ー地上本部
八神はやては捜査官としての地位を確固にしていく。実績、人脈、根回し。それらは彼女の将来を約束した。傍から見れば恵まれている彼女。職務だけではなくその可憐な容姿は年の頃もあって職員たちの憧れの存在。
八神はやてには数年前まで恋人がいた。だが、別れたらしい。今では局内の暗黙の事実だった。彼女はきっと欲求不満だ。その恋人と復縁もせずに仕事に打ち込む彼女は様々な男性職員から性の対象として見られていた。
彼女はそんな視線を知ってか知らずか、日々自己研鑽に励む。そのせいか、地球へはほとんど立ち寄らなくなった。彼女は仕事の傍らジャックのことで悩み、親友に相談もしてる。別れて以降の彼の動向を良く知らないのだ。
そんなある日のこと。彼女は地上本部の会合を終えて近未来的な施設の廊下を歩く。
別棟へ差し掛かる頃、彼女に声が掛かる。
「ねえ?なのはに変なこと言ってない?」
美しく、長い金髪を後ろで纏めた少女、フェイト・テスタロッサ。最近色気が増したと評判の同期の姿。
「?ごめんな。また今度聞くな」
困ったように笑うはやて。嫌な想像をするとちらつくフェイトの姿。必然的に、恋愛話の相談相手は高町なのはだった。
「待って。なのはにも迷惑なんだ。」
真顔で真っ向から要件を伝えるフェイト。はやては背筋を硬直させる。
「もう…なんなん?急に。」
冗談でも言っているのかと言いたげに笑うはやて。利害の外にいる友人との関係を壊したくない。
「ジャック。」
「!…あいつがなんや?」
名前を出されて一瞬動揺する。
「もう別れたんだ。新しい相手を探さないと、時間が無駄になっちゃうよ?」
「はは…。参ったわ~」
痛いところを突かれたと言いたげなはやて。
「ダメだよ。目を逸らしたら。そうだ!母さんの知り合いにね?素材系の商社の人がいるんだ。紹介しようか?」
親身になって男を斡旋するフェイト。
「い、いいって。今はそんな暇ないし」
ぐいぐい来る友人に遠慮をするはやて
「んー。じゃあ!幹部候補は?総士…は最近遠方だっけ?他の将官候補なら…」
次々と知っている男をあてがおうとするフェイト。思えばジャックと別れたとき、連絡をしようと考えていたはやてを制したのは彼女ではなかっただろうか。
「ええって。フェイトちゃんはどうなん?最近、色気づきよって。相手がおんねやろ?」
軽く探りを入れる。
「うん。内緒だよ?」
余裕そうに微笑むフェイト
「気になるなー。どこの人?」
「ふふ。局員じゃないよ?」
当ててみろと言いたげなフェイト
「言ったなー!じゃあ…地球の人や!」
「うん。そうだよ?」
「…」
にこにこと余裕なフェイト。はやては遊びは終わりとばかりに作り笑顔を消す。
「なあ…自分、どういうことなん?」
はやてから澱んだ気が漏れる。近寄りがたい空気が形成され始める。
「?なんのこと?」
尚も姿勢を崩さないフェイト
「とぼけんなや。連絡とるなとか!許すなとか!そんなん言ったん!全部フェイトちゃんやんか!!」
「うん。言ったよ?」
声を荒げるはやてに、だからどうしたと言いたげなフェイト
「はやては、言わなかったんだよ?」
「!それは」
フェイトは的確にはやての落ち度を指摘する。
「ふふ。それじゃあ、ジャックもわからないよ。」
「!…」
はやての全身の血液が沸き立つ様な感覚。激昂しながらも情けなく思う。はやてが実行することを恐れていたジャックの浮気癖への対処。感情に任せて振ったら何処かへ行ってしまいそうで不安だった。フェイトはそんな彼女の背中を押しただけ。言わなかったのははやてで、聞かなかったのはジャックの方。
「わかったら、もうとやかく言わないで?」
表情はそのままに冷たい言葉を放ち、立ち去るフェイト。
