ー地球 八神家寝室
中学への進学を意識しだす時期となり、八神家は一層慌ただしくなる。
中学校の卒業は即ち、局員志望者にとっては本格的な勤務の始まりを意味する。
一方で中学卒業後も進学をするつもりのジャック
彼は暫くフリーランスとして活動するつもりでいた。
アールムの件以来莫大な所得税を請求されているのだ。支払のためにフリーランスを続ける以外の選択肢が無い。腕っぷし以外に取り柄の無い彼は入局しても納税しきれる見込みがないのだった。
従って八神家は一家全員が家に揃う機会が減っていた。
「ジャック。舐めてくれ」
週末の夜
寝室のベッドの上で全裸になり、片膝を立てるピンク髪の女
室内には蒸れた臭いが漂う
「ああ。もっと貪れ」
彼女はジャックの頭を?きむしりながらよがる
「なあ、いい加減」
ジャックは顔を上げて提案をする。
もういいのではないかと
「まだだ。もっと強くだ」
シグナムは彼の表情を確認すると嬉しそうに続行を宣言する。
もっと我慢しろと強要する。
彼女は次第にジャックの頭を掴む力を強くする。
股間に顔を押し付けられながら懸命に口で奉仕するジャック
「うっ、くぁあっ、…ふぅ」
シグナムは体を強張らせたかと思うと弛緩する
徐々に彼女の秘部は熱を持ち、溢れる体液は期待に満ちている。
顔を体液で濡らすジャックは獣の様。最早交尾のことしか考えられない
ジャックはシグナムの表情を伺う。
上気した頬、汗ばんだうなじに、弛緩した肩
脚はだらしなく開かれて柔らかそうな肉がいかにも女性らしい
「だめだ」
されど彼女は否定する。
徹底的に愛撫をしろと命令する
「…後悔すんなよ?」
ジャックは腹を括って愛撫を続ける。
否応なく高まる性欲
力を失った彼女は背をベッドに預けはじめて身を預ける
「ううぅ、…っ」
身をよじり、耐える彼女に容赦なくむしゃぶりつくジャック
痛みを感じさせないように慎重にタイミングを図り、断続的に刺激を与え続けた。
八神はやてにはしたことのない、半ば拷問のようなセックスに彼らは耽った。
ふやけきったシグナムを衝動に身を任せ獣のように抱いたジャック。
体中にひっかき傷や痣をつけた彼らは行為が終わるとそのまま眠りに就いた。
「やめてくれ…」
「…」
魘されるジャックを見つめるシグナム
彼は八神はやてと眠りに就けないときはいつも魘されている。
以前から見られた傾向だが仕事をこなすたびに酷くなる。
彼女はセックスに没頭させて心の向きを変えてやりたかった。
野獣のようなセックスはそのための行為だった。しかし
「違う…ごめん…違う」
魘されながら逃れるように謝罪を続けるジャック
頭を撫でてやっても抱きしめても彼は苦しみに苛まれる。
八神はやての存在以外には彼を癒せるものはなかった
彼が夢の中で見ているものは砂漠の街での記憶
血塗れの職員が助けを求めるのだ
ジャックは違う違うと呟く
食堂の扉の向こう側から助けてくれと叫び声が聞こえる
視線を扉から移せない
プラスチックが焦げる臭いが鼻を突く
そんなつもりじゃなかった
悪いのはそっちじゃないかとジャックは拒絶する
扉の隙間から死者たちが押し寄せる
爆炎に体をボロボロにした死者や頭をシェルでグズグズされた警備員が詰め寄る。
生臭い臭いを放ちながら、許さない。呪ってやると大声で叫ぶ
精神が限界を迎えると今度は消毒液の独特の匂いと足元には金属の質感を認識した。目の前には生態ポットの林の間で身を寄せる2人の民兵。
彼らも怨嗟の絶叫を上げる。自分達は関係がないのにと
違う。そんなつもりじゃなかったと拒絶する
民兵の姿が子供や女性の姿に変わる
