※この作品はR-18です。

消し炭の男   作:Christmas

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17th Nightmare -7-

ーテント村

 

ジャックは休まずバイクを走らせる

 

ハイウェイは途切れており、アールムから先へ向かうために大きく迂回した。

 

ジャックは休まずバイクを走らせる

 

夜風が体温を奪う。

魔法で誤魔化しても指先の感覚が希薄だ。

 

ジャックは休まずバイクを走らせる

 

道路は現在彼のもの。車はあっても打ち捨てられている。

ヘッドランプを遮るものは何もない。

彼の手はエンジンの振動で感覚が失われている。

 

ジャックは休まずバイクを走らせる

 

工場で魔力が流出し、リンカーコアの中身が激減した。

それに加えて手の感覚もほとんど無い。

 

だから操縦は完全に彼頼みのはず。

 

それなのに体重を移動するだけで意のままに走るバイクはまるで生き物だった。

 

ジャックは休まずバイクを走らせる

 

バイクは休まずジャックに答えた

 

 

ー明け方

 

テント村の入り口から規則的なエンジン音がする

 

「総士」

 

バイクを降りた顔面蒼白のジャック。彼は震える足でテント村を彷徨う

 

「総士!」

 

紫色の唇からは力強い声

 

「総士!!」

 

彼が通った後のテントには不審げな顔次々と生えていく

 

「総士!!!」

 

とうとうジャックは総士の肩に手を置く

総士も真青な顔をしている

怯えた表情で目は赤い

 

「総士!!!」

 

ジャックは総士を抱きしめる。

冷えた体に驚くこともなく、総士は力なくされるがままだった。

 

「ふ、ふっ、ぐ、あ、ああ」

 

彼は堪らず涙した

ジャックは一層力強く抱きしめる。

 

「総士」

 

「ああああああああ!ジャック!ジャック!!済まなかった!すまな、ああああああああああああ」

 

総士の叫びに内容などほとんどない。

 

彼自身、自分がなんでこうも感情がぐちゃぐちゃなのかわからない。

 

「総士、よくやってくれた。」

 

ジャックは乱暴な手つきでポンポンと総士の頭を叩く。

 

「ぐ、ああああああああああああああ!ジャック!ジャッぐ、ぅ」

 

総士は狂ったように泣き叫んだ。

 

 

「落ち着いたか?」

 

ジャックは総士の背中をとんとん叩きながら聞く

 

「…ああ。すまなぃ」

 

彼はあの後何があったかは聞かなった。

 

空が光っただけで総士には辛い現実が付きつけられたことを悟ったからだった。

 

「もういいだろ?」

 

ジャックは総士を離す。

 

「っわる、」

 

「!ジャック。この血は?大丈夫か?怪我は!平気なのか!」

 

総士は突如正気を取り戻して動きに生気が戻る。

彼はジャックの両肩を優しく触り、自分を抱きしめて痛まなかったか心配する。

 

「ぅお!母ちゃんかよ。大丈夫だっての。それにこれは、」

 

返り血だ

 

「大丈夫なわけがないだろう!俺が直してやる!」

 

総士は言うや否やジャックの服をまくり上げる。

ジャックの上半身が朝の冷たい空気に暴露される。

 

朝日を浴びて輝き浮かび上がる噛み痕だらけの肌

 

「…」

 

そして総士の後ろのテントから

赤髪のロングジャケットの少女が半身を覗かせる。

 

「!…よお。」

 

諦め、肩を落としたジャックが声を掛ける。

 

その声に気づいて後ろを振り向く総士

 

「「ナナリー…」」

 

ナナリーはサッとテントに戻り、残される2人

彼らは気まずそうに距離を取り、正反対の空を見上げる。

彼らは黙って仕切り直すための言葉を考える。

 

仕切り直しだ

 

いや、やり直したらいけない

ナナリーに聞かれたらややこしい

 

出直してくるぜ

 

これも少し違う

 

どうするか…

 

「ナナリー!!!いるんだろ?出て来いよ。話がしたい」

 

結局ジャックが声を張り上げる。

 

