【Rewrite】星の階(きざはし)を昇った先に 作:千月華音
瑚太朗は一瞬、絶望した。
それは――ほんの一瞬。
だが……。
「……っ!」
理性で食い止めた。
時間にしてコンマ数秒。針の先ほどの穴しかない。世界に流出した波動はないはずだ。……おそらくは。
篝を抱きしめる。
彼女は震える吐息で口づけを求めていた。
それに応え、激しく唇を重ね口の中を熱さと水音で犯しながら、心の中は猛烈な勢いで考えを巡らせていた。
動揺を見せてはいけない。
彼女に不審に思われてはいけない。
それのみを念頭に服の中に手を差し入れ、ドレスをたくし上げ、下着の中に指を滑りこませていく。
シルクの柔らかな下着。瑚太朗のために用意してくれたのだろう。本当なら興奮のあまりどうにかなりそうなほど嬉しいはずなのに。
今は彼女のそんな心遣いのすべてが、哀れに思えてならなかった。
(俺が……篝を……変えてしまった)
すでに変わってはいたが、事はそれほど単純ではなかった。
篝を人間に堕としめた。
その罪の重さたるや今までの比ではない。
生命そのものの危機だ。
落ち着いて考える必要がある。
彼女の反応をひとつひとつ、何ひとつ見逃さないよう注視する。
そのどこかに解決の糸口を探る。……それしかない。
まだ絶望と決まったわけじゃない。
残されている部分があるはずだ。――篝そのものの本質が、必ずどこかに。
「……んっ、……んぁ……」
と思った途端。
篝の喘ぎ声に目の前が真っ暗になった。今まで聞いたことがないような甘い声。
それは人間の女そのもの。
今まで彼女は、どんなに感じても機械的な声音しか発しなかった。
機械的というか、……数値的な。うまく表現できないが。
それを虚しいと思っていた時期が俺にもありました。
だが、事ここに至ってはもはや、それを取り戻す術を強く欲する。
……頼む。
(元の篝に……戻ってくれ)
膣内を掻き回す。
内部は濡れて瑚太朗を求めて蠢いていた。遠慮せずに突き挿れる。そのまま彼女をドレスをたくし上げたままテーブルの上に押し倒した。
篝の手がテーブルクロスを掴み、食器が重なる音が食堂に響いた。
「あっ……! あぅ……っ!」
激しく突く。動く。掻き回す。
いつもより性急に行為を進めた。焦っていた。反応をすべて見たかった。もう前戯などどうでもいい。とにかく探る。それしかない。
篝の中が普段より熱く濡れてきた。やはり乱暴なくらいなほうが彼女は感じやすい。こんなこと今までするつもりもなかったけど。
そうも言ってられなかった。
篝の唇を奪いながら、突き動かす間隔を短くしていく。絶え間なく子宮口に与えられる刺激に涙すら浮かべて篝は感じ入った。……涙。こんなものも、今までありえなかった。
行為を深めれば深めるほど答えが見つからなくなっていく。
誰でもいい。教えて欲しかった。
(小鳥……)
かつての並列世界において小鳥と結ばれたときがあった。
めちゃくちゃなプロポーズをして受け入れてもらえて嬉しくて、結婚して、毎日が幸せだった。
幸せすぎて調子に乗りすぎたことも。
変態的な夜の営みに、小鳥は泣いて嫌がったけれど、結局許してくれた。
そのときは小鳥もそういう趣味が好きなのかと思ったけれど。
そうじゃない。……彼女はわかっていた。
俺が本当に求めていたのは、小鳥から得られなかったもの。彼女の――本質。彼女そのもの。
そんなもの、どうやったって与えようがない。与えられるものでもない。人の中に隠されている奥の奥、精神のさらに奥に潜む正体不明の実存意識とでも呼ぶべきそんなもの、自分にすらわからないものを、ましてや他人になんて与えられるわけがない。
それを俺は小鳥に求めた。
無意識にだろうが。
彼女はそのことをわかっていながら、俺を恐れようとはしなかった。――強い女だ。今にしてそう思う。
小鳥……。
どうすればその強さを得られる?
おまえが俺を恐れなかった理由。
それほどの想いを、俺に抱いてくれていたと……。
そう自惚れてもいいのか?
