僕は僕だ。
そんな実感とともに
いつか希望と諦感を覚えた気がした。
こんな出来事をいつ体験したのか。
それはおそらく魂でしかない、僕が誕生するずっと前
そんなときから僕は僕で、
確か身に余る特別な力を望んだはず。
今更になって奪われないために望んだ力を思い出す。
何を今更
今更思い出したところで誰のことも救いえないというのに。
目が覚める。
簡素で無機質な冷たくてかたい床で目が覚める。
恐る恐る周りを見る。
窓がない妙な趣の狭い空間だ。
扉らしきものは格子に申し訳程度にあるだけだった。
おそらくあの流線型の飛行船に押し込まれたのだ。
殺されなかった理由は理解できた。
魔法だろう。
もし使えるのならば誰もが使いたい
そう思うであろうことは理解できる。
実際僕は特別な力を使えるので誇らしくあった。
そして僕の体の成長を観測すれば魔法を起こす器官を確認できる。
だから僕は魔法の研究材料として価値を持つ。
現状は確認した。では、これからどうすればいいだろうか
どのようにすればよいだろうかと考える。
もう、復讐以外の未来を求めるつもりはなかった。
時間を度外視する。
指示したもの、関係したもの、見逃したもの
思いつく限りの人間が憎くて仕方がなかった。
衝動的に誰かを燃やし尽くしたくて仕方がない。
ここから出て最初に目に映った人間を燃やそう。
激情のやり場を求めて格子を睨みつけた。
いけない。
ここで暴れれば研究材料としての価値が下がる。
ここは耐える。
噛みつける瞬間が必ずある。
決して逃しはしない。
僕は知っている。地球は丸いのだ。
地の果てまで追いかけて
殺す
その機会を得るまでは力を蓄えて隠ぺいを続けるのだ。
幼い体はそこまでが限界だったようだった。
彼は再び力を失い、床に倒れ伏す。
目が覚めたころに環境は再び一変するだろう。
この日彼が行使した力はあまりにも強力な力だった。
なにせ人体の”発火”ではなく”燃焼”を起こしたのだ。
しかもその影響する範囲はあまりにも常識外れだった。
故に彼は気がつかなかったのだ。
怨敵の研究は魔法を使えるようになりたい
などという稚拙で可愛らしいものではなかった。
そもそも彼は魔法文化圏の出身者だ。
キメラ研究
魔力を取り込む先天的な器官であるリンカーコアを強化する研究だ。
完成した暁には治安維持を担う人間の戦力が上がるため住民はより安心して暮らせる。
すばらしい研究だった。
その実キメラである以上は研究にはリンカーコアの数が必要だ。
人間、幻獣、魔法生物
特に免疫寛容を持つ幼い個体を欲していた。
余りにも人道を外れた研究は違法研究所でのみ実行される。
平和のためとはいえ、その研究は平和とは程遠い非道さだった。
だから彼らはそんな非道の平和を少しでも減らすために
自ら進んで管理外世界へと遠征して、ヒトを狩る。
事実、大部分の人間は動機をこう語ったそうだ
管理世界の繁栄のためだった、理想の世界の実現の英雄は俺だと。
そのかたわら一部の人間は醜い欲望を満たすために。
彼らの手口は通常業務に紛れたものだった。
任務の途中には当然、現地で補給を済ませなければならない。
そしてその地の文明には手に余るロストロギアがあった。
結果、現地民を保護し用としたがロストロギアの暴走により壊滅した
そう報告した。
彼らはロストロギアの保護を名目とした人攫いを各地で繰り広げた。
管理外世界は特にやりやすかった。
なぜなら担当区域が決められているからだ。
監視も検証もされない環境は
いつしか人間牧場としての扱いを受け始めた。
彼らは航行のたびに自らの欲望、そして自尊心を人間狩りで満たすのだった。
そして憎しみに溢れた少年は知らない。
彼の怨敵はすでに優秀で正義感に溢れた管理局員
ギル・グレアムによって捕縛されたのだ。
彼らはやりすぎた。
航行の頻度があまりに多く、
担当でもない、中継地にしてはあまりにも非効率な惑星に立ち寄る姿が
たびたび目撃されていた。
また回収したロストロギアの調査の打ち切りがあまりにも早いのだ。
書類上は報告が完了していないのにもかかわらず彼らは鹵獲したそれらの収集物の調査をほとんど実行していなかった。
