※この作品はR-18です。

【Rewrite】星の階(きざはし)を昇った先に   作:千月華音

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※18禁になります。


第十九章:希求 ★

 

 

 ――血の匂い……。

 

 

 それは目の前の少女からしていた。額から流れる血。触れてみると傷は浅かった。

 だが頭を怪我している。一刻も早く病院に連れて行かないと……。

「……ぅっ、くっ」

 立ち上がろうとしたが、無理だった。膝をやられた。先ほどの魔獣に。

 少女を抱いて立つどころか、このままだと共倒れになる。

 なんとか気づいてもらわないと。

「朱音! ……おい、朱音、しっかりしろ!」

 少女の頬を叩くが、意識が戻らない。――危険だ。

 どうする。

 助けを呼ぼうにもそもそも独断行動だ。今宮とも西九条とも別行動を取ってしまった。今さらながら自分の短慮が悔やまれる。

 携帯を開く。

 ……ダメだ。圏外だ。ここは森の奥。そして先ほどの三国が殺られた戦闘からみても、ガイアとの交戦はまだ続いている。実行部隊が妨害電波を発している可能性が高い。

 そもそも自分に何が出来る?

 知り合いの女の子一人助けることも出来ないくせに、粋がって無茶をして。

 変な正義感など持たなければこんなことに関わることもなかった。

 居場所なんて何処にもなかった。

 いつだって一人でいたくせに……。

「……っ?」

 森の奥。

 そこから何か気配を感じる。

 敵――?

 警戒するが、動く様子は感じない。

 そっと朱音を木の根元に横たえた。

 もし魔物に襲われたら……。

 だが、森の奥の気配がどうしても気になる。

「朱音……。頼む、しばらく大人しくしていてくれ」

 見捨てるわけではない。ほんの少し離れるだけだ。

 必ず助けに戻る。

 背中の銃の感触を確かめ、意を決して立ち上がった。

 膝が笑うように痛む。体液循環を高めた。応急処置だが今はこれでいい。

 銃を手に持つ。

 ……近い。

 気配は、逃げる様子はなかった。

 草を掻き分けて見た先に。

 目を疑うような光景が広がった。

「な……?」

 一目で。

 目が奪われた。

 不可視の存在。

 それが眼前にある。

 少女の姿に擬態したそれは。

「鍵……」

 ガイアとガーディアンが血眼になって争奪するもの。

 世界を滅ぼすもの。

 それが今、手に届くほど近く……目の前にある。

 なぜ……見える?

 鍵は認識撹乱があるのではないのか。

 だが。

 あれは間違いなく鍵だった。

 直感というより、それは……。

 魂に刷り込まれた記憶に近い。

 自然と銃を構えた。

 撃たないと。

 殺さないと。

 だが……。

「……女の子、だぞ……」

 こんなか弱そうな、触れれば折れそうな少女を、殺す?

 朱音を助けようと無謀にも深入りしたくせに。

 この少女を殺すというのか?

「おまえを……殺さないと……」

 唇が震える。

 それは誰に対しての言い訳なのか。

 世界なのか。

 自分なのか。

 もはや何も考えることができなかった。

 

 

 天王寺瑚太朗は、銃を撃った。

 

 

 

 

 

 

 子供の叫び声。

 身を切られるほどの激痛。

 すべてが遠い世界の出来事のようだった。

 意識が遠くなる。

 このまま死を思った。

 自分が死んでも……何も世界は変わらない。

 そう思った。

「…………」

 自分を見下ろす瞳。

 不思議な瞳だった。色を感じない。

 見えないわけではなく、瞳としての機能を果たしていないような……。

 その瞳に。

 生まれて初めて……恋焦がれた。

「…………」

 世界が変わった。

 己の中にある世界。

 何も変わることがないと思っていた。

 世界は無機質で、残酷で、過酷で。

 何処にも存在することができないと思っていた自分。

 少女が見つめる眼差しの中に。

 空虚な己と、一途な己が。

 同じ痛みを分け合うように溶け合い、混ざり合い、重ね合った。

「…………」

 涙が溢れる。

 何を望み、傷ついて生きてきたのだろう。

 ずっと一人ぼっちだった。

 だけどここにいた。

 一人だと思っていた自分は、ずっとここにいた。

「…………?」

 少女が涙に指を伸ばす。

 自分が流す涙を見て、不思議そうに首を傾げる。

 そうか。

 彼女はそれがわからない。

 人の感情が零れて、溢れて出てくるもの。

 それを知って欲しくて。

 少女の指にそっと唇を寄せた。

「…………」

 柔らかい指だった。

 人と同じ、暖かい血の通った肌。

 これが、鍵……?

