※この作品はR-18です。

【Rewrite】星の階(きざはし)を昇った先に   作:千月華音

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なろうサイトに投稿したものですが、こちらにもあげておきます。


番外編:夢と幻想と月語り

 

 

 

 遠くからその異様な光景を見た瞬間。

 嫌な予感がしてその場から逃げようと背を向けたが――遅かった。

 リボンに絡め取られていた。

「…………」

 けっこうな距離があるのに長いリボンですね、それ。

 と思ったが引きずられるように丘の上へと運ばれていく。もう慣れっこになったとはいえ……。

 物みたいに扱われるのは勘弁して欲しかった。

 篝はほぼ一瞬で瑚太朗を傍に引き寄せると、そのまま隣に座るよう促し、続きをねだってきた。

 彼女はうつ伏せの状態で、リボンに肩叩きをさせていた。

 どうやら、腰と背中を揉んでくれと言っている。

「はいはい」

 誰のせいでこうなった、というかのように睨みつけてくる。

 かなりお疲れでご機嫌ななめのようだった。

 心当たりがありすぎるだけに何も文句はいえない。

 大人しく彼女の背中をマッサージした。

 ……かなり凝っているようだった。

 やはり固い地面の上とか、この理論マットの上とか、木で立ちバックとかしたのがマズかったのか。

 だから何度も自宅に誘っているのだが。

 篝はこの場所からあまり動こうとしないので(正確には丘の周囲2km圏内)どうしてもここでしてしまう羽目になる。

 そもそも性行為などする身体ではない。

 何度もしてみてわかったことだが、毎回彼女は処女だった。

 それどころか行為の最中もたまに処女に戻ってる。

 破瓜の瞬間が癖になってしまったようだ。

 何度も張り直すのをみて、さすがに呆れてしまい一応問いつめたが、それのどこが悪いとでも言うかのように睨みつけられた。

(そういうことをするから……)

 反動が腰やら背中やら肩やらにきている。

 性行為に合わせて身体を作り変えているが、やることしか考えてないから、やった後にどうなろうがお構いなしのようだ。

 ずぼらなのか、マニアックなのか。

 もう少し自分の身体をいたわって欲しかった。

(いや……。俺が控えればいいのか……?)

 今までの無茶ぶりなセックスを省みる。

 篝にしか耐えられないようなことまでやっていた。

 彼女が求めてくるから応えていたら、自然とそうなっていたのだが。

 というか……。

 篝相手だと抑えがきかないというか。

 なぜなのか、以前も不思議に思ったことがある。

 別に彼女を壊したいわけじゃないのに。

 むしろ癒したいと思ってるのに。

 なぜ激しくなってしまうのか。

(わからん……)

 腰を強く揉む。気持ちよさそうに吐息をもらした。

 これは相当疲れている。

 なんとか彼女の身体を復調させてあげたい。

 生命力のほうは徐々に回復しているようだが。

 体力のほうはだんだん落ちてきている。筋肉や骨組成の問題ではなく、篝が過激な性行為を求めて改造しまくるせいだ。

「…………」

 慰安する必要がある。

 篝がどう言おうが、過ぎた行為は毒になるのだと教え諭さねば。

 確かに自分も癖になりつつあったが、もはやそうも言っていられない。

 もっと別の形で、彼女を満足させてあげる方法はないものか……。

(そうだ……)

 記憶の中に、手掛かりを見つけた。

 ちはやと温泉旅行に行ったことがある。

 新婚の頃だから新婚旅行か。あのとき、二人でかなりいちゃついていた。

 それを再現してみてはどうか。

 しかし篝はここからなかなか動かない。

 ならば、――ここで。

 月を見上げた。

 指先を宙に躍らせる。……アウロラを引き寄せてみた。このくらいあれば作れそうだ。

 どうせ幻想だ。それほど本格的にしなくてもいい。

 篝を見ると、うとうとと気持ちよさそうに眠っていた。

(そのまま眠っててくれよ)

