※この作品はR-18です。

【Rewrite】星の階(きざはし)を昇った先に   作:千月華音

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第三十七章:階の果て

 

 

 ――ねえ、瑚太朗。

 

 

 声が聞こえた。

 これは……かつて聞いた、ちはやの声。

 

 

 ――瑚太朗は……間違わないでくださいね。自分の信じた道を。

 

 

 ……ごめん。ちはや。

 間違っているとは思わないけれど。

 これで正しいかどうかは、正直……わからないな。

 だけど。

 信じられるんだ。

 彼女を守りたい。

 その気持ちは何にも代えがたいものだから。

 

 

 ――瑚太朗は優しいから……。間違うと思うんです。

 

 

 違うんだ。

 俺は、……我儘なんだ。

 全部欲しい。

 全部守りたい。

 だから優しく見えるだけ。

 ……そうか。

 ちはやは、わかってたんだな。

 それは……無理な願いだってことを。

 うん。

 無茶苦茶だよな。

 わかってる。

 でも、――それが俺。

 天王寺瑚太朗なんだ。

 俺は、そんな俺を誇りに思うよ。

 だって。

 大切な人に巡り逢えた。

 それも二人も。

 きっと、……神様が、俺の我儘をきいてくれた。

 俺には過ぎた贈り物だった。

 篝。

 君に、……贈るよ。

 俺の気持ち。

 ラブソングを――。

 

 

 

 

 

 

 その瞬間――。

 丘にいた篝は、手を伸ばした。

「……っ!」

 世界に満ちていた、彼女を脅かした未知のエネルギー。……それが。

 ひとつの収束地点を基点に吸い込まれていく。

 飲み込んでいく。

 一人の存在意識と、ひとつの生命が合わさって。

 全てを包み込んで飲み込まれていった。

 ……間に合わない。

 すべてが手遅れだった。

 気づいたときには。

 彼の存在そのものが消えていた。

「…………っ!!!!」

 彼女の、声にならない慟哭が丘全体を震わせた。

 振動が刃となり、空気が切り裂かれ、降り注ぐ粒子が光の弾丸となって、世界をすべて壊していく。

 崩壊された街も。静かな住宅街も。森閑とした森も。――瑚太朗の家だけを残して。

 ほぼ一瞬で、すべてが崩壊して塵となって消えた。

 丘にいる篝は。

 両腕を下に伸ばし、天に向かって号哭した。

 そして。

 生命すべてを――集約する。

 今まで組み上げ、編み上げていたものすべて。

 それらを分解、解体、破壊。

 なんの意味もない記号になっていった。

 彼女の存在だけが、いまや、ただひとつの生命となっていた。

 そして……。

 生まれ変わった彼女は。

 初めて認識した一個の固有名詞をその口から引き出す。

「……天王寺、……瑚太朗……」

 それだけが。

 今の彼女に残されていた、想いのすべてだった。

 

 

 

 

 

 

 虚数波動。

 それを世界から消すただひとつの方法。

 それは――因果に包み込むこと。

 消すこと自体は出来ない。それはブラックホールのようなもので、一度出現したものは全てを吸い込むまで消滅出来ない。

 だが次元の隙間。

 一枚の紙に空いた穴に素粒子が二つ存在する。

 それは重なり合うことのない分身。

 互いに観測することは出来ない。

 そこが――。

 ただひとつの逃げ場だった。

 観測できない世界であれば、存在自体は消えたも同じ。

 ただし。

 自分という存在を消すことは出来ない。観測者がいなければ世界は成り立たない。

 永遠に存在し続ける。

 おそらくは……。

 意思も意識も、この想いも、すべてを受け継ぐことはできないだろう。

 なんの意味もない存在になっていく。

 時間も現象も事象も、すべて虚無に包まれた世界。

 だが。

 この存在自体に意味はなくとも。

 因果の果て。

 この階の果てに。

 生命が存在し続けていく。

 

