※この作品はR-18です。

オトマリ if   作:浅倉椎

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後編

「「・・・・・・」」

 部屋の中で二人は、布団の上に無言で座っている。時々、相手を伺うように顔を向けようとするが、視線が合いそうになるとお互い顔を赤らめてそっぽを向いてしまうということを繰り返していた。

 

 あの後、小咲は介抱に来た叔母に今気が付いたという体で対応をした。脱衣所を出たとき、心配半分、後ろめたさ半分といった表情を浮かべて待っていた楽と顔を合わせることとなり、反射的に赤面してしまった。二言三言、言葉を交わしたがよく覚えていない。それを見ていた叔母が苦笑いを浮かべながら「若いからって、あんまり無茶をしちゃだめよ」などと言ってからかうものだから、二人は真っ赤になって俯いてしまった。

 部屋に戻ってからも、なんとなく気まずい雰囲気に耐えられなくなり、よく身体を洗ってなかったこともあって、どちらからともなくもう一度お風呂に入ろうということになった。今度は当然、ちゃんと男女に分かれた風呂だ。そして、今に至る。

 

「じゃ、じゃあもう遅いし・・・寝よっか?」

 もやもやとした時間に耐えられなくなった小咲が、なんとかそれだけ切り出した。

「そ、そうだな。小野寺も疲れてるだろうし。」

 楽もやや上擦った声で小咲に同調した。

 小咲が部屋の明かりを常夜灯に落とすと、お互い「おやすみ」と言って横になった。

 

―――寝れない・・・

―――寝れねえ・・・

 どのくらいの時間が経っただろうか。小咲と楽は互いの布団の中でまんじりともしない時間を過ごしていた。間に二人を隔てる衝立があるとはいえ、二人の距離は一メートルと離れていない。文字通り手を伸ばせば届く距離にいる。

 お互い、まだ眠りに就けていないことは、なんとなく気配で分かっていた。しかし、風呂での出来事を思うと、いろいろな思いが頭の中を駆け巡り、二人きりという状況にも関わらず、なかなか自分からは声を掛け難いのだった。

―――はぁ、せっかくの二人きりでのお泊まりなのにな・・・

 小咲は、常夜灯が照らす天井をぼんやりと眺めながら考えていた。

―――あれって、ぜったい告白の大チャンスだったよね。なんであのタイミングでのぼせちゃうかな・・・

 そして、その後のことを思い出して赤面してしまう。

―――おまけに一条君は、あんなエッチなことまでしてくるし・・・

 口元を隠すように布団を引き上げながら、頭の中で楽への文句を並べ立てる。

―――もう!一条君があんなことするから恥ずかしくて顔もまともに見れなくなっちゃったじゃない。一条君の、ばか・・・

 口元を覆った布団の下で、小咲は小さくため息をついた。

―――あんなこと、言ってくれれば・・・別に・・・。って、何考えてるのよ!わたしってば!

 とんでもない考えが頭に浮かんだことにますます顔が熱くなる。

 そこで小咲はふと気が付いた。ものすごく恥ずかしいことではあったが、された行為自体は嫌じゃなかったことに。これが何とも思っていない別の男の子にされたのだったら、もう二度と顔も見たくなくなるほどに怒っていたのだろう。それに本当にその行為をされること自体が嫌なのだったら、悲鳴を上げて逃げれば良かった。最悪でも、ゆっくり目が覚めたふりをすれば、関係を壊すことなく楽の行為をやめさせることもできたかもしれない。しかし、小咲はそうしなかった。死にそうな程恥ずかしいことではあったし、関係を壊さないためという思いもあったが、結局は受け入れることにしたのだ。

―――そっか、そうなんだよね

 性的な関係というのは、恋人同士になればまず間違いなく結ぶものだし、実際、小咲もそのことを考えて自慰に耽ることがある。結局、その行為自体は小咲も望んでいることであり、そこに至るプロセスが狂ってしまったから、今のこのよくわからないもやもやした感情になっているのではないかと小咲は結論付けた。

―――だったら・・・、うん!

 小咲は、決意の目で天井を見つめ、そして、衝立の向こうの楽に声を掛ける。

「ねえ、一条君。まだ起きてる?」

「ん、ああ。」

 衝立の向こうからすぐに返事が来た。小咲は、一度ぐっと唇を引き結ぶと口を開いた。

「あ、あのね、少しお話ししない?」

「え!?」

 小咲からの意外な提案に、思わず楽は驚いた声を上げてしまった。

「あ、い、嫌だったら別にいいんだけど、ほら、一条くんも寝付けないみたいだし、お話ししてるうちに眠くなるかもしれないし!」

 少し慌てたような口調で、小咲はひといきにまくし立てる。

「・・・だ、ダメ・・・かな?」

 はじめの勢いとは裏腹に、少し気弱にこちらを伺うような口調に、楽はふっと頬が緩んだ。それに、これは楽にとっても願ってもない展開だった。

「そうだな、俺もぜんぜん寝付けなかったし、な」

「で、でさ、提案。この衝立、どけちゃわない?お話しするのに、お互いの顔が見えないのって、なんか・・・」

「そ、そりゃ、小野寺がそれで良いなら、良いんだけど・・・。ホントに良いのか?」

 楽にとっても、恋人でもない二人が同じ部屋で泊まる以上、最低限のけじめとして置いたものなので、いくら小咲からの提案とはいえ、衝立をどけることは少し躊躇われた。

―――それに、さっきのこともあるしな・・・

 隣で寝ていて、再び自分の自制心を試されるような状況になったら、という不安もあった。

「う、うん。私、一条君だったら、大丈夫・・・だから」

 小咲からの信頼が楽の胸にちくりと刺さった。ただ、その一言に楽への信頼以外の意味が込められていることに、楽は気付いていなかった。

「まあ、小野寺がそこまで言ってくれるんだったら」

 そう言って布団から起き出すと、楽は衝立を部屋の隅に持って行く。その様子を、小咲は口元を布団で隠すようにしてじっと見ていた。

「よっと」

 衝立を置いてきた楽が再び自分の布団に潜り込む。すっかり夜目にもなじんでいたため、常夜灯の薄暗い明かりの下でもお互いの姿がはっきり見える。自分から提案したことにも関わらず、この状況に小咲は気恥ずかしさを感じていた。

