大切な人との出会いを思い出す。
家とは違う装いの家屋に思わず緊張した。
厳つい顔で、頼りになる両親に対して偉そうで
印象は最悪だった。
人となりを知って打ち解けた。
怖がらずに踏み込むこと
なんとなく実行して正解だった。
誰かと仲良くなるにはとても効果的な教訓だった。
爺さんと仲良くなれたのだから。
ー飛行船 医務室
完全に覚醒した。
今度は柔らかいベッドの上にいる。
照明は真っ白い部屋を明るく照らす。
憎悪に表情を歪めた少年は身を起こし、部屋の構造と身を隠せる場所を探す。
「じっとしていなさい」
白衣を纏った女性に促された。
優しい声色だった。
しかし白衣を着ていることが許せなかった。
こいつを燃やしてしまいたい。
きっと気分がいくらか楽になる。
施設送りで済まなくなるので実行はしないが。
「・・・」
無言で女性を見上げる。
そうこうしていると覚醒の報告を受けたのか
バッジを蓄えた白服を着た白髪交じりの大柄な男性が入室した。
目にした瞬間に憎悪が膨れ上がり
無意識に右手に熱が集まった。
今度こそ殺す。
こいつだ
こいつがやった
爺さんを両親を皆を殺した
殺す
必ず殺す
指の先からじっくりと炭にしてしまえ!
最低な苦痛に悶えて死ね!
そう思わぬうちに手を伸ばすと
手を縛る感触があった。
いつのまにか集めたはずの熱が失われてしまった。
全身から力が抜ける。
まただ
また失敗した。
今度は片手だけなのに
もう一度熱を生めそうになかった。
何事もなかったかのようにふるまう大男は膝を折って話しかけてきた。
さも嬉しそうに大事そうに。
まるでパパが賞状やトロフィーを扱うときのように
自らの功績に高揚し、自慢したいあまり高ぶりを隠せないかのように。
「初めまして。私はギル・グレアムだ。君の名前は?」
「、、、ジャックだ。」
「そうか。ではジャック、君はこれからどうしたい?
親戚のもとを希望するならそこへ送ってあげよう。いってごらん?」
グレアムは何も知らされていない木偶なのか?
研究施設送りにされると思い込んでいる僕には木偶の質問を理解できない。
無言で目を合わせて続きを促す。
「・・・」
「そうか。もし悲劇を繰り返したくないならば私のもとへ来るといい。ジャックが成人するまで面倒を見よう。どうだい?」
「、、、考えさせてくれ。」
妙だ。
嫌な予感がする。
知っているくせにこの話が持ちかかっている。
見捨てられた?
しかし研究材料としての価値無しならば寝ているうちに殺せばいいはずだ
そう思案しているとグレアムは気が付いたようにこう言った。
「ああ、安心してくれ。悪い奴らは僕がみんな捕まえてしまったからね?」
「!」
グレアムはあまりにも当たり前のことで忘れていたようにふるまった。
ついさっき固めた決意や憎悪が一言で無駄になった。
僕の決意は目の前の男にとっては児戯にも等しいかのように
こいつの言葉は当たり前のように僕の心を蹂躙する。
腹積もりは決まった。
殺す
どいつもこいつも殺す
刑務所ごとその塀ごと檻もまとめて燃や尽くす。
今日からそのために生きてやる。
そして
気に食わない。この男だけは
心底気に食わない。
俺の獲物をかすめ取り
俺の心を意思を目標を
あっけなく飲み込んで誇示するようなこの男が心底気に食わない
それはおれのものだお前のではない。
だから決めた。
「ひとりにしてくれ。もうたくさんだ。ひとりでいい一人で生きる。」
焦った様子の木偶は説得を始める。
決意した自我に説得している。
完全にこちらを人間として尊重していない。
意思を持たないペットや人形のような扱いだ。
本性が明るみになった。
「よく考えるんだジャック。君に必要なのは君を温めてくれる人たちだよ。それにあんな悲劇も、これから学んで君のその力を正しく使うことができれば」
「黙れ。もう決めたことだ。にやついた奴らを見ると笑われているようで許せない。虫唾が走る。殺したくなる。」
「」
呆気にとられた木偶は言葉を紡ごうとする。
「黙れ。何ならそこの女から消し炭にするぞ?」
それからは順調に俺の一人暮らしの話が進められた。
ー執務机にて
一層白髪を蓄えた男性が頭を抱えていた。
見ている人間がいないのならば英雄も悩めるただのひとだった。
思い返す。
なにが悪かったのだろうか
かすかな痕跡を追って悲劇を白日の下にさらした
仲間とともに毎晩遅くまで調査をした。
無理強いもたくさんした。
これらを調整をしながらやっと成し遂げた仕事だった。
だからこそ胸を張って言える。我々こそが正義だと。
正義を語る組織のなかで最も正義らしい人間は我々だと。
そう誇れる仕事を成し遂げた。
その果てに救出できた一人の少年がいた。
我々の正義が生み出した奇跡のような少年だ。
心を持った少年
覚醒の知らせを聞いていてもたってもいられなかった。
愛するものを失った少年に正義を見せよう。
願わくば少年の未来に我々の正義を託せるのではないか。
そう。まさしく希望だった。
未来の希望は、正義の報酬としては最高だった。
私は正義だ。
希望は悪意を以て出迎えた。
経験からして一目でわかる。
プロテクトを無視するだろう。性質変化にしてはあまりにも異質な炎が顕在していた。
魔力の炎熱変換
というよりも燃焼を召喚、使役しているという表現が正しい気がした。
危険だ。
少年がこちらに手を伸ばす前にストラグルバインドで術を強制停止させた。
確信する。前線での経験が無ければ両足を残して消えていたと。
それからも希望は辛辣だった。
こちらの思惑をことごとく撥ねた。
世話をしてくれたはずの医務員ですら燃やすと宣言した。
現実は残酷すぎた。
なぜなら我々の求めた正義が残した希望はなによりも破壊を求めていた。
結局自分にできたことといえば
彼の後見人となること
そして定期連絡を約束させることだけだった。
不安だった。テログループに目をつけられれば危険でしかないのだ。
碌な自我を持たないはずの少年が
並みの局員では対抗できない力を持つのだ。
自分の経歴が悪魔を生み出すことが恐ろしかった。
なにしろ協力者あっての自分だ。
皆に背を向けられることは恐ろしくてたまらなかった。
魔法文化圏で研鑽すればすぐに誰かの目につくことになる。
幸いなことに彼は元の管理外世界で暮らすことを希望した。
とはいえ経過を連絡してくれなければ管理外世界といえども安心できなかった。
不毛な考えを中断して調書の作成を再開させる。
今回の被害者の名簿を作成させた。
なにしろ局側の人間も含めて人数が多いのでついつい思考がそれてしまう。
実際目を通すのは今日で3回目だ。
「私も年だな、、、」
瞬間
懐かしい名前を見た。
まさか!
引退したはずの友人の名だった。
年は下でも同じ志を持った
熱く励ましあった友人の名だった。
そういえば彼の退職以降は忙しくて疎遠だった。
子供の話を風のうわさで聞いたように思う。
珍しいこともある。
逸れそうになる思考を
執務へ戻す。
もう一度報告書へと集中した。
しかしページを進めてすぐに途切れた。
彼の妻の名前だった。
因果応報
悲劇の毒牙は例外なく等しくそして理不尽だった
英雄と呼ばれた男はこのあと身をもって体験するのだった。
後に闇の書事件と呼ばれる悲劇だった。