―――ジェイドとの国境近郊。
周囲の自然が豊かになりはじめる中、彼女らは草を踏みしめ、小鳥のさえずりを聞きながら黙々と歩いていた。
「悪いわね、私の個人的なことにつき合わせて」
不意にエレーナが口を開く。マリエルは何を今更と軽く俯いて一呼吸置く。
「別に構わないわ。貰うものは貰う訳だし」
マリエルは口数少なく返したが、内心では同族のエレーナに頼られた事をうれしく思っていた。
しかし同時に不安もあった。一応は彼女の護衛という事でついてきたわけだが、マリエルが得意とするのは暗殺などの1対1の戦闘だ。山賊など、徒党を組んだ相手に遭遇したとき、はたして上手くつとめを果たせだろうか、と。
「……たいして役には立たないと思うけど」
ボソリとつぶやく自信のなさは、自分へのハッパの意味もある。実力のほどを過信しなければ、自分の最大限を必要な時に発揮できるし、それ以上を望まない。
「そんな事言わないの。それよりもうすぐ目的地よ、何もないとは思うけれど、一応は警戒しておいてちょうだい」
つぶやきが聞こえたのか、不意にエレーナから軽いデコピンをくらって、面食らうマリエル。ぶっきらぼうな彼女でも、こういうやり取りの温かみや、仲間がいる事のよろこびは心地よく感じる。
「……わかったわ」
でも、それが怖い。静かで、暗く、冷たい世界……唯一の温かさたる血に触れる生か死かの2極しかない暗殺の世界に我が身を置いていたほうが落ち着く。いや、落ち着こうとしていられる。
いかに同族でも、自身の身の置き方、そしてエレーナとの適切な距離感が掴めないままに、マリエルは彼女の後を歩いていた。
―――とある森林のはるか深く、開けた平地。
「ふう、やっと到着したわね。ここで間違いないはずだわ」
額を拭い、森の木々を抜けて広陵とした広場へと出る。エレーナに続いて、マリエルも手にした獲物を空振って、付着した魔物の血を落としながら森を抜けた。
見渡す限り広がる平原。
しかし生える草花は一律ではなく、人工ではない自然の粗さを感じるような草原だ。その中にあって、あちこちに古い戦闘跡が残り、その部分を中心に植物がなくなり荒地となっている茶色い箇所が、草原の緑をまだらに侵食している。跡のつき方からして、森に住まう魔物か動物同士の争ったものだろう。
「こういう仕事なら私より、団長達に頼んだ方がよかったんじゃない?」
マリエルの言い草に少しムッとしたエレーナは、今度はチョップで額を叩く。
「今回は完全な私事だから、団長達に助力を求めるのは筋違いだし、それにマリエルとはもっと話したかったのよ、前々から」
「話…? 私は別にないけど」
「(本当にこの娘はまったく……)」
エレーナは呆れつつ、草原へと足を踏み入れていく。マリエルもそれに続いた。
見ると歩くではまるで違う。草原の植物は軽くブーツを隠して膝下まで伸びてうっそうとしていた。歩くたびに草の花粉やら葉の切れ端やらが飛び散り、ブーツの中に入ってくる。マリエルは少し顔をしかめながら歩いた。
「あの少し丘になってるところが目的の群生地よ。もう少しだから―――」
「ッ!!」
マリエルがエレーナの身をのけてとっさに前に出る。そして走りだすと同時に拾っていた石を草むらに投げつけた。
「いって!! …ちぃ、バレてやがる!!」
「ッ……。あらあら、先客がいたなんてね、こりゃ厄介だわ」
地面が丘に向かって登り始める辺り、特に草が生い茂っているその中から立ち上がったのは、見るからに粗暴そうな男だった。
しかも一人ではない。
「……私が前に出る。隙を見て森に下がって」
「……わかったわ」
もし、これが団長達であったら、そんな事できるか、なんて甘っちょろい事を言うのだろう。だが彼女達はデモニアである。
はるかに辛い境遇を生き抜いてきた彼女達は、交わす言葉は少なくとも、この状況で各々が取るべき行動は重々理解している。
草原のあちこちで立ち上がる男達、包囲はされていないが、数はざっと10人から15人はいるだろうか? 加えて距離が近すぎる。魔法による戦闘が中心のエレーナでは、この間合いでは一人二人を倒している間に回りこまれてしまうだろう。
「ッフ!」
マリエルが一足飛びに一番近い男に飛び掛った。波打った短剣の刃が男の胸をかすめ、ボロい薄布の衣服を裂く―――浅い。
「チッ、油断はできねぇな。お前ら何やってる! 早く囲め!!」
しかし生い茂った草が彼らの動きを邪魔している。エレーナはここまでくるのに踏みしめた自分達の移動の跡を遡るように後退していく。
マリエルも男に数撃を振るってから後方に飛びのいた。彼女が警戒しているのはゾーンバランスだ。エレーナと離れすぎると自分が孤立するし、近づきすぎると敵はエレーナごと囲ってくる。円で囲いきろうとする相手に、長く間延びする縦の楕円を意識した距離感。足場の悪さもあって、敵の行動は思うようにいかない。
カッ、コッ!! …ゴスッ!!
