【Rewrite】星の階(きざはし)を昇った先に 作:千月華音
月の光の中。
二つの影が、ゆらゆらと揺れて、水音を奏でていた。
「……っ、――っ!」
声にならない声が空気を震わせるたびに、草花が散っていく。
掴まるものすらない彼女の手がヒナギクを毟り、その手に指を絡めていく。花を散らすくらいなら自分にしがみついて欲しかった。
「くっ……、篝……っ」
何度も名を呼ぶが。
彼女から聞こえるのは意味不明な音ばかり。……いや。
酷い頭痛に悩まされていた。
(頼むから……)
頭の中に直接、圧縮された言語を叫ばないで欲しい。
針で刺されるような脳髄の刺激。
篝の言語が数億から数兆ほどの罵声を圧縮、そして海馬へと直接送りこまれている。
それが行為の間中、ずっと続いていた。
これに耐えられるのは世界広しといえど自分しかいないだろう。……自慢にもならないが。
だが――。
(やめようとしたら……)
殺されてしまう。
さっきからずっとリボンが狙っていた。
少しでも動きを止めようとすると篝に挿れている入口がキツく締まり、その動きにあわせてリボンが何度か襲いかかろうとしてくるので、必死になって避けていた。
今死んだら復活出来ないのだと何度か言ったにも関わらず。
理性と本能は別ということらしい。
だから彼女の絶頂が終わるのをこうして導いているのだけど。
終わる気配がなかった。
正直、どうすればいいのかわからない。
快楽を覚えてしまった篝の、果てしない知識欲が瑚太朗を苦しめていた。
「 ……、 っ!」
この音……。
どう表現すればいいのか。さっきからずっと篝の口から漏れている。
どうやら知らない刺激を感じることで発する音のようだが。
音なのか、声なのか。……喘ぎ声には聞こえない。
なんとなく虚しさが漂っていた。
まるで感情が伝わらない気がして。
愛し合ってるはずなのに。
彼女は、愛を分析してしまう。
快楽を信号や記号に変換してしまう。
人間ではない存在だから――。
わかっている。
わかっているけれど。
「…………」
強い渇望が溢れ出す。
彼女を何も考えられなくしてやりたかった。
解析など出来る暇すら与えず……。
この罵声も。
叫ぶ余裕すらなくしてやりたい。
辛いとかキツイとか、そういうこともどうでもよくなった。
ただ彼女が……欲しかった。
「――っ……っっ!!」
何度目かのオーガズムの果て、篝は背を捩じらせて地面の花を握り潰した。
そのビクビクと痙攣する背を優しく抱きあげ、自身を抜き、正面を向けさせる。
汗で濡れた額にかかる前髪をかきあげ、こめかみや瞼にキスを落とした。
唇を求める彼女の誘いを無視して。
頬、耳、うなじ……。感じる部分だけを吸い上げ、絶頂の余韻を続けさせていく。
篝が続きをねだって腕を首にまわしてきた。
(欲しいなら……)
「……自分で入れて」
優しく囁くと、篝は意味がわかったのか、わなわなと唇を震わせあらん限りの罵声を脳髄に染み込ませてきた。
いつまで経ってもその拷問は慣れないが、あえて表情には出さない。
篝が自ら挿れるまで動くつもりはなかった。
「騎乗位って……知ってる?」
問いかけると。
不思議そうな顔で見上げてきた。耳元で囁く。――すると。
バンバン、と胸を強く叩きつけてきた。
そんな真似できるかと言いたいらしいが、別に珍しい体位じゃない。だけど。
今まで篝からしてくれたことは一度もなかった。求めることは数えきれないけど。
欲を言えば篝に自分を愛撫して欲しかったが……。
そんな贅沢は言わないから。
「篝……。もっと気持ちよくなりたいだろ?」
彼女の知識欲を刺激する。
卑怯だとは思うが、そうでも言わないとやってくれそうもなかった。
快楽の真髄を教えてあげる。
そう囁くように呟くと。
篝の瞳が、――期待と未知への欲求に輝いた。
本能に忠実な篝。
それに苦笑するも、口元の端が嬉しくて歪んでしまう。――想いが、共有する。
かつて愛したもう一人の篝と。
二人とも愛している。
別の存在なのに、想いがまるで同じ。
不思議だった。
だけど、……幸せを感じていた。
