本小説オリジナルキャラ随一のグラマラス、ローゼット回です。
―――――ヴァーミル国内、辺境の地。
夫に連れられて道行く馬車の中、カーテンの隙間から覗く景色はどんどんと流れてゆく。
森の木々は自然が培った不揃いな立ち並びで、はるか奥の山々すら樹木の合間から見えそうだ。
草原は短い草と長い草が入り混じっており、遥か昔は田畑があったのかもしれないが、今は完全に自然へと還っている。
馬車は雑草だらけの道を走り、地面の凹凸が幾度となく大きな揺れを引き起こす。貴族の馬車とて例外ではなく、馬の手綱を取る御者はなぜこんな辺鄙な場所を走るのかと、不平不満を呟いていた。
「………」
ローゼットは移動の最中、隙間から見える外の景色を見続けていた。馬車の左右は20~30mほどは雑草だらけの荒れた草原が広がっており、その先に森の木々が見えていた。
「(森まで逃げる事ができればもしかするかも……でも…)」
遠すぎる。自分は足が遅いし、森の入り口たる木々は密度が低く、よほど深いところまで踏み入らない限りは遠くからでも自分の姿を見つけられてしまうだろう。
逃げる機会が来ても、逃げる力も逃げる隙も、計画も、何もかもが足りない。不安げな彼女の姿を見て夫は勘違いしたらしく、不安を紛らわせてやろうと彼女の肩に手を置き、口を開いた。
「我が妻よ、あの屋敷が目的地だ。心配はいらん、このあたりはヴァーミルでもほとんど知る者はいないゆえ、安心して過ごすといい」
夫の声などまるで耳に入らない。
ずっと外を眺め続ける妻。彼は肩をすくめて置いた手をはなすと、前を向いて御者に話しかけた。
「屋敷に直で付けてくれ。我らが降りたら、お前はそのままで待機していろ」
いかに場所柄、誰かに見られる可能性は低いといってもゼロではない。ローゼットがデモニアだからの配慮ではなく、それだけその屋敷へと出入りする事は秘中の秘だという事だ。
彼はヴァーミルの貴族だ。仮にこれから訪ねる先方が将来捕まるような事があったとしても、自分と関係があった事を辿られては困る。彼にとってそれは、デモニアを妻としていること以上に留意しなくてはならない問題だ。
やがて少しずつ大きくなってくる屋敷。夫が今一度カーテンの隙間から外を伺い、人目がない事を確認する。ローゼットは変わらず反対側の窓から外を眺めていた。
そして、何気なしに屋敷の裏手、少し距離を置いた森の入り口たる木々に視線を向けた時、ほんの一瞬……だが、まるで永遠ともいえるような長い一瞬の中、ローゼットは目を見開いた。
「(………あ、あなた!?)」
いや、きっと違うだろう。だが一瞬だけ森の木々の間に見えた男性の横顔を見たとき、ローゼットは忘却の彼方にあった、かつての夫の顔を思い出していた。
心臓が一気に高鳴る。森から屋敷の様子を伺うようにしている男性の姿。馬車が近づいてきたのを察知してか、その身を木陰に隠してしまう。
完全に見えなくなった男の姿を、頭の中で思い出す。
「(やはり…違う…でも…)」
似ていた。容姿や顔立ちがではない。
あの時―――……攻め寄せてきた現夫の軍勢に、家族を守らんとして立ち向かった元夫の、気概と覚悟に満ちた時の雰囲気が、だ。
それは、長らく忘れていた家族の顔を思い出せた瞬間でもあった。
「どうした、何か見つけたのか?」
問いかけられてハッとする。そして、彼女は直感的に答える。
「いえ、動物が…よくは見えませんでしたけれど、熊か何かがいたみたいですけれど、キチンと見れなくて残念でした」
何もないといえば怪しいし、素直に人がいたと言えば、事態が大きく変わってしまう気がして、ローゼットは誤魔化す。
普段、外に出ない分、野生動物が珍しく、そしてよく見えなかったことをさも残念に思っているように装うのが一番怪しまれずに済むだろうか?
