホロウィンドウが浮かび、怒り顔の英雄が浮かび上がった。
「!お、おおおお。おい!これどうすりゃいいんだ?」
ダダダダダッ
ジャックは慌てて傍にいる隊員に尋ねた。
「うるせえ!話しかけんな!そのまましゃべりゃいいんだ。触る必要はねえよ!!」
ダダダダダッ
ダダダダダッ
「ジャック、制圧を頼む!正面の突き当りまでの人間を一掃してくれ!ただし殺しはなしだ。あとでできる限りお前の望みを聞く!」
「無茶苦茶言いやがって、、、」
絶対恥かかせてやる!
そう思いながらジャックは身に眠る炎を発現させる。
両手を広げ、炎はオプティックハイドで偽装する。
本命の力の正体を誰かに見せるつもりはなかった。
力の発現とともに施設内の武装集団の武器が弾ける。
熱によって暴走した炸薬が暴発し、全ての銃身を使い物にならなくした。
「制圧しろぉ!」
第二突入部隊も合流することで建物入り口を制圧した
彼らはそのまま施設奥へと進んだ。
結局英雄たちの部隊は最後の最後でジャックにいいところを見せられなかった。
突入が遅れた結果、本丸のデータは意味消失し、資金の出所までつかむことはできなかった。
こうして銃撃戦を以てジャックの初仕事は完了した。
ーブリーフィングルーム
英雄はチームを招集して報告会を開いた。
決して、子供にいいところを見せられなかったことを反省したいわけではない。
今回の件は捜査のターニングポイントだと誰もが理解した。
出入り業者の業務内容と釣り合いのない戦力
それが全員の疑問だった。
遊撃班からの報告では傭兵の使用した弾薬はプロテクションに対して一定の効果を示した。
バリアジャケット越しにもかかわらず大きな青あざを作った隊員もいた。
第二突入部隊からも報告が上がった。
使用こそされなかったものの、彼らは対空兵器さえ所持していた。
チグハグなセキュリティに常備戦力、潤沢な資金
ブラフでも掴まされたのかと思えるがそんなはずはない。
満場一致で出入り業者の情報を調査する。
どうやら彼らは非営利団体であり、その資金は公的資金や寄付であるようだった。
捜査を進めるとある事実が浮上する。
どうにも非営利団らは資金を融通しあっているようだった。
そう言えば、と全員が支援の輪と呼ばれる活動に思い当たった。
認定法人イポプシアから始まった厚生省の巨額の資金、大企業からの大口の融資
施設の戦力の正体だった。
アパーティによって戦線復帰を果たした傭兵を認定法人が雇入れ、
法人同士で資金を融通し合うことで法の目を欺き武器を仕入れた。
事実であったとしても支援の輪によって救われている人もいるかもしれなかった。
摘発を提言する者は、一人もいなかった。
その場全員、徒労感にため息を吐いた。
ー海鳴市
英雄は白昼堂々、とある大型の書店の隠された区画へと足を進める。
先日の動員で明らかとなった資金浄化とその末の徒労感に、英雄は顔に影を作る。
彼が足を進めた先は成人向けの書籍のコーナーだ。
決して彼の趣味ではない。
ジャックの要求だった。
英雄は何でも言うことを聞くと宣言した。
彼は師匠でも探してやろうと思っていた。
しかしジャックは友人達に意見を募り、大人にさせたいことの多数決を取った。
彼らは悪ノリが過ぎた。
英雄は貫禄のある声で店員に向けてこう、相談する。
「ここからここまで、全部ください。」
英雄は、領収証を発行してもらった。