「こ、こういうのって初めてだから、やっぱりちょっと緊張しちゃうね」

「俺もだ。まさか小野寺と同じ部屋で寝ることになるとは思ってもみなかったからな」

 言ってしまってから、楽も今置かれている状況をあらためて認識すると顔が熱くなってくる。

「「・・・・・・」」

 お互いがお互いの緊張を感じ取ってしまい、二人は再び口を閉ざしてしまう。

「え、えっと、今日はごめんね。一条君」

「え?な、何が?」

「うちのお母さん。なんか色々勘違いしてて、一条君を変なことに巻き込んじゃって・・・」

「い、いや、まあそれは全然構わないけど」

 確かに、今日一日は色々あって大変だったが、小咲と一緒に過ごせた時間を考えると充分お釣りがくる。

「ていうか、良い経験もさせてもらったし、むしろ楽しかったぞ、俺は」

「そ、そうなの?よかった・・・」

 申し訳なさそうな顔をしていた小咲の表情が明るくなる。しかし、すぐに何かを考えるような表情になると、天井の方へ顔を向けて目を瞑ってしまった。

「・・・?」

 楽は再び黙ってしまった小咲に困惑しながらも、その横顔を見つめた。ほどなく小咲がゆっくりと目を開けると、その目には決意の色が浮かんでいるように見えた。

「あ、あのね、お風呂での、質問の答えなんだけど・・・」

「お、おう」

 突然の展開に、楽は軽い混乱を覚えながらも小咲の何か覚悟を決めたような、緊張した声色に楽も思わず身構える。

「どうして10年前のその子が一条君だったらいいなって思ったのはね・・・」

 小咲はそこで一旦言葉を区切ると楽の方に向き直った。

「い、一条君のことが好きだから」

「・・・え?」

 楽の心臓がどくんと高鳴る。

「一条君のことが好きだから。だから、思い出の男の子が一条君だったらいいなって、ずっと、ずっと思ってたの」

 小咲は真っ赤になりながらも、しっかりと楽の目を見つめながら、静かに、そして一言一言に想いを乗せた。

「小野寺・・・」

「本当は中学の頃からずっと一条君のことが好きだったの。だから補欠で合格が決まったときは本当に嬉しかった。一条君を諦めずに済むって・・・」

 いつの間にか小咲の表情は、優しい穏やかな笑顔に変わっていた。

「高校に入って、一緒のクラスになって、毎日が幸せだった。一条君が千棘ちゃんと付き合い始めたときは、ショックで目の前が真っ暗になった。でも、二人の関係がお家の事情でニセモノだって分かったら、また、どんどん一条君への気持ちが大きくなっていって・・・」

 小咲は笑顔のまま、真っ赤な顔で、しかし、まっすぐに楽の顔を見つめながら言葉を続ける。

「好き。私、一条君のことが好き」

「・・・・・・」

 楽の頭の中では、中学校で初めて小咲と出会って以来の様々な思い出と、小咲への想いがぐるぐると駆け巡り、とっさに言葉を紡ぐことができなかった。

「ごめんね、いきなりこんなこと言って。でもね、私の気持ちもちゃんと一条君に知っておいて欲しかったの」

 どこかすっきりとした、何かを成し遂げたような表情を浮かべながら、小咲は楽に微笑んだ。

「でも、小野寺、俺は・・・」

 一方で、楽は複雑な思いだった。小咲のことは間違いなく好きだ。以前の、いや、昨日までの楽だったら何の迷いもなく小咲の告白に応えることができたと思う。

―――小野寺は、こんなに純粋に俺のことを想ってくれてたっていうのに。俺は・・・

 やっとのことで数年越しの願いに手が届きそうなのに、風呂場での出来事を思い出すと、小咲からの想いを受け取ることが躊躇われた。小咲のことが好きだからとはいえ、欲望に負けて小咲の想いを裏切るようなことをしてしまったことがあらためて悔やまれる。

「・・・千棘ちゃん、とのこと?」

 沈黙の意味を勘違いしたのか、一転して小咲が不安そうな表情を浮かべて訊いてくる。

「いや、違うんだ。あいつのことは関係ない!関係ないんだ・・・」

「じゃあ・・・」

 何が?と聞き直そうとしたところで、小咲はあることに気が付いた。おそらく楽は、小咲が意識を失っている間にしてしまったことを気にしてるのではないかと。あのことを思い出すと、再び顔が熱くなってくるのだが、しかし、それを含めて楽への想いを再確認したのだ。

「私は、一条君にどんなことがことがあったとしても、どんなことを抱えていても大丈夫だから!いろんなこと、全部含めて一条君が好きなの!」

「っ!?」

 力の籠もった小咲の言葉に視線を上げると、そこには真剣な眼差しでこちらを見つめる小咲の顔があった。もしかしたら、小咲は楽がしたことに気付いているのかもしれない。しかし、例えそうであったとしても、好きな子がここまで言ってくれているのだ。

―――女の子にここまで言わせちゃ、男として立つ瀬がねえな・・・

 よし、と楽は心の中で気合いを入れると、身体を起こし、小咲の方へ向くと布団の上にあぐらをかいた。

「小野寺」

「は、はいっ!」

 さっきとは打って変わって、真剣な表情で自分を見つめる楽に、小咲も思わず布団から飛び起きると、楽に向き合うようにちょこんと正座する。その姿に思わず苦笑してしまう楽だったが、すぐに表情を引き締め、まっすぐ小咲の目を見つめながら口を開いた。

「小野寺、俺も小野寺のことが好きだ」

「あ・・・」

「俺も中学の頃からずっと小野寺のことが好きだった。ずっと小野寺だけを見てきた」

 小咲が口元を押さえて、嬉しいのか、驚いてるのか、泣きそうなのかよく分からない表情で楽を見ている。

「小野寺のことが好きだ。だから、俺のホンモノの彼女になって欲しい」

 楽は小咲の目を見つめながら、はっきりと告げた。すると次の瞬間、小咲は両手で顔全体を覆うと、力が抜けたように身体を前に折ってしまった。

「お、おい!小野寺!」

 咄嗟に風呂で小咲が倒れたことが頭によぎり、楽は慌てて小咲に這い寄った。

「だ、大丈夫か!?」

 小咲はうずくまるようにして身体を丸めたまま、楽の呼びかけに小さくこくこくと頷いた。身体を丸めているのでその表情までは分からないが、髪の隙間から覗く耳やうなじは真っ赤に染まっている。

