ゲームに出てくるキャラは、団長とリリウムだけ。
まぁ、オリジナル話だから仕方ないよね?
――――傭兵団詰め所前の道。
「はーい、新鮮な果物はいかがっすかー? 新鮮だよー、チョー美味しいよー」
まだ朝食が済んだかどうかという頃合、やけに大きな声を張り上げている少女がいた。
コンパクトにまとめられた車輪付きの店台には、様々な果物が所狭しと並べられている。数は少ないが種類は豊富だ。
「……ねぇ、ちょっとアンタ」
「やー、いらっしゃいおねーさん。何にしますー? リンゴ? それともブドウいっちゃうー?」
明らかすぎる営業スマイルで、店台の上の果物を順番に摘み上げて進めてくる少女に、リリウムは軽く頭をかいた。
「私は客じゃないわよ。っていうか、なんでウチの前でこんな事してるわけ? 行商ならもっと町中に行きなさいよ、広場とか」
「アッハハ、わかってませんね、おねーさん。食後のこの時間だからこそ! 果物が売れるんじゃあないですかー。そ・れ・に!」
少女が人差し指を立てながらずいっと顔を寄せてきて、リリウムは思わず上半身をのけぞらせた。
「そ、それに何よ?」
「広場で大勢のお客を呼ぶ、すごくいい案です。がッ!! こんな朝早くから広場で大声だしたら、町の人に迷惑かかるじゃあないですか、違います?」
「あのねぇ~、だったらウチには迷惑かけてもいいっていうの!?」
眉をひそめて、憤りをあらわにするリリウムだが、少女は臆することなく言い放った。
「もちろんですよぅ♪」
「んなっ! なんでよ!!?」
「だって、ホラ!」
ピッと細い指でさし示す方向を見ると、そこは煙突。軽く煙が上がっている。
「加えて~の~ぉ~、ほーらほらッ」
ピピピッと周囲をさしてゆく少女。何が言いたいのかなんとなくわかったリリウムは、得心したと笑顔を浮かべた。
「なるほどね~、周囲は人家が少なくてぇ、ウチはあきらかに誰かいる、ってわけね~」
「そーゆー事です。とゆーわけで改めておねーさん、何にします~?」
ほんの1、2秒の間、お互いにニコニコと笑顔を向け合う。
しかし片方の表情はすぐさま一変した。
「なわけあるか~! ……あーもー、とにかくシッシッ!! 商売なら他所でやんなさい。ウチの前でうるさくしないの!!」
「えー、でもでも~。せっかく新鮮なのを仕入れてきたのにぃ~」
「新鮮だろーが、腐ってよーが、いらないわよ! 間に合ってるからとっととどっか行きなさいっての!」
一見言い争っているように見える二人だが、ヒートアップしているのはリリウムだけだ。少女はコロコロとポーズを変えながら、むしろリリウムで遊んでいるように見える。
「(やれやれ、騒がしいから何事かと思えば……)」
「モーラン、それくらいで勘弁してくれ。ウチの団員で遊ぶな」
掛けた言葉にギョッとしたのはリリウムだ。モーランは声をかけてくるのがわかっていたかのように平然として作り笑いを浮かべたままこちらに顔を向けた。
「団長。この娘の事、知ってるの?」
「知ってるというか…知ってる……、うーん…」
「えー、そこで考え込むなんてひどくなーい? 団長と私の仲じゃない、んも~」
ちょっと秘めた関係を匂わせるモーランの一言に、リリウムの毛が一瞬逆立った。
「へ~ぇ? この女とどーゆー関係なのかしらね~団長、詳しく聞かせてくれない?」
「落ち着けっての。はぁ、どーもこーも、こーゆ奴だぞ? 関係も何もないって。つっても、俺も会った事があるのはまだ2、3回ってとこだけどな」
さすがにこれ以上はしつこいと思ったのか、モーランはリリウムと団長のやり取りを見ながら、自分の店台の横まで身を引く。
すると作り笑顔をやめ、自然な微笑を浮かべて自分のスカートの裾をつまみ、貴族っぽい礼をしてみせた。
「ムルナーシア=ヴァダークス。モーランって気軽に呼んでねー、リリウムちゃん♪」
やる事なすこと全てが相手をからかっているような、なんとも真剣味に欠ける彼女の態度に、ちゃん付けで呼ばれたリリウムはもういいとつぶやき、どっと疲れたとばかりに両肩を落とした。
彼女の本当の目的は理解している。これ以上面倒な事にならないうちに、やる事やってしまわねば。
「……モーラン、新鮮な “ モモ ” は入荷しているか?」
そう言いながら店台に近づき、果物を物色する仕草をする俺に、てっきりこの少女について教えてもらえるものと思っていたリリウムはなんだか裏切られた気分ながら、団長に倣って横に並んでくる。
「ちょっ、団長。何? 桃が食べたいの??」
「はーい、新鮮な “ モモ ” ですねー? もちろん “ 入荷 ” してますよー」
だが見渡す限り、果物の中には桃など1個もない。怪訝そうなリリウムの視線をスルーして、俺は話を進めた。
「とりあえず支払いは、“ いつも通り ” で頼む」
「えー、またぁ? やんやんやーん、モーラン、“ ツケ ” じゃない方がいーなぁ~……チラッ」
そう言って流し目を送ってくるモーラン。完璧に誘っているし、隣にいるリリウムも、彼女の俺を見る視線に男をかどわかそうとする意志が宿っているのを察知してムッとしている。
だが俺はそれもスルーしてとにかく話を先に進めた。
「 “ いつも通り ” だ。モノは?」
「ちぇ~。もー団長ってばぁ、つれないんだから~。はい、どーぞ。次こそはぁ、お願いね? チュッ♪」
投げキッスつきで果物の入った袋を渡してくるモーラン。
「(少なくとも他の団員がいる時にそういう真似はしないでくれ……)」
睨むリリウムを努めて無視しながら、俺は袋を受け取った。
「じゃ、今後ともごひーきにぃ~。じゃーね~♪」
ドヒュンッ!!
