原作には登場しませんのであしからず。
―――――ヴァーミル、とある貴族の邸宅。
チュンッ、チュンチュン……
穏やかでさわやかな日差しが差し込む寝室。天蓋つきの豪奢なベッドの上で、朝雀の囁きを聞いた隆起が、もぞもぞと動き始める。
やがて山はゆっくりとせり上がり、その身を覆い隠している掛け布団を落とす。まず表れたのはその者の頭頂部。深い青紫の髪を留める装飾品のごとく、頭頂部付近を抑えている角は長く、相応の年齢を思わせる形状をしていた。
次に姿をあらわしたのは、
そして豊かに過ぎる魔性の胸元が披露された。何も身につけてはいない乳房は大の男の頭ですらその谷間に埋没し、包み隠せてしまいそうなほど大きい。その先端は昨夜の余韻が残っているのか、いまだにツンと勃ちあがったままだった。
音もなく自らの太ももの上にファサリとめくれ落ちた掛け布団。二つ折りになってその裏地を窓からの朝日が照らす。淡い上品な刺繍、肌触りのよいシルクと、その布地に塗り込めるように仕込まれたうっすらと煌めく金粉。
ふと顔をあげて室内を見回せば、床には真紅の、縁に金糸が編み込まれたカーペットが。四方の壁の、下半分は黒檀の綺麗に磨かれたツヤやかな木板がしつらえられ、上半分は白亜に塗り固められており、美しいコントラストを形成している。
部屋を温めるための暖炉は、頑強そうな灰色の石で形成され、昨夜の燃え残りの炭があげる香りすら、このさわやかな朝を演出に一役買っている。
実用性ではなく、美しさを追求したであろう刀剣や盾が壁に飾り付けられ、部屋の出入り口たる扉の取っ手は純金だ。それらに角度かえてくる差し込む光が当たり、キラリと高貴な輝きをもって彼女にその存在感を主張した。
「………いつ見ても、豪華極まりないですこと」
この部屋で目覚めるたび、同胞に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。きっと今も明日の糧を得ることすらおぼつかずに苦しんでいるデモニアはたくさんいる事だろう。しかし彼女はこの豪華絢爛な邸宅で、比較的自由な生活を許されていた。
「―――……あなた様、起きてください。日が高くなりはじめましたので」
同衾する “ 夫 ” を起こす。かける声はおそろしく優しく、穏やかだった。
だがそれは、愛ゆえではない。憎しみゆえに声量をしぼり、別に起きなくてもいいつもりで声をかけたのだ。だが男は “ 狂愛 ” する妻の声をたとえ眠りの底にあったとしても聞き逃しはしない。パチリとまぶたを開き、隣で上半身を起こしていた妻に飛び掛るように抱きつく。
「んむぅ!! ……おたわむれはよしてください。あなた様がご登城にお遅れになってしまいます」
男を咎め、自分からひっぺがすのも妻として甘える夫の手綱を取る行為…ではない。ただ単に、必要以上に唇を奪われ、抱きつかれたくないだけだった。
「そうつれない事を言わないでほしいものだ、我が愛する妻よ。夫婦が愛を深め合うは当然ではないか? 目覚めに愛し合うは当然ッ」
そういって男は彼女をベッドへと押し込める。執拗に唇を奪いながら朝勃ちしたモノを彼女の中へと押し込み、めくれた掛け布団をかぶりなおすのも面倒だとばかりに、そのまま腰を叩きつけはじめた。
コン、コン……ガチャリ
「失礼いたします旦那様、奥様。お目覚めのお時間でござ――――」
メイドはそのまま凍りついた。なにせ仕えるべき主人と奥方様が、布団すらかぶらずにベッドの上で夫婦の営みに励んでいる現場に遭遇したのだからかける言葉もなく、どうしていいかわからずにその場で固まっている。
「はぁ、はぁ…ん、んっ、外で…待機していてくださいませんか? すぐに終わらせます…からっ」
「も、申し訳ございませぇん!!! し、失礼しましたっっ」
彼女から指示を受けて、ようやく凍った時間が動き出したメイドは、慌てて室外へと出て扉を閉めた。
昨晩で20はこなしたはずが、この元気の良さはいったいどこからくるのだろう? 彼女は半ばあきれ果てながら朝っぱらから夫の精力を受け止める。
結局、室外で待機するメイドはそれから1時間以上も待たされる事となった。
――――邸宅内、ダイニングルーム。
10人は席を共にする事ができるであろうテーブルには、彼女一人しか座っていない。その後ろには4人のメイドと1人の執事が立ったまま控えていた。
「奥方様。本日のデザートは巷で人気といわれておりますケーキを仕入れてまいりました。ジェイドで採れた瑞々しい果実をふんだんに使用しており、世の女性の皆様に大変好まれているという一品でございます」