 なぜ俺はもっと早く――。

 彼女に出会わなかったんだろう。

 意識が遠ざかる。

 記憶が溶けてゆく。

 もうこの想いを手放さなくてはならない。

 やっと手が届いたこの想いを。

 忘れないように。

 刻みつけるように。

 心の奥底に鍵をかけた。

 いつか開くその日まで、俺は――生きていく。

 

 

 

 

 

 

 生まれたばかりの娘。

 朱音の形見であった彼女の瞳を初めて見たとき。

 こんなに美しい瞳があるのかと驚いた。

 深く澄んだ深海色の瞳。

 その瞳の中に……。

 胸を突き刺すような、心の中の何かが抉られるような、自分でもわからない焦燥感が湧き上がった。

 その時は正体不明の感情をもてあましていた。

 きっと誕生直後のわが娘を見て、動揺しているのだろうと。

 だけど。

 その後何度も、何度も。

 娘をあやしながら瞳の奥を覗きこむたびに。

 さらに気持ちがかきたてられた。

 自分でもわからない感情がどんどん湧き上がってくる。

 それはもう、恋に似たものなのだと……。

 気づくのに、そう時間はかからなかった。

 時間すらかからずに自覚していた。

 そう。

 きっかけはたぶん、それだった。

 

 

「篝……」

 

 

 娘に口づけながら瞳を覗き込む。

 彼女の瞳の奥から、とめどなく想いが溢れてくる。

 この想いの源泉はどこからやってくるのだろう。

 瞳を見つめる。

 篝は泣いていた。

 痛みと、戸惑いと、そして熱い想いを受け止めて、泣いていた。

 泣かせているのは自分だった。

 涙に溢れかえった瞳はあまりにも美しくて。綺麗で。神聖で。

 それを犯している背徳感と、征服感に、もはや抗うことなど出来なかった。

 

 

「篝……。痛いか?」

「んっ……ぁっ……熱、い……」

「ここは……?」

「ぁ、やああっっ!」

「もっと、声……きかせて」

「や、ぃや、もう……ぁああうっ」

 

 

 篝の子宮を突き破る。

 朱音にもしなかった行為を、もう躊躇うことなどしなかった。

 襞が捲りあがり、愛液が迸る。その中をがむしゃらに突き進んだ。

 そう、自分でもわかっている。

 愛してると何度もその口で言いながら、もはや篝を壊す勢いで犯している。

 これが肉欲に塗れた禁忌なのか、それとも自分の奥底から湧き出る正体不明の想いの発露なのか。

 おそらくどちらも同じくらいなのかもしれない。

 篝を物でも扱うようにひっくり返し、限界まで脚を広げて繋がっている部分を見つめた。

 血と精液が混ざり合って痛々しいが興奮がさらに増す。

 喉を鳴らし、篝の背を強く吸い上げ、子宮に押し込んだ自身を抉るように回した。

 

 

「……っっ! だ……め、……あぁっん……やああっっ」

「力を……くっ……抜いて、くれ……」

「おねがっ……やめ、やめてぇ……こ、わい……!」

「無理だ、もう……。篝……篝……愛して、る……」

 

 

 免罪符のように囁きながら。

 行為はとどまることを知らなかった。

 ……なぜここまで激しくする必要がある?

