ー次元航行艦
ブリーフィングルームにはゼスト隊の主力メンバー
隊長のゼスト・グランガイツをはじめクイント・ナカジマ、メガーヌ・アルピーノ
織村総士もこの列に加わり、総士の下に配属された陸士が3人隣に座る。
三十路前後の一見真面目そうな隊員だ。
更にはその経験を信頼されて雇われたフリーランス魔導士、ジャクソン・サンダース
大まかな事前調査の共有と予想される押収品目の確認を終えてハッチへ向かった
任務前の独特の空気の中、顔合わせは恙なく進んだ。
赤褐色の草木の生えない無人世界
ハッチが開き、作戦メンバー達が降り立つ。
人間以外にもビークルが降ろされる。
作戦のポイントまで100キロは離れている
全員が離れたことを確認すると一旦航行艦は浮上し、軌道上へと去った。
砂塵が巻き上げられ、まるで風が赤褐色の形を持った物体のように見える。
「直接下りればいいじゃないですかー。魔導士なのに今時おんぼろビークルとか?」
安全確認を終えてビークルへと集合する中、総士の部下が心無い言葉を放つ。
「!やめろ。クロエ」
総士の注意にも陸士はせせら笑う
つられて残りの2名の隊員もにやにやとした笑いを総士へ向ける
明るい赤い髪の自身たっぷりな女性。
彼女は元の配属先で魔力適性の無い上官の命令を度々無視した。
結果、総士の下へと更迭された。
「…ポートが無い世界で足潰されたら、あなたどうやって帰還するつもり?魔力が切れて、食料もない状況で何をするつもりかしら?」
「…ちっ」
アルピーノが冷ややかにたしなめる
「少しは自分の頭で考えなさい。…部下のしつけがなっていないようね。陸曹」
「お手を煩わせてしまい申し訳ありません!彼女には私からもきつく叱っておきますので」
当の本人は反省した様子も堪えた様子もない
彼女は前の職でもこの調子だった。
エース級の魔導士から見れば相手にならない実力であっても人材不足の陸士部隊では魔導士を手放せない
彼女はそんな現状を知ったうえで勝手な振る舞いを続けていたのだ。
彼女以外の2名についても同様に、
自分の優位性を盾にして職場の風紀を乱した者たちだった。
移籍後も彼女はそのスタンスを変えなかった。
若い総士を舐め切った彼らは以前にも増して遠慮がない。
当然、総士のストレスは蓄積されていく。
そんな彼がいる一方でジャクソン・サンダースは目を輝かせてゼスト・グランガイツに尋ねる。
「なあ!これ、誰が運転するんだ?」
「ははは、炎使いの噂を聞いて構えていたが、年相応だな。」
ジャックの目の前には黒髪の偉丈夫
ゼスト・グランガイツは部下たちのやり取りから意識をジャックの方へと移す。
「動かしてみたいか?」
彼は年長者らしい優しを湛えてジャックに尋ねる
「!いいのか」
ぱあっと顔を輝かせるジャック
「ああ。同じ得物を使う者の好だ。どれ、俺が直々に教えてやる。」
こっそり上下関係を作るゼスト
こうしたフリーランスの魔導士を心理的にも指揮下に置くための優しさだった。
「!お待ちください隊長。ジャック、お前にハンドルを持たせられない!!」
危険な気配を察した総士は駆け寄る。
総士はゼストに断りを入れるとジャックへ詰め寄る
自分の扱いに悲しそうにするジャック
「お前が決めることじゃないだろ。嫌ならあっちに乗ればいいじゃねえか」
「ふざけるな!!!」
「「!!!」」
日頃のストレスが爆発する総士
彼の部下を含めた全員の視線が集まる
「これは任務だ!遊びじゃあない。命が掛かっているんだ。お前の趣味を持ち込むんじゃない!!」
「「…」」
ただならぬ気配に沈黙する一同
「!お前、第8のときは俺に車盗ませようとした癖に都合が良いんじゃねえか!!」
ジャックも負けじと応戦した。
車泥棒の経験でもあるかのような扱いをされた恨みを忘れていないジャック。
彼はどこまでいっても復讐者だ。
「「!!?」」
やばいところに送られたと今更ながら再認識をした部下3人は顔を見合わせた。
「仕事前にお前なんかに構っていられない!!!俺はあっちに乗るからな!!」
総士はいらいらしながらもう一台のビークルに乗る
豹変した総士に唖然とする部下3人
「何をしている。…お前らは全員あっちへ乗り込めえええええ!!!」
激昂する総士に3人はぶつぶつと文句を言いながらジャックが運転席に座るビークルに乗り込んだ
荒野を去っていくビークル達を見送るジャック一行
「そうだ。クッラッチを切ってから…ギアを繋ぐのだ。」
「ああ。単車と同じってことか。」
ゼストはメガーヌ達を見送りながらジャックに運転の指導をしている。