「ごめんね、一条君。なんかもう、いろいろいっぱいいっぱいになっちゃって」

 少しくぐもってはいるが、しっかりとした返事が聞こえ、ひとまず楽は安心した。ふう、と一息付くと小咲のそばに胡座をかく。

「大丈夫なら良かった。風呂でのことがあったから余計にびっくりしたぞ」

「ふふ、優しいね、一条君は。でも、今度はハダカじゃないから安心して寝ていられるかな」

 ゆっくりと身体を起こしながら小咲は楽に微笑んだ。その顔はまだ赤いままだ。

「・・・うっ」

 小咲を介抱するはずが、欲望をぶつけることになってしまった先刻の出来事を刺されたような気がして、思わず楽は狼狽えた。その反応を見た小咲もすぐにしまったと思ったが、一方でそんな正直な反応を見せる楽のことを可愛いとも思うのだった。

「でも、ほんとうに嬉しいんだよ。一条君に好きって言ってもらえて」

「俺もだ。小野寺に、その、好きだって言われてから、世界が変わったように感じてる」

 二人は向き合ったまま、なんとなく気恥ずかしくなって俯いてしまう。二人きりの部屋には再び沈黙が訪れたが、さっきと違って温かな空気で満たされている。

 ことり、と床の間に置かれた置き時計から、小さく分針が動く音がしたのをきっかけに、二人の時間が再び動き出す。

「も、もう、遅くなっちゃったし、寝ようか?」

 話したいことはたくさんあるのだが、今の状態だとうまくまとまらないような気がして、なんとなく逃げるような形になってしまう。

「そ、そうだな」

 楽も同意してしまったのを聞いて、自分から提案したにも関わらず、早くも後悔してしまう小咲であった。

 二人とも、もそもそとそれぞれの布団に潜り込むと、再び「おやすみ」と声を掛ける。

―――なんか、もったいないことしちゃったな・・・

 肩まで上げた布団の端をきゅっと握りながら、小咲はそんなことを考えていた。

―――せっかく両思いだって分かったのにな・・・。もっとお話したかったな・・・

 小咲は、心の中でため息を付く。そのとき、ふと夢の中で楽に抱きしめられたことを思い出してしまう。

―――もっと、一条君の温もりを感じたい・・・な

 そんなことを考えた瞬間、胸がきゅっと締め付けられるような感じがした。

「ねえ、そっちに行っても、いい・・・?」

 ほとんど無意識にそんな言葉が出た。

「・・・・・・、えっ!?」

 独り言のように掛けられた言葉を反芻するような間が空いた後、楽が驚きの声を上げた。その声を聞いた小咲が、はっと現実に引き戻される。

―――うそでしょ!私、今声に出してた?

 いつかも同じように心の声が漏れたことがあったが、そのときは楽がうたた寝していたから聞かれることはなかったが、今回はしっかり楽の耳に届いたらしい。

「えっと、おのでら・・・さん?」

 どうやら楽の方も混乱しているらしく、言葉遣いが少しおかしくなっている。

「あ、あの、えっとね、ごめんなさい!それは、その、変な意味じゃなくて、もっとお話したいなってことで、もったいないとか、そんなんじゃなくて・・・」

 小咲もパニックを起こして、取り繕いながらも心の声まで漏らしてしまっていた。

―――あ~っ、もう、何言ってるんだろう!こんなのぜったいヘンな子だって思われてるよ・・・

 どうにも恥ずかしさに耐えられなくなって、小咲は頭まで布団を被ってしまった。だから、次に聞こえてきた言葉がしばらく理解できなかった。

「い、いいぞ」

「・・・え?」

 小咲は布団を被ったまま聞き直した。

「だ、だから、その、小野寺が来たいんだったら、別に、いいぞ」

―――え!?うそ、いいの!?

 小咲がそっと布団の中から顔を出して楽の方を伺うと、楽は照れ隠しのようにじっと天井を見つめていた。

「ほ、本当に、いい・・・の?」

 小咲は自分で言っておきながら、思わず確認してしまった。

「お、おう」

 楽は相変わらず天井に視線を向けたまま、少しぶっきらぼうに返事をする。こくんと小咲の喉が鳴った。たぶん、今の状況で楽の布団に入ってしまったら後戻りはできなくなる、そんな予感がした。

―――でも、一条君だったら・・・

 このまま、最後までいくことになってしまってもいいと小咲は思った。楽のしたことを全て受け入れると決めて、楽に告白したときから小咲にはある程度の覚悟はできていた。

「じゃ、じゃあ、そっちに行くね」

 そろそろと小咲が自分の布団から這い出ると、楽が半身を小咲の方へと向け、布団の裾を持ち上げた。

「お、おじゃまします・・・」

 そんなことを言いながら、小咲が楽の布団に入ってくる。小咲が身体をすっぽりと入れると、楽は布団を支えていた腕を下ろして小咲に布団を掛ける。楽は下ろした右手の置き場所に困ったが、少し迷った挙げ句小咲の肩へそっと手を置いた。その瞬間、両手を胸の前に畳んで小さくなっている小咲の身体がぴくっと震えた。

「あ、ご、ごめん」

 咄嗟に手を引こうとするが、小咲がふるふると小さく首を振り、囁くような声で「いいよ」と言った。

 二人はしばらくの間、そのまま固まっていた。二人とも緊張で喉がカラカラに乾き、とくんとくんと自分の心臓の鼓動がやけにはっきりと感られた。

 今、二人が触れ合っているのは、楽の右手が置かれた小咲の左肩のほんの少しの面積でしかない。しかし、その小さく触れ合っている場所から、はっきりとお互いの体温が感じられた。