なぜ奪ったのだと訴えかける。彼らは悲しみの絶叫を放つ。
ごめん、そんなつもりじゃなかったとジャックの精神はまたも限界を迎える
今度はナナリー達が詰め寄ってくる。皆、頭蓋を開かれ、目は死んでいる
一様に平坦な表情で迫る。お前に生きる価値は無いと訴えかける。
生きたいと訴えかける。
ジャックと生きたいと訴えかける。
お前に裏切られたと一斉に詰め寄る。
ジャックはごめんごめんと謝るしかない
彼女たちはジャックに掴みかかると一斉に肉片となって散った
硝煙と湿った血の匂い
なおも頭に響く彼女たちの恨みの声
お前なんかいなくなってしまえばいいのにと囁きかける
違う。悪いのは全部虐殺した奴らだ。
自分は違う。
ジャックはそう思い、助けを求める
彼の目の前には祖父や両親、村の人々が現れる。
彼らに助けを求めるジャック
助けてくれ。仇は討ったと生々しい肉片を掲げるジャック
きっと彼は晴れ晴れしい顔をしている。
人々の答えは拒絶
何故お前だけが生きているのか
お前なんかいなくなってしまえばいいと彼の心を締め付ける
ジャックは困惑する。
どうして。言われた通りに殺したのに
褒めて欲しくて殺したのに
あと一人なのに
助けを求める彼の心を救う存在は無い
縋った手は払われた。
お前なんかいなくなってしまえばいい
ジャックの精神が限界を迎えても、何度も何度も彼らはジャックに呪詛を吐いた
ー翌朝
「相談があんだ…」
ジャックは疲れ切った顔で隣に話し掛ける
彼の隣には横になって真っ直ぐな瞳で見つめるシグナム
「ああ。」
彼女は姿勢を崩さず、了承する。
「高町さんにも、相談したい」
ジャックは苦しみに苛まれながら声を絞り出した。
「ああ。では閉店前に顔を出そう。」
シグナムはそう言うとすっとベッドから立ち上がり、着替え始める
ジャックはその姿をぼうっと見つめるのだった。
ー喫茶翠屋
閉店前の喫茶店でテーブルを囲う3人
季節の変わり目。窓の外は暗い
ジャックは目の前に置かれたコーヒーの水面を見つめながら話し始める。
「俺の生きる目的は…敵討ちなんだ」
2人は黙って頷く
「一族を殺した奴らへの復讐を誓って生きてきた。」
「鍛えていたのも、そのためだね?」
士郎が優しく尋ねるとジャックはこくんと頷く
シグナムは鋭い目つきでカップを傾ける
「だが、復讐するのが怖くなっちまったんだ」
揺れる水面を見つめ続けるジャック
「なあ、俺みたいなやつ、ほかに居ねえのか?そいつら復讐したらどうなった?」
顔を上げ、縋るように2人に目を向けるジャック
「「…」」
彼らは沈黙する。カップをソーサーに置く音が響く
彼らの知る復讐劇の果てにあるのは常に悲劇だった。
話してよいものかと逡巡する2人
「最近、1人殺した」
「!おめでとう」
「なんだ。祝い損ねたではないか」
ジャックの報告に表情を和らげる2人
初めて復讐を肯定されたような気がして浮かれるジャック
「!ああ、正体は化物だったんだが、あと1人なんだ…」
そう言って小瓶を取り出そうとするジャック
「!待った。それは今出さなくてもいい」
店内の客に気を遣ってジャックを制する士郎
遠巻きでは話の内容は分からないが現物を出すのは見過ごせない。
「…そこまで進んで、今更なにを悩む?」
シグナムは神妙な顔で核心に触れる。
「…」
ジャックは黙って言葉を選ぶ。何から話していいのかわからないのだ
2人は黙って言葉を待つ
「夢に見るんだ。仇を討てって村の皆に言われる夢だ…」
「それで?」
シグナムが相槌を打つ
「1人殺してもまだ、見るんだよ。早く早くって。殺さないと一族の人間じゃないみたいに。皆、褒めてくれると思ってたのに…」