顔だけ出すナナリー

 

「ナナリー。怪我、してねえか?」

 

「大丈夫」

 

彼女は淡々と答える。

 

「なあ、お前は、」

 

本当にあのナナリーなのかと問いたいジャック

しかし口から出すことができない

 

「大丈夫だよ。みんな私。ナナリーだよ。」

 

ナナリーは優しく微笑みかける。

 

 

「結局どうするの?」

 

ジャックは答えを求められる。

彼女の逃避行は続いているのだった。

 

誠意を見せろと期待しているであろう彼女は視線を逸らさない。

 

ジャックは覚悟を決めていた。

彼は虐殺の場で愛を求めた。

だから答えは決まっている。

 

「すまねえ。俺には本当は彼女がいる。ナナリーとは、一緒に居られねえ」

 

「!」

 

ナナリーは無言で睨みつける。

あんなことをしたのだから当然のことだろう。

覚悟を決めているジャックは正面から視線を受け止める。

 

「…あんなにしたのに!」

 

うるうると涙を溜めるナナリーに思わず足が進む

 

「来ないで!!!」

 

ジャックははっとする。

今は彼女に親しくしてはいけないとなんとなく理解した。

 

「…これ」

 

涙を拭いた彼女はジャックにロングジャケットを放り投げる。

 

「もう、必要ないから」

 

そう言う彼女の立ち姿はなんと力強いことか

 

「ああ。…あばよ」

 

彼女を傷つけてしまった罪悪感、そしてはやてとの関係を悪化させずに済んだという安堵

ジャックはそれらを自覚し再び湧き出た罪悪感を飲み込んだ。

これ以上は傷つけまいと飲み込み続けた。

 

夜明けの荒野で背を向け歩く彼らの背中を冷たい風が洗った。

 

 

 

ー1ヶ月後

 

第17管理世界の星が輝く夜、

保安署でジャックとやり取りした髭の男性がとあるテントを尋ねる。

 

「やっているかね?」

 

「!旦那かよ。いらっしゃい」

 

幕を上げるとがやがやとうるさい店内

 

「とりあえずウィスキー。家では家内がうるさくてな」

 

対面するテントの主はロアンだった。

カウンターにはアールムのガラス細工がいくつも並ぶ。

象るのは焦った表情をした民族衣装の少年。

 

ガラス細工は焼けた旧アールムの砂で作られた特別な逸品

表向きは商売繁盛のお守り。

本当の意味では反管理局の象徴だった。

 

男はカウンター席に腰掛け煙草に火を着ける。

伸びる煙を視線で追いかける。

 

「お前もいい加減店を建てろ。みっともない」

 

やれやれという顔で男が言った。

 

対するロアンはにやりと笑う。

 

「いや金ならあるんですがね、どうにもここに愛着が湧きまして」

 

どうしようもなさそうに笑うロアン

 

「そうだな。金なら有り余っておるな。」

 

にやにやと笑いを返す男

 

「ええ。ええ。そうですとも金なら有り余っておりますとも。」

 

2人はガラス人形にパシンと手を合わせて笑いながら言った。

 

「「ありがたやありがたや」」

 

っぶははははは

 

豪快な笑い声がテントから漏れる。

 

このやり取りは何度目だかわからない。

ロアンは来店する親しい人間と何度も繰り返しこのやり取りをした。

 

アールムの人々は強かだ。

テント村への移動の道中で、テント村で、そしてハイウェイの路肩で

アールムの人々は競うようにとあるペーパーカンパニーの証券を買い漁っていた。

 

行政も公安も教員も子供も大人も皆買った。

 

避難の道中に皆で教え合ったのだ

 

これから魔導素材の生産を独占する唯一の会社の銘柄を

 

その会社代表は商売?盛のお守りになって広く流通する。

 

後払いの役員報酬を受け取って彼の焦り顔をしたモデルの少年との通信は来月と年末に見られる予定だ。

 

酒場から笑い声が木霊する夜

 

第17管理世界の星が祝福する。

 

 

 

ー地球 八神家

 

「はやて!!!」

 