 頭の中でイメージする。

 ――すると。

 篝が寝ている場所はあのときの温泉旅館の高級和室に。

 辺りの景色は純日本風家屋の寝殿造りに。

 そして。

 丘から少し離れた場所には広々とした露天風呂と、日本庭園が広がっていた。

 もちろんそれらはすべてまやかしだが。

 瑚太朗が幻だと意識しない限り、それらは現実となって体感できるようになっていた。

 篝が満足したら一夜の夢幻にするつもりだった。

「さて……」

 篝の姿を変えてみる。

 あのときちはやが着ていた単衣の寝巻き。そして自分もお揃いにした。

 目が覚めないように抱き上げる。

 そのまま部屋から出て、下駄をひっかけて露天風呂へと向かった。

 月明かりが綺麗な夜。――あのときとまるで同じだった。

 我ながら。

 再現力の高さに惚れ惚れする。確かあのときも貸し切りで。

 まあ、今回は篝を癒すのが目的だから。

 それにこれほど濃いアウロラの幻想夢だと、篝も酒に酔ったように酩酊するだろう。抵抗できまい。

 とにかく、優しく抱きたかった。

 気持ちよくなれる別のやり方もあるのだということを教えてあげたい。

 改造などしないよう注意を払わねば。

 露天風呂に着くと。

 寝巻きのまま湯へと入った。時間が経つと溶けて消えるので問題ない。

 湯加減はあのときと同じ。思わず目を閉じた。湯の組成も効能も再現してある。……久々にくつろいだ気分。

 篝を見下ろすと。

 まだ眠っていた。まさかまた改造してないよな、とゆっくりと指を膣内に忍ばせると……。

 膜があった。――また作ってた。

 ……仕方ない。眠っている間に入れてしまおう。

 衝撃で起きないように慎重に……。

 ゆっくり、ゆっくりと……篝の中を進んでいく。膜に突き当たると、ちょっとだけ躊躇い、そして一気に奥へと突き破った。

「……」

 篝の目がわずかに開いたが、よほど眠いのか、そのまま身体の力が抜けてまた眠りに落ちた。

 ホッとする。

 膜が破れた衝撃でも起きないとは……。助かったけど。

 そのままジッと篝の中にとどまった。

 湯の中がわずかに赤くなる。その成分を消去した。彼女は処女ではないのだから、血など流れなかった。証拠隠滅。

 あとは子宮をこれ以上改造しないようにしないと……。

 とにかくひたすら愛撫するしかない。どうせ途中から求めてくるが、愛撫だけでイかせてやるつもりだった。

 そうしないと本当にエンドレスで激しくなる。

 この湯には篝を酩酊させる成分が含まれている。騙すようで気はひけるが薬でも用いないと……。

 単衣の中に手を潜りこませる。

 湯の中で柔らかく揉みほぐして、彼女の腰を撫で擦った。まだ凝っているのでマッサージしながら優しく撫でていく。

 すると……。

 少しずつ、身体の強張りが解けていった。ほぐれていく。やはり湯が決め手だったようだ。湯治なんてあまり信じていなかったけれど、これほど効き目があるとは思わなかった。

 繋がったままマッサージしていくと、自然と自身が膨らんでいった。

 だけど動くまい。彼女の中は柔らかくて気持ちいいが、彼女自身に気持ちよくなってもらわないと意味がない。

 このまま完全に強張りが解けるまで愛撫していきたい。

 篝の頬が次第に赤く染まっていった。

(そろそろ起きるかな)

