ー地球 海鳴 山中にて
「ん野郎ぉ!」
俺はがむしゃらに木の棒を振り回す。
爺さんのような流麗さは欠片もない。
いささか不格好だが俺は皮手袋越しにこれを槍のつもりで使う。
爺さんは槍の名手だった。
槍、詰まるところの棒切れならばどこでも手に入る。
つまり、どこでも殺せるのだ。
「クソッタレ!」
手造りなので毎朝振り回す俺の柔らかい手は初日でボロボロになった。
さすがにひと月もすれば
手袋という便利な道具を使うことを覚えるのであった。
体は成長と共に強くなる。
だから今はとにかくセンスを磨く。
瞑想と戦術の練り上げ、得物を使ったセンスの習得。
まだまだ成長の実感はない。
しかし鍛錬の主題はいつか来る復讐の機会ではない。
成長の終わりに最大限の力を完成させることだ。それまではやみくもに復讐なんてするべきではないのだ。
鍛錬の初日に、復讐どころではない可能性に思い当たったからだった。
ーひと月前
人気の少ない早朝を狙って鍛錬に適した手ごろな山を探した。
春とは言え、朝は冷えて出歩く人など見当たらない。
本音を言えば公園がよかったが人気のある場所で力を行使するのは気が進まない。
そうして散策してたどり着いたのは神社の境内を超えた先
大きな落葉樹の茂った場所だ。
枝が張るためか足元に雑木が生えていないので使いやすい。
特に準備もしていなかったので
鍛錬の方針を考えることにした。
どうすれば殺せるのか。
このころには神様転生のことを思い出していた。
捧げたものに今の自分には大切と思えるものではなかった。
今は力を蓄えたいのだ。
分析はなんとなくわかる。
刑務所への侵入の計画立案で役に立ちそうな気がする
気を止めておけば勝手にセンスが得られるだろう。
燃焼はおそらく精霊の力だろう。
切り札だが使い勝手が悪いうえにうまく制御ができない。
これくらいの力加減でこの具合
そんな匙加減さえ一切分からない。
望みの物を燃やせたのは記憶の中ではたったの2回だけだった。
そのあとは魔力切れで動けなくなった。
しかし切り札を失うことはできない。
これからは毎日木の葉を燃焼させてみよう。
繰り返すうちにセンスを磨く。
そして毎日魔力を使用することで少しでも魔力の伸びしろを大きくする。
体ができるまではとにかくセンスと戦術を磨く。
体力と魔力を得ることができたとき
そのときはグレアムの木偶でも俺を止められないだろう。
当面の目標ができた。
しかしあのとき俺は万能の力を要求したはずだ。
NARUTOとはなにか?
せめてそれさえわかれば強くなれるはず
しかしそんなものは覚えていない
知らない世界で
しかも戦術上のメリットが全くの不明な技術を学ぶ
馬鹿げている。
戦術を考えるついでに毎日チャクラとかいう力を探そう。
抜群の戦術と圧倒的なセンス
殺し続けるスタミナ
これらをそろえて塵殺する力をこれから獲得するのだ。
圧倒しなくてはならない。
奴らには恐怖を植え付ける。
あのカーキの男を
白服を
恐怖に歪ませてようやく首を狩ることができる。
瞼裏には皆期待してこちらを見ていた。
憎い
ムクムクと憎しみが湧きあがる。
次のことを考えるとどうしても怒りが湧いてくる。
あとは武器だ。
これは決めている。
槍だ。
爺さんの村では槍を使う人がいた。
その中でも爺さんの槍裁きは村一番で、小気味良いぴゅぴゅっという音とともに槍を構えていたのを覚えている。
槍を構えた爺さんは子供から見ても無駄がなくてきれいだった。
そのくせ踏み込んだと思ったら離れたところに固定された木偶を強烈に突いていた。
そんな爺さんは俺の中では特撮のヒーローで
ヒーローに何度も槍を触らせてもらって、
ほめるたびに飽きるまで槍裁きを見せてくれた。
最後の瞬間、爺さんは槍さえあれば2人は殺せたのではないだろうか。
卑劣にも奴らは武器を奪い、無抵抗な爺さんに銃撃を浴びせかけた。
「くそったれ!クソッ!畜生!」
憎い
なぜ俺が?
