――――ヴァーミル領内、とある街外れの古屋敷
「っ、ここも逃げられてしまっていたか」
レティシアは
外見こそ古ぼけた小さな屋敷ではあるものの、中に入ってみればホコリ一つ落ちていない、完璧に手入れされている――誰かが住んでいた――形跡が見て取れた。
ロビーに敷かれているカーペットも真新しく、シャンデリアにいたってはつい最近取り付けられたばかりのような、一切のくすみのない新品の美しさをたたえている。
「レティシア様ー、あっちの部屋も誰もいませんでした。もちろん隠し部屋とかも探してみましたけど」
エミリーが、派手に暴れられなくて残念といった様子で報告に来る。レティシアはそうかと短く返した。
「エミリー。念のためだ、兵を20ほど預ける故、周辺の捜索と屋敷のさらならる調査を頼む。私は一度城に戻る」
「はぁ~い、お任せくださいレティシアさま」
エミリーも短く了承の言葉を結んだ。あきらかに苛立っている王女の胸中を
「(掴みかけたと思っても、煙のように消えうせてしまう……忌々しい!)」
――――ヴァーミル、とある小城の玉座の間。
「ンン…はぁはぁ、ぁあ、ライゼックさまぁ……」
玉座に座り、下半身を露出させている男の前で床に座り込み、その股間部に顔を埋めているメイドは、甘えるような声色で男の名を呼び、視線を上げた。
「ご褒美が欲しければ、まず話すべき事を全て話せ……それで?」
「は、はい…。ンン…ペチャ、ペチャ……レティシアさまは…ん…ぁ…はぁはぁ…、今度は……ンン…子爵さまの元邸宅に…レロォ~……明後日に、踏み込むと…」
メイドは彼の―――ライゼックの側仕えではない。ヴァーミルの第二皇女、レティシアのメイドだった。普通、貴族といえども王族に仕える者を侍らせるなど、許される行為ではない。だがレティシアの豪胆にして現場主義な優れた行動力が裏目となって、ライゼックにそれを可能にさせる隙を与えていた。
この城もレティシアが所有する内の一つだ。しかしヴァーミルの裏社会に巣くう非合法取引を行う集団を追っているレティシアは、一つの城に留まるほぼ事がない。
貴族である彼はその動きを調べ、彼女や彼女の直属部隊が滞在していない手薄な城に狙いを定め、そこの保守を担って常駐していたメイドをかどわかし、自身の手駒へと変えていた。
「よしよし、いい娘だ。褒美をやるから、どうするかは…わかっているな?」
メイドの顔がパァっと明るくなり、そして顔を赤らめた。嬉々として自らのスカートの中に手をいれて下着をおろすと、そのまま玉座に腰掛けたままのライゼックに、対面する形で座ると悶えて、喘ぎ声をあげだした。
彼は行為を完全に相手に任せ、玉座から段差を降りたところで羨ましそうに眺めている他のメイド達を見回す。
「(クックック……この城のメイドは完璧に私に心酔させた。そろそろ攻めに出るとするか)」
――――数日後、同城内執務室。
「……ふぅ、またしても収穫はなし、か。掴んだかと思えばまた煙のように消えうせるとはな」
自分達の動きを把握されている事を、レティシアも知らないわけではない。しかし、あまりに思い当たる相手が多すぎる事と、それらの者に自分達の情報を流す者を完全に炙り出しきれていないのが痛い。
「(私の直属にはそのような疑いは……かけるとしても、最後の最後だな。兵士のセンで調べさせてはいるが、そちらはまだ時間はかかるな)」
まったく目星がついていないわけではないが、調べを進めるのも一苦労だ。何せレティシアは皇女たる身分である。普段より接する人間の数はそこらの一般人の比ではない。そこから常時、または定期的に会話を交わす者達に絞ったとて、対象は数百にのぼる。
「レティシア様。よろしいでしょうか?」
目の前で控えていたフェリシテが、軽く片手を挙げながら発言の許可を求めた。
「ふむ、何か考えがあるようだが…申してみよ」
「はっ。現在、他に目ぼしい場所は残り数箇所です。この数ならば、我々が手分けして同時に当たる事も出来ると思うのですが」
「現状ではそれぐらいしかないか。…もっと確実な情報を集めてからにしたかった手ではあるが、致し方あるまい」
フェリシテの意見を採用し、レティシアの直属軍、エミリーやエリナ、マノンらなど総出で作戦を実行する事を決意する。