 できるだけ刺激は与えないようにしている。だけど膨らみつつあるソレが彼女の感覚を覚醒に導いていた。

 抑えることもできるけど……。

 このまま。

 目覚めたときに達して、彼女に口づけて酔わせたい。

 篝は、両足をもぞもぞと動かして、中にある固いものを押し出そうとしてきた。

 そして。

 ほんの少しだけ、動いた。

「……っ」

 中の襞を絡める程度の動き。だが彼女の内部が激しく収縮した。

 そして目が覚め、自分の今の状況に混乱している彼女の隙を狙って、背後から唇を奪った。

「っ、! ……っ」

 背後から胸を鷲掴みにして抱きしめている。単衣はもうあちこちが破れかけ、溶けかけて、あられもない姿。

 篝は湯から漂っている神経系麻痺の成分に戸惑っていた。だが身体が痺れて言うことがきかなくなっている。口づけに抵抗することもできなかった。

 繋がっているそこから、彼女の性欲が伝わってきた。

 もっと奥を突いて欲しいと疼いている。……悪いが、今回は諦めてもらう。

 回すようにグリグリと動かし、中で少しずつ出していった。

「~~っっ」

 そこじゃなくて、もっと奥で――、と足を動かして訴えている。だけど、湯が入る感覚で膣内全体が性感帯のようになっていた。わざとそういう湯の成分にしたわけだが。

 入口付近で出された精液すら、彼女の欲求を満たすには十分すぎる熱だった。

「……」

 陶酔しているようだった。

 とりあえず目的は半分達成されたといっていいだろう。

 口づけながら愛撫を繰りかえしていく。篝は拒むこともなく身体全体を預けてきた。

 だが――。

 中の子宮が、下りてきた。

(……性懲りもなく)

 また改造した。しかも……入れやすいように入口を開けて。

 中にいる瑚太朗を招き入れようと亀頭の先を突いている。いつもここで突っ込んでしまうから行為に歯止めがきかなかった。

 無視することにした。

 子宮口の先端だけを揺らすように当てるにとどめ、波打つ膣内だけを動かした。ほとんど刺激らしい刺激はないが、これで満足できるようになるまで、根気よく続けるしかない。

 それを分かって欲しかった。

「篝。……あのな。この温泉。俺とちはやが新婚旅行で行った場所なんだ。それを再現したんだよ」

 篝は何を言っているのかよくわかってない表情を浮かべた。

 こんなこと言っても意味ないのはわかってる。

 だけどこれ以上改造して行為を激しくしないためには、たとえ可能性は低くても言わないよりはマシだった。

「当時は貸し切りでさ。俺とちはやしかいなかった。二人きりで入ってた。当然、中でそういうことをやったわけだが……」

 篝の耳たぶやうなじに口づける。

 感じる部分を優しく撫でるように愛撫した。

「ちはやのやつ、湯が汚れるのが嫌だって言って、中に出したままずっと抜かずにいたんだ。――で、だな。その状態のまま何回も達した。ほら、水圧があるから入れたままだと零れないんだよ。当然動くと零れるから、動かなかったわけだが」

 篝の目が、だんだん見開かれていった。

 何をするつもりなのかわかったらしい。

「――そう。抜かなくても、動かなくても、イくことはできるわけ。繋がったまま愛撫しあうだけでいい。大丈夫。篝はなにもしなくても、俺が気持ちよくさせるから。気づいてると思うけど、この温泉、媚薬と弛緩成分含まれてるから」

 篝はわなわなと腕を震わせ、リボンを動かそうとしてきたが。

 湯の中で萎びたように垂れ下がって言うことをきかなくなっていた。

「もうだいぶ効いてるみたいだから、これ以上改造できないからな。したとしても付き合うつもりはない。……篝。疲れてるんだから無理するな。治してやりたいだけなんだ」

 バシバシと胸を叩いてくる。

 そんなの知るかと言いたいのだろう。……困ったものだ。

 篝が腰を揺らして押しつけてくる。子宮に入れろと誘っていた。

「……駄目だ」

 唇を尖らせる。

 もう中途半端な刺激ではイけないと言っていた。――少し反省する。そんなふうにしてしまったのは他ならぬ自分なわけで。

「何も考えなくていいからな」

 彼女と繋がっている接合部に触れ、膨らんでいる芽を軽く摘みながら、優しく乳輪を撫であげた。

 足りないと目が訴えている。涙目になっていた。

(なんとか足らしてくれ……)

 ちはやと愛し合った記憶を頼りに、篝をひたすら愛撫した。とにかく気持ちよくなってもらえれば。満足さえしてくれれば。

 媚薬を打ち消そうとしているが、愛撫に夢中になればそんなこともしなくなる。

 それまで息子がもつかどうか。

 また出したくなっていた。

(あんまり出しても……)

