話そのものと、登場人物にはゲームにはないオリジナルのものが含まれています。
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ご了承ください。
多種族が混在する国家ヴァーミルにあっても看過されない種族がいる。それこそがデモニア。かつて強大なる魔の力を有した彼らは、他国に劣らぬリラという名の大国を築いていた。
「ふぅ…、ふぅ…、はぁ…、はぁ…よい、しょ」
ザバァーッ!
井戸水をみすぼらしい木桶から炊事場の瓶へと移し終えた少女は、そんな遠き故郷のある方角を見上げた。デモニアの証明とも言える頭から生えた2本の角、しかしその長い髪は痛んで久しく、美しかったであろうかつての髪色はくすんでいる。
ボロボロの布地をかろうじて纏っているような服装、裸足で冷たく固い地面を踏みしめ、腕には怪しい魔法の輝きをたたえる腕輪がハメられていた。
その肌は色白というよりも不健康な青白さに染まり、ところどころに土埃が付着している。
――――まるで奴隷のようなみすぼらしい格好の少女の姿は、まさに今の世におけるデモニアの立場の弱さを象徴しているようだった。
「シュターナ! いつまで水汲みやってんだい!! さっさと廊下の掃除をするんだよ!!」
「あ、は、はい。かしこまりました奥様ッ」
足取りがフラつく。だが彼女―――シュターナの感覚では、これが普通であった。
日が沈んでいる内は旦那様の床を温め、日が昇っている内は休む暇もない仕事の数々……彼女に休む時間など与えられる事はなく、かろうじて“ 彼ら ” の目を盗んでは僅かな休息を得るのみで、目の下には常にクマが出来ていた。
「んぁうっ!! …あ、ぐ…ぁ、あ…ぅう」
腕が焼き切られるように熱い。その腕輪は、一見するとシンプルな装身具のように見えるが、シュターナを虜囚の身たらしめる魔法の拘束具である。
このように懲罰を与えるだけでなく、もし彼女が逃走を図ったとて、その居場所が手に取るようにわかる発信器の役目も担っている。それゆえ彼女には足枷や首輪などは付けられてはいなかった。
「たらたらしてんじゃないよ! 越してきたばかりなんだ、やる事は山ほどあるんだからね、サボんじゃないよ!!?」
「は、はい……はぁ、はぁ、はぁ…が、がんばり…ます……」
裏手口から屋敷内へと入っていくシュターナを、まるで汚物でも見るかのような目で睨む壮年の貴婦人。その人相はとても良いとはいえず、人は見た目によらないとはいえ、確実に100人が100人、彼女を悪人であると評するであろう。
世間では結構な権力を有する大富豪の妻だが、それゆえの気苦労も多く、その鬱憤を事あるごとにシュターナにぶつけていた。
「フン……汚らわしいデモニアの小娘が、殺されないだけ感謝してキリキリ働きなさい、いいわねッ!!?」
バシンッ!!
「あぐっ!! はぁ、はぁ…は、はい。あ、ありがとうございます…奥様…」
足が悪いわけでもないのに、杖を日ごろから愛用しているのはこうして彼女を叩くためだ。
吐き気を催すほどの性悪女である事は、屋敷に勤める使用人の誰もが知っている事ではあるが、誰もシュターナに同情したり、助けようという者はいない。その理由は、彼女がデモニアだからの一言に尽きる。まるで人類の不倶戴天の敵とでも言うのか、廊下を今にも倒れそうな足取りで移動する彼女にも、憎しみと嫌悪感をあらわにした視線を向けるだけ。
「ぅう……、はぁ…はぁ、はぁ……あっ!」
ガッ……ドタッ!
