描いた理想は平和的な終結
英雄が悲劇を帳消しにする
人々は平和を謳歌し、皆幸せになる。
彼はそう信じた
ー海鳴病院 屋上入り口
海鳴病院入り口へと向かうドアの裏、
織村総士は思案する。
闇の書編は筋書き通りに進行している。
今回こそは、悲劇を止めてみせると決意する。
ジュエルシード編はシナリオが狂った。
しかしそれ以外は”原作”通り
彼はそのために高町なのはも、フェイト・テスタロッサも闇の書の贄にした。
本来は助けられた。
しかし彼はわざと自身の出動を遅らせ、蒐集の妨害をしなかった。
自身にあからさまに想いを寄せる2人の少女
彼女たちが傷つく様に彼の心もまた傷つく
彼は傷ついても、そのたびに決意を新たにする。
二度と悲劇を繰り返さない。
織村総士は思案する。
皇聖夜
彼はクラスメイトだった。
親しくはなかったが遠目に見ていた。
最初は鼻に着く奴としか思わなかった。
自信満々に月村すずかやアリサ・バニングスや高町なのはにアプローチを掛け、
そのたびに彼は行く手を阻んだ。
皇は馬鹿ではなかった。
学年が上がると彼は心を入れ替えた。
皇が陰ながら努力していることを知ったのはこの頃だった。
1人図書館で本を読んでいる姿を見た。
本を隠すように縮こまっていた。
どうせエロ本の類だろうと後ろから覗いた。
注意するために腹に力を籠める。公共の場で読むなと言うつもりだった。
予想に反して、彼は恐らく哲学書を読んでいた。
本を隠すように体を縮込めていたのは理解に苦しんでいる様だった。
気配を察していたのか皇はこちらに尋ねた。
”どうした?なんか用か。”
皇は振り向かずに喋る彼が印象に残っている。
”いや、何でもない。邪魔して悪かった。”
恥じるようにそう言い残し、
足早に立ち去る。
いつの間にか彼を見下した自信を恥じた。
織村総士は皇聖夜から目を離せなかった。
疑いからの監視ではない。
尊敬からの観察だった。
彼は嫌われていてもめげずに奉仕活動や自己研鑽に没頭していた。
そんな彼は自殺した。
白煙に載せて飛び散る脳漿
モニター越しでも吹き飛ぶ血肉が見えた。
彼は自らに掛けられた呪いを告発した。
オーディエンスの目の前で
わめきながら
自らの呪いを解く唯一の方法に縋るかのように、震える手でピストルを掴む彼の顔が忘れられなかった。
皇だけではない。モニター越しに見た、マクドナルド姉妹の決意した眼差しが
全てを救うと言う彼の決意を一層強くした。
織村総士は思案する。
前回は自分を含めたイレギュラーの乱立によって想定外の事故が起こった。
もう失敗はしない。
力を手に入れ、舞台を整えた。
そしていま、闇の書が覚醒しようとしている。
守護騎士達が書に取り込まれ、仮面の男に扮したリーゼ姉妹が八神はやてを磔ている。
「!ああああああああああああああああああああ」
辺りに少女の慟哭が響いた。
織村総士は決意を込めて壁から身を離す。
絶望しながら散った同士のためにも、誰もが幸せになれる世界を実現する。
屋上へと駆けた。
遂には、黄金の剣を手にした彼は黒々とした魔力の奔流へと身を投げた。
「そこまでだ!」
市中に渡るほどの魔力の源は、目の前で腹に響く声で叫んでいる銀髪の女性
ボディスーツに身を包んだ彼女は吠えるように顔を見上げていた。
「織村君!」
「総士!」
2人の少女が駆けつける。
幼いながらにして大人を圧倒する資質の持ち主。
原作では彼女たちが目の前の脅威に立ち向かった。
だが今は、彼女たちだけではない。
「絶対に止めるぞ!なのは!フェイト!」
吊り橋効果だろうか、
強敵を前にして頼もしい彼に2人の少女は好意を高ぶらせる。
まるで御伽噺の英雄のような彼の姿に酔いしれた。
「「うん!」」
3人は武器を構えて力を練る。
3人の中でも特に織村の籠める力は凄まじい。
アースラのブリッヂではクルーたちが表情を2転3転させる。
想像以上の圧力を放つ闇の書
接敵して一気に膨れ上がる若い戦士の力
絶望一転、勝機を見出した。
『俺が先に仕掛ける!』
『『了解!』』
叫びをあげ続ける相手
焦れた彼は突貫を宣言した。
「はああああああ…っ!?」
闇の書は顔を上げた。
彼女には、目が無かった。
落ち窪んでいるわけではなく、
光を通さない闇が彼と目を合わせる。
「!うわああああ」
ぞわっ
総毛立つ。
毛穴に針を通されるような嫌悪感が襲う。
織村は恐怖した。
原作のことは頭から離れた。
ホラー漫画から出てきたような相貌は本能的な恐怖を掻き立てた。
恐慌しながらも彼は射撃魔法を彼女に放つ。
様子見ながらも黄金色の弾丸は希望の光だった。
「…きぃいいいいいいいいいいいい」
弾丸は抵抗なく直撃した。
想定外なのは逆上する相手
尚も精神を削る闇の書に思わず後ずさる。
『!私だって』
「!ダメだフェイト」
「フェイトちゃん!?」
愛する者を傷つけさせない
フェイト・テスタロッサは輝く鎌で切り結ぶ。
特に抵抗しない闇の書
『今です!2人とも、完全に覚醒する前に攻勢を!』
ブリッヂから指示が飛ぶ
不完全な覚醒を行った内に闇の書を無力化するべし
織村はフェイト・テスタロッサと連携してヒットアンドアウェイを繰り返し、
「ディィバィイイイン…バアァスタアアアア!!!!」
強力な砲撃で地へ叩き落した。
『今です!!』
「「はあああああああああ!」」
止めを刺すべく突貫する2人
見上げる闇の書
彼女からは人類の敵と思しき嫌悪感を伴う魔力が漂っていた。
「ああああああああああああああああああ!」
彼女は叫びとともに黒い炎を吐き出す。
「!ぐううううううう…」
接近していた2人は直接炎に飲まれた。
咄嗟にプロテクションを張るが、何かがプロテクションを侵す。
「「!わあああああああああああああああ」」
「織村君!フェイトちゃん!」
『!どうしたの!?2人とも!しっかりしてください!』
2人は突如恐慌する。
侵入したのは悪意の塊。
モラルを崩壊させる悪意が炎になって襲いかかった。
闇の書は幾度目かの転生の際に、悪意に染まった魔力に侵されていた。
夜天の魔導書を汚したものは人類の生み出した憎悪や嫉妬、怒り
ありとあらゆる悪意の塊だった。
織村総士が恐れたイレギュラーは突如として牙を剥いた。
「「!わあああああああああああああああ」」
錯乱した2人は直接手を下すべく接近する
この存在は許されない
これは人類の敵だ
これはこの世の悪そのものだ
「お前は許されない!許されないんだ!」
「うわああああああ!」
『!いけません!止まって…!』
アースラからの忠告を無視して2人は切りかかり
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
消え入るように声を出した闇の書によって
彼女の持つ書に吸い込まれていった。
「…」
闇の書はその様を黙って見送る。
そしてゆっくりとその顔を空へと向ける。
『!…なのはさん!今応援が向かっています!何としても持ちこたえてください!!』
ー次元航行艦 アースラ
プレシア・テスタロッサはアースラのブリッヂに同席していた。
それは娘を守るためだった。
駆動炉の事故の際には自身の目の届かないところに娘がいたばかりに娘を救えなかった。
心配した彼女は娘が捜査に協力する条件として自身の同席を望んでいた。
本来ならばジャクソン・サンダースに護衛を頼むつもりであった。
彼のセンスを見抜いた魔女は彼を自陣に迎える手段をそろえているつもりだった。
しかしギル・グレアム氏の失脚によって彼は現在流刑中
そのため若い男を搦め手で操る目論見が崩れた。
「!」
そして闇の書が覚醒し、彼女は戦慄した。
身を震わす魔力のパターンに覚えがあった。
忘れもしない、
とある管理外世界のロストロギア
悪意を動力源にする魔力の塊
あの力を打ち消すことのできる人間は1人しか思い当たらない。
「早く!早く来て頂戴!!」
彼女は錯乱しながら次元跳躍魔法を繰り返す。
小刻みに打ち出す雷撃は次元の彼方のジャクソン・サンダースの臀部向けて発射される。
「お願い!届いて!お願い!!」
再度娘を失う恐怖にプレシアは錯乱する。
「!!プレシア女史!ここは艦内です!艦内で御座います!」
手近なクルーが震える声で叫ぶ。
彼もまた魔力の波動に恐慌し始めていた。
コンソールを叩く手先は震え、先ほどからコマンドがエラーを返していた。
「うるさい!…届きなさい!…届きなさい!」
ぶつぶつとつぶやきながら雷撃を繰り返す。
『!うわああああ』
モニターから絶叫が放たれた。
とうとう始まった。
悪意の塊が力を放つ。
『さっさと来なさい!ジャクソン・サンダース!!!』
魔女の焦りは次元の果てに届いた。
娘を思う彼女の思いは、彼の元に届いていた。
ー海鳴市 上空
「…」
高町なのはは冷汗をかきながらもいまだに健在だった。
闇の書はこちらから仕掛けない限り攻撃をしてこなかった。
まるで標的は彼女ではないかのようだった。
「…」
しかし、いつまでもそうしてはいられない。
友人を、想い人を助けなければ。
彼女は決意し、魔力を解き放つべく愛機を握った。
その時、魔女の祈りが届き、
海鳴市上空に光が降臨する。
プレシアに覚えのあるジャクソン・サンダース特有の転移の光。
希望が降臨した証。
『なのはちゃん!』
「ーっ!」
『援軍よ!!ジャックと一緒に戦ってフェイトを取り戻して!!』
プレシアの狂乱した叫びが高町なのはを硬直させた。
彼女は思う。
ジャクソン・サンダースとは彼女の級友ではなかっただろうか。
不思議な力で前回の事件の鎮静化を一手に担った未来の英雄
しかし彼は現在流刑処分ではなかったろうかと
光が徐々に収束する。
ようやく現場に到着したクロノ・ハラオウン、
そして闇の書を含めて全員が希望の降臨に注視した。
「…」
「「…」」
彼は、少年ではなかった。
およそ2mに届くかという褌一丁の大男
長い黒髪を流す彼は、黒く輝く肉体。美しいと表現された。
隆起する筋肉は確かな膂力を約束する。
知る人ぞ知る大戦の英雄の降臨だった。
圧倒的な魔力に満たされた空間に浮かぶ彼の存在は余りにも異質だった。
彼を知る者はリンディ・ハラオンとプレシア・テスタロッサ
「血塗れの英雄が、何故…」
「最悪よ…あいつ、どういうつもりなの」
怒りと絶望に顔をしかめた魔女はモニターを睨みつける。
「ジャック…!」
魔女は、ただでは済まさないと憎悪した。
彼を知る者がもう一人
闇の書だった。
先ほどまでの落ち着きを捨てて彼女は英雄を睨みつける。
天敵を前にした動物のように取り乱す。
「!おおおおおおおおおおおお」
彼女は邪魔をするなとばかりに魔力を練り上げた。
対する英雄は
「…ふうぅん!」
挑発するかのように
誇示するかのように筋肉のギアを上げる。
泣き叫ぶ害悪とダブルバイセップスが対峙した。