 イくなら篝と一緒にイきたい。

 それまで我慢だ、我慢。とにかく彼女を極めさせねば。ひたすら撫でながら膣内の感覚に集中した。

 彼女の脚を限界まで開かせてお腹の上から入っている自身を押しだすように撫であげた。

 篝の吐息が熱くなる。

 外側から与えられる刺激がもどかしいのだろう。撫であげる手の上に彼女の手が重ねられた。止めたいのか促しているのか。

(今までしたことなかったけど……)

 卑猥な言葉責めでもしてみるか。

 だが篝にあまり効果ないような気がする。そもそも羞恥心がないわけで。

 言えば軽蔑されるだけだ。やめたほうがいいだろう。

 どうすればいいのか……。

 ちはやは自ら求めてくれたから高めあうのに時間はかからなかった。今回の場合は合意ではないのでそれに期待はしていないが。

 篝はまだ垂れ下がってる子宮を揺らして、入れろとさっきから促していた。なかなか諦めてくれない彼女にため息が出る。

 媚薬も弛緩剤も篝にはあまり効果ない。普通の人間なら正気を失うほどの量だが……。

 彼女の底無しの本能に脱帽する。

 とにかく。

 篝を満足させるために出来ることを考えながら愛撫を続けていた。

(篝の本質……)

 それを刺激すれば、あるいは。

 生命を存続させること。それが篝の目的で存在意義だが。

 どうも難しく考えすぎて行き詰まっている。こうやって性行為に溺れているのも生存本能が刺激されているからだろう。生命力の発現ともいえる力を分け与えられ、それを貪るように吸収しているのは、行き詰まった進化の可能性を見出そうとしているから。

 つまり……。

 未知の可能性。

 これを刺激すれば篝に満足感を与えられるのではないか。

 快楽を究極まで追い求めようとするのはその現われであって。こういう行為に限界というものは本来ないから、やろうと思えば身体を壊してでもやり抜こうとしてしまう。

 人間同士だと愛情を確かめあえばある程度満足感は得られるけど。

 篝相手だと愛情とかではなく……。

(難しく考えすぎてるのは俺のほうか)

 愛撫に身悶えしつつも必死に膣内を動かして求めている篝。

 快感という本能だけを追い求めている彼女に、何を与えればいいのかなどわかりきったことだった。

「篝。……出して欲しいなら」

 彼女の耳を甘噛みしながら低い声で囁く。

 その言葉に。

 屈辱を堪えるかのように唇を噛み締めて震えたが、内部で注がれたい欲求には勝てなかったらしい。

 篝は、……渋々と。

 湯の成分を分解する生体機能を解除した。

「――……ッッッ!!!」

 途端。

 全身が粟立つように鳥肌がたち、苦しそうに荒い呼吸を繰り返した。

 中におさまっている男根をこれでもかと締め上げ、――ビクビクと痙攣して達した。

 達してもなお身体は絶頂を求めて喘いでいた。

 腰を摺り寄せ、足を絡ませて、じんわりと広がる内部の愛液が彼女の絶頂の余波をもたらしている。

 篝は。

 もう――動かずとも、何もしなくても、快楽に身を委ねていた。

(少し効きすぎたか……?)

 でも、これくらいしないと。

 彼女を気持ちよくさせることなどできない。

 こういうズルでもしないと、勝手に改造してでも激しく行為を求めようとするのだから……。

 可愛いとは思う。

 だけど限度というものがある。

 それをわかって欲しかった。

 言ってわかるような相手でもないし、行為でわかってくれるとも思わないが。

 伝わらなくてもこうして何も考えられなくなってくれれば。

 せめて、今だけでも――。

「篝、向きを変えて。……そう、反対側に。君の顔を見ながらキスしたい」

 正面に向き合い、篝の頭を抱えながら抱きしめた。

 求めずとも必死に口を寄せてくる篝に激しく口づけしながら、波打つ膣内のざわめきを感じていた。

 

 

 

 

 