「よし、善は急げというわけではないが、今すぐ手分けして当たってくれ。間をあければ、またどこから我らの情報が敵に漏れ伝わるともわからん」
「ハッ! かしこまりました」
フェリシテがおじぎをし、彼女を筆頭に室内に控えていた全員が退室してゆく。レティシアはそれを、今度こそという想いで送り出した。
その十数分後――――
コンコン……
「失礼いたします、レティシア様。ライゼック=ブルワジオ様がお見えでございます。レティシア様にご挨拶したいと」
執務室の窓辺で外を伺っていたレティシアが振り向くと、メイドが恭しくお辞儀する。レティシアは小さく息を吐くと、両肩から力を抜いてから口を開いた。
「そうか。ならば玉座の間に……いや、挨拶ならばここでも構わんな、お通ししろ。この多忙な時に形式ばった挨拶など不要だろう」
「かしこまりました。ではこちらにお呼び致します」
メイドが出て行ってよりさらに数分後、執務室の扉がノックされた。
「入るがよい」
ガチャ……キィ…、バタン……カチャリ。
レティシアは一瞬だけ眉をひそめた。男が入室し、深く頭を下げて礼をしたその後ろで閉ざされる扉から、聞き捨てならない音が聞こえたからだ。
「お久しぶりでございます、レティシア皇女。聞くところによるとこのところ、随分と動き回っているようですね、皇女みずから?」
「それは貴殿とは関係のない事。余計な会話は慎まれ、挨拶ならば早々に済ませてもらいたいものなのだがな?」
不敵で豪胆なレティシアに、ライゼックは含み笑った。
「余計を慎まれるべきは、貴女ではないですかな?」
「何? ……一体、何が言いたいのか、ハッキリと仰っていただこう」
ゆっくりと歩み寄り、間合いを詰めてくるライザック。
同じくゆっくりと歩を進め、窓際から離れて執務室の扉の方へと移動するレティシア。
――まるで、居合いの達人同士の果し合いのような空気が流れる。
「わかっているはずだ。裏社会に蠢く者どもがいなければ、この国の今は成り立たない、と。貴女の前任たる貴族達が、“ 彼ら ” の取り締まりに緩慢であったのも、全ては国の、このヴァーミルの、今日の繁栄のためであると」
「一時の繁栄、それは認めよう。さりとて放置は下策、加えてそのような後ろ暗いものに頼らぬ道を切り開く事こそ、この国の未来の繁栄へとつながるというものだ」
コツリ……
壁際に追い詰められたレティシアだが、その瞳に怖れや不安の色は微塵もない。強く、肝の据わった表情に、熟れたカラダと男心をくすぐる胸元の布の少ないドレスに、ライゼックの色欲が燃え上がる!
ドンッ!! プツンップツンッ! バチバチバチンッッ!!!
「くっ!! 貴様…ッ」
「教えてさしあげましょう、レティシア皇女! 現実というものを、たっぷりと貴女のその身にね!!」
バストのカップ部を支えるネックカラーから伸びた薄く細い紐が切れ、腰の前を止めている留め金が弾き飛ぶ。
あらわになった彼女の乳房にしゃぶりつきながら、レティシアのスカートをまくしあげると、その股間の秘部に躊躇いなく手をいれた。
チリンチリンッ!!
側仕えを呼ぶ鈴の音が鳴り響く。が、それに応える者はいない。
「無駄ですよ、皇女。助けは誰もこない! この城のメイドは全員、私の下僕も同然、城外にて巡回している兵士にまでは音は届きますまい! これが現実というものだよ皇女様、ハハハッ!!」
「…なるほど、入室後に扉に鍵をかけさせたのも、こちらのメイドの仕業だったか」
「その通り。これから私が貴女に何をしようとも、この部屋に立ち入る事のできる者は誰一人としていない!」
ここまできたら、もはや自分の勝ちだといわんばかりに猛るライゼック。彼にしてみても、皇女に手をつけるというのは一種の賭けの部分もあったのだろう。故に余計に己の企みが成功する事を確信したときの喜びは大きい。
「痴れ者め。皇女に手をあげるなど、許されると思っているのか?」
「フフフ、数時間後にはそんな事は言えなくなりますよ。私の魅力にドップリと浸かってね」
そういうとライゼックは、燭台を置いていた腰をかけるにはちょうどよい高さの棚台の上にレティシアの上体をたたきつけた。
「くう!! ……よほどの自信があるようだな。メイドをたぶらかしたのもその手というわけだ」
乳房が棚台と上半身に挟まれてひしゃげ、脇下からはみ出す。強制的な後背位の格好で突き出された彼女のお尻に、自慢のモノが迫る!