執事の説明からすれば、いかに素晴らしい甘味であるかがわかる。だが目の前に置かれた様々な果実が彩っているはずのケーキは、彼女の目には灰色にしか映らない。
「そう……では、心していただかなくてはなりませんね」
豪華な食事の数々は確かに美味しい。しかしだからこそ彼女の心を締め付ける。このような生活に甘んじているこの身が腹ただしかった。
口に運んでみても、甘さを感じない。
その頃、邸宅の1階玄関前ロビーで、二人の使用人が雑談交じりに清掃に励んでいた。
「しかし、旦那様もなぜ “ デモニア ” なんかを娶られたのか」
「もともと旦那様は変わった女性趣味をお持ちの方だったらしいからな。なかなかご結婚なさずに “ 遊ばれて ” ばかりいたのも、ご自身の趣味に合う女がいなかったからだと聞いているが」
「じゃあ何か。あのデモニアの女が旦那様にとっちゃ、どストライクだったと?」
「というよりも、どストライクだった女が、たまたまデモニアだったって事だろうなぁ。詳しい
影で彼女の話をするのは、何も彼らだけではない。デモニア、というだけで使用人達の話題はもっぱらこの邸宅の主たる方の奥方である彼女に集中していた。
「! 口を閉じろ。その奥方様だ」
「! これはこれは、奥方様。食後の散歩でしょうか?」
メイド達を共だって表れた貴婦人。その立ち居振る舞いに嫌味ったらしいものはなく、むしろ男たちからすれば “ 奥方 ” と呼ばれる者を自らが娶るとすればこんな女性をと望まれるほどの美貌とたおやかな雰囲気を持っている。しかしそれでも、彼らは、僅かなりとも彼女に対する偏見を抱く。全てはその頭部の角が示す彼女の種族のせいだった。
「お勤めご苦労様です。ええ、少しばかり庭のほうを散策いたしたいと思いまして」
母性に溢れた体つきは垂涎ものだ。それでいて引き締まったウェストに子宝に恵まれそうなヒップと、おそらくはヴァーミルの貴族の妻として、彼女に勝る貴族夫人は国内にはけっして居はしないだろう。そんなどこに出しても恥ずかしくない女性である彼女だが、この邸宅より出られるのは一目につかない中庭までである。その理由はひとえに “ デモニア ” だからである。
男たちが彼女の二の腕に目を向ける。キチンと “ 腕輪 ” をつけているかを確認するためだ。
「そうですか。ではお気をつけて。くれぐれも “ 遠出 ” をなさらぬようお願いしますよ。我々が旦那様に叱られてしまいますから」
「……わかっています。ではごきげんよう……」
消え入りそうな返事。見送る使用人達の目には、貴族夫人として何不自由ない生活を約束されている彼女の背中が、籠の中の鳥と重なって見えた。
すべてが灰色だ。庭園の綺麗に整えられた草木が、芝生が、花々が……すべて色がない。何を見ても彼女の目に自然がおりなつ美しい景観は全て灰色にうつる。炎の紅と血の赤。この二色以外は、まるで色を忘れてしまったかのように
「………リヴェダ、…ワース、………」
涙がこぼれる。リラで慎ましやかに、幸せに暮らしていた頃のかつての夫と生まれたばかりの息子。ここに連れて来られたばかりの頃は “ あの男 ” に毎晩犯されようとも、懸命に真に愛していた夫と子の事を思い、耐えていた。なのに最近はもうその顔も姿も、思い出せなくなった。
思い出そうとして甦るのは二人が殺され、地に伏している姿だけ。燃え盛る新居が、血が広がっている夫と幼き息子の屍が――――
「ッ!!! ッハァ、ハァハァ……う、ぅ……」
今の夫は、あの男は最悪の男だ。デモニア戦争時、あの男は己の指揮下にある部下と共に彼女の村を攻め滅ぼした。その際、逃げ惑うデモニアの人々の中に彼女を見つけ、一目惚れしたという理由で彼女以外の全てを殺戮し、そして捕えて我が物とした。
焦土の中で殺された同じ村の人々と同じように、リラ全土でデモニアの同胞達は……家族は殺された。
なのに自分は……自分は……
「奥様? 大丈夫ですか、奥様? お疲れのご様子、部屋に戻りましょう、ささ……」
メイド達の仕事には監視も含まれている。彼女が逃げ出さないように。彼女が屋内に戻れば自分達が安堵できるというわけだ。
自分の事を知っている他の貴族からは、夫は狂ってると言われるほど自分を愛している。しかしそれは男女の純粋な愛ではない。己の性欲と支配欲のはけ口として、自分がふさわしいというだけだ。
「(うう……私は…)」