「あったかいね・・・」

 ぽつりと囁いた小咲の言葉が、吐息と一緒に楽の胸元をくすぐった。

「ああ」

 楽も短く、一言だけ答えた。しかし、その小さなやりとりだけで、二人は心が繋がったような気がした。

 小咲の肩に置かれた楽の手に、きゅっと小さく力が入る。それに応えるように小咲はそっと顔を上げると、そこには少し緊張した顔で小咲を見つめる楽の顔があった。

 二人は、ほんの少しだけ見つめ合い、吸い寄せられるようにして顔を近付けると、そっと唇を重ねた。実際には数秒かそこらだったのだろうが、二人は永遠にも思える時間を感じていた。どちらからともなく唇を離すと、再びどちらからともなく顔を寄せて唇を重ねていった。

 唇を重ねる度に二人の息は荒くなっていく。何度目かのキスの後、楽は小咲の頬にそっと手を添えると再び唇を重ね、舌を挿し入れようとした。小咲は唇に触れた楽の舌の感触に一瞬身を固くするが、ゆっくりと唇を開いて楽の舌を迎え入れる。

 最初は遠慮がちに動いていた楽の舌が次第に動きを大きくして、小咲の口腔内を愛撫する。小咲も初めは恥ずかしくて身を固くしていたが、やがておずおずと楽の舌に自分の舌を絡めていき、胸の前で固くしていた両手を解くと、楽の背中を抱くように腕を回す。同時にお腹の奥に沸き上がった温もりが、じわりと熱を帯びたまま下腹部に降りてくるのをはっきり感じた。

「んっ、んっ」

 時折、息苦しさからなのか、あるいは悦びからなのか分からない呻きを小咲が漏らす。その声が楽の興奮をさらに昂ぶらせる。事実、楽のペニスはすでにトランクスの下で鉄の棒のように固くなっていた。

「小野寺・・・」

 唇を離した楽が、小咲の目を見つめながら囁いた。小咲も楽がなにを求めているのかを感じ取り、こくんと伏し目気味に小さく頷いた。

 二人が再び唇を重ねると、楽の手がおそるおそるといった感じで小咲の胸に触れてきた。その瞬間、小咲がびくんと身体を震わせたので、慌てて楽は乳房に触れていた右手を離した。

「ご、ごめん・・・」

 咄嗟に手を離した楽に小咲は小さく首を振る。

「大丈夫、ちょっとびっくりしただけ。だから・・・」

 「続けて」とはさすがに恥ずかしくて口に出せなかった。代わりに楽の背中に回した腕に少しだけ力を入れた。

 楽は再び、浴衣の上から小咲の乳房に右手を重ね、ゆっくり力を入れる。脱衣所で直に触ったときとは違う固い感触があり、それがブラジャーのカップの感触だと思い当たる。

「お、小野寺、その、脱がしても・・・いいか?」

 我ながら気の利かない、デリカシーの欠片もない訊き方だと思った。小咲は一瞬、ぴくんと身体を固くして顔を横に向けたが、こくんと小さく頷いた。

「で、でもね、脱がされるのは恥ずかしいから、少しの間、後ろ向いててくれるかな・・・」

 羞恥で顔を赤らめながら、小咲が消え入りそうな声で懇願した。

「わ、わかった」

 そう言うと、楽は身体を起こすと、小咲と反対に向いて座った。背後で小咲が布団から立ち上がる気配がした。ほんの少し躊躇うような間をおいて、しゅるりと浴衣の帯が解かれる音がし、続いてぱさりと浴衣が落ちる音がした。小咲は再び座ると浴衣を畳み、浴衣を脱ぐときよりももっと躊躇うような間をおいた。やがて、小さく深呼吸するような気配がした後、ぷつんという音が聞こえ、なにやらごそごそとした後、慌てたように布団に潜り込んだ。

「い、いいよ。一条君、こっち向いても」

 振り返ると、顔を真っ赤にした小咲が、口元まで布団で覆って楽を見上げていた。

「あ、待って、一条君・・・」

 いそいそと布団に入ろうとした楽を慌てて小咲が制止する。疑問の表情を浮かべた楽に対し、小咲は真っ赤な顔で反対を向いてしまう。

「わ、私だけ裸だと恥ずかしいよ・・・」

「す、スマン」

 自分のうかつさに恥じ入りながら、楽も浴衣を脱いだ。トランクスをどうするか一瞬迷ったが、リードしなきゃいけない男の方が恥ずかしがるわけにはいかないと思い、さっさと脱いでしまう。

「い、いいか?小野寺」

 一応、布団に入る前に声を掛けると、小咲は背中を向けたまま「うん・・・」と小さく頷いた。

 楽は小咲をおびえさせないように、意識してゆっくりと布団に入ると、背中から小咲の肩をそっと抱いた。手が触れた瞬間、小咲がぴくりと身を強ばらせる。直に触れた小咲の肌は絹のように滑らかで、少しだけしっとりと汗ばんでいた。触れた肌から伝わる小咲の体温を感じながら、肩を抱いた手にゆっくりと力を入れ、向きを変えさせる。

「小野寺」

 楽が囁くと、小咲は楽の方に顔を向け、そっと目を閉じた。楽は少し開いた小咲の唇に自分の唇を重ねると、ゆっくり舌を挿し込んでいった。小咲も楽に呼応するように舌を絡めていく。二人はお互いの羞恥心を取り払うように、絡め合う舌の動きを激しくしていった。

 初め、小咲の頬に触れていた楽の手は、徐々に首筋から胸元へと降りていく。胸を隠すようにしていた小咲の手首を優しく掴むと、ゆっくりと胸元からはがしていった。

 常夜灯の淡い光の下に、横たえてなおきれいな円錐形を保っている豊かな乳房が晒される。張りのある艶やかな乳房の頂点では、乳首がつんと挑発的尖っていた。楽は思わずごくりと喉を鳴らし「きれいだ・・・」と呟いた。

「そんなに見たら恥ずかしいよ・・・」

 小咲が耳まで真っ赤になりながら顔を背ける。一方で楽は小咲の抗議など耳に入っていないかのように、乳房を凝視しながら顔を近付け、充血して赤み掛かった乳首を口に含んだ。

「んっ」

 小咲の身体がぴくんと震え、快感を堪えるような呻きを漏らす。楽は夢中になって小咲の乳首を舌先と唇を使って愛撫しつつ、空いていた右手で左の乳房を揉みしだきながら、指先で乳首を転がした。