「クックック、貴女のような男も知らぬ小娘には刺激が強すぎるかもしれませんが、簡単に堕ちてはくださるな?」
満面の愉悦に宿るもの。
皇女を犯すという意志、我が種で孕ませ、所有物と化さんとする野望、そして身分が上の者を穢し堕とす支配欲だ。
その刃たる男性のシンボルが、レティシアの股間にその先端を数cm埋めた―――その瞬間
「今だ! 捕えよ!!!」
バタンッ! ガタッ!! ゴトンッ!! パカッ! ガララッ!!
「な、なに!!?」
部屋のいたるところ―――天井、壁、床、窓、クローゼット―――から、レティシアの直属軍が飛び出す。
「うむ、ご苦労。待たせて悪かったな」
それはレティシアの貞操の危機にも、なかなか合図があがらなくてヤキモキさせた事への謝罪だった。
「ドキドキした……いろいろ」
マノンがライゼックの背中を足蹴にしつつ、よりキツく縛り上げようと縄を引っ張る。それは主君への暴行に対する彼女なりの仕返しの意味も含んでいた。
「ぐあっ、き、貴様ら! この私に対してこのような仕儀をっ―――」
「ならば皇女たる私に対しての行いは、罪に問われぬとでも思うのか?」
レティシアが寸前までやらせたのは、ライゼックの逃げ道を閉ざすためだ。知らぬ存ぜぬで誤魔化しは不可能。これだけの目撃者がいる上に、共犯のメイド達も今頃室外で全員捕えている。加えてレティシアというヴァーミルの皇女への暴行は、仮にちょっとした行き違いでの間違いです、などと誤魔化したとしても、相応の罪に問われることだろう。
「相手を間違えたな。さて、我が身を賭してようやく掴んだ糸口だ……貴殿にはいろいろと聞かせてもらう故、覚悟せよ」
―――数日後、レティシアの居城。
「それでそれで? 結局、有力な情報はなかったの?」
「らしいよ? 結局はライゼックって貴族も下っ端だったみたいで、レティシア様、随分と落胆してたよ」
エミリーとエリナが話していると―――
「……二人とも、レティシア様が今どこにいるか、知ってる?」
「マノン。どしたの? 兵士の訓練監督にって、さっき出て行ったばっかり―――何それ、手紙?」
エミリーの問いに、マノンはコクンと頷く。
「団長から、レティシア様にって、さっき傭兵団の人が。城門のところで預かった」
その話に、二人は顔を見合わせた。傭兵団ならばわざわざ手紙でなくとも、マノンとは顔見知りなのだから、口頭で用件を伝えてもいいはずだ。なんだったらレティシアまでお目通りし、直接伝えればいい。
「……確かに、団長の署名だけど。怪しいものとかだったりしないよね? ここで一回見ちゃう?」
「それはさすがにダメだって。もしかしたら重要なものかもしれないんだからさ」
封を破きかけたエミリーをエリナが制したその時。
「何の騒ぎだ、何かあったのか?」
「レティシア様。ちょうどよかった、これが団長からレティシア様に届けられて」
エミリーから手紙を取り上げると、エリナはレティシアに渡す。
すぐさま封を破き、読み始めた途端、レティシアは沈黙し、難しい表情を浮かべた。
「? レティシア様…?」
「なにやら、込み入った話があるらしい。これから詰め所に行く、お前達、共を頼むぞ」
手紙には、それほど重要な事は一切書かれていなかった。むしろ元気か、とかがんばってるか、など、無意味とも思えるような雑文が並んでいたのだ。
ところが末尾に、“エレーナとマリエルから話があるらしいから聞いてやってくれるか” と書かれていた。双方ともデモニアである事を知っているものからすれば、その二人の名が書かれている時点で、何か重要性の高い話がある事を理解するだろう。
レティシアは急ぎ、出立の準備を整え、居城を後にした。
ライゼックは金だけはある貴族、って設定です。
なのでメイド達も割りとあっさり彼を見限って、レティシアに許されています(笑)
もう少しで折り返しになるかな。
なお本二次創作小説の原作であるブレイヴガールレイヴンズRは
http://bg-r.mimolette.co.jp/
からどうぞ。