※この作品はR-18です。

【Rewrite】星の階(きざはし)を昇った先に   作:千月華音

22 / 59
第二十一章:因果

 

 

 ――その終焉は、あらかじめ定められたものであるかのようだった。

 

 

 数多の世界で、鍵を殺した。

 そのことに気づいた瞬間、己がひとつの因果を集束しているのだと理解する。

 そう、レンズで光を集めるかのように……。

 自分という存在そのものが、鍵を殺すための装置として機能しているのだということを。

 世界に関わりすぎていた。

 同じ役割を担いすぎていた。

 その結果。

 鍵を――ひいては娘を失うことに繋がっていた。

 あまつさえ。

 自分の娘が鍵になって、「篝」という存在に固着させたが故、存在そのものが世界から消滅してしまった。

「篝を……また……」

 失ってしまう。

 ここにいれば、必ずそれは、訪れる。

 遅かれ早かれ、その違いはあるだろうが。

 篝が鍵としてこの世界の役割を担っているのだとしたら。

 自分の手か、あるいは別の現象として。

 篝を抹消しようとするだろう。

 そういう因果を、――自分は持ってしまった。

「どうすれば……いい……」

 消えてしまいたい。

 こんな自分の存在ごと、この世界はおろか宇宙のあらゆる領域から消してしまいたい。

 なぜ……。

 娘は――篝は。

 自分を生かそうとした?

 そもそもそれが、間違っていた選択なのではないか?

 知りたい。

 彼女が自分を残した意味を。

 鍵とは本来、生命の生存本能としての機能だ。

 生命とは生き続けなければならないもの。

 宇宙の拡がりとともに爆発的に飛び散ったあらゆる物質が、生命という形を帯びるまでに複合的な奇跡が重なった。

 その奇跡が生存という本能に繋がっている。

 生存は、絶対的な理ではない。

 奇跡のようなもの。……宇宙はそれほど、過酷だ。

 だから自分のような、対比する存在も発生するのかもしれない。

 生命そのものを破壊する死としての役割を担った自分。

 なぜ、自分が因果の中に組み込まれているのか。

 生存模索をするための可能性世界において、それは不要な異分子なのではないか。

 異分子……。

「違う……のか?」

 死もまた――必要か。

 鍵が引き起こす再進化のプロセス。

 一度すべてを滅ぼすことにより、新たな生存の可能性を探り出す。

 リセットというよりは、リサイクル。進化とはそういう獲得形質を辿るためのシステムだ。

 だが、それでも。

 鍵を破壊するということは、その進化の可能性を閉ざすということになる。

 今まで自分が数多の世界で行ってきたこと。

 どれも――手遅れの状態になってから引き起こしたことだった。

 あるいは、あと一回分くらいのやり直しが出来るかどうかの瀬戸際の……。

 自分のやってきたこと。

 それはどれも、まるで意味をなさない。

 鍵に対しても、娘に対しても。

 生命そのものを冒涜するに他ならない行為だった。

「篝……」

 おまえは……。

 鍵として、俺を見ていたのだろう?

 なぜ生かそうとした?

 なぜ残そうとした?

 因果を収束させてまで……。

 こんな記憶。

 残したまま消えてしまうなんて、残酷すぎる。

 あのとき、世界が消えてしまったときに、自らも消えてしまいたかった。……おまえと共に。

 泣きたいのに、涙も出てこない。

 心は乾いて砂漠のよう。

 このまま枯れ果てて消えてもいい。

 そう思っていた、そのとき。

 思ってもいない存在が――現れた。

 

 

 

 

 

 

「朱音……さん……」

「なんて顔をしているのよ、瑚太朗」

 朱音は。

 部室の扉を開けるなり、開口一番に毒舌を吐いた。

 机の上を見る。

 そこにあった朱音の命の欠片は、いつの間にかなくなっていた。

 だが。

 彼女を蘇らせた覚えはない。

 むしろ命の気配のままでいて欲しかった。……なのに。

「なんで……」

「さあ。おまえの仕業でないことだけは確かね。ここにいる私はただの幻。そう思いなさい」

 幻がそんなはっきり言ったり見えたり、あまつさえ肉体を持ったりするか?

