【Rewrite】星の階(きざはし)を昇った先に 作:千月華音
優しくしたかった。
泣かせたくはなかった。
傷つけたくなかった。
なのに。
篝の肌を吸い上げる唇は痕が残るほど強く、穿つ熱さは絶えず悲鳴を齎した。
「あ……ぁ、……うぁあっ……い、やぁ……」
「篝……かが、り……っ」
指を絡めて背後から獣のように繋がっていた。
篝はもう何度目かわからない絶頂に、わけもわからず、意味すら考えられず、ひたすら泣いていた。
酷いことをしているとわかっている。
だけどとめられない。
娘を犯しているという禁忌に眩暈がし、狂暴な想いが膨れ上がり、興奮が醒めない。
それ以上に泣きたくなるほど愛しさがこみあげていた。
「……篝……」
名を呼びながらうなじに口づける。
万感の想いをこめて愛しているのに、篝は逃げようと身を捩る。
そのたびに瑚太朗をきつく締め付け、さらに行為を煽っていることに気づいていなかった。
中で再び弾ける。
篝が背をビクビクと震わせ、無意識に全て絞り出そうと内部が熱く蠢いた。
瑚太朗は思わずクスッと笑った。
欲望に従順な篝。
それがどれほど男を刺激するか、この娘はわかっていない。
わかっていないから……。
(もう……とまらない)
瑚太朗は篝を仰向けさせ、繋がったまま深く口づけた。
髪に指を絡め、涙を舐めながら、息すら奪うかのように深く深く唇を重ねる。
篝は自然と足を絡めていた。
何度出しても、何度極めても、篝は足りないとでも言うかのように誘うのをやめなかった。
泣いて嫌がる言葉とは裏腹に。
「…うっ……ぅ……」
「篝……泣くな……」
「な、……んで……? ……どう、して……?」
「……愛してる」
「わから……ひっく……わから、ない……っ」
「おまえを……愛してるんだ」
「い、……いや……熱い……くる、し……」
「篝……これが……結婚するって、ことだよ」
「こ……れ、……が?」
「ああ。……本当は、いけないことかもしれないけど……許されないことだけど……」
篝の中を掻き混ぜ、ゆっくりと動きながら、深い深海色の瞳を見つめて語りかけた。
「ひとつになって、結ばれるってことだ。……篝。もっと、もっと……俺を求めてくれ」
篝が瞳を潤ませて腕を伸ばしてきた。
泣いていたけれど、瑚太朗を受け入れようとしていた。
その腕に吸い付くようにキスをし、再び激しく動きだす。
胸を焦がすほどに篝だけを欲していた。
何も考えられず、ひたすら篝だけを。
朱音が泣いていた。
瑚太朗はその時、彼女がなぜ泣くのかわからず、ただうろたえていた。
何度も慰めようとキスをした。
だけど朱音は泣くのをやめようとしなかった。
お腹の子供に触れようと手を当てると。
朱音は瑚太朗にしがみついて深く唇を重ねてきた。
今ならわかる。
彼女はこれが見えていた。
どうしようもない未来に手を伸ばそうとするかのように、泣いて求めていた。
答えなんて出ない未来。
歪な未来に嘆く彼女。
だけど。
(もう、俺は選んでしまった)
この想いが穢れきったものであっても構わない。
篝に出会えたことが奇跡のようなものだから。
信じてる。
きっと未来は手を伸ばせば届くものだと。
篝といれば、きっと届く。
後悔はもうどこにもなかった。
篝を起こそうと、コップから水を含み、口移しした。
よほど喉が渇いていたのか、嚥下をやめようとしない。
それに微笑みながら、次から次へと口移しした。
「ん……」
「おはよう、篝」
寝ぼけ眼で瑚太朗を見上げ、しばらく虚ろな表情でいたが、やがて耳まで真っ赤にして毛布で顔を隠した。
少しは照れているのかと思うと嬉しくなる。
「篝。……顔、見せて」
「……や」
「見せないと、またするぞ」
「……っ」
ますます毛布を深く被る。
朱音ではとても見られなかった反応。
比べること自体が間違っているけれど。
それでも新鮮すぎて自然と笑みが零れた。
「篝……」
毛布ごと抱きしめて自分の胸の中におさめる。
腕の中で身じろぎする娘に、本当にまたしたくなったけれど、あまり苛めたら可哀想な気がして優しく呟いた。
「名前を、言って」
「…………」
「名前」
「……ろ…」
「うん」
「瑚太朗……」
「篝……」
毛布をはがす。
かすかに震える唇を吸いあげた。
応えるように瑚太朗の背に腕を回してくる。
そのまま二人で啄ばみ合い、水音が部屋の中に響いた。
言葉もなにもいらなかった。
ただお互いがいれば、それで。
そんな甘い雰囲気を漂わせていたとき。
魔物の翼がバサバサと羽ばたき、篝の頭の上に足を乗せた。
「なんだ?」
足首についてる通信筒を見る。
広げてみると、瑚太朗宛のメッセージが書かれていた。
「どうしたの?」
「……仕事、行かないと」
境界の空間の亀裂がまた広がったので、早く場所を特定して欲しいとのことだった。
命令でもあるので無視するわけにはいかなかった。
篝の額にキスをしてベッドから降りる。
せめてもう少し一緒にいたかった。
「すぐ帰るよ」
「篝も一緒に行く」
「ここにいてくれ。森は危険なんだ。この魔物を置いていくから」
篝に監視用の魔物を手渡し、そして自分も魔物と契約線を繋ぎ、お互い魔物の目で姿を確認できるようにした。
篝は魔物をぎゅっと握りしめ、そして。
「……行ってらっしゃい」
背伸びして瑚太朗にキスをした。
篝を抱きしめ、服を着て部屋を出る。
出る間際、彼女のほうを一度だけ見た。
その姿を目に焼き付ける。
早く帰るつもりだった。――だから。
もう会えなくなるなど、その時は思いもしなかった。
to be continued……