 自分でもわからない焦燥と激情。娘であるからなのだと思った。だけど。

 ずっと昔に、――得られなかった何か。

 欠けた何か。

 それを取り戻したい。

 早鐘のように心からとめどなく零れてきた。

 

 

「……篝……」

 

 

 強制的に極めさせられた篝を繋げたまま仰向けさせ、頭を抱えこんだ。

 焦点の合わなくなっている瞳を覗き込む。

 享楽に溺れ、意識が朦朧とし、息も絶え絶えなのに。

 瞳の奥から篝の確かな意思のようなものを感じる。

 この瞳をどうしようもなく渇望している。

 心が悲鳴をあげていた。

 

 

「篝、もう一度……」

「……ぅっ、……そ……んんぁあっ……」

「動く……から……しがみつけ」

 

 

 性の愉悦を教えこむ。

 篝は痴態を曝している羞恥心を感じる暇さえ与えられず、ただ暴力的な激情に身を委ねるしかなかった。

 震える手でしがみついてくる。

 頼れるものなど、乱暴に抱く目の前の男しかいなかった。

 そうして。

 何度も何度も、二人で同時に高みへと昇った。

 

 

 

 

 

 

 長い夢を見た。

 現実なのか夢なのかわからないほど、長い夢。

 彼女の――瞳。

 想いの発露は、それだった。

 何に起因しているのか、最初の時点ですでにわかっていたはずなのに。

 俺はずっとそれだけを求めていた。

 今も、こうして。

 無機質な瞳の奥に、自分との確かな繋がりを感じている。

「篝……」

 丘を登る。

 見上げると、そこには彼女がいた。

 生命そのものである彼女。

 必死になって一途なほどに、命の理論を辿っている。

 その視線の先に。

 丘から登る自分の姿が捉えられた。

「……」

 何かを言いたそうな、顔。

 唇がほんの少しだけ動いた。

 ああ、そうか。

 たぶんそう言うだろうと思って持ってきた。

「ほら」

 魔法瓶からカップにコーヒーを注いで差し出した。

 彼女の領域には入らないギリギリの距離で手を伸ばす。

 だが首を振ってもっと近づくようにと促した。

 もうそこまでの信頼を得られたのかと思うと嬉しかったが、多少恐れた。

 今の自分は、現象が確定しつつある。

 確信はないが、何かを掴みかけている。

 ほんの小さなきっかけで命を散らしてしまえば、もう収束することは出来ない。

 ここに辿り着くには、たくさんの可能性を得られなければならない。

 それがわかったから、不用意に彼女に近づくのを恐れた。

「……」

 篝は俺を見て、自分から動こうとはせず、俺が近づくのを待っていた。

 手を伸ばせば届く距離。

 そのわずかな距離が、今の俺と彼女の距離なのだということを、わかって欲しかった。

「篝」

 名を呼ぶ。

 ただしそれは、名ではない。

 遠くて届くことの出来ない、星の瞬きのようなもの。

 近づいてきて欲しい。

 触れて欲しい。

 願いをこめて囁く。

 篝の手が、動いた。

「……」

 カップに手を差し伸ばし、わずかに自分の指に触れた。

 血の通った暖かい指。

 いつか触れたのと変わらない感触だった。

 静かに一息で飲む彼女をジッと見つめる。

 篝は飲み終えると同時に、再び理論へと視線を戻した。

(篝……)

 同じ姿。同じ顔。同じ瞳。

 どの世界にも彼女がいる。

 ――鍵として。

 だけど。

 たったひとつだけ、違う世界があった。

 ――娘として。

 生まれてきた世界があった。

 その意味を考えてみる。

 必ず意味はあるはずだった。

(あの中に……)

 篝がいま探し求めている命の理論の中に、その意味が隠されている。

 鍵であり、娘でもあった少女。

 図らずも自ら名づけた名前が「篝」だった。

 それ以外の名前を、なぜ思いつこうとしなかったのか。

 篝としか名づけようがなかったからだ。

 いつか娘に語っていたこと。

 道標(みちしるべ)。

 生きる道が、彼女の名にこめられていた。

 篝をあれほど深く愛したのは、己から湧き出る強い渇望があったから。

 希求とも言っていい。

 なぜ……。

(だけど……)

 こうして篝を見つめていても、やはり想いは変わらない。

 守りたいという気持ち。

 それだけは強く、深く、根ざしていた。

(きっと答えはある)

 あの瞳の奥に。

 見つめていると吸い込まれそうになる――あの瞳の奥に。

 

 

 

 

 

 

to be continued……

 

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