別に何か根拠があるわけではないが、彼女にはなんとなく森の中に見た “ 彼 ” の事は、黙っていた方がいいように思えたのだった。
「奥方はこちらで御寛ぎを。シュターナ、お前は客人を接待するように。粗相無きようにな」
屋敷について軽い挨拶を交わした後、夫は屋敷の主との会談があるため応接間に、その間ローゼットは客間にて持て成される事となった。
屋敷の主人と入れ替わるようにして、廊下で “ シュターナ ” と呼ばれていた少女が入室してくる。
「………!!?」
ローゼットは驚愕し、口元を手でおさえてみだりに声を上げぬよう、努める。その様子を予測していて、その通りになってさも楽しげに屋敷の主人は姿を消した。ごゆっくりという言葉と共に。
「……あ、あなた……は……デモニアなのね?」
「はい、卑しい身で、お客様のお相手を務めますこと、お許しください」
床に膝をつき、頭までこすり付けるよう深々と頭を下げた少女。それは彼女の心からの行為ではない。そうするよう、強要されている事は明らかだ。そしてその身なりにも驚かされたローゼットだが、彼女の背中を目にして、今一度驚き、そして涙を浮かべると、頭を床にこすりつけている少女のカラダへとすがりつくように寄った。
「なんて酷い……うう…、このような目に……まだ花盛りの年頃の
シュターナが顔を上げた。モノ見えぬ瞳が不思議そうにローゼットの泣き顔を映した。
夫人が亡くなって以来、シュターナの全身には傷が増える一方だった。まるで解き放たれた獣のごとく、主人の虐待欲は日々エスカレートしてゆく。
生々しい傷跡は、持って生まれたせっかくの美肌を台無しにし、下着もつけていないカラダを、かろうじて覆っている薄手の奴隷服は、ボロもいいところだ。
髪には苦労の跡が見え隠れし、若い少女の艶やかさは失われ、まるで老婆のように痛みきった髪が痛々しい。
「あ…の……」
「待って、今すぐ―――」
治療してあげますから、と言いかけ、ローゼットは伸ばしかけた手を止めた。
彼女はたいしたものではないが、治癒の魔法を行使する事ができる。しかしここで彼女を治した場合、多くの問題が生じてしまう事に気付いたのだ。
第1に、自分が治癒の魔法を使う事ができる事が、高い確率でバレてしまう。そうなると、夫はそれを何かと利用しようと考えるはずだ。利用価値が上がったとなれば、ますます束縛された生活が待っている事は容易に想像できる。
第2に、ここで傷を治した場合、シュターナに傷をつけた者は喜んで再び彼女を虐めることだろう。生々しい傷跡がここ最近できたものである事は明白で、おそらくはさきほどの屋敷の主人の趣味の結果、つけられた事は容易に想像できる。
「う…ううう…こんな、こんな事って……」
「?? あ、あの…大丈夫ですか? 苦しいですか? お医者様を御呼びしましょうか??」
か細く、少女らしい綺麗な声だ。しかし丁寧な言葉遣いは、接待のために覚えさせられたものだろう。本人が望んで使っているというよりは、何か強迫観念に突き動かされて用いている言葉遣いといった雰囲気が感じられる。
ローゼットも貴族の妻にさせられた事で、丁寧な言葉遣いや作法を覚えたものだが、ほとんど人前に出る事のない彼女にとっては、憎しみの対象たる夫に対する、せめてもの皮肉の意味があった。
しかしこの目の前の少女は……
「ごめんなさい、ごめんなさい。私には…私には貴女を救ってあげることができないの。ごめんなさい、ごめんなさい…何も、何もできない無力な私を許して……」
シュターナは、もし生きていたなら自分の息子よりも年上であろう。しかしその儚さは、年齢以上に幼く思えた。
「?? あ…あの……えと、…だいじょうぶですか? ……んぷ??」
彼女はシュターナのカラダを抱き寄せる。その大きな母性の塊の中に少女を抱き込み、せめてその傷ついた心身に一抹の温かさを抱かせたいとローゼットは涙を流しながら、同じデモニアとして少女を救ってあげられない自分を責め続けた。
―――――屋敷最寄の歓楽街。
予定の売り物がまだ届いていなゆえ商談が延期になったため、夫はローゼットを連れて近くの街に宿を取った。もちろん適当な宿ではない、相応の金持ちなどが利用する高級な宿だ。
商談は延期にこそなったが、商人との会談は相当に満足いくものだったらしく、夫は屋敷を後にして以来、それはもう上機嫌だった。
「(これはチャンス……かもしれない。でも……)」
今なら逃げ出せるかもしれない。何せ同行しているのはメイド3人に執事が1人の上、ここは夫もおそらくは勝手知ってはいないであろう街の宿だ。そして彼の機嫌の良さはすなわち油断に通じるものがる。邸宅にいる時に比べれば、破格の好条件であり、むしろこの機会を逃したら、逃げ出す機会などもうないかもしれない。
しかし、あの屋敷に囚われているデモニアの少女の事を思うと、ここで逃亡する事が躊躇われてしまうのだ。
「あ、あの……あ、アナタ。その、知らない街に来る事は稀ですから、その…よければ買い物など、してみたいのですが…」