「お?坊主も単車に乗るのか?」
面倒見の良さそうな男性の陸士が会話に加わる。
彼は総士の部下の1人だ。
「ああ。旧車らしいんだけど前の仕事先で貰ったんだ。」
ジャックはモニターに愛車の写真を表示する。
「最近あんまり手入れできてなくって恥ずかしいな。でも、低回転の伸びが気持ちのいい奴でさ!」
「ほう。懐かしいな…俺も若い時は無茶やったものだ」
「おお!坊主やるなー!」
「私達の上司にも見習ってほしいものね?」
単車の話題で盛り上がる車内
「なあ、ブレーキングドリフトでも教えてやろうか?ブレーキ踏んでハンドル切って、アクセルおもっきし踏むんだ!気持ちいぜ?」
「ブライス!上司の言葉を忘れたのか!!これは任務だ。これ以上の脱線は許さんぞ」
総士の部下ブライスは我に返ったゼストにたしなめられる。
「!す、すいません」
張りのある声とそのがタイでゼストはブライスを委縮させた。
「まあまあ、ためになったしよ。そんぐらいで…行くぜ!!」
ゴオオオオオオオ
砂煙を上げて空転するタイヤ
「ジャック。踏み過ぎだ。遠心力も掛かっていないのにそんなに踏んだらタイヤが滑るぞ?もっと優しく踏め」
「!わかった。」
ジャックはそう言ってギアを上げた
後輪が沈み、フロントガラスの景色の空が大きくなる。
座席に押し付けられる乗員たち
「キャアアアア!」
「ぐぉおおお…」
「おい、スピードを落とせ!」
「…」
渓谷を砂煙を上げて疾走するビークル
悲鳴を上げる陸士たち
助手席で黙って揺られるゼスト
「…この地形の危うさを理解しているのはこいつだけか?」
唐突に口を開くゼストは指を上に向ける
「はあ?この、うっ、転の、が危ねえだろ、ぉ!!」
上下に跳ねながら抗議するブライス
「いや、切り立った渓谷は進路が限られる。安全運転ではいい的だ。」
上下左右にシルエットをブレさせながら説明するゼスト
「「…」」
3人はようやく危険性に気が付く
もし上から岩を落とされれば?
もし上から銃撃されたら?と
「無人世界故の安全策d」
ガガガガッガガガ
全員がつんのめり、車体がスライドする。
左右に揺れる車体
「!こういうことか。分かったぜ?ブレーキングドリフト!!次はもっと上手くやる。」
ヨシッと握り拳を握るジャック
「…ハンドルを戻すタイミングが遅いぞ。前方に壁があったら全員死んでいる。気を付けろ」
ゼストは淡々と指導する。
上下関係の構築もあるが
実はこういった荒事に耐性のある若者を指導したいと思っていた。
有事の際には突如として必要とされるスキル故に誰かに伝えておきたかったのだ。
「「うぅぅ…」」
衝撃に呻く後部座席
「丁度いい。もう一度だ!!あそこの岩で練習してみろ。」
「ああ!!おらあああっ!!!」
ズザザザザ、ガアアアアッッ
後輪がスライドし、車体が横を向く
そう思うとまた逆へ
「ほう、?み込みが良いな。次はもう少し接近してみろ。まだ近づける」
「「…」」
後部座席は沈黙する
施設の近くの岩陰に停車するビークル
そのうちの砂まみれの1台から総士の部下たちが駆けて出る
「「!…」」
彼らは沈黙を維持したまま走った。
「「おぅえええええええええ」」
彼らは膝を突いて嘔吐した。
「情けねえ!!」
少し不機嫌なジャックが降り立つ
自身の運転を批判しているに等しい彼らを非難する。
「…同感だな。」
頭髪をボサボサにしたゼストもビークルから出てきた。
総士は心底嫌そうな顔で呟いた。
「…予想通りだ」
そんな総士に目もくれずに手頃な石を探すジャック
彼は不思議そうに目線を投げかける3人に気が付く
「何ぼさっとして居やがんだ!魔力が切れたらそれで終わりか手前ぇら!!」
作戦前に戦闘の準備をしない陸士に注意するジャック
「成る程、一理ある」
ゼストはジャックを見習い石を拾った。
「「…」」
3人は顔を見合わせる。
文句を譲り合っていた
「のろのろしてるとぶち殺すぞ!!!さっさと拾ええッ!!!」
「「ひぃ!」」
ジャックは激昂した。
前線で背中を合わせる味方に足を引っ張られればそれだけで危険なのだ。
身を守る手段を放棄するような味方は必要ない
ゼスト隊の面々は冷ややかに喧騒を見据える
『済まないジャック。部下の尻ぬぐいは俺がしてやる。今日のところは見逃してやってくれ。』
『…俺は知らねえからな』
「クロエ、ブライス、ノア今回は拾わなくても結構だ。現場を見て以降必要かどうか、各自で判断しろ。いいな」
「「陸曹…」」
総士は信頼関係を構築するのであった。