 

(行こう……)

 

 

 再び、その階に足を伸ばした。……今度は降りて行くことになる。

 今になって思う。

 ここは生まれる前――命を得る前に、一度訪れた。

 そして篝とともに消滅したあの世界から、再びここを訪れた。

 今度は三度目。

 だから道はもうわかっている。

 辺りは一面の星屑が輝いていた。……綺麗だ。

 あの光のひとつひとつに、生命が宿っている。あるいは宿ろうとしていた。

 見送りには十分すぎるほど。

 振り返らなかった。

 ただ信じた道を歩む。

 前だけを見て。

 何もない、――白紙の世界。

 そこは。

 可能性に満ちている。

 篝が紡ぐ、命の可能性にも似た……。

 

 

(嘘……ついて……ごめんな……)

 

 

 別れは言いたくなかった。

 また逢えると信じたかった。――二度と逢うことはないけれど。

 何が起こるかなど、誰にもわからない。

 可能性って……。

 そもそも、そういうものだから。

 

 

 

 

 ――バカ……。

 

 

 

 

(え……?)

 

 

 拗ねたような声。

 聞き覚えありすぎる声。……幻聴か?

 あまりにも恋しくて、妄想がついに脳を冒したか。

 いや、脳もなにも、今の自分は肉体そのものがないが。

 生前の意識が肉体を錯覚しているだけ。

 ……いかんな。

 今からこんなメンタルでどうする。

 せっかく格好よく決めたのに。

 そうだ、歌でも歌おう。

 小鳥には音痴だと言われ、不評だったが。

 今の自分ならば音程など外さない自負はある。

 せめて……。

 レパートリーもっと覚えておくべきだった。

 なにも浮かばない。

 自作自演はさすがにどうかと。

 篝に歌っていた子守唄くらいしか思い浮かばないなんて。

 

 

 

 

 ――本当に、……バカ。

 

 

 

 

 また……聞こえた。

 涙声みたいな。

 いい加減にしろ、俺。妄想はもうたくさんだ。

 未練なんてもう捨ててきたのに。

 

 

(……えっ?!)

 

 

 背後から。

 抱きつかれた。

 妄想じゃ……ない。

 振り向くと、そこに。

 涙でぐしゃぐしゃの顔をした、篝がいた。

 

 

 

 

 ――置いていくなんて……許さない。

 

 

 

 

 本物……だ。

 信じられない。

 どうやってここに……。

 まさか……。

 まさか、そんなことって……。

 

 

 

 

 ――篝ちゃんは、怒りました。……罰として。

 

 

 

 

 口づけをされた。

 これ……罰になってないんですけど。

 しかも。

 かなり濃厚な……。

 いや、教えた自分が悪いんですが。

 舌を絡め、吸い上げ、吐息と吐息が重なり合う。

 もちろん意識の錯覚だけど。

 幻覚でもほとんど現実と変わらない感触。

 ……眩暈がする。

 何も考えられなくなる。

 こんなの……ありえない。

 だけど。

 きつく、篝を抱きしめた。

 一瞬が永遠になる。

 このまま時を縫い止めたい。

 そう思った刹那。

 

 

(……っ?!)

 

 

 リボンが。

 上空……階のはるか彼方から現れて。

 薬指に巻きつき。

 そのまま、身体ごと持ち上げた。

 

 

(篝……っ?!)

 

 

 彼女は。

 見送るように優しげに微笑み。

 そして――。

 階の先。……最果ての、階下へ向かって。

 飛び降りた。

 なんの迷いもなく。

 

 

 

 

 ――罰として。篝ちゃんを、敬いなさい。そして。……命を。……あなたに託します。

 

 

 

 

 それが最後の言葉だった。

 渦が回る。

 二つのエネルギーが、ぶつかった。

 

 

(篝ーーーーっっ!!!!)

 

 

 絶叫は――。

 もう、どこにも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

to be continued……

 

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