「ここに、跨って。自分で……動いて」
篝は。
少し躊躇いを見せたが、快楽への欲求には勝てず。
おずおずと股を開き、導かれるように男根を膣の入口へと当てた。
そして撫で擦り、その固さと熱さに抗えなくなったかのように。
ゆっくりと、……自ら招き入れた。
「…………、……っ」
自分で挿入する感覚に、新たな悦楽を感じているようだった。彼女の吐息が断続的に荒くなる。
それを眺めているだけで……。
たまらなくなる。
膣内はずっと痙攣しっ放し。瑚太朗をキツく締め上げ、生き物のように蠢き、必死になって根元を制御していた。……多少能力を使いズルでもしないと持たない。
篝は両手を瑚太朗の腹に乗せ、上下に少しずつ動かしていた。
襞の捲れ具合から彼女の感覚が伝わってくるようだった。まだ……夢中になっているわけではない。
ならば。
片手で篝の胸を鷲掴み、引っ張るように揉むと、ビクン、と背を逸らして一気に奥まで到達した。
「~~~っっ」
ジワリと染み渡る感触。達してしまったらしい。
だがそのおかげで動きがスムーズになったのか、先ほどより腰の動きが早まった。
彼女の胸を揉みながら、空いた片手を使って細い足首を掴む。
そのまま片脚を広げさせた。
篝があまりの格好に脚を閉じようとする。
だが許さず、両足を限界まで広げると――。
もう、篝は……膣全体で感じる瑚太朗自身に、抗うこともできず。
深く繋がろうと腰を押しつけてきた。
「篝――可愛いよ」
褒めても彼女は何も答えないが、ただひたすら、手と腰を使って挿入を繰り返していた。
このまま篝が自分で絶頂に導くまで見ていたい。
と思ったけれど……。
あまりにも可愛い。我慢できなかった。
必死になって動かす篝の双丘と腰を、つい掴んで手助けしてしまった。
水音が激しくなる。繋がったところから、篝の愛液が零れて、注いだ精液が零れて、……それが。
月の光に照らされて輝いていた。
性の営みなのに……。
神々しさすら感じる。
彼女と繋がり、彼女が自分を求めてひたすら動く、そのすべてが。
一種の儀式のような感覚をもたらしていた。
「篝……」
こういうとき、普通なら。
愛の言葉のひとつでも囁くものなのに。
出てくるのは彼女の名だけ。……でもそれは名ではなかった。
生きる意味のようなもの。
だから、それだけで十分だった。
腰を回す。
彼女の感じる奥へと突き入れる。
一連の動きが、篝を次第に夢中にさせていき、――そして。
空気を震わせるような振動が、彼女の口から丘全体を包み込んでいった。
「……っ?」
それは……。
虹色の波動だった。
生命の叫びのようなものが、いま、彼女を通して溢れ出てきた。
瑚太朗との繋がりによって。
(な……に……が……?)
混乱してしまった。
何かとんでもないことをしてしまったのでは。
だが篝の動きはとまらない。むしろ激しさを増していた。
それに抗う術もなく。
起き上がって彼女を抱きしめて。
子宮口を突き破って最奥で熱い飛沫を解き放った。
「篝。……篝。……大丈夫か?」
心配になって覗き込んだ。
篝は。
にっこりと微笑むと、そのまま瑚太朗に口づけた。優しく、満足気な顔をして。
頭の中に――声。
圧縮された言語ではあったが。
それは感謝を意味する言葉だった。
「なんで……?」
何が起きたかよくわからず、混乱したように戸惑う瑚太朗に――篝は。
くすくすと面白そうに笑って、瑚太朗の顔を手で撫でまわし、キスの雨を降らせていた。
繋がり合う二人から少し離れた、丘の上。
篝が紡ぎあげている理論の一部が――。
新たな枝を、その片隅から伸ばしていた。
end
本編でカットしていた部分を書き直してみました。
カットしたのはネタバレになるかなーと。「喪失」まで篝の声を出したくなかったもので。
あと最終話に繋がる部分もあるので……。まあ、それはこの時点ではよくわかりませんが。
ご想像にお任せします。うまく説明できそうもないです。
番外編はこれで終わりとなります。
引き続き、本編の幕間となる残り2話(18禁)をよろしくお願いします。