この素晴らしい世界で催眠を! 作:名無しの(´・ω・`)
神様転生。そんな物がある。ネット小説等でよく取り上げられる題材だ。神様のミスで死んだ主人公が、異世界へ飛ばされる。原作知識や特典の有無、転生先の指定だったりが出来るかどうかによってその世界の難易度は大幅に変わったりするのだ。
まぁ、なんだ。突然そんなことを俺が言い始めた理由は恐らく皆様が既にお察しの通り。
「……特典は絶対に1つだけ……なんですよね?」
「はい、そうですよ?」
俺、死にました。
死因は歩きスマホによる前方不注意でのトラックとの衝突。我ながらバカみたいな死に様である。
現在何やら転生部屋らしきもので俺は天使さんの眼前に直立していた。
簡単に説明しよう。どうやら、若くして死んだ命の行く末は3つあるらしい。娯楽も何もなく、ただ話すしかすることのない退屈な天国へ行くか、完全に別人として生まれ変わるか、ファンタジー世界へといわゆる“神様転生”をするか。しかし、流石に軟弱貧弱な日本人青年をそのままファンタジー世界に送り込んでもすぐに死ぬだろうことは容易く予想できる。そのために1つだけ、チート能力を手に入れることが出来るとのこと。
何やら、俺の1つ前に来た奴は神様を持っていく“もの”として連れていったんだそう。……何だそれソイツは天才か。やりたい放題じゃないか。
目の前には相当数の紙がばらまかれている。そこには武器や能力が書き込まれており、どれも一目で分かるくらいにチートな物ばかり。
その特典を選び、使い、俺は異世界へと転生するのだ。魔王が居る絶賛ファンタジーな世界らしいので、バトル系が良いだろうか、いやいやここはロマン的な……
等と考えまくりながら書類の前を行ったり来たり。
――そして暫く経ち。俺は、1つの能力に決めた。
「じゃ、