「ぐはっ! く…足で石つぶてを…このアマッ」
地面の石を蹴り上げ、エレーナの前を押さえようと動く敵をけん制する。まず自分達二人を囲む……その考えがある限り、男達におくれは取らない。そう考えていたマリエル、だが―――
ガシッ!
「!! もう一人いたの…」
順調に後退していたマリエルの足首を掴んでいる野太い腕。草むらに隠れながら近づいてきたのか、はたまたはじめからそこに潜んでいたのかはわからない。
しかし彼女は慌てることなく短剣を逆手に握り、腰を落として男の腕に突き刺す。
ズグシュウ!!
「ギャァアアッ!!! こ、こいつ…ッ」
「この女……プロか! おい、作戦変更だ、まずこの女からだ!!」
その瞬間、エレーナは一気に走りだし、森の木々の中へと飛び込む。男達はチッと舌うちを鳴らすが、すぐに頭を切り替え、マリエルを取り囲んだ。
「ふぅ…。得意じゃない、なんて言っていられないわね……。フン、来るなら早く来てちょうだい」
男達の目は完全にマリエルに集中した。もともときわどい装備に身を包んでいる彼女である。囲んだ事で優勢を確信する男達は下卑た笑いを漏らした。そして一拍の沈黙の後、彼らはマリエルへと一斉に襲い掛かった。
――――それから3時間。
「ぐうっ、んぁあああッ!!」
最初にマリエルの叫びが丘の上から聞こえてから、かれこれ2時間ほどになる。時折聞こえる、普段の彼女からは聞いた事のない苦痛の叫びが、これで3度目だ。
「(ごめん、もう少し耐えてちょうだい…)」
エレーナは森の中を走っていた。マリエルが連中に捕らわれてから最初の10分ほどは、代表格らしき男が森に逃げ込んだエレーナに向かって、出て来いだの、仲間がどうなってもいいのかだのと叫び散らしていた。しかし彼女が無視し続け、なんら動きも気配も見られない事から、彼らはエレーナが仲間を見捨てて逃げたのだと思ったらしい。
そこからは男達の狂宴である。丘の上で彼女を
「ぅ…はぁ、はぁ…ぐ、ぅう……」
「おいおい、あんまり傷つけるんじゃあねぇよ。決めたろ? コイツも売り物にすするってよ」
「けどさ、それを決めるのはお頭だろ? それにこの女、普通に犯しててもまるで無反応でさー、つまんねぇんだよ。乳をこれでもかってくらい握り搾ろうが、中にぶちまけようが、ケツ穴にションベンぶちこもうがさー」
綺麗な肌は血飛沫に汚れ、股間の辺りは多量のザーメンと尿で穢れきっている。しかし男達は自分らも汚れるのも構わずにマリエルを犯していた。
「こうして、突き刺した時だけ、いい声で鳴くんだからな。しかもその瞬間の締まりがめちゃくちゃいいんだぜ?」
サグシュッ!!
「っ、ぐ…ぁあっ、あ…、はぁはぁ、ぜぇ…ぜぇ…」
「くううう、きたきた。俺のイチモツにしゃぶりついてきやがったぜっ、ヒャハハハハッ!!」
ドグッドブブッ!! ゴポッ
もう幾度目かもわからない、汚らわしい男の精液。それでもマリエルは、怒りをあらわにするでもなく、ただ荒くなった呼吸を整えようと、しきりに胸を上下させるのみ。
「ちっ、反応はいたぶった時だけ。つまんねぇな…おら、少しは怯えてみせろよ!!」
短剣の切っ先が、彼女の乳房の下からもぐりこみ、乳肉の下でその付け根をチクリと突いた。
鋭い痛み。しかしだからどうしたと、マリエルは無表情のまま、男を見る事すらない。
「コイツッ!!」
「よせ。これ以上はマジで売り物になんなくなっちまう。今頃お頭は例のデモニアの件で
「しかしラッキーだよなぁ。こんな短期間でデモニアの女を2匹も味わえるなんざ、なかなかないぜ?」
「(……“2匹”? エレーナが捕まったワケではないようだし、それに “ 例のデモニア ” って……)」
出血で意識がフワつきはじめるマリエルだが、聞き捨てならない話に耳を傾ける。
「ああ、かなり高値で取引できそうだって頭も言ってたからな。大金も入ってウハウハってわけだ、ハッハッハ」
それからもマリエルの陵辱は続き、日が傾いて空の色が変わりはじめた頃、ようやく男達の性欲は尽きたらしい。
「はー、ヤったヤった。もう一発も出ねぇわ」
「へ、あの女は順繰りでお行儀よくヤっていったからなぁ、結局ヤりきれなかった不完全燃焼な奴もいたし、ちょうどよかったんじゃねーか?」
完全に油断している。マリエルにいまだ突っ込んで余韻に浸っている一名を除き、男達は丘のあちこちで四肢を放り出して寝転がっていた。
「この時を待っていたのよ。おつかれさま」
「!!」「何っ、てめぇは」「逃げたんじゃなか―――」
シュ…ビィィンッッッ!!!