ただの愛欲のための奴隷だ。ただ飼い主が大事にするかどうかの差でしかなく、鎖でつながれているのとなんら変わらない。
乳房がうずく。目の前で我が子を失ったショックか、それとも喪失感を埋めるべく子を欲するカラダが催促するのか、もう何年と母乳が止まらない。
「(子は……欲しい。けど、あの人のじゃない)」
夫と子を殺した今の夫の子供など欲しくはない。でも子は欲しい……心も体も、求めてやまない愛する人との赤子。
だが、今の彼女にはその愛する人がいない。このままでは憎き男の子を孕んでしまうのも時間の問題だった。
―――――夜、寝室。
ベッドの上では、今日も今日とて連日連夜の激しい営みが行われている。夫は
母乳を撒き散らす彼女の片乳を吸いながら、その腰を叩きつけていた。
「…んぅっ! …はぁ、はぁっ、んぁっ、あっ!」
なるべくならば喘ぎたくなどない。が、強引ながら的確に性感帯を刺激するセックスが彼女の我慢を許さず、快楽に酔わせてしまう。
「ふぁああっ! …はーはー、んっあっ、ぅううッ」
ノドの奥が熱い。男が憎らしくて息が詰まる。幾度かの涙が流れても、男はそれを歓喜の涙ととらえる。心の苦痛から湧き出した涙は、何粒も滴ってシーツを濡らしたが、噴出す母乳のシミに消されていった。
「はぁ、はぁはぁっ、はぁ……はぁ、はぁ………、…今日は、ん…一段と…はぁ、はぁ…激しい…こと、で……」
なかばうんざりしながら搾り出すように言葉をつむぐ。かなり小さくはあったが、彼は妻の一言一句を聞き逃す男ではない。
「少しいい話があってな。お前の驚く顔を見たくて黙っていたが、つい興奮していたようだ」
そういいつつ、乳房から口を離さない。溺れるほど浴びるように母乳を飲み、消耗した精力を補充するかのようにゴクゴクとノドを呻らせる夫は、なんとも楽しそうだった。
「……私めが驚く…ですか」
はっきりいってロクな話ではないであろう予感しかしない。そしてその予感どおり、その話の内容はロクでもなかった。
「デモニアの女を買って欲しいという商人がいてな、お前の心の慰めになればと思い、買うことにした。どうだ、嬉しいだろう?」
それに答えることはできない。妻とはいえ、彼女は事実上の愛玩奴隷だ。この夫に逆らうような事はいえない。かといって、その問いに肯定などしたくもない。彼女にできる返答は沈黙しかなかった。
「取引の場には、ローゼット。お前も連れて行ってやろう。たまには小旅行と洒落込もうではないか」
夫はかなり上機嫌に語っている。もうここにきて何年になるかはわからないが、彼女―――ローゼットは、最初で最後のチャンスがきたと思った。
全裸のカラダに唯一身につけている二の腕の腕輪、埋め込まれている宝石がキラリと光る。これをなんとかするのが最大の難関だが、夫は完全に油断しているし、この機会に行動しなければ、おそらくはこの憎くてたまらない男の妻として、性欲の捌け口として生き続けなければならないだろう。
「(……どうすれば、どうすれば逃げられるの。このまま逃げてもすぐに捕まってしまうし、どうすれば…)」
この夜、夫がどんな激しい攻めをしようとも、彼女の思考は口でつむぎだしている喘ぎ声とは逆に、その時いかにして逃げ出すべきか? それだけを考え続けていた。
―――Next.
夫に連れられて道行く馬車の中、カーテンの隙間から覗く景色はどんどんと流れてゆく。
「………」
ローゼットは移動の最中、その隙間から見える外の景色を見続けていた。
「我が妻よ、あの屋敷が目的地だ。心配はいらん、このあたりはヴァーミルでもほとんど知る者はいないゆえ、安心して過ごすといい」
夫の声などまるで耳に通らない。
やがて少しずつ大きくなってくる屋敷。その側の森に視線を向けた時、ほんの一瞬……だが、まるで永遠ともいえるような長い一瞬に、ローゼットは目を見開いた。
「(………あ、あなた!?)」
いや、きっと違うだろう。だが一瞬だけ森の木々の間に見えた男性の横顔を見たとき、ローゼットは忘却の彼方にあった、かつての夫の顔を思い出していた。
―――to be continued
ローゼットは、貴族に見初められ、妻という形で囚われているデモニアです。
書いてから気づいたのは、外見的な雰囲気のイメージはアインスの影響を受けてるかも。
なお本二次創作小説の原作であるブレイヴガールレイヴンズRは
http://bg-r.mimolette.co.jp/
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