「「…」」
噛みしめるように訴えかけるジャック
「なあ、このまま最後まで行ったらどうなる?最近怖いんだ。眠るのが。皆に会いそうで、怖いんだ」
とうとう本心を吐き出すジャック。
復讐をはたしても満たされるどころか更に精神を削られる。
復讐の対象がいなくなってしまえば村の人々の恨みの矛先は自分に向かうのではないかと恐怖した。
「なあ!シグナム!お前はこんな人間知らねえか?そいつは一体どうなった?」
「…」
シグナムは答えられない。
彼女の記憶では、彼らは大抵は刺し違えるのだ。未来はない
「高町さん!俺、どうすれば…なんでこうなっちまった」
ジャックは頭を抱えながら士郎にすがりつく
士郎は苦しみの原因を考える。本当に死者の声を聞いているわけではないのだろう。と彼は苦しみの原因を看破する。これはジャックの恐怖心から生まれた幻影だ。仇の死に様を目にし、自らの復讐の感情が芽生える場面をフラッシュいバックさせた結果、自分に復讐の矛先が向けられることを恐怖したのだろうと当たりを付ける。
「…」
「…君の復讐は、誰かに依頼されたものかい?」
士郎はジャックに尋ね返す。
ジャックは黙って首を横に振る
「そうだ。君が決めた道だ。」
「ああ。」
ジャックは頷き、確認するように同意する。
「こう考えるのはどうだい?敵討ちは墓前への供え物だ。」
「?今までもそうしているぜ?」
ジャックは否定する。
復讐を決めて、首級を墓前に供えることを決めたのは彼自身だ。
「そうじゃあないよ。君の恨みを晴らすことを考えるんだ。その過程で供え物をすればいい。」
「…」
意図するところが分からず、困惑するジャック
「いいかい?もう、皆亡くなっているんだ。夢は夢。だから君は君の人生の過程で自分の恨みを晴らすんだ。」
士郎は決して利己的な生き方ではないと説明する。
あくまでも自分の人生の延長線上に弔いがあるのだと
「!俺の復讐なのか…」
士郎は頷く
「そうだ。これはあくまでも通過点だ。未来に至る途中で弔いを済ませる。それでいいんじゃないかい?それとも一族の人は君が苦しんで喜ぶのかい?」
「!」
夢で見る彼らを本物のように思い込んでいたジャックには衝撃だった。
驚愕するジャックを優しく見つめる2人
シグナムはようやくジャックの苦しみを理解して安堵する。
「ふっ。主はやての仰る”弱虫”とはそういうことか」
「!っ、うるせえよ」
ジャックはからかわれ、顔を赤く染める。
彼は冷めたコーヒーを一気飲みする。
苦味が瞬間的に通り過ぎる
「ははは。いいじゃあないか。人間味を失って刺し違えるよりはよっぽどいいことさ」
士郎は父親のような寛大さでジャックを擁護する。
「ふっ。刺し違えでもしたら主はやてがお前の骸をひっぱたくだろうな?」
シグナムが片眉を上げてジャックに目を遣った
「ああ。かもな」
ジャックはふっと息を吐くと体から力を抜いた。
何か重荷を下ろしたような気分になる。
一気に弛緩する空気
「良ければ、君の英雄譚を聞かせてもらえないかい?」
お代のかわりにとジャックのカップにコーヒーを注ぐ士郎
「いいですね。ならば私にも聞かせてもらおうか?」
「おいおい。いいのかよ?」
今更ながらまばらに客の残る店内を気にするジャック
「理解できるのは僕たちだけさ!」
士郎は年甲斐もなくウィンクして笑い掛けた
ジャックは次第に熱を帯びながら、異世界での出来事を士郎に語る。
いつの間にかテーブルには彼の話を聞こうと集まる従業員たちの姿があった。
彼らが満足する頃には店内は片付けを始めてしまっていたのだった。