「はあ」
少女の口からため息が漏れる。その少女、名前は日暮かごめ。代々日暮神社の神主を務めてきた日暮家に生まれた、由緒正しい巫女だ。ただし、着ている服は巫女服ではない。中学校の制服、セーラー服だ。
彼女は登校途中だったので当然の格好だ。幾らなんでも、中学校に巫女服で登校したりはしない。
「どうしてこんなことになったんだろう?」
少女は自問する。その日、弟に呼ばれて、神社に昔からあるらしい古井戸を覗き込んだ彼女は、ウッカリ足を滑らして井戸の中へとダイブしてしまっていた。
不覚だった。まさかあんなところにバナナの皮が落ちているとは……。古井戸にバナナの皮。そんなこと、誰に予想できようか? いや、誰にもできない。反語法。
などと馬鹿なことを考えながら、かごめは周囲を見渡す。
現在地は不明。どこかの森の中の模様。足元には古井戸。それに先程、井戸の中で襲いかかってきたムカデの化物の死体。
「まったく。あたしを襲おうなんて百万年はやいのよ。下級妖怪の分際で」
バラバラになっているムカデ妖怪の死体を見下ろしながら、かごめが呟きを漏らす。
それもその筈だ。かごめは、由緒ある日暮神社の巫女。それも、体内には四魂の玉なる、パワーアップアイテムを宿している。
そこらの下級妖怪になど――それどころか大妖怪が相手でも――敗れるはずもない。
「でも……ここどこよ?」
かごめの問い。それに応えるものは誰もいない。風だけが流れる。
「ま、いっか」
かごめは気分を切り替える。
「テキトーに歩けば何かあるでしょ!」
そう言ってかごめは、取り敢えず、目についたもの。巨大な木の方へとフラフラと歩いて行く。
+++++ 数十秒後 +++++
「犬ミミの……半妖?」
かごめの呟き。現在地は大木の根元。大木までの距離はせいぜい数十メートルほど。距離が距離だけに、あっという間に到着。そこでかごめは、木に封印されている犬ミミの半妖を発見していた。
かごめは考える。
犬ミミ以外の外見は、普通の人間。実際、人間の血も入っているようだ。多分、父親か母親のどちらかが、人間だったのだろう。人間と妖怪のハイブリッドなんて、随分珍しい。でも、何で封印? やっぱり妖怪の血が混じってるだけに、何か悪いことでもしたんだろうか?
うん。多分そうだ。そうに違いない。こいつは悪い妖怪だ。何でか知らないが、本能が、目の前の半妖を極悪人だと訴えている。
直感には従うべきだ。それは、巫女として数多くの妖魔を退治してきたかごめの信念だった。
「というわけで……」
かごめはスタスタと、犬ミミ半妖へと近づいて行く。そして、ある程度の距離まで近づくと、腕を半妖へと伸ばし……
「ていっ!」
半妖の頭部へと凸ピンの一撃。それで十分だった。何せかかごめは由緒ある日暮神社の巫女。それも、四魂の玉装備バージョン。半妖になど、凸ピン一発でもお釣りがくる。
バンッ!
爆音。半妖の頭部が爆砕し、消し飛ぶ。ついでに、半妖が封印されていた大木も根元から消し飛んで行ったけど、それは気にしない。世界には、犠牲がつきものだからだ。
「ふ! 悪は滅びた!」
謎の決めポーズを決めるかごめ。ヒューと風が通り過ぎて行く。日暮かごめ。彼女は少々痛い子だった。まあ、中学生だし。多少はね?
カー! カー!
そんなかごめの頭上を、カラス達が飛んでいく。きっと、先程の爆音に驚いたのだろう。随分慌てている様子だ。
何とはなしにカラス達を見上げたかごめ。彼女は違和感を抱く。
「あれは……」
飛び去って行くカラスの一匹。それは妖怪だった。多分、死舞烏とか言う下級妖怪。
「なんなの? ここ?」
異常だった。この謎の地へ来てから、数分ほど。その僅かな間に遭遇した妖怪は三体。うち一体は半妖だけど、異常なエンカウント率だ。富士の樹海だって、こんなに妖怪が多いなどと言うことはなかったのに……。
と、
「ギャ!」
カラス達の悲鳴。そして、次の瞬間。死舞烏も含めた全てのカラスが、スプラッターに解体され、地面へと落下していく。
「……髪の毛?」
かごめは呟きを漏らす。彼女は見逃していなかった。カラス達が解体される前、妙な髪がカラス達を襲ったことを。
そして、その髪には妖力が感じられた。きっと、また別の妖怪だろう。たったの数分で、四体目の妖怪。エンカウント率が高すぎる。これがゲームならクソゲーね。かごめは心中で、そう決めつける。
今度はどんな奴? 最初はムカデ、次が犬ミミ。そして、カラス。髪を操ってるようだし、ケムクジャラとか? はあ、嫌だなぁ。あたしは美少女と百合百合したいのに……。
そんなことを考えながら、かごめはゲンナリと肩を落とす。
そんなかごめへと、声がかかる。
「へえ、あんた見えるんだ? あたしの髪」
それは女の声だった。