第17管理世界から地球へ戻り、自宅で砂や埃を落としたジャックは真っ直ぐ還る。愛しい少女の元へ

 

ぎゅうっと抱きしめる。失ったものを取り戻すように

 

「ん。よしよし。お疲れさん」

 

はやてはジャックのを頭を優しく撫でる。

 

「ぅ、」

 

言葉を発しないジャック

 

「そかそか。大変だったな。」

 

「!…」

 

黙って頷くジャック

 

「よしよし」

 

ジャックははやてにしがみついて離れない

 

「困ったなー。家に甘えん坊さんは余っとるよ?」

 

「…ぁあ。」

 

すぅっと息を吸ってジャックは返事を返す。

 

「そうだったな。ただいま。はやて」

 

「うん。さ、ご飯にしよ?今日はカレーや!」

 

 

ークラナガン 織村総士の部屋

 

総士は任務終了後に休みを取った。

 

任務での出来事を受けて、一度心を整理したかった。

 

「ふぅー、」

 

薄暗い部屋で手を組み考える。

 

”次元世界の平和が我々共通の理念だろう”

 

提督に注意された言葉が残っている。

 

「むぅぅぅ…」

 

次に考えるのは

と考えたところでモニターが顔を照らす。

 

着信元は高町なのは

 

「…」

 

彼は居留守を選択する。答えが出るまで彼女と会話をする気はない。

 

「あいつは…」

 

総士はジャックのことを思う。

アールムで見た彼の生き様

 

彼にはないものだらけだった。

俺もあんな風になれたら…

 

「いや、あいつはクソ野郎だぞ?」

 

ナナリーの泣き顔が蘇る。

 

「何が違うんだ?」

 

彼と自分の何が違うのか。

満足して生きている彼と自分は一体何が違うのか。

 

単純に真似をしても得られない何かの原因がわからない。

 

他人の心を詮索してもわからないし

なぜ八神はやてのような少女が彼を好くのかも理解ができない。

 

あの男は総士を抱きしめた。

 

あの男は女を散々弄んで捨てた。

 

「そもそも俺は…」

 

では、自分の心ならばと考える。

そうすることで彼は自分が無くしたものに合点がいった。

 

 

 

ー管理局地上本部

 

「「…」」

 

いつもの豚のような面々

 

彼らに覇気はない

 

彼らは第17管理世界にちょっかいを掛けた結果、失脚しかねない大打撃を受けた。

彼らは全員後ろ盾を失った。お終いだ。

 

彼らは吹聴して回ったのだ。

 

魔導資材の価格が高騰すると

 

今に第17管理世界で大混乱が起きる。

今までの比ではないハイパーインフレが起きると言って回った。

 

あそこは街ごと地図から消えるからと安心させた。

 

しかし結果、大損させてしまう。

 

魔導砲がエネルギーを充填している間にアールムの民もまた充填していたのだった。

彼らは競って安定資産を暴落させて特定の証券を買いまくった。あからさまな仕手株を

 

もちろん安定資産には事件前までの魔導資材関連銘柄も含まれた。

 

美しい直角を描く価格の変化に証券市場の疑惑は集まり大いに賑わった。

 

この業突く張りは誰だと騒ぎになる。

クラナガンの主要な銀行複数が大損害を被ったので当然の怒りだ。

 

後ろ盾となった面々は顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

告発をしたくてもインサイダー取引として仲良くお縄になってしまう。

 

そして明るみなったのはアールムの人々の平均収入

 

そして情勢不安の原因は管理局にあると訴える人々

 

ガラス細工を手にして彼らは惨状を知ってほしいと訴える。

 

故郷を失ってまで金が欲しいかと訴えかける。

 

 

「「…」」

 

豚の命はもはや風前の灯火だ。

 

レジアス・ゲイズはその限りではない。

彼は儲け話には乗る暇もないし、自分の仕事はキッチリこなした。

自分の関与を示す証拠は豚からの命令しか残ってない。

 

 

「…第17」

 

豚が背もたれに体を預けて天井を見上げる

 

「悪夢だ」

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