「おっとぉ、大丈夫かいシュターナぁ? ちゃんと足元を見て歩かないとダメじゃあないか、ぇえ?」
彼女が “ 盲目 ” である事を知っていながらの仕打ちである。クスクスと笑う使用人達の声があたりから聞こえてくる。いい気味だと愉快そうにのたまう者さえいる。
こうしたイジメも彼女にとっては日常茶飯事であった。それでも……
「も、もうしわけございません、私めの不注意で…」
彼女に反抗は許されない。デモニアというだけで。
一体何年もの間、こうしてきたかもわからない。光を失った日から、彼女には時間の概念もほとんど感じる事ができない。己に課せられる仕事で、朝と夜がわかる程度だ。
加えてこの重労働の日々である。自身の部屋などの逃げ場もないシュターナには、悲しみに暮れて涙を流す暇も、絶望に死を選ぶに至る時間もいままに、現在に至っていた。
「ハッハッハ、なるほど? ヴァーミルにお越しになられたのはそのような…」
「何かと言えぬ事の多い我々ですからな、当然でしょう? おたくは違うとでも?」
「いや、確かにその通りだウン。貴族の後ろ盾があるとはいえ、綱渡りには違いあるまい」
応接間にて談笑する二人の紳士は、互いに豪華な装飾品を身に纏っている。いずれも2つ3つで家が買えてしまうほどの高価な品ばかりで、彼らの財力の高さを物語っていた。
『し、失礼いたします。旦那様、お茶をお持ちいたしました』
かたく閉ざされている扉の向こうから声がすると、屋敷の主は口の端を笑ませる。
「きたか。さて、本日は少しばかり面白いもてなしをしましょう。今後もよしなにしていただきたいのでね……シュターナ、入ってきなさい」
扉がゆっくりと開き、カートを押して一人の少女が入室してくる。その格好はみすぼらしかったが、そんなものは珍しくもないと目もくれず、客の男性が真っ先に注目したのは、その頭の角であった。
「ほう、デモニアかね」
「シュターナ、という娘でね。人には言えないルートで買ったんだが」
「“人には言えない”? ハッハッハ、我らの世界は “人には言えない ”ものしかないではないか?」
そう言われて屋敷の主は一本とられたとばかりに笑った。だがひとしきり笑うと、スッと真面目な顔になり、シュターナを自分の手元まで呼び寄せた。
「まぁ、そういう事だな。それでどうかな? 人には言えないついでに、試してみるというのも良かれと思ってね。今夜は泊まって行かれるだろう?」
一瞬、不可解そうに眉をひそめた客は、すぐに言わんとしている事を察し、改めてシュターナの容貌を見回した。
最初は少女のような愛らしさを覚えたものの、よく見ると既に相応の年に成長しているのがわかる。ボロボロで薄手の服ゆえにボディーラインの良さはすぐに目についた。女性として素晴らしいモノを持っている事を理解した途端、彼の口元は緩み、邪悪な笑みを浮かべる。
「そうだな、断るのも悪い。ここは一つ、一晩世話になるとしようか」
「というわけだ、シュターナ。お部屋まで客人を案内しろ。くれぐれも粗相のないようにな」
「かしこまりました、旦那様」
マタ、クルシイ、ヨル ガ オトズレル………
明け方……客間のベッドの上、おおいイビキをかいている男の横で、シュターナはフラフラと立ち上がる。
床から摘み上げる、着付けに時間のかからないボロボロの服は、昨晩男に乱暴に扱われたせいでさらに痛んでいた。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…、うう…げほっ、ごほっ!!」
努めて声をひそめてはいるものの、咳き込むのを我慢できない。窓から差し込みはじめた日の出の光が苦しい。
しかしベッドを共にした女が苦しんでいては、客はいい気分で朝を迎えられないだろう。シュターナは懸命に呼吸を整え、窓を鏡がわりに笑顔を取り繕おうとする。
だが窓に映っているシュターナは、いつまで経っても笑顔を浮かべてはくれない。くたびれきったデモニアの姿のまま、昇っていく太陽の光が窓に映った自分の姿をかき消した時、頬を伝う涙が客間のカーペットを濡らした。
彼女、シュターナは偽名である。
デモニア戦争当時、まだ幼かった彼女は相当の身分であったのか、平和に暮らしていたかつての記憶には、豪華な城の内装しかない。
戦火の中、追われた先で捕まった時、一緒に逃げた人たちは抵抗してその場で殺された。憤り、勢い余って振るった敵兵の剣は、彼女から光を奪い、自由を奪う。
世界が暗闇に閉ざされると同時に、シュターナの地獄の日々がはじまった。
「シュターナ、なんだいこの部屋は!? 隅っこにこんなにもホコリがたまったままじゃないか、キッチリ掃除するんだよ、この役立たずが!!」
目が見えないというのに、コキ使われ、理不尽にも虐げられる。それでも彼女がまだ耐えられるのは、これでも “ まだマシ ” だからだ。
捕まってからの2~3年の間が一番辛かった。考えられる限りの拷問と見せしめ、陵辱の限りを受け続けた日々。
食事もなく、飢えと苦痛に苦しみ、何度も生死の境を彷徨った。それに比べれば、同じコキ使われ、虐げられるとはいっても今の方がまだ食事も出るし、扱いもひどくはあるが、やはり “ まだマシ ” なのだ。
「(………)」
