※この作品はR-18です。

消し炭の男   作:Christmas

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流刑

ー管理外世界 郊外

 

執行手続きは突入部隊の仕事よりも簡潔に済んだ。

罪状の確認をするとそのまま転送ポートへ導かれ、無期限の追放を宣言された。

 

普通の人間は流刑地から自力で戻ることはできないのだろう。

あるいは、転送先の世界は魔境の類か。

 

かと言って流刑先で時空間の移動をしては足が付く

ジャックは罪状を認め、大人しく転送されることを選んだ。

 

グレアムの後ろ盾を失った今、ジャックの行動は監視の目を逃れることができる。

言い換えてみれば闇の書への対抗手段を秘密裏に揃える時間を作れた。

彼は得られた猶予をどう使うのかを考える必要があった。

 

 

 

 

「なんだよここ…」

 

転送が済み、長距離転移独特の視界が急に開ける感覚が彼を襲った。

視界いっぱいに荒れ果てた世界が広がる。

遠くに人工物らしきものが見えるが文明があるのか怪しかった。

 

どうやら魔境とされるような土地へ転送されたらしかった。

流刑とは名ばかりの実質死刑に等しい。

文明人が未開の地で暮らすことなど叶わない。

 

恐らく自分より先にここへ来た者はその多くが希望を失い、死んだのではないかと彼は思案する。

 

ピェー

 

良く通る甲高い鳴き声が響く。

荒野の一角にそびえる岩山から鳥が顔を覗かせた。

 

彼はジュエルシードを取り出した時のことを思い出してノスタルジックな気持ちになる。

ああ、こんな奴を倒して魔力を強化していたかと

 

その声量から怪鳥と呼ぶべき種族と判断された。

 

ピェー

 

縄張りを侵されたと判断したのか怪鳥は奇声と伴に飛び上がった。

広げた翼は優に人間が腕を伸ばしても計り知れない大きさだった。

 

ごぅごぅと翼で空気を叩く怪鳥を睨みながらジャックは朱槍を口寄せする。

 

「…」

 

構える彼はそのまま動じない

 

ごぅごぅと接近する鳥は彼の頭上から急襲した。

 

ピェー!

 

ジャックの目を直接見たためか、鳥は攻撃を外し、

ジャックの脇を通過する。

 

「んなろ!」

 

力強く踏込みジャックは槍を突き出す。

されど体力を温存するべく適度に脱力することを忘れない。

 

文明に遭遇するのにどれだけ体力を消費するのかわからないからだ。

八神はやてを救うためには確実に生き残る必要があった。

 

ジャックの槍は怪鳥の翼の付け根に刺さる。

ジャックはそのまま心臓を貫こうとするが

 

「!こいつ、強い」

 

槍は羽毛の上を滑り、翼に払われる。

 

鳥は再度上昇し狙いを定める。

 

ジャックの槍を正面からはじく存在は初めてだった。

高町門下の子弟にはいなされたことはあるが、正面から槍をはじかれるのは初めてだった。

 

この管理外世界は並の局員では生き残れないと確信する。

 

ジャックが送られた土地は流刑と言えども慈悲のない世界。

人が住むには余りにも危険な地域だった。

 

再び急襲する怪鳥

 

「んなろお!おっらあ!」

 

ジャックは相手の位置エネルギーを利用する形で槍を合わせ、心臓を斜めに貫く。

硬い感触はあったが強化を施した身体は何とか怪鳥を仕留めるに至った。

 

ジャックは血塗れになった朱槍を引き抜き息を整える。

 

鳥を確認する。

口を半開きにしたまま絶命した鳥。

確かにデカいが、異質だったのはその防御力

 

猛禽でもない鳥は明らかに食物連鎖の頂点ではない。

この魔物を喰う存在までいるらしいとジャックは戦慄した。

 

彼はシグナムとの会話を思い出す。

 

”世の中はお前が思っているよりも広いよ”

 

少なくともこの地は自分を次のレベルへ引き上げるのではないか

そんな予感に彼は身を震わせた。

 

 

怪鳥を下した後、彼は岩山を見つけてはより高い場所を目指して歩いた。

 

幸い怪鳥はあれ以来出くわさなかった。

 

「…あれは街なのか?」

 

遠くに見えたそれはコンクリートを枠に入れて固めたような、

無機質な家屋の立ち並ぶ集落だった。

人がいるかもしれない。

そう思いジャックは足を進める。

 

ピェー

 

ピェーピェー

 

ピェーピェーピェー

 

 

待ち伏せするかのように

怪鳥の群れが行く手を阻む。

岩陰に身を隠していたのか、いつの間にか後ろからも怪鳥が顔を覗かせ出方を伺っていた。

 

「まずいな…」

 

ごうごうと威嚇するように羽ばたきを見せつけながら包囲網を縮められる。

 

じりじりと、鳥が近づく

と、ジャックの視界に白い影がちらついた。

 

「ふん!」

 

突如白髪の老人が割って入り、気合いとともに昆を振り下ろした

 

ギェッ

 

醜い声を上げた鳥は散ってゆく

 