(なら……)
篝の本質。
篝を想う、正体不明のこの飢餓にも似た強い渇望。
これを見失わなければ。
彼女の本質を見出すことが出来るのか。
小鳥にすら出来たことだ。俺に出来なくてどうする。
「篝……」
絶頂に震える篝を強く抱きしめ共に昇りつめながら、愛しさが溢れてこみあげ、とどまることを知らなかった。
中はまだ求め続けていた。
緩くではあったが動きを止めないまま、彼女の尻穴に指を入れる。
「……っ?!」
そこを使ったことはなかった。
人間に擬態するのならば必要のない器官。……だけどあるということは使えるということ。
篝が目を見開く。それに微笑んで優しくキスをし、テーブルの上に置いてあるドレッシング用のオリーブオイルに手を伸ばした。……ここが食堂でかえって良かった。
痛みは与えたくない。
両手にオイルを塗って押し広げるように尻を掴み、指を少しずつ潜りこませた。膣内の動きの反応に細心の注意を払いながら。感じれば必ず変化がある。
篝が怖がって首に縋りついてきた。リボンが不審な動きを見せる。……だが慌てるな。快楽はすでに感じている。攻撃はないはずだ。
彼女の額や首筋に落ち着かせるようにキスをし、子宮口をコツコツと刺激しながら尻穴の指を増やしていった。
次第に拡がりをみせ、篝の熱い吐息が両方の穴で感じていることを示していた。
……いける。
そう思った直後、膣から自身を引き抜き、一気に尻穴へと埋め込んだ。
「……っ、…………っ!!」
未知の感覚。それに言葉を失っていた。
微かに……。
篝の罵声が聞こえた。遠くから。心の中に。
(聞こえる……)
本気で怒ったときの篝の声。
聞いたことがある。そう、あれは……初めて篝と繋がったとき。
あのとき聞こえた罵声が、そもそもの、本気で彼女に恋した瞬間だった。
「はは……」
我ながら。
怒鳴られて、怒られて、好きになるなど、変態としかいいようがない。
だけど。
それが本来の自分の姿でもあった。
「篝。……ほら。……奥で、ちゃんと感じるだろ?」
泣きたくなるほど嬉しかったが、あえて誤魔化すかのように、さらに彼女の怒気を募らせることを言った。
篝の表情は、やはり少しだけ怒っていた。
……戻ってきた。
このまま、後ろだけで感じるまでやろう。
「じゃあ、いくから……掴まって」
突き挿れ、腹の中を思うさま動かす。
篝が感じる部分――子宮にあたるよう、棹を縦横に動かした。そのたびにビクビクと痙攣する。
篝の膣は、触れてもいないのにぐっしょりと濡れて洪水のようだった。
こんな体勢でなければ舐めて吸い上げたい。
だけどそこには触れず、ひたすら腸壁を刺激し続けた。
「……っ、……! 瑚…っ、太…朗……っ」
「なに……?」
「っっ……、……ぅ、……あぁっ!」
「なに言ってるのか、聞こえない」
人間になんか、戻さない。
(俺が欲しいのは……)
生命そのもの。
篝そのもの。
贅沢なんだ。
もう普通の女なんか、欲しくない。
君のすべてが欲しい。
だから。
「好きだ……」
誤魔化すように、告白した。
食堂はひどい有様になっていた。
食器は落ち、割れ、油やら調味料が辺りに散乱。それを無視して篝を抱えあげる。
せっかくの豪華なメイド衣装が精液と油と体液塗れになってしまい、少しもったいない気がしたが、脱がせて裸にした。
彼女を浴室へと運ぶ。
篝が気がつけば身体の汚れなど分解するだろうけど、今は気を失っている。自分で洗いたかった。
ちはやの家の広い浴槽へ、彼女とともに入り、手で優しく汚れを落としていった。
考える。
篝が人間に近づいたのは、間違いなく自分のせいだろう。
恋をしたから……?
それだけじゃないはずだ。
人間の感情に興味を持つことはあっても、それは知識としての興味。篝は――というより生命は、生存するという本能によって成り立つ。恋や愛といった人間の生殖本能が持つ感情に、興味を抱くのはごく当たり前のことだ。
だから篝自身が恋に本質を見失うことは本来ありえない。
ならば、なぜそれが起きた?
原因はやはり自分しか考えられない。だが恋以外で思いあたることがない。
考えるんだ。必ず重要な要素をどこかで見逃している。
(俺の本質……)
生命と対を成す存在。
それと深く関わる何か。
おそらくそれだ。それが篝の生命としての機能を一部喪失させた。能力喪失といってもいいかもしれない。
能力……喪失。
(まさか……)
たったひとつだけ、あった。過去に同じことが。
だが。
果たして本当にそんなことが……?
(確かめる手段はひとつしかない)
もう一度朱音に会わねば。
会って問いたださないと。……果たして言うかどうか。
だが――篝の存在そのものの危機だ。
手段を選んでいる場合じゃない。
たとえ……。
(陵辱しようと……)
篝を抱きしめる。
彼女を守る決意を、再び強く意識して――。
to be continued……