ー八神家
「よーく分かった。つまり、家族が増えたっちゅうこっちゃ」
お互い激しく求め合った昨夜、
横やりに萎えてしまったのでとりあえず寝ようということになり、守護騎士を名乗る連中は全員雑魚寝した。
今はすっかり日が昇っており、全員が朝食を済ませたところ
皿洗いを済ませたのちに彼らは席に着いて守護騎士達の事情聴取を始めた。
曰く、魔法的な存在である。
敵対する組織が存在する。
守護騎士は、未完成な本体と所有者を守るために存在する。
本体は完成すれば絶対的な破壊力を得る。
はやてはすんなり受け入れてしまいそうだった。
しかしジャックは警戒を怠らなかった。
将来を見据えて危険を極力除きたかった。
「なあ、お前らってロストロギアだろ?」
ジャックは渋い顔で尋ねる。
「、、、お前は管理局員、か?」
リーダー格の女、シグナムは見極めるように尋ね返した。
「そうかよ。はやて、こいつらを養うと魔法的な警察に目をつけられる。悪いことは言わない。出頭しようぜ。」
「!」
赤髪の騎士ヴィータは目線でシグナムにどうするのか尋ねる。
シグナムは無言で首を横に振った。
「何もせんかったらええんや。皆!人様に迷惑掛けるようなことしたら、すぐに出てってもらうで?ええな?」
「「、、、」」
「ええな!」
「「は、はい」」
「よろしい。」
はやては満足げな表情でこちらへ笑いかける。
どうだ?これで文句ないだろうと言いたげだった。
口先では何とでも言える。
返事だけなら鳥でもできる。
まだ信用できない
ジャックの正直な気持ちだった。
「主、こちらからも質問をよろしいですか?」
「ええで?」
「そちらの男はどういったご関係で?」
「!k、」
ジャックは動揺しながらも、確実に相手に優越感を覚えるために言葉を紡ごうとしたが
「家族や」
「?なるほど」
失敗に終わった。
ジャックは知っている。
ロストロギアの恐ろしさを。
先の事件では世界そのものを破壊する波動を放出したのだ。
ロストロギアを名乗った以上はそれに近しい力を持つに違いが無かった。
ジャックは知っていた。
自らの未熟さを。
未熟な人間が悩んで行動するよりも良い方法を知っていた。
彼は行動派だった。
ジャックはあたりを確認して支給品の通信デバイスを取り出した。
「おう、元気してるかよ?」
「聞きたいことがあるんだけどよ?」
こうして彼は意図せず首謀者へと連絡を取ってしまった。
「そうか。よくわかったぜ。」
「ああ、闇の書の危険性を認識できたのならば逐一状況を報告してほしい。場合によっては我々が出向かねばならん。」
英雄は内心動揺しつつも話を終えた。
結局のところ覚醒のタイミングに出向くことができればそれでよかった。
それまでの経過の観察の役目を彼に与えたつもりだった。
「、、、おっさん」
ジャックは思う。英雄はよく教えてくれた。
聞いてもないのに外見的特徴や技能、蒐集の条件
何に気をつけろ、襲われたら極力逃げろ
知りすぎていた。
取っ掛かりが見つかればよかったのに。
説明は具体的過ぎた。
それだけではない。
英雄は、出向くタイミングを選んでいた。
「そん時は、持ち主はどうなんだ?」
「、、、どうとは?」
「、、、あんたが出向いたら助かんのかって聞いてんだ。」
「「、、、」」
両者はお互いの事情を理解した。
英雄は深いため息を吐いた。
出だしから状況を詳しく聞いていれば失敗はなかった。
リーゼ姉妹のバックアップを受けていながら虎の尾を踏んだのは英雄自身だった。
「改めて最初から説明せねばなるまい。」
闇の書は宿主を移動すること
前の宿主は世界の破壊を望んでいたこと
友の死と引き換えに所の暴走を止めたこと
そして、覚醒の僅かな隙であれば封印の見込みがあること
英雄はジャックに対して真摯でありたかった。
正義の賜物とはもう思ってはいないが、それでも彼が英雄としてあり続けるには嘘を許せなかった。
「なあ、封印しなかったら、だめ、なのか?助からねえのか?」
「難しいだろうな、何せ書のプログラムは破損している。完成したシステムは主を喰いながら一帯を破壊するだけだ。主が死ぬまでな。」
なんで、こんなことになった。
「つらいかもしれないが、これが真実だ。あと1年しないうちに持ち主が侵食され始める。今のうちに覚悟を決めておきなさい。」
現実はいつもこんなもんだった。
ー八神家 リビング
「じゃーん!どうや?可愛いやろ?うちが選んだんやで?」
はやては楽しそうに自らの騎士たちの衣装を自慢した。
彼女は家族が増えたことを無邪気に喜んでいた。
「なんやその顔。文句あんのならはっきり言わんかい。」
「そんなんじゃあ、ねえよ」
ジャックは現実に目を向けられなかった。
どうすればいいのか判断ができなかった。
大人を頼れば何かあるはず。
そうとしか考えられなかった彼は自分がどうしたいのかすらわからなかった。
力があれば守れるはずだった。