「着いてこい!」

 

老人は似つかわしくない野太い声を発する

 

拒否できる状況になかったジャックは急いで老人に従った。

 

 

 

ー市街

 

なんとか窮地を脱したジャックは老人に連れられて集落に行き着く。

遠目から見るとみすぼらしいと思えた建物たちは

近くから見るとボロボロだった。

 

「助かったぜ。」

 

「貴様、どこから来た。」

 

こちらを振り向かずに老人が尋ねる。

 

「分からねえ。流刑ってことでここに連れられたんだ。」

 

「…そうか」

 

老人は特に驚いた風ではなかった。

 

「珍しいことじゃねえのか?」

 

つい、ジャックは質問を投げ掛ける

 

「ああ。大抵は魔物にやられて死んでゆく」

 

「…」

 

身に覚えのある事例だった。

 

「なあ、ここは、」

 

「貴様らで言うところの管理外世界だ。」

 

「明日、お前の同類を紹介してやる。今日は宿をとれ」

 

そう言って老人は彼の馴染みの安宿へ案内して去ってゆく。

 

彼の後ろ姿は堂々としており、長く伸びた白髪とは似つかわしくない。

何よりも彼の背中は余りにも大きく、全盛期の実力が伺われた。

 

 

ー翌日

 

ジャックは老人の案内で元管理局員の男性と面会した。

彼の眼光は流刑の民とは思えないほど力強かった。

彼はこの地の公安として勤務しているそうだ。

 

彼が言うにはここはとある管理外世界

何度か管理局も航行艦を向かわせたこともある土地らしい

流刑地とされているのは強力な魔物の存在とある種のタブー

 

管理しきれない危険性があるのだそうだ。

 

曰く、この地ではロストロギアの暴走が幾度か起きたらしい

ある時は悪意を源として暴走するエネルギー体が文明を破壊し尽し

またあるときは穢れたエネルギーに当てられたロストロギアが一帯を破壊し尽したりしたそうだ。

極めつけには、魔導士でもない戦士達が幾度もそれらに立ち向かい平和を勝ち取っている。

 

管理局システムにとってはこの人外魔境は毒でしかなかった。

そのため流刑地として転送ポートを転用しているらしかった。

 

そして彼は次元航行艦で勤務していたらしい。

ジャックは管理局への警戒を忠告された。

 

管理局には利権を守る集団が巣食っている

彼らは目を付けた次元世界の民を食い物にする、と。

 

実は彼は魔導素材の利権の部分的な開放を提案したそうだ。

 

とある管理世界に赴いた際現地民と喧嘩の末に酒場で議論したそうだ。

その結果管理局が魔導素材の流通を実質牛耳っていることを知ってしまった。

 

魔導素材の民間活用の妨害は魔導社会の発展を妨げる。

 

そう考えた彼は管理局を内部告発しようと考え、

上官にその意を伝えて休職した。

 

彼はその日のうちに起訴され、この地へ送られたそうだ。

 

 

「ありがとよ、おっさん。で、あんたは帰らねえのか?」

 

ジャックは質問を投げかける。

男性の自宅で老人を含め3人でテーブルを囲みながら

 

「むう、何度か連絡があったな」

 

老人が補足する

 

「ええ。流刑にしたはいいもが、魔導士が不足したのでしょう。上も下も適性のある人間に飢えています。司法取引を持ち掛ければ、こき使えると判断したんでしょう。」

 

男性はあざ笑うように答える。

 

「私は帰りませんよ。今の仕事に誇りを持っていますし、まだあなたへの恩を返せていません。」

 

どうやら男性もこの老人に助けられたようだった。

 

「さて、では君はどうする?仕事、なにをしたい?」

 

「…」

 

男性は仕事を斡旋してくれるようだった。

ジャックは暫く考える仕草をすると

 

「…俺は槍を振るしか能がねえ。こいつを使える仕事なんてあんのか?」

 

「むう、ならば、便利屋の類だな。フリーランスで依頼をこなすことになる。俺が話を通しておいてやる。」

 

老人はその手の組織に顔が利くそうだった。

 

「サンキュー。、、ああ、それとあんたに頼みがあるんだ。」

 

ジャックは姿勢を正し、老人を見据えた。

 

「む?」

 

「俺を、、あんたの弟子にしてくれねえか。」

 

ジャックは鳥をあしらった老人を見た時から燻っていた思いを告げる

シグナムの教えてくれた世界の広さを教えてもらいたかった。

 

「何故、力を求める。」

 

「ロストロギアの暴走を起こしそうな奴がいる。だから、俺はロストロギアよりも強くならなきゃなんねえ!」

 

ジャックは真剣な目で老人の目を見つめた。

 

「!っはっはっは…面白い!!」

 

老人は猛々しく笑い、ジャックの申し出を受けた。

 

強力な魔物のその上に立つ老人の存在を知った彼は、管理外世界で新たな目標を作る。

 

 

 

強くなりたい。

 

 

 

その想いだけは確かに誰に影響されたでもない、

彼のオリジナルの自我だった。

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