 小咲は二つの乳房に与えられる、異なる快感と必死で戦っていた。初めてなのに快感で声を上げるような、はしたない女の子だと思われたくなかった。右手の甲で口を塞ぎ、左手は指が白くなるまでシーツを握っていたが、それでも時折「んっ、んっ」と押さえきれない喘ぎを漏らしてしまっていた。

―――すげえ・・・

 楽は小咲の反応に対して純粋に驚いていた。脱衣所の時は小咲の意識がなかったため、小さく身体が震えるくらいの反応しかなかった。しかし、今、目の前にいる小咲は沸き上がる快感を必死で堪えようとしているのがありありと分かった。

 女性の方が性的な快感は強いと知っていたが、胸だけでこれほどの反応を示すのだったら、下半身に触れたときはどうなってしまうだろうとも思う。そして、その反応を確かめに行くように、楽はゆっくりと小咲の身体のラインをなぞるように右手を降ろしていく。

 小咲の身体は細身ではあったが、決して肉付きが悪いわけではなく、掌に伝わる肌の感触は、どこまでもきめ細やかで柔らかかった。

 乳房からわき腹、下腹部へと小咲のラインをなぞりながら、手を動かしやすいように楽は身体を横にずらした。そして臍の下に掌が到達したとき、指先がショーツのゴムに触れる。

 楽は躊躇うように指先を止めると、確認するように小咲の表情を伺った。小咲にも楽の意志は伝わってきたが、目を合わせるのが恥ずかしかったので横を向いたまま小さく頷いた。

 ショーツの下に指先を潜り込ませると、楽はゆっくりと指を進めた。下着に包まれているせいか、掌に感じる小咲の陰毛は実際目にした印象よりも密生しているように感じられた。

 こんもりと盛り上がった恥丘を越えると、暗い穴に落ちるように角度が一気に急になる。反射的に小咲が腿に力を入れるが、すぐに力が抜けて隙間ができた。

 陰毛が切れ、亀裂の始まりまで来るとぬるりと指が滑り、小咲が「んっ」と甘い声を漏らした。小咲の性器は、すでに割れ目の外にまで大量のぬめりが溢れ、洪水のようになっていた。指の背に当たっている、ショーツのクロッチ部分にも大量のぬめりが付着していて、小咲のショーツの中はまるで熱帯雨林のようだった。

 楽は、小咲の反応を確かめるように、割れ目に沿って指を滑らせる。

「んっ・・・、んっ・・・」

 口元を手で押さえた小咲がくぐもった喘ぎを漏らしている。楽は小咲が上げる声をもっと聞きたくなり、口を押さえていた手を取ると自分の手を重ねて指を絡ませる。

「一条・・・君?」

 小咲が潤んだ目で見上げてくる。楽は無言で大陰唇の間に埋めた中指を滑らせた。

「やっ・・・、あんっ・・・」

 たまらず小咲が声を上げた。小咲の中は信じられないほどの熱を帯び、そして他に例えようのない、直接本能に訴えかけるような柔らかさを持っていた。中指に絡みつく小陰唇、指の腹に感じる複雑にうねる粘膜の一つ一つの形を刻み込むように、楽は肉の隘路に指を往復させた。その度に小咲は腰を震わせ、苦しそうな喘ぎを漏らす。

 このとき初めて小咲は気付いたのだった。脱衣所の時は、小咲に気付かれないようにして触っていたからまだ我慢できていたのだということに。お互いを求め合っている状態で触れられることが、こんなにも強い快感を生み出すとは思ってもいなかった。

 このまま快感に全てを委ねてしまいたいという思いが、何度も小咲の頭の中で沸き起こる。しかし、わずかに残った理性と羞恥心が小咲を踏みとどまらせ、シーツをぎゅうっと握りしめることで、できるだけ声を上げまいと必死に耐えていた。

 やがて、楽の頭が小咲の乳房を離れてゆっくりと下へ降りていく。楽は小咲の身体から香るボディーソープと、女の子特有の柔らかな香りを感じながら身体のラインをなぞるように口付ける。へそのあたりまで来ると、楽は身体を起こしてショーツ手を掛けた。ショーツに楽の手が掛かった瞬間、小咲がぴくんと身体を強ばらせたが、それ以上の抵抗がないことを確認すると、ゆっくりと引き下ろして小咲の足首から下着を抜き取った。

 文字通り、一糸纏わぬ姿となった小咲は、緊張と羞恥で身体を強ばらせていた。楽がぴったりと閉じてしまった内腿へそっと手を挿し込むと、小咲は小さく身体を震わせ、羞恥に耐えるようにじわじわと足を開いていった。

「ご、ごめん。もう少し・・・その・・・」

 小咲が羞恥心に耐えながら開いた足は、それでもなお楽の身体を入れるのには狭すぎた。

「くぅ・・・」

 小動物が鳴くような声を小さく漏らして、小咲がさらに足を開いてゆく。下半身は布団の中にあるため真っ暗で、足を開いたからといって楽に見えるわけではない。しかし、楽に向かって自分の最も恥ずかしいところを何も纏わず、しかも大きく足を広げて晒しているということが小咲の羞恥心を掻き立てた。

 小咲が足を開くのに合わせて、楽も小咲の足の間へ慎重に身体を入れた。視線を上げると、小咲はぎゅっと目をつむり、胸の前で手を握りしめて小さく震えていた。

 視線を下げると、常夜灯に小咲の白い身体が浮かび上がる。楽が身体を入れたため、二人の身体の間に隙間ができていた。そこにわずかに差し込んだ明かりが、小咲の逆三角形の翳りをうっすらと照らしていた。

 布団の中は二人の熱気と小咲の身体から上がる甘い香り、甘酸っぱいような汗の香りでむせかえるようだった。そして、その中に混ざる小咲の性器から立ち上る淫靡な匂いに誘われるように楽は頭を沈めていく。

「えっ!?あっ、やだ、一条君、待っ・・・」

 楽の気配に気付いて小咲が慌てて制止しようとするが、楽は構わず小咲の内腿を押さえると股間に顔を埋めた。

「あっ、だめ!あぁっ・・・!」

 楽の舌先が割れ目を舐め上げた瞬間、小咲は声を上げた。内腿にぎゅっと力が入り足を閉じようとするが、楽はそれを両手で押さえたまま小咲の性器へと舌を這わせ続ける。

「あっ・・・だめ、一条君・・・そんなとこ、汚い・・・よ」

 小咲は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆いながら必死で楽に訴える。しかし、楽の方は「そんなことない」と言うように、さらに割れ目の奥へと舌を潜り込ませた。