しかも、以外と食事はいいものが振舞われた。最初はなぜこんなに食べさせてくれるのか理解に至らなかったが、旦那様に夜呼ばれる事に慣れ始めた頃にはその理由を理解する。栄養失調な女など楽しめない、という事だ。それは彼の目論見以上の結果を彼女のカラダにもたらした。
そして皮肉にも、世の同性が羨む成長はますますシュターナに日々の苦痛を強いる事となった。
こんな絶望しかない今ですらシュターナはまだ希望を失ってはいない。
「(王子さま……)」
それは、幼い頃から唯一変わらない憧憬。たかだか少女向け絵本の、ありきたりなストーリーのありきたりなヒーロー像――――白馬の王子様。
さすがに彼女も、本気で王子様というものを信じるほど幼くはない。だが、絶望の日々を生き抜く拠り所として、彼女は幼き日によく読み聞かせてもらった絵本を、その心の中にずっと抱いていた。
「(きっと、きっと……王子さまが助けてくれる。そう信じよう、信じよう……)」
その壊れそうな心と体を、かろうじてつなぎ止めるものは、決して現実ではありえないであろうと理解している儚い少女の夢。それを無理矢理にでも信じ、己に言い聞かせなければもう耐えられない。
閉じたまぶたをゆっくりと開く。もの見えぬ瞳に月の輝きが映り込んで光った。
やがて月が雲に隠れても瞳は輝き続けた。
それはシュターナすら知らぬ己が魔力の輝き。窓から虚空を見上げるシンデレラの、秘めたる力の片鱗。
両手を股の前で組み、行儀よく佇む窓辺のデモニアは、いまだ遠い未来を望む。望みが叶うとは思っていない。でも、もしも、万が一にも叶うならば、願わずにはいられない。
ヴァーミルの郊外、深い木々が屋敷を隠すように乱立している森が澄んだ空気を保っている自然豊かなその地で、終わりの見えない “ シュタリア姫 ” の奴隷の日々は、なおも続いてゆく……
「これが今度の依頼? ……場所はヴァーミル領内っぽいけど、こんな場所知らないわね?」
リリウムが怪しむのも無理はない。傭兵団として活動するに辺り、ヴァーミルはその地形から小さな村や町の位置まで、隅々まで知り尽くしたはずの国である。
彼にしても依頼に示された場所は、まるで聞いた事がなかった。
「ああ、だが敵さんの隠れ家らしい。元々は大昔の避暑地の別荘跡で、長いこと放置されてたって話だが、2年くらい前に買い手がついたんだが」
その頃とほぼ同時期に、公にはできないような取引が裏社会で激増しているのだ。かつてリゼットがさらわれかけた件も、同じような時期だったと思い返し、あれもまんざらこの件と無関係ではないのだろう。
「……ふーん、これでもかってくらいに怪しいワケね」
これまでも相手が拠点にしているとおぼしき場所の摘発は進めてきたヴァーミルだが、その多くが囮ばかりで、今回ようやく本命のシッポを掴んだという事らしい。
「これまでの経過を聞く限り、ヴァーミルのお偉いさんの中にも、そういう連中に加担してる奴がいたんだろうな」
それがレティシアとその直属の精鋭達がこの件の陣頭指揮を執る事になって以降、事は一気に解決に向けて加速したのだから、それまでの調査もあってないようなお粗末なものだったと容易に推測できる。
「とにかくだ、水面下で蠢くヤバイ取引をしてる連中を一網打尽にするって事で、あちこちの傭兵団に声がかかってるらしい。よほどデカイ相手なんだろうな」
「それで、ウチには気を利かせて敵の本陣に踏み込む役をまわしてくれたワケ? ……危ないんじゃないの?」
手柄をたてるチャンスではあるが、同時に一番危険な役回りとも言える。リリウムが危惧するのも当然だ。しかし―――
「それだけ俺達を高く評価してくれていると受け取るさ。それに他の傭兵団が参加する中でわざわざオイシイところを回してくれるっていうんだ、断るわけにもいかないだろ」
大所帯になり、多少の危険もかいくぐるに不足はない力も培った。ならばそれがどれほどのものであるかを試す意味でも、参加して損はないはずだ。
まだ納得しきっていないリリウムを振り切って、彼はこの依頼を受ける事にした。
―――Next.
燃え盛る屋敷…
「うぅっ、これから踏み込もうって時に、なんだっていきなり爆発なんかするのよ!?」
余波を受けて吹っ飛ばされたエレーナは、フードが取れないようしかと抑えながら立ち上がる。しかし、次の瞬間、彼女は目を見開いて燃え盛る小屋を見た。
「どうした、エレーナ! 大丈夫か?! ……なん、だ…アレは?」
「し、師匠!? 人、人ですよぅ!?? 火の中に人が立ってますっ」
金色に輝く瞳が、揺らめいて……
炎の中より、彼らを見る。
―――to be continued
いかがだったでしょうか?
普段は、"小説家になろう" や "カクヨム" にてオリジナルのweb小説を執筆しています。
よかったら、そちらもご一読いただき、感想やレビュー、ブックマークをいただけたらなー、なんて(露骨)
http://mypage.syosetu.com/735159/
ちなみにシュターナのイメージは、デモニア版の不幸のドン底にあるカイゼル、といった感じです。
なお本二次創作小説の原作であるブレイヴガールレイヴンズRは
http://bg-r.mimolette.co.jp/
からどうぞ。