余りにも理不尽だ。
なぜ俺ばっかりこんな目に合わなきゃならないんだ!
嫌な予感
何か
何かを見落としている。
俺だけなのか?
いや、俺だけではなかったはずだ。
うろ覚えではあるが、木偶野郎がしけた面でたしかこんなことを教えてきたんだ。
”ジャック。君が私のもとでともに正義を目指すことができなくて残念だが、君が生きることを望んでくれて嬉しいよ。今回君ぐらいの年の優秀な子供たちが、それこそ正義を目指してほしいような才能に溢れた子供たちが大勢犠牲になったんだよ。でも、君は生きていて、君の自我もきちんとここにある。このことだけは僕はうれしく思うんだよ?”
”黙れ。”
”俺に言いたいことを猫のねーちゃんの尻に言ったところで伝わるかよ。”
あのゲス尻野郎は俺と似たような子供がいたと
確かそんなことを伝えた気がする。
俺のように何か才能を示した子供
確か俺の前の奴らは神秘の才能を望んだ奴らのはずだ。
ハッと気が付く。
対価だ
対価を払わされたのか
そいつらが何を望んだのかはわからない
あの口車に乗せられて一体どれほどを望んだのだろうか
しかしこれだけはわかる。
神秘に見合う対価を持った奴なんているはずがないのだ。
なぜならあの場所には何もなかった。
差し出せるのは自分だけだ。
だからだろう。
対価を徴収されたんだ。
あのときは奴らの自我は神秘の代償には十分ではなかった。
だから今更になって徴収されたのだろう。
行きついた答えに恐怖する。
風の音が消えてキーンという音が耳の中に響き、噛み合わせを忘れた歯がカチカチと音を鳴らす。
朝の冷気のせいではない。
理不尽に対する怒りでもない。
避けることのできない死の恐怖を感じた。
余りにも理不尽な対価の回収に身を震わせたのだ。
あの空間で才能を与えられた
親戚縁者両親に望むものを与えられた
クソどもには憎悪を与えられた
そこに俺の自我は存在しなかった。受け取っただけ。
ただ、与えられたものに満足していた。
足りないなどと思ったことなどない。享受するのに俺の自我なんてほとんど必要がなかった。
あいつらと同じ。
自我の大きさが神秘の代償には不十分
しかしこれから感情は膨張し、鍛錬の目的を思い出すたびに自我を膨らませるだろう。
俺の番だ。
俺の番が来る!
俺の対価でさえ十分でないかもしれない。
過ぎた恐怖で冷静な思考が戻ってくる。
この先理不尽な回収が再び起きるはずだ。
鍛錬の予定に変更はない。
ただ、復讐の時に回収されることを考慮するとスキルの習得だけでは不十分に思えて仕方がなかった。
どのような刺客を差し向けられるのか分かったものではない。
刺客たちが一斉に向かってきた場合、魔力切れを起こしやすい俺はすぐに奪われる。
実際村を襲撃した集団は見たこともない飛行船で兵隊を率いて攻め入ってきた。
大魔力が必要だ。
生き残り、首級を挙げるにはセンスと戦術、そして大魔力が必要だ。
急ごしらえの戦術では対応しきれるとは思えない。
神秘の才能を以てしても同類たちの魂はあっけなく摘み取られたのだから。
才能を育てて昇華させなければ死ぬ。
生き残る可能性を獲得するには
持ちうる力を最大限に成長させる必要があるのだろう。
ああ、クソだ。
自我を成長させても
死ぬ。
いつ刺客を差し向けられかもわからない。
焦って力をつければ蹂躙される。
本当にクソだ。
クソッタレ
だから焦らず才能を昇華させる。
無理をして時間を無駄にするわけにはいかなかった。