「あっ・・・あっ・・・」

 小咲が漏らす喘ぎとともに、次々とぬめりが膣から溢れてくる。そのすべてを舐め取るように、楽は夢中で小咲の性器に舌を這わせていた。

―――だ、だめ、こんなの・・・刺激が強すぎ・・・

「あぅっ!」

 小咲の性器を這い回る楽の舌先が、肉の鞘から顔をのぞかせ始めたクリトリスの先端をかすめた瞬間、小咲は喉を反らせてひときわ大きな声を上げてしまった。

―――今の、もしかして

 小咲の反応を見た楽の舌先が探るように割れ目の中を蠢き、そして勃起し始めた小咲のクリトリスを捕らえた。

「んっ、んんっ!!」

 その強い刺激に喘ぎを上げそうになるのを、小咲はとっさに口を手で覆い必死で耐えた。一方で、小咲の反応を見て確信を得た楽は、いっそう興奮を昂ぶらせて舌先に感じる肉粒を転がした。

「んっ、一条君・・・、だめ、だめ・・・」

 クリトリスを転がされる度、小咲は無意識に腰をくねらせ抑えきれない喘ぎを漏らした。

 楽の愛撫は小咲の自慰と比べると雑ともいえるものだったが、楽の感情がダイレクトに伝わってくる分、小咲の気持ちをも昂ぶらせた。

―――このままじゃ・・・、だめ・・・、抑えられない・・・

 楽の舌が動く度、そこから与えられる快感がどんどん身体の奥に蓄積されていくような感覚を小咲は味わっていた。それは風船のように膨らんでいき、やがては雷のように鋭く、強い快感をまき散らして弾けるということも小咲は分かっている。そして、その瞬間がもうすぐそこまで迫っているということも。

「やっ、だめ・・・、お願い・・・、一条く・・・んっ!」

 このままでは楽の目の前で達してしまう。初めてでそんなはしたない姿を晒したくないと小咲は思ったが、興奮状態にある楽の耳には小咲の懇願も届いていないようだった。

―――もう・・・、だめ・・・、来ちゃう、きちゃうよ・・・

 小咲は下半身から上がってくる快感の波と必死に戦いながらも限界の刻を感じ始めていた。あとはもうできるだけ声を上げないように口を押さえて耐えるしかない、そう考えていたとき、楽の唇がついばむように小咲のクリトリスを挟みきゅうっと吸い上げた。

―――あっ!やっ、だっ・・・、い・・・くぅっ!!

 下半身から駆け上がってきた電流が頭の中でスパークし、目の前が真っ白になった。

「んんっ!んっ、んんっーーー!!」

 小咲の内腿にぎゅうっと力が入り、下半身ががくがくと小さく痙攣を起こす。同時に割れ目の奥から、とぷんと塩気と苦みを含んだ熱い液体が溢れ出て楽の顎を濡らした。

 力が抜け、ぐったりとしてしまった小咲の姿を見て、楽はやっと我に返り身体を起こす。小咲は両手で顔を覆ったまま、激しい絶頂の余韻か胸を大きく上下させながら荒い息を整えていた。

「お、小野寺・・・?」

おそるおそる楽が訊ねると、顔を覆った両手の下から「いじわる・・・」と小さくつぶやく声がした。

「う・・・」

「一条君の、いじわる。だめって、言ったのに・・・」

 顔を覆ったまま文句を言う小咲の声は、ひどく恨みがましく聞こえた。

「ご、ごめん。つい・・・」

 うなだれて素直に謝る楽の姿を見て、小咲はくすりと笑顔を浮かべて楽の頬に手を添えた。

「だから・・・」

 すっかり上気した顔を少しだけ逸らしながら、恥ずかしそうに小咲は続ける。

「だ、だから、この後は、その・・・、もっと優しく、して・・・」

 羞恥で顔を真っ赤にしながら、最後の方は消え入りそうな声でお願いしてくる小咲のことを楽はとても愛おしく感じた。

「わかった」

 自分も初めてだからうまくリードできるかどうか分からないが、できるだけのことはしようと心の中で楽は誓った。

「小野寺」

 楽も小咲の頬に手を添えると、ゆっくりと顔を近づけ唇を重ねた。小咲も楽の頬に添えた手にきゅっと力を入れると楽の舌に自分の舌を絡めていった。

 やがて、楽がそっと顔を離し小咲の目を見つめた。小咲は優しい表情を浮かべながら「いいよ」と言うように小さく頷いた。

 いよいよ小咲と結ばれる。はやる気持ちを抑えながら楽は腰を落としていく。

 

 楽のペニスの先端が小咲の割れ目にぴとりと触れた瞬間、小咲は身体をぴくりと震わせて身を固くした。ついにこのときが来たという思いと一緒に、脱衣所で見た楽のペニスが脳裏に浮かぶ。

―――あんなの、ほんとに入るのかな・・・

 以前、自慰の時に指を挿れてみようとしたときのことが頭をよぎる。十分濡れている状態にもかかわらず、中指の第一関節まで沈めただけでぴりりとした痛みを感じた。指一本だけでも痛みを感じるのに、その何倍もあるようなペニスが入ってきたらどうなってしまうのだろうと不安になる。

―――で、でも、赤ちゃんだって出てくるんだし、初めてでもあんまり痛くなかったっていうのも聞いたことあるし・・・

 だから大丈夫、と小咲は心の中で自分に言い聞かせた。

 

 布団に隠れて下半身が見えないなかで、楽は慎重に腰を進めていく。ペニスの先端が大陰唇を掻き分け、小咲の粘膜の感触が直に伝わってくる。その熱さとぬめりを伴う扇情的な柔らかさにペニスを一気に埋め込んでしまいたい衝動に駆られたが、かろうじてその衝動を抑え込む。