「え? ちょっ、……うっそ、何アレ…早ッ……。って、ちょっと私コレ持ったまま!!」
リリウムは、物色しようと何気なく手に持ったままのリンゴに気づき、慌てふためく。
モーランは既に目の前から消えうせていた。文字通り目にも止まらぬ速さで、俺たちの前から店台ごと走り去っていたのだ。
「相変わらずだなアイツは。いいから貰っとけよ、オマケって事だろう。フザけた奴だけど商売事に関しては手抜かりはないからな。お前がリンゴ持ったままなのも忘れてるわけじゃないはずだよ」
「………はぁ。っていうか一体なんだったのアレ? それに…桃って言ってた割に桃が入ってないじゃない。別の果物ばっか――― これって…紙?」
しかし俺はリリウムが袋の中から紙を取り上げる前に袋を閉じ、詰め所へと歩を進めだす。
「え、ちょっと、何? 何なのよ一体??」
「珍しく鈍いな。それともアイツとのやり取りで調子を狂わされちまったか?」
そこまでいって、ようやくハッとするリリウム。
「……あのコ、普通の果物売りじゃないのね」
「ま、そういう事だ。…声は潜めてくれよ? そうだ、アイツの応対は今度からお前に頼むのもいいな」
「何、なんで私が??」
「モーランの事は、ウチでも他に知っている奴はエレーナくらいしかいないからな。お前にも教えてなかったのは忘れてたわけじゃなく、下手に教えるのはよくないんでな。こういう機会でもなけりゃ、教える気はなかったよ」
モーラン。本名はムルナーシア=ヴァダークス。
行商の
ロサをしてもその素性はよく知らないという。だが、もたらされる情報の信憑性は各国の王族が持つ情報網の上を行くというとんでもない情報屋だ。
しかし神出鬼没で出会う事すら運が必要であり、然るべき界隈では、むしろ出会えただけでも奇跡とさえ言われているという。
そして彼女を知る者は彼女の事を、桃売りと称する。それは彼女から情報を買う際のやり取りに由来している。
「……なるほどね。桃を扱っていないのに桃売り、それが情報を買うための合言葉のヒント。さっきアンタが桃を注文したのに、袋に桃が入ってないワケだわ」
「ま、“
しかし、リリウムはいまだ解せないという面持ちだ。
「でも、あのスピードは異常じゃない? ウチの団員にアレに追いつけるのなんていないでしょ。それに、なんであんな急いでどっか行っちゃったのよ?」
疑問はもっともだろう。俺も初めて出会った時は驚きと不可解さで頭がいっぱいになったものだ。
「正確な理由は知らないが、一つはたぶん……彼女がデモニアだから、だろうな」
モーランと初めて出会った時はロサに連れられての事だったが、その時は彼女がデモニアである事に気づかなかった。毛量の多いツインテールが角を覆い隠し、大きなリボンが生え際を隠していたからだ。
「!! ……つまり、万が一にもバレたら困るから、取引が終わったらとっとと退散する、ってわけ?」
「ああ、デモニアってだけでいろいろマズイのは今の世の、もはや常識みたいなもんだしな。それに本人的にもその辺りの事でイロイロあったみたいだ」
「? イロイロ…ってか、アンタはどーやって彼女がデモニアだってこと知ったのよ? まだ数えるほどしか会った事ないんでしょ?」
やはり来たかと思いながら、俺はつとめて平静を装う努力をする。
彼女がデモニアだと気づいたのは彼女と2回目にあった時。ロサがいなくなり、この傭兵団を率いていきはじめた、まだ台所事情の苦しかった頃の事だ。
彼女の情報に対する対価の支払い方法には2通りある。
一つは “ ツケ ”。これは貨幣で所定の場所に指定された袋に入れて支払う、後払い式の勘定方法だ。基本、9割近くの彼女の顧客はこの方法しか支払い方法を知らない。
そして顧客の1割程度しか知らない、もう一つの支払い方法が “ 種買い ” である。果物売りにかけているのだろうが、早い話がモーランとの
バカ高い情報料を支払わずに済む上に、彼女と一夜を過ごせるのだから、野郎にとっては夢のような話だ。しかし現実はそんな甘くはない。
「(……思い出しただけで袋が
一見すると愛らしい少女のようで、上半身の凹凸はほどほどだが、彼女はとにかく下半身が凄い。超美脚に加えての安産型大尻に、鍛えているはずの傭兵団ですらかなわないであろう健脚からくるアソコの締まりの良さ。ところが彼女の場合、そもそもがアソコの具合が天性の名器だというのだから恐ろしい。