光の縄のようなものが森の木々から伸びて、一瞬で男達を捕縛する。
そしてエレーナがなにやら唱えながら男の一人に近づき、その頭部を軽くポンッと叩くと、男は全身の穴という穴から血を噴いて……そして、絶命した。
「な…。てめぇ、何しやがった!!?」
「見たままだけど? 心配はいらないわ、一瞬だから痛みなんて感じないわよ」
いつもと変わらない態度と口調ではあるものの、ハッキリとした憤りが感じられる。男たちに対して、そして仲間を助けられずにいた自分自身に対して。
「もっといろいろと用意があったなら、“ 今のままでも ” あなた達をどうにかするくらい、ワケなかったんだけどね。知ってる場所だからって甘くみてたわ」
そう言いながら、次はおでこを指ではじくだけ。すると二人目の男も絶命する。魔法の束縛は外れない。エレーナのゆっくりとした歩みは彼らには対処不能であるという自信と余裕のあらわれだ。
三人目、四人目、五人目……仲間が一人死ぬたびに、残った者の顔は恐怖に歪んでゆく。
「ま、待て!! まってくれ!! な、なんでもする、だから命だけはっ!!」
恐怖に耐えかねた者が命乞いをするが、エレーナは許さないという意志を込めた笑顔を向けるのみ。
六人目、七人目、八人目……魔法とはここまで凄いものなのか。こうも簡単に優劣を覆されるものなのか。容易く命を奪われるものなのか……
醜い屍が増えゆき、もはや死を待つばかりの中、思わぬところから救いの手があらわれる。
「…ま…待って。はぁ、はぁ…、そいつらに…聞きたい事が…、あるわ……」
「!! な、なんだ、なんでも言う、なんでも話す!! だから、だから助けてくれぇ!!」
マリエルの搾り出すような声にすがりつくようにエレーナに懇願する男。かるく目を見開いたかと思うと、エレーナは男達をそのままにし、マリエルの側へと寄った。
軽く応急的な治癒を施すとその身を抱え起こし、共に男の元へ歩み寄る。
「……話してちょうだい。あなた達が、私以外に売り飛ばそうとしているっていうもう一人のデモニアの女の事」
「? どういう事かしら、それ。私も興味あるわね」
エレーナも話に興味を見せたことで、生き残った男達に希望の光が差した。
そこからはもう、彼らの知る限りの情報の提供会であった。
――彼らは盗賊団である事。
――ここにはエレーナ同様、裏社会にしか流通していない貴重な植物の花を取りに来た事。それが盗み以外の、自分達の稼ぎの一つである事。
――先日、ひょんな事からデモニアの女性を得て、それを彼らのお頭が然るべき相手に売りつけようとしている事。そのデモニアの女性は、レスティアという名である事。
――自分達は詳しくは知らないが、どうもその取引相手はヴァーミルのお偉いさんらしいという事。
―――――そして1時間後、森の道すがら。
「……私が言うのもなんだけれど、なぜ “ 全員 ” 殺したの?」
「私達がデモニアだって事、知られてるからよ。あいつらは私達を捕まえて売り買いするような連中と通じてる、ってなると、生きていられると後々そういう奴が手を伸ばしてくる可能性が高いわよね。残酷かもしれないけどこの口封じは必要ってワケ」
別に人殺しを咎める気はない。そもそもがエレーナにおんぶされている今の状況の気恥ずかしさを紛らわせるために話をふってみただけだ。
「そう。なら、連中から聞いた話、帰ったら団長に相談しておくべきね。同じデモニアだから、って事でもないのだけれど、確か団長、ヴァーミルのお偉い方にも知り合いがいたはず」
「レティシア様ね、第二皇女の。さすがにあの方がそういう事に関わってるってのは考えにくいし……、むしろこの話は喜んで聞き入れる可能性もあるかもしれないわね」
しかし何よりもまずは無事に帰る事だ。マリエルは戦えない。エレーナも彼女を背負っている以上、使える魔法は限られてくる。
この魔物の多い森を抜けるのは骨が折れそうだと目先の問題を前に、エレーナはため息をついた。
―――Next.
「なるほど、デモニアを売買する商人と貴族、か……貴族が後ろ盾となり、連中を隠しているとなれば、今まで尻尾を捕える事ができなかったのも頷ける話だな」
傭兵団の詰め所で、レティシアとエレーナを交えての会話は、カーテンを閉め切り、窓の外も、部屋の壁の内外にも信頼できる口の堅い団員を配置し、厳戒態勢で行われた。
情報から、レティシア達が動いたとしても、そこにエレーナやマリエルら、デモニアの協力があったことを外部に知られるわけにはいかない。
ヴァーミルにおいて一つの情勢が密かに動きはじめる。
―――to be continued
マリエルは記憶にない方もいるかもですが、
一般のデモニアキャラですね。シルバガチャとか回してたらすぐにお目にかかれるはず。
かなりきわどい格好の暗殺者です。
結構好きなキャラですが、寝室性能がないのが残念無念…
なお本二次創作小説の原作であるブレイヴガールレイヴンズRは
http://bg-r.mimolette.co.jp/
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