―――た、確か下の方にあるはずだよな・・・

 何度か割れ目の上でペニスを滑らせた後、ぬるりと亀頭の先端が膣の入り口に潜り込んだ。

「うっ・・・」

 亀頭の先が潜り込んできた刺激に小咲が喘ぎを上げ、同時に身を強ばらせた。

 そのまま楽は小咲の反応を伺いながらペニスを進める。一瞬、このままスムーズに挿入が果たせるのではと楽が思ったが、亀頭のエラの部分まで飲み込まれたところで不意に行く先を阻まれた。

―――もしかして、これが処女膜ってやつなのか

 亀頭の周りを包み込む小咲の粘膜の柔らかさで理性が吹き飛びそうになるのを必死で堪えて、これまで以上に慎重に体重をかけていく。

「痛っ・・・」

 うめくような声が漏れ、小咲の表情が痛みに歪んだ。咄嗟に楽は侵入を止め、腰を引こうとした。

「だ、大丈夫、だから」

 小咲は絞り出すようにして楽を見上げながら訴えた。

「でも・・・」

「大丈夫、私も、一条君と一つになりたいの。だから・・・ね?」

 ためらいを見せる楽に対し、うっすらと微笑みを浮かべながら小咲は語りかけた。

「わかった」

 しっかりと小咲の目を見つめながら応えると、再び楽は腰を進めていく。亀頭はすっかり割れ目の中へと埋もれていたが、ペニスの全体の三分の一も入っていない。楽はゴム膜を押し込んでいるような感触を亀頭の先端に感じていた。

「くっ・・・」

 小咲が苦しそうに声を漏らし、痛みに耐えるようにシーツを握りしめた。楽も皮が引きつられるような痛みを感じながらもペニスを沈めていく。

 そして、陰茎が半分ほど埋め込んだあたりで、小さな穴が拡がるような感覚とともに、押し戻すような抵抗感が消え、そのままずるりと根本まで飲み込まれた。

「くぅっ、はっ、ああっ!!」

 小咲が鋭い声を上げながら喉を反らす。両手は引きちぎらんばかりにシーツを握りしめ、きつく閉じられた瞼から、つうっと一筋の涙がこぼれ落ちた。

 そんな小咲の姿に罪悪感を覚えながらも、ペニスに感じる初めての感触に頭が蕩けそうになる。

 喘ぎを上げることすら恥じらっていた小咲だったが、膣の中は熱くぬめり、粘膜が楽のペニスを情熱的に包み込んでいた。早く、早くと下半身から本能がせき立てる。このまま腰を振り立てたくなる衝動を楽は何とか抑え込んだ。

「だ、大丈夫か?小野寺」

 額に浮かんだ汗に前髪を張り付けた小咲が、上気した顔に微笑みを浮かべる。

「うん・・・、だいじょうぶ。でも、もう少しだけこのままでいさせて」

 そう言いながら小咲の両手が楽の背中に回り、優しく抱き寄せた。楽も小咲に全ての体重を掛けてしまわないように気をつけながら小咲を抱きしめた。

「小野寺」

 抱きしめた小咲の髪から漂うシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。

「なに?一条君」

「好きだ」

 自然と口をついて出た。

「うん・・・、わたしも、大好き・・・」

 背中に回された小咲の両手に力が入る。全身で感じるお互いの温もりを離したくないと、心の底から二人は願った。

 やがて二人はどちらからともなく唇を重ね、楽がゆっくりと腰を動かし始めた。抽送を繰り返す度、小咲が「うっ、うっ・・・」と苦しそうなうめきを上げる。その度に、楽は小咲ができるだけ痛みを覚えないようにと思うのだが、ゆっくりと動くことしか考えつかなかった。

「一条君・・・」

 優しい目をした小咲が楽に話しかける。

「一条君の好きなように動いてもいいよ」

「でも・・・」

「わたしは、いいの。こうして一条君と一つに繋がってるだけで幸せだから」

「小野寺・・・」

「それに、わたしも、もうだいぶ楽になってきたから・・・」

 小咲の言葉に偽りはなかった。確かにペニスを挿入されたときは、身体が引き裂かれるような痛みを感じた。しかし、挿入直後は楽が動くのを我慢していてくれていたおかげで身体の力が抜け痛みは大幅に和らぎ、少しずつにではあるが、膣が快感を感じ始めていた。

「だから、ね・・・?」

 にこりと小咲は小さく微笑んだ。楽はこくりと頷くと抽送を再開した。それでもできるだけ乱暴にならないようにと気を付けながら抽送を繰り返す。

「あっ、あっ・・・」

 呼応するように小咲の声も艶を帯びたものに変化していった。

 膣の入り口は変わらずきついままだったが、その奥は蕩けるような熱を持ち、幾重もの肉襞がぬめりとともに楽のペニスに絡みつく。小咲の声が艶を増すに従い、小咲の奥からはぬめりが溢れ、きついながらも抽送がスムーズになっていくのが感じられた。

 深夜の和室に、小咲の喘ぎと楽の荒い息が響きわたり、二人の結合部からは粘液質の水音が上がる。

 楽の興奮はピークに達し、今にも射精を迎えそうだった。

「お、小野寺、俺、もう・・・」

 楽の絶頂が近いということを悟った小咲は、楽の背中に手を回してぎゅっと力を入れた。

「・・・いいよ、このままで」

 二人の脳裏に一瞬「妊娠」の二文字が浮かぶ。しかし、それを打ち消すほどに、お互いの温もりを離したくないという思いの方が強くなっていた。

「小野寺、小野寺・・・」

 うわごとのように小咲の名を呼びながら、楽が抽送のペースを上げていく。そして小咲は、一突きされる度に「んっ、んっ」と喘ぎを漏らす。

「くっ、もう、ダメ・・・だ・・・・」

 ペニスを包み込む熱い肉襞の感触に、楽の下半身で急速に快感が膨らんでくる。最後の一突きを膣の最奥まで突き入れると、小咲をこれ以上ないくらいに抱きしめた。下半身が砕けるような感覚とともに、快感が身体の芯を駆け上がる。一瞬、ペニスがぐぐっと膨らむような感覚があり、次の瞬間、ドッと大量の精子が小咲の中へと吐き出された。

「あっ!?あぁっ!」

 射精の瞬間を気配で察した小咲も楽を力いっぱいに抱きしめた。

 びくっ、びくっと楽の腰が震え、射精が続いている間、二人は抱きしめ合ったまま全ての動きを止めていた。そして射精が終わると力が抜けきったように、楽は小咲の身体へ崩れ落ちた。