性欲にかどわかされて “ 種買い ” を選んだ顧客は、もれなく次からは必ず “ ツケ ” を選ぶようになる。それはひとえに不能になりかねないほど吸い取られてしまう、楽園に潜む恐怖を経験させられるが故である。
「(あの時はどっちかで言えば金がなかったから仕方なくだった。……情報は役には立ったが…うん、やはり金をキチンと払わないとな)」
あの一夜で、随分と彼女の事を聞かされた。
デモニア戦争時、見習い兵だったこと。臆病な性格で、訓練は積んでいても怖くてまともに戦えなかった事。
自分が参戦していた戦場が敗戦し、仲間とはぐれて逃げ回っていた事。戦後の混乱を避け続け、デモニア全体で敗北し、国が失われ、帰る場所がなくなった事。
デモニア狩りを避け、食べていくために裏社会でカラダを売った事、そしてその際に自分のアソコが、常人より優れていると知った事。デモニアという致命的なデメリットを打ち消すほどのコネクションを築き上げた事……
曰く俺の事を気に入ったからつい話してしまったと言っていたが…
「(笑顔のまま涙をボロボロこぼす。………そのコネクションとやらを作るのに、どんだけの目にあったんだか知らないが)」
少なくとも、その成果は上げられたわけだ。彼女の情報は本当に頼りになる。これで俺を過剰に好いてくれていなかったなら、ちょうどよかったのだが。
「まぁ偶然だ。2回目だか3回目だかの時にたまたま風が吹いて角が露出してな。その時はもうエレーナの事を知った後だったってのも幸いして、動揺せずに済んだのも大きかったが」
まさかベッドで語りあって知った、など言えるはずもない。言い訳にエレーナの話を引用したのは我ながら上手いと思う。リリウムもフーンとそれ以上特に深くは聞いてこなかった。
「さて、問題はこいつだな」
「そういえば結局、何の情報なのよソレ?」
俺は問題の本命である紙を開いた。小さめの文字がビッシリと書かれている。
「―――ヴァーミルで、近々、複数の、傭兵に、対する、大規模な、依頼が、行われる。裏には、国の貴族、富豪、有力者、などが、関わって、いる……」
単語ごとに簡単な暗号化がなされた文字。解読した文章に、俺は首をかしげた。
「何それ、要領得ないわね。依頼の内容とか書いてないの?」
「ない、これだけだ。……だが、ヴァーミルで、という事ならレティシアに聞けば何かわかるかもな」
―――――その頃、街道から少しそれた丘の上。
彼女は角が見えてしまわないよう、靡く髪の毛を抑える。少し強めの風がスカートをめくりあげようとも、頭から手を離すわけにはいかない。
「……私じゃこれ以上の事はできないけど、きっと団長なら救い出してくれるはず。敵前逃亡の罪滅ぼしにはならないけれど……どうか、どうかあと少し耐えてください姫様……」
もぎたての果物、茎についた一枚の葉が突風に千切られ飛んでゆく。
かつての臆病兵士は、敗戦が自分のせいではないとはいえ、戦いに背を向けた罪悪感と、滅びた故国への想いを馳せる。
高貴なお方が今、酷い目にあっている事を知って、彼女なりになんとか助ける算段を講じた。
できる事はもうない。いや、本当にもうないのだろうか? 自問自答しながら、過去と現在に葛藤しながら、少女は今日も笑顔で桃を売る。
―――Next.
「じゃ、よろしくお願いねッ、おじさま♪」
モーランは、えへっと愛想を振りまく。またがっている男は今日の顧客だ。
念のため、手を回す。
そのためだけに彼女は初めて情報屋としての対価ではなく、取引の手段として股を開く。
この国でも上から数えた方が早いであろう貴人。
「任せておきなさい。ヴァーミルも内情はなかなか複雑なのでね……そういう者達をあえて容認するのも面白そうだ」
言葉は信用できない。モーランは笑顔を浮かべ、貴人も笑みを浮かべて、股のつながりから互いの信を探り合う……。
―――to be continued
モーランの性格は、イメージとしてはキルラキルの針目縫かな。
ただ、あそこまで性格破綻者ってワケではないですが。
「リラの花束」は、あくまでもデモニアキャラのお話です。
シュターナが隷属者、レスティアが落ちぶれ者、ローゼットは囚われ者、そしてモーランは立て直せた者。
身分が低かった人ほどまだマシな生活ができています。
ということはシュターナは……(おっと、誰か来た様だ)
なお本二次創作小説の原作であるブレイヴガールレイヴンズRは
http://bg-r.mimolette.co.jp/
からどうぞ。