「あっ…」
はやては手を伸ばし、去りゆく金髪を見送った。
ークラナガン 喫茶店
ジャックはテラス席でコーヒーカップを見つめていた。心を落ち着かせる香りと苦い口当たりは考えごとに最適だ。
椅子の上で脱力しながら考えに耽る。どうするべきかはわからない。だが、このままでいいとは思えないのだ。
彼は嫌になっていた。毎度の性行為に対する逃避行動だ。地球へ帰ればすずかかアリサが喜んで迎えてくる。地球の拠点には2人の私物が置かれ、友人達のエロ本は全て撤去された。そこには彼の交友や趣味の暇は許されない。それらの時間、労力はすべてセックスに費やされた。
地球の自宅だけではない。放課後は迎えの車が高校の出入口へ止まり、彼を拉致する。普通のデートの強制。真面目にデートをするにも精神を遣う。もはやデートではない。接待だ。はやてへのリークが怖い彼は奴隷のように彼女たちに奉仕をする。
呼び出されることもあるし、プライベートな時間に乱入して体を求められることすらある。拒否は許されない。彼女たちの満足するまでセックスをする。ジャックは3人の性奴隷だった。奴隷に自由はない。
最初はセックスをするたびに快感で何もかもを忘れられた。しかし繰り返されるセックスの中で快感が失われ始めた。残ったのは変わらない現実、暗い未来。はやてはおらず、亡者が夢を跋扈する。
「相席いいか?」
クールな印象の声、白いロングスカートがジャックの視界を掠める。
「火傷じゃすまないぜ?」
了解も取らずに対面に座る銀髪の戦闘機人。一般人のような格好をしているが、片目に眼帯をしている彼女は過去の仕事先で自爆した少女だった。警戒感を露わにするジャック。
「そう言うな。仕事を依頼したいんだ。炎使い」
「…」
組合を通さずに直接出向く理由が分からない彼は警戒を解かない。彼女を睨みつける。
「ふう…。私の身にもなってみてほしいものだな。…ドクター」
背もたれに身を預けた少女は虚空へ愚痴をこぼす。
『久しぶりだね。炎使い』
爬虫類染みたにやけ顔の男がモニターへ映る。
「!てめえは」
フェイトの依頼先でハックを仕掛けた怪しい男が再度姿を見せる。
『待った待った!君への依頼だ。悪い話ではないよ!自信を持っているよ?あははは』
話したくてたまらないと言った風に男が続ける。
『報酬から話そうか!うんと効くクスリ、それから目の前の少女を好きにしていい。勿論、彼女は女性だよ?」
「ああ。私は構わんぞ?」
カーディガンに包んだ身をずいっと前進させる少女。
「どうすっかな…」
こっそりとフェイトへ連絡を試みるジャック。しかし端末はロックされて通信ができない。
「そうだ!それならば君の秘密をばらさないなんてどうかな?』
「…」
身を乗り出す男はモザイクだらけの写真を次々とスクロールさせながら表示する。
『あはははは!すごいなこの男!よくもまあこんなにたくさん!!いや感心するなあ。すごいよまったく!誰なんだ!この絶倫!!あははは』
「…」
男はちらりとジャックの表情を確認する。呆然とした表情に自身を深める男
『さあ?誰に言おうかなー?誰がいいのかな?』
またもスクロールを続ける。端末から直近の連絡先を調べたのかジャックの知り合いが次々と表示される。
『これかな?これじゃない?これか?』
「消えな」
苦々し気なジャック。次元世界にばらまかれたなら、その時は地球で暮らせばいいのだ。強気に出るジャック。
「!」
『あはは!やっぱり彼女か!!』
男の手が止まる。八神はやてだ。オフィスだろうか?局の制服を纏っている。
『いやね?君のレアスキルの解析がしたいんだ。どうしても解析に手間取ってねえ?どうかなあ?ちょおっっとだけでいいんだ。うちに来てくれないかなあ?』