 小咲はその身体を優しく受け止め、汗ばんだ楽の背中を慈しむようにそっと撫でた。二人のの乱れた呼吸がお互いの耳元を洗い、重なり合った胸元から心臓の鼓動が伝わってくる。

 二人とも一言も発しないまま幸せを噛みしめていた。文字通り、全身を通じてお互いの体温が直接伝わってくる。触れ合った肌の温もり、繋がることで得られる心の充実、セックスという行為に快感以外のことを求めるとしたら、こういったものを求めて身体を重ねるのだろうと二人は思った。

 二人はどちらからともなく顔を見合わせると、照れ隠しのように表情を緩ませる。そんな何気ない仕草一つでも、気持ちが繋がっていることが分かった。

「っと、ごめん。重いよな」

 これまでずっと小咲に体重をかけていることに気付いた楽が慌てて身体を起こそうとする。

「ん・・・、全然だいじょうぶ、だ・・・よ・・・」

 楽が身体を離そうとした拍子に、柔らかくなり始めていた楽のペニスが小咲の膣から押し出されるように抜け落ちた。その鈍い快感に小咲は一瞬身震いする。そして、その直後、ペニスが抜け出てわずかに開いた膣口からどろりと楽の精子が流れ出た。膣から会陰へと流れ落ちる熱い液体が何なのかを悟った小咲が顔を赤くする。

「?」

 楽は身体を横によけながら、不自然に語尾が途切れて、顔を赤くしてしまった小咲を見て、怪訝そうな表情を浮かべた。

「な、なんでもないから!」

 あわあわと真っ赤になった顔の前で手を振る小咲を見て、楽の表情がますます怪訝なものになる。

「ほ、ほんとうになんでもないからっ!」

 恥ずかしさに耐えられなくなった小咲は、思わず楽に背を向けてしまった。

―――う~、こんな恥ずかしいこと言えないよ

 楽に背中を向けて固まってしまった小咲を見て、楽がくすりと笑う。それからすっと身体を寄せると、後ろから小咲を抱きしめた。

―――あ・・・

 小咲の身体から、ふっと力が抜けた。最初に抱きしめられたときは緊張で身体を固くしてしまったが、今は自然と心が安らいでいく。小咲は不思議な安心感を抱きながら、自分を抱きしめる楽の腕に手を重ねて幸せそうに目を閉じた。

「わ・・・」

 今度は楽が困ったような声を上げた。

―――どうしたのかな。一条く・・・んん?

 小咲が不思議に思っていると、おしりのあたりに何かがこつんと触れた。最初は足か何かだろうと思っていたが、身体の位置関係と楽が身じろぎして離れようとしていることから、当たっている「もの」の正体に気付いてしまい身体を硬直させた。

「わ、わりい、その・・・勝手に・・・」

 背中で楽が慌ててもごもごと弁解をしている。小咲はその姿を思い浮かべると可笑しくなってしまい、自然と笑みがこぼれた。

 楽の腕の中でくるりと体を回して楽を見上げた。楽はいたずらを見つかった子供のような顔をして、ばつが悪そうに視線を逸らしている。そんな楽の表情を見て小咲はくすりと笑った。

「もう一回、しよっか」

 とは、さすがに自分から口にするのは恥ずかしかったので、代わりに楽の首に手を回すと小咲の方から情熱的に唇を重ねていった。

 

 結局、二人は東の空が明るくなり始めるまで身体を重ね合った。気がつくともう結構な時間になっていて、二人はあわてて部屋のユニットバスでシャワーを浴び、いそいそと身支度を整えた。その間、先にシャワーを済ませた小咲が、布団を片づけながら、シーツに残った自分の処女の証と二人の体液で作られた大きなシミを見て、茹で蛸のようになって赤面していたことは楽は知らない。

 なんとなく気恥ずかしさで言葉少なくなっている二人を見て「夕べは頑張っちゃった?」などと叔母がからかうと、二人そろって一瞬で顔を赤くした。

「あらあら」

 二人の正直すぎる反応の微笑ましさに、口元を手で隠してからからと笑いをこぼした。

「また今度いらっしゃい。次は離れを用意しておいて上げるから」

 どこまで知っているのか分からない叔母の言葉に、二人はうつむいて小さく「はい・・・」と答えるのがやっとだった。

 

 そして今、二人は帰りのバスに揺られている。山道で右に左にと揺れる中で、二人は肩を寄せ合い、お互いの手をしっかりと握りしめたまま、ぐっすりと寝息を上げていた。




オトマリifに最後までお付き合い頂きありがとうございました。
本来なら中編投稿の一週間後を目処に後編を投稿する予定だったのですが、トラブルがあって遅れてしまいました。
小さい方のトラブルとしては、書き物のメインマシンに使っているポメラDM100のバックアップ電池がトんでしまい、執筆済みの部分の半分以上が消えてしまったということ。サスペンドって便利だな~なんて、上書き保存をサボっていたらヒドいメに遭ってしまいました。
そして、大きい方のトラブル(私にとっての)は最終巻の発売でした。私はジャンプ本誌の方を読んでいなかったのでコミックスが初見になりました。あの結末(というか選択)はある程度予想はしていましたが、実際に目にしてみるとやっぱり結構な衝撃でしたね。しかも後編執筆中というこの上なくナイス(?)なタイミング。色々な想いが乗っかってしまい、蓋を開けてみると前・中編を合わせたよりも大きなボリュームになってしまい、中編から約一ヶ月も経ってしまいました。まあ、原作は賛否両ある結末でしょうし、私ももやもやするところは有りますが、それは言っても詮無いことですしね。それよりも楽がきっちりと答えを出してくれたことの方を評価したいと思います。

さてさて、2作目の投稿でしたがいかがでしたでしょうか?まだまだ文章が冗長で繋がりがイマイチなところも多く、そして何よりタイトルに芸がないと、課題てんこ盛りですが、少しでも読んで下さった方々の心の残ることができていたら幸いです。
次回作もおそらくニセコイものになると思いますが、う~ん、次は誰にしようかな?という状態なのでちょっと間が開くかもしれません。

ではでは
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