「……まだ怒ってる?」

 畳に額をつけて土下座しながら上目遣いで見上げた。

 浴衣を着せて寝かせた彼女が目を覚ましたと同時に頬をぐーで殴られ、そのまま今へと至る。

 貸し切り風呂だとはいえ、やりすぎた。

 でも。

「……ちはやだって悦んだだろ」

 ぼそっと呟いた言葉のかわりに飛んできたのは、急須だった。

「ちょっ、それ、当たったら死ぬ!」

「いっそ死んでください!」

 ちはやは顔を真っ赤にしてそこらにある物を手当たり次第投げつけてきた。

 お盆、湯呑、灰皿。

 果物ナイフまで投げてきた。殺意を本気で感じた。

「やめろって! 新婚初夜で死にたくない!」

「しょっ……////」

 初夜という言葉に。

 ちはやの手がとまり、目元がうるうると涙で溢れた。

 そのあまりに可愛らしい表情に思わず目を奪われる。

 恥ずかしがっていた。

 だがそれ以上に。

 今がどういう状況なのかを思い知ったのだろう。

(やっぱり……)

 わかってなかった。

 何度もプロポーズしたのに、ちはやは自分が結婚したと思っていなかった。

 いや。

 ちはやらしいといえば、それで。

「ちはや」

「……」

「そりゃ入籍とかしてないけど、俺たち結婚しただろ」

「……してないです」

「どうして」

「咲夜がいますし」

「あいつがいるとなんで出来ないの」

「私の家族は咲夜です」

「俺がいちゃ駄目なの?」

「瑚太朗は……瑚太朗です」

「……ちはや。あのさ。俺はちはやと家族になりたい。ちはやを奥さんにしたい。いやもうしたと思ってる。咲夜の許可もとってる。あとはちはやの承諾だけなんだが」

「だって……私には咲夜が……」

「ちはや。いい加減にしないと咲夜を嫉妬で呪い殺すぞ。じゃあ、こう言えばいいかな。天王寺ちはやになってください」

「いやです」

「ちはや!」

「私は鳳ちはやなんです!」

「じゃあ俺が鳳瑚太朗になるよ。それでどうだ!」

「それならいいですよ」

「……は?」

「それならいいって言ったんです」

 ちはやはにっこりと微笑んだ。

 よくわからないが、つまり。

「婿養子になればいいってこと?」

「瑚太朗が私の家族になるのは、それしかないですから」

「……よくわからんが」

「瑚太朗には魔物使いの才能もありますし、咲夜に鍛えられてますし、ずっと一緒に暮らしてくれるのなら、家族になりましょう」

「……」

 そのつもりだったのだが。

 魔物使いの才能と、結婚と、どういう意味があるのか。

 このときはよくわからなかった。

「じゃあ、その……初夜の続き、しようか」

 ちはやの手を取る。

 少しだけ恥じらいつつも、やっと受け入れてくれたちはやは、今度こそ嫌がらずにその手を握りしめた。

 

 

 

 

 

 今になってわかる。

 ちはやは、――家族を失いたくなかった。

 たった一人の家族だった咲夜。

 結婚するということは、咲夜と離れるということ。

 同じ家に暮らしているのだから、物理的に離れているわけではないが。

 それでも家族の枠組みの中から逸脱してしまうことを恐れていたのだろう。

 現に。

 子供が生まれても、ちはやは妻として母親として振舞うことはなかった。

 彼女はいつまでも鳳ちはやで、……咲夜といつまでもともにいた。

 そんなちはやに――どうしようもなく惹かれていた。

「たぶん、君と同じだからかな」

 愛撫に身悶えしている篝に、昔話のように語りかける。

 絶え間なく押し寄せる快感に、篝はすっかり身も心もほぐされてしまい、今は気持ち良さそうにうっとりとした表情を浮かべていた。

「篝と同じように、手の届かない存在が好きなんだよ俺は。……はは。自分で自分の首を絞めるのが好きとは救えねえ」

 でも。

 人間って、そもそもそういうものだから。

 叶わないから願う。

 得られないから欲しい。

 だから。

 篝を本当に満足させられるなんて、思っちゃいない。

 いいんだ。

 そんな篝が好きだから。

「……え? ああ、うん。はいはい、ちゃんと最後までしてあげるよ。気持ちいいって言ったらな」

 篝はそっぽを向いて、悔しそうに唇を噛んだ。

 いつしか。

 薄桃色に色づいた湯気が辺りをとりまき、ラブホみたいな雰囲気を漂わせていることに、瑚太朗は気付いていなかった。

 

 

 

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