嬉しそうに話す男。色よい答えが得られると信じている。
「ッ…知らねえよ」
『…きっと、後悔するよお?』
モニターは男の顔のアップになったかと思うと再度写真が表示される。そこには
「!なっ…」
肩を抱かれ、ラブホテルへと消える八神はやての姿が捉えられていた。
『さあ!答えを聞こうじゃないか!!どうするう?少しは来る気になったかな?なに、この男をこっそり消すくらいわけないさ。君はここへ来るだけでいいんだ。』
大袈裟な身振りでアピールする男。銀髪の少女はどうだと言わんばかりにジャックを流し見る。
「…わかった。」
力なくうなだれるジャック。目を背けられるのならば、どこでもよかった。
ークラナガン 八神家
玄関にはリンフォースが今か今かと主人の帰りを待つ。普段ならば就寝する時間になっても戻らない主人を心配しているのだ。
「!主」
「…ただいま。」
こっそり扉を開けてポツリとこぼすはやて。明らかに普段と異なる様子だった。リビングから騎士たちが顔を覗かせる。
「ああ!お帰りなさい」
つらいことがあったと察したリインフォースははやてをぎゅっと抱きしめる。
「…これは、寝てきましたか」
はやては感慨深げに言う騎士に気を遣わせまいと、急に明るく振舞う
「そ、そや!いい加減吹っ切ろ思ってな?一発ヤッて来たでー!」
彼女はどうだと言いたげな顔だが騎士の顔は晴れない。
「はは…でもな?あかんね。違うみたいや」
「はい…!」
リインフォースは抱きしめる力を強める
「しっかり最後までしたで?でもな?なんか、あかんねん」
ぽろぽろと涙を流すはやて。騎士達に彼女の感情が流れ込む
「ううぅ…やっぱり、悔しいよ!なんでなん!なんでこんなこと…」
言葉が続かない。こうなることは最初から分かっていた。はやてが寝た相手は同僚だった。出世コースを先走る彼。はやてと釣り合うかもしれないと思って鎌を掛けるとすぐに釣れた。彼のセックスは最後まで独りよがりだった。まあまあ楽しめた。しかし終わってみればセックスをしただけ。物足りない。セックスにはやての存在が無い。空虚なセックスだった。
「主…」
「ふふっ!ええんよ。…蹴っ飛ばしてきたったわ」
はやてはぐずぐずと鼻を鳴らしながら騎士達に弱さを見せまいと心を持ち直す。
「はい。流石です。主」
様子を見ていた騎士達も奥からやってくる。
「ふっ。流石ですね。主はやて」
「ったりめーだろ?だってはやてだぜ?」
シグナムとヴィータがはやてを迎える。後ろにはザフィーラもシャマルも控える。
「…この際、セックスは自家d」
リインフォースの言いかけた言葉に敏感に反応した守護獣が行動を起こす
「テオアー!」
ザフィーラは勢い良く玄関の扉から外へ駆けた。彼は誇り高い守護獣。バター犬になるつもりはない。
「…行ったか」
「もう!いじめちゃあかんよ?」
家族がいることに感謝を。八神はやては自棄になりながらも、家族のおかげで立ち直りかけていた。
ークラナガン 管理局付属病院
「…ちっ」
レジアス・ゲイズはとある集中治療室を尋ねている。面会謝絶とある病室はもぬけの殻。彼は苦々し気に舌打ちをする。
「儂も年か…」
彼は握りこぶしを見つめる。思うのは昨年しこたま殴った部下のこと。ベッドの札には織村総士の名前
総士が入院した原因はレジアスにある。局員として醸成されつつあった総士が再度退職を宣言したのだ。激昂するのを我慢して彼らは話し合った。限界を迎えたのは退職後に希望する進路を聞いた時だったか。
「織村め」
レジアス・ゲイズは昨年の感情の爆発を俯瞰する。自身の老いも感じる。彼は時代の変化を、確かに感じていた。
stsは時間掛かります。
間延びしかねないぃので