ギル・グレアム
彼はそうした不自然にいち早く気が付いた人物の一人だった。
あまりにも不自然な航行の記録に疑問を持った彼は
つてを頼って執務官に相談をした。
結果彼は目にしたのだ。航行艦の接収物の写真、そして実物を。
彼が最初に目にしたのはヴァジュラと呼ばれる仏具だった。
なるほど見た目には豪奢な飾りを持ち、いかにもな風貌だ。
こちらの人間ならばこの風貌に疑問を持たないだろう。
しかし彼はこれを知っている。
ロストロギアと呼ばれる効果など何一つありはしない。
これは宗教的な道具でしかなかった。
捜査官が調査を引き継いだ。
中継先の惑星を洗うとさらにきな臭かった。
違法研究所にたどり着いたのだ。
アンデル達の出立を確認した後にかれらは踏み込んだ。
強制捜査の最中でも施設の職員たちは実験を手放そうとしなかったそうだ。
彼らを突き動かすものもまた、正義への責任感だった。
研究所の施設の中は清潔でよく整理されていたそうだ。
しかし捜査官は経験上知っていた。
区画で管理されている施設はドアをまたぐと環境が一変することを。
事実、この研究所も例外ではなかったそうだ。
消毒液の匂いの立ち込める区画を抜けるとあたりは一変する。
そこから自我を無くした、悪臭を放つ子供たちが多数押収された。捜査資料として
ぼろきれを纏った少年がいた。
彼がかじっているのは土気色をした子供の前腕だった。
施設では廃棄される材料はそのまま実験サンプルの餌にされていた。
死肉を食らい続ける子供は幻獣や魔法生物の恐怖から自我を放棄した。
リンカーコアキメラの実験は正義感に突き動かされた狂人が続ける。
施術後もサンプルには希望がなかった。
キメラ魔導士と魔獣の交配実験も行われた。
強力なリンカーコアを次世代に残す方法を模索した結果、考案されたらしい。
後の捜査で明らかとなった。
正義に奉仕する人間への感謝を求められもしたそうだ。
狂人たちは正義の名のもとに少女を犯し続けた。
徹底的に調教し、進んで行為を続けるものも現れたそうだ。
その行為は良いことだそう教え込まれた少女たちは従わない仲間にさえ牙をむいた。
泣きわめく姉を抑え込み、ともに行為を強制させた妹がいたそうだ。
狂人はそう、自慢げに語った。
狂人の残した資料によると子供たちの多くは
すばらしい才能を持っていたようだった。
神秘の力
生まれながらにして強力な魔力を扱い
大人顔負けの頭脳を行使した。
そんなすばらしい才能が
管理局に務めることができればキメラなど必要のないほどの才能が
次元世界の片隅で正義を語る魑魅魍魎の手で散らされていた。
数年後裁判が終結した。
徹底的に人格を破壊された子供たちは自由を得たのちに、彼らの多くは死を選んだそうだ。
こうして
繰り返される悲劇の裏で告発の準備は秘密裏に進められた。
最高のバックアップのもとギル・グレアムは功績を重ねる。
この時代の英雄は誰かと聞かれれば誰もが答える
ギル・グレアムと
この大スキャンダルは彼をさらに英雄たらしめるには十分だろう。
彼を信奉するもの誰もがそう考えた。
しかし
少年の愛した村は救われなかった。
研究所を押さえたにもかかわらず。
アンデルは泳がされた。
当然だ。
誰でもわかることだ。いざ捕縛したならば彼らは言い逃れをするだろう。
研究所へは物資の輸送をしただけだ。積み荷は確認しない手はずだった。現場に問題行為はない。
口先で責任を無にされる。
収奪行為については現地の人間に実行させれば通信記録しか証拠は残らない。
つまり彼らを止めるには現行犯逮捕しかないのだから。
こうして
起こるべくして悲劇は起きたのだった。
もしかすると純粋に悲惨な光景を望んだのは
捜査関係者だけだったのかもしれなかった。
動かぬ証拠を抑えた。
悲劇を目撃した彼らの多くの心境だった。
そして報告を受けた英雄は即座に現行犯逮捕に走った。
かくしてこの事件はアンドレ一派の捕縛をきっかけになりをひそめる
同時に少年の怨敵は地平線の彼方にすら存在しなかった。
英雄はこの悲劇をどう見たのだろうか
後に被害者名簿に退職した友人の名前を確認した彼は
無表情な顔の下で何を考えたのだろうか