 そうは思ったが、しかし。

 彼女ならばそれもあり得るかもしれないと、諦めにも似たため息をついた。

「相変わらず失礼な男」

 朱音はソファに座って腕と脚を組みながら呟いた。

 その傲岸不遜な態度が懐かしい。

 思わず肩でも揉みたい気持ちになってきた。

「あなたはどの時点での朱音さんですか」

「どの時点というのがどういう定義かにもよるけれど。……そうね。その呼び方がムカつくから学園にいた頃でいいのではないかしら」

「では会長で」

「そうしてもらえると有難いわね」

 打てば響くような会話。

 そのすべてが、もう二度と取り戻せない過去なのだと気づく。

 懐かしさと寂寥がせめぎ合った。

「朱音さん」

「……わざとなの?」

「やっぱり俺にとってあなたは朱音さんだから。それに二人きりなんだし、いいでしょう」

「それ以上近寄ったら殺すわよ」

「何もしやしませんよ。肩くらいは揉んでもいいと思ったけど」

 朱音はぷいっと顔を背けた。

 ……可愛いな。

 そう思ってしまったあたり、やはり自分は朱音には弱い。

「あなたにこんなことを言っても、仕方ないことですけど……」

 言うべきかどうか迷う。

 だけど。

 自分一人の胸におさめておくには、あまりに事態は深刻だった。

「俺を消す方法、知ってたら教えてください」

「…………」

「朱音さんなら知ってるんじゃないですか」

「仮に知っていたとして。おまえはそれでいいの?」

「なにがです」

「おまえの娘がおまえを残した意味を、知るのが義務なのではなくて?」

 目を見開いて朱音を見た。

 この朱音は……どこまで知っている?

「言ったでしょう、私は幻。鏡のようなものよ。こうして千里朱音の姿を借りてはいるけれど。……で。おまえはそれを知らずに消えてしまってもいいと、そう思っているわけなの?」

 朱音の言葉に。

 胸の中から溢れるものがこみ上げてきた。

 彼女は自分を映し出す鏡のようだった。

 だから。

 もう素直になってもいいと思った。

「……もう一度」

 枯れていたはずの涙が。

 一滴(ひとしずく)。

 零れて、落ちてきた。

「篝に……会いたい」

「…………」

「俺の娘に……会いたい。消えてしまったなんて認めたくない。彼女に会って確かめたい。どうして俺を残したのか……」

「無理ね」

「……あっさり言わないでください」

「おまえの言うそれは、ただの無いものねだりよ。子供の我儘と同じ。……そうね。ひとつだけ教えてあげる。おまえには貸しがあることだし」

「貸し……?」

「おまえが知っている朱音という女はね、ものすごく嫉妬深いの。世界の理すらおまえと引き換えにするほどに」

 瑚太朗は目を瞬かせた。

 意味が……よくわからない。

 だけど。

 朱音の言葉をただ大人しく聞いていた。

「瑚太朗。いつか私が言った意味を、もう一度よく考えて御覧なさい。おまえはこの世界にすべての記憶をもってよみがえった。それはおまえという因果そのものを抱えこむ結果になったけれど……」

 朱音が瑚太朗に近づき、唇に指を押しあてた。

 その感触は。

 いつか鍵に触れたときと――同じ。

 暖かい指、だった。

「それは瑚太朗にしか持ち得ない力。彼女はそれを知っていた。おまえに生きていて欲しかったから」

「…………」

「おまえは世界の矛盾を背負った。だけどそれは、おまえの内部だからこそ出来たこと。その意味をもっと深く考えなさい」

「朱音さん」

「なによ」

「抱きしめてもいいですか」

「嫌に決まってるでしょ」

「……つれないな」

「おまえが本当に抱きしめたいのは、私ではないでしょう?」

「……そうですね」

「じゃあ、もう行くわね。……そうそう。あまり娘を苛めるんじゃないわよ。SERO規定を解除しても逮捕フラグは立つから」

「殺戮サバゲーオタクに言われたくないけどな」

「口の減らない……」

 朱音が部室の扉から出るのを見送った後。

 瑚太朗は涙を拭いて立ち上がった。

 もう迷わない。

 決意は二度と揺るがなかった。

「守るって、誓ったんだ」

 最初からそうだった。

 それを思い出しただけだ。

「――篝を」

 自分のなかに燈るともし火を、もう一度深く、確かな想いとともに噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

to be continued……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。