それを切り出すのも勇気がいる。デモニアたる自分に自由はなく、発言権もないのが当たり前なのだから。しかし
「おお、それもそうだな、いいだろう、楽しんでくるといい。お前達、供をしなさい」
メイド2人に供を命じる夫は、やはり機嫌が良さそうだ。まさに千載一遇のチャンスだが、宿を出て、街中に繰り出してもローゼットの顔は冴えない。
角を隠すヴェールの下で、そっと目を伏せる。どうしても、どうしてもあの少女の事が忘れられない。
彼女を救いたいと、自分に何かできないものかと、どうしてこんなにも無力なのかと、自分を責める言葉ばかりが浮かぶ。
「……奥方様、奥方様?? それは薬だと思われますが…お買い求めになられるのですか??」
メイドが声をかけてきて、ようやく我にかえる。気付けばいつの間にか、一軒の店の前で、小さな小瓶を手にしていた。
「ハッ!? ……あ、え、ええ…小さくて可愛らしいですし、ビンの形状も凝った細工になっているようですから、飾りものとして部屋に置けないものかと思ったのですが…いけないでしょうか?」
若干、言い訳じみた事を言ってしまったと思ったが、改めて手の中の小瓶を見て、あながち間違いではなかったと安堵する。
中の薬液は鮮やかで綺麗な色だ。何色かパターンがあるようだが、薬効はどれも液状のキズ薬らしい。小瓶はコルク栓の直下のあたりがリボンのような形状になっているが、それを含めてもどこにでも隠し持っておけそうなほど小さく可愛らしい大きさだ。
店主の話では、子供にいざというときに使わせるために親が持たせるものらしく、可愛らしい外観や薬液の色も、そのヘンを意識した商品だという。
「(……子供……) ……これをいくつか買って帰ろうと思うのですが、よろしいでしょうか??」
ローゼットはお金を持っていない。メイド達が小金を持たせられているため、彼女達に伺わなければならない。当然、怪しいものや武器になりそうな類のものは購入できないが、置物の名目でこのくらいの小瓶であればたいしたことはない。メイド達も顔を見合わせて財布を取り出す。
ローゼットはそれを見て、中の薬液の色が被らないように留意しつつ12個の小瓶を選んだ。部屋に飾るには1つでは寂しいからと理由を付け、売られている全色を選択したのだ。
「(再び、あの
シュターナ自身がタイミングを計り、自分の傷を癒してもらえれば……
そこまで考え、彼女は胸が痛む。自分に出来る事など、本当にないのだと実感し、心の中で嘆かずにはいられなかった。
簡素な紙袋に入れられた商品を受け取る。メイドの一人が、自分が持ちますと1歩前に出てきたが、ローゼットはさもお気に入りを見つけたといわんばかりの態度で、自分が持ちますと先に紙袋を受け取る。貴族夫人としてははしたない行為だが、これだけは譲れない。
メイド達はやれやれと軽く呆れながら、買い物が済んだのでしたら宿に戻りましょうと促す。デモニアのお守りなど気が気でないと言わんばかりの態度で。
歩き出した3人、が…そんな彼女らを呼び止める者がいた。
「はーい、そこの御三方ッ、新鮮な “ モモ ” はいりませんか~?」
==プロフィール===========================
ローゼット
本名:ローザレスト=ナヴァーナ
年齢:??歳
T160 B120(O) W63(UB75) H94
リラでの身分:一般人
現在の身分 :ヴァーミル貴族夫人
能力1:治癒能力
能力2:???
容姿イメージ:デモニア版アインス
(アインスほど強かで強者ではありませんが、強烈なグラマラスさと幼子に対する母性はいい勝負。ただしこちらは変態ではないが)
既存キャラとの関係性:
団長を見ていると元夫を想起してしまい、最初は少し距離を置く。
アインス同様、小さい子の面倒見が良いが、こちらは真っ当な意味で。
それゆえ度々、母性豊かさは同じだがその性質は正反対と周囲が
アインスと彼女を比較対象として話題にあげる。
傭兵団では主に支援行動が多く、物資の整理や事務仕事に加え、
元々が人妻だった事もあって詰め所の保守や家事ごとがプロ級である。
子供(っぽいのも含めて)をあやすのもお手の物である。
団長ラブ勢というほどの感情を持っているわけではないが、
授かれるなら授かりたいという願望が強いため、相応の行為には積極的。
その絶大な母性の象徴たる胸に対し、胸なし勢からはもはや嫉妬をこえて
御利益を賜りたいと、時に乳神様扱いされたりもする。
レスティアートとは違って、薬で母乳が出るようになったとかではないため、
母乳を止めるための努力などは別にしていない。
これに対し、アインスが幼い子供達に対する“武器”の差として、
ちょっとした脅威に感じており、軽くライバル視している。
実際、孤児院などに赤ん坊の孤児などがいる場合、
乳母としてお乳を与えにいったりする事もあり、
彼女が子供達から人気がある事に嫉……
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