どこにいても大切な人のもとに駆けつけられる自身があった。
戦いになれば誰にも負けない自信があった。
だからもう、奪われるはずがなかったのに。
なのに、とジャックは無性に自分が情けなくなった。
「はやてー。あいつ感じ悪い。」
「ジャックは泣き虫の照屋さんやからなー。将来が思いやられるなー。ヴィータ?」
彼女たちは楽しそうに同意しながら談笑していた。
夕食後、どうにもならない怒りの矛先を求めてシグナムを呼び出した。
「それで、婿殿話とは?」
「そう呼ばれる資格は、まだ、無い。」
「?昨日の威勢はどうした。」
ジャックは怒りを抑えて、シグナムに尋ねる。
彼はポケットから通信端末を取り出し話し始める。
「今日、局の知り合いに全て教えてもらった。」
「!貴様、これほど早い裏切り!最早許せん。」
シグナムは抜き打ちで剣を切り上げ、一刀両断した。
「なんや外はチャンバラかいな。ようやるわ」
「シグナム相手見つけるといつもああなんだぜー?」
彼女たちはやれやれと窓の外を見つめた。
ジャックには傷ひとつなかった。
そもそも彼女の視界は正常な状態ではない。
ジャックとの距離感を幻術で誤魔化されていた。
「喧嘩っ早いのは良くねえぜ?」
ジャックは無表情で佇んでいた。
「なあ、教えてくれよ。お前たちを殺せば、、はやては助かるのか?」
「?我らは主を守る存在だ。我らがいなくてどうなるというのだ。」
我慢の限界だった。
ジャックは思う。
ふざけるな。
害悪の癖に
人の姿をして笑いやがって。
はやての隣で服を着て姉妹みたいに
家族のようにふるまいやがって
「とぼけんな!こっちは全部聞いた!今までの主が闇の書を完成させたあと、暴走して死んだって!お前らだって知っていたんだろ?知っていてはやてに、はやてに!」
シグナムも黙っていられなかった。
感情こそ落ち着いてはいるものの主を害したとあれば彼女たちの沽券に関わった。
「うぬ!黙っておればぬけぬけと!我らは守護騎士だ。書を完成させた後は、、後は、、」
彼女も気が付いた。
完成後の記憶がない。
そんなはずはない
「そんな、、、」
彼女はたまらず仲間たちを問いただす。
見たか、知っているかと
書の完成を見届けたものは、いなかった。
「教えてくれよ。なあ!俺ぁ一体どうすりゃあいいんだ!答えろ!」
ジャックは葛藤する。
守護騎士を破壊すればはやては救われる。
だが、彼ははやてのそばに寄り添う姿を見ると自己を投影してしまった。
あの場所を見せられて、死をちらつかせられる理不尽
ジャック自身が理不尽に成り果てている矛盾。
奪われ、脅され、自らも奪う側になり果てる。そんなクソ
やり場のない怒りがはちきれた。
「チクショウ!なんで、こんなことに!俺たちばっかり、、、」
深夜、はやてが寝静まった頃
守護騎士達とジャックは再び話し合った。
「俺は、はやてを悲しませたくねえ。だから、お前らをすぐに消しはしねえ。」
ジャックにとっては苦渋の決断だった。
仮に感情に身を任せた決断をしていれば、彼はきっと自信を許せないと思ったからだった。
嫌悪する理不尽と同類に成り下がる気はなかった。
「半年だ。闇の書がはやての体が侵食すんのに掛かる期間は」
「それまでに、なんとかするぞ。」
守護騎士たちが俯く中ジャックは淡々と述べた。
「あては、あんのかよ?こうみえても長生きしてんだ。あたしたちのことですら、知っている奴なんて碌にいやしねーぞ?」
「あてなら、ある。」
守護騎士は目線で続きを促した。
「管理局に覚醒の情報を流す見返りに資料の開示を求める。」
「内偵か。」
シグナムは疑うように呟いた。
「ああ、だがこっちの事情を話しておく。そいつは情に弱いし、何より俺には逆らえない。」
「疑わしいな。我らはまだ貴様を信用しきれない」
守護獣ザフィーラは静かに疑問を呈す。
「そうだな。せめて逆らえない証拠でも見せてくれ。我々が忠誠を誓うのは主はやてだ。貴様ではない。」
ジャックは不敵に笑う。
「口外するなよ?」
守護騎士は誰ともなく息を止めた。
ジャックは携帯端末を取り出し動画ファイルを再生する。
そこには英雄の姿が映っていた。
「こいつが管理局のつてだ。一応は英雄なんて呼ばれているらしい。」
彼は歴戦の守護騎士も目を背けたくなるような書店で書棚を前にしていた。
店員の方に振り向いたかと思うと
”ここからここまで、全部ください。”
「!おい、こんな奴で本当にだいじょうぶか?」
ヴィータは英雄の人間性を疑った。
「ああ。お前たちの情報はすべてこいつに教わった。こいつは昔友人を殺さざるを得ない状況柄を作ったお前らを恨んでいる。だからこいつより詳しい奴なんていないんだ。」
「「、、、」」
「俺たちが助かるのに一番確実な方針は、こいつを動かすことだと思う。」
守護騎士たちは罪悪感から英雄を頼る気にはなれなかった。
だが、優しい主を守るため、彼らは決意するのだった。