ー次元航行艦アースラ
防衛プログラムの完全消滅が確認されたのち、
現場にいたメンバーは一堂に集められた。
災害対応もひと段落した結果、
戦闘後の調書の作成が待っていた。
そんな状況下で無機質な床に叩き付けられる人間がいた。
ジャクソン・サンダースだった。
「こんのぉ、浮気者んがぁぁぁ!!」
ジャクソン・サンダースはプレシア・テスタロッサの呼びかけに答えていた。
師匠とメタモルフォーゼの訓練をしている折に臀部に繰り返し電撃を受けた彼は堪らず帰還したのだった。
結果、彼はメタモルフォーゼを残したまま現場に駆け付けた。
ブラキアの英雄の、全盛期の姿を象って。
アースラに召喚された頃には彼のメタモルフォーゼは解除された。
ジャックの姿を確認した八神はやては激昂した。
彼女はユニゾンをしたまま殴りかかった。
「このぉっ!このぉっ!」
「ぶっ、へぶ、」
涙を浮かべる彼女を見上げるジャック
馬乗りになって拳をたたきつづける。
「このぉっ!このぉっ!」
「ま、ぶっ、はや、」
彼らを取り巻く人間の視線は冷たい。
闇の書の覚醒の鍵は何だったか。
全員が知っている。
そして今代の闇の書の主が異様な怒りをぶつける相手とその内容
神話の英雄から最大級の戦犯として冷たい視線が集まった。
「噂の彼女さんてはやてちゃんだったんだねー」
冷めた声で高町なのはは声を掛ける。
目の前で起こる暴殴の嵐は収まらない。
「気持ち悪い。」
フェイト・テスタロッサは心情を吐露する。
「ま、ぶっ、いてえ、」
左右ではなく右の拳で繰り返し殴る。
「「…」」
ヴィータとシグナムは目を逸らした。
疲労で意識を失うまで殴り続けた八神はやては医務室へと送られた。
ジャクソン・サンダース共々聴取は目が覚めて以降とされた。
「そうですか…」
報告をまとめて調書の作成、確認作業を行う一同
リンディ・ハラオンは問題の部分以外の内容を完成させた。
問題個所は解決手段だった。
管理外世界の独立戦争の英雄の活躍など報告できるはずがない。
ましてジャクソン・サンダースの脱獄を明らかにするのは気が進まない。
「本当、彼には困ってしまうわ、、」
「もう一度、投獄するのはどうですか?」
フェイト・テスタロッサは根強くジャックの追放を提案する。
『お困りかな?』
ブリーフィングルームにギル・グレアムからの通信が入る。
「!提督」
クロノは恩人の登場に驚く
彼を含めて局員たちは更迭の事実を知っている。
『実は更迭の件は見送りになった。』
『日頃の捜査の成果がだよ』
前回の違法研究所の捜査の結果だった。
迅速に研究所に突破したチームメンバーはモニタールームに無傷の外部記憶装置が置かれていることに気がついていた。
それこそが更迭を逃れた一手に繋がった。
厳重なロックの向こうには取引先や通信記録のバックアップデータが残っていた。
この証拠の秘匿を条件にグレアムは職権を奪還していた。
『ふっ、というわけだよ。』
つい調子に乗って低い声で語るグレアム
男性局員の尊敬の眼差しがないことに疑問を覚えた。
『?どうしたのかね』
「実は…」
グレアムは次世代の希望の芽、ジャクソン・サンダースの活躍を予想して通信をしていた。
しかし彼の耳に入るのはジャックの暴挙だった。
確かに第三者から見ると原因を作って事件を収束させただけ。
英雄のプロデュースの失敗を悟る。
かばってやりたくもあるが、女性ならば特に許せない案件だろう。
『成程…』
『では記録を流刑ではなく渡航扱いに変更する。ブラキアの英雄はいなかった。これでいかがかな?』
グレアムはジャックを手放す気はない。
彼はジャックを正義の同士に育て上げたい思惑がある。
既に正義の矛として活躍を見せる彼を手元に置いておきたかった。
しかしリンディ・ハラオンも負けてはいなかった。
思惑のすべてを看破できないが、意図するところは見抜いていた。
「職権の剥奪が無効であれば提督のお手を煩わせる必要はありませんわ。それに彼個人も反省をするべきではありませんか。」
正論だった。
口先でジャックへの出頭命令を獲得するためリンディはグレアムに意見する。
『ふむ、いささか乱暴だな。そもそも彼に過失は存在しない以上、立場は以前と変わらないはずだ!』
リンディは援軍を求める。
彼女の陣営には心強い魔女がいる。
「あら?」
「本来ならば決めるのは法廷ではなくて?」
魔女は冷ややかに意見した。
「それにあなた、嘘を吐いてまで彼を手放さないおつもりかしら?それこそお偉い方々が知ったら、どう思うのかしらね?」
複数人に正論を叩き付けられ、憶測を織り交ぜられる。
正論に誤魔化された憶測はさも確約された未来のように揺さぶりを掛ける。
『しかし、、!』
グレアムの抵抗むなしく、ジャックは司法の場へと召喚される運命となった。
淡々と事後処理が行われていく。
そこに感情は介在しない。
敷かれたレールに沿うように
ただただ淡々と処理される。
これらのやり取りはジャックの知るところではない。
誰の庇護下なのか誰の指揮下なのか
彼の立ち位置は知らないところで
彼の意見を無視して行われる。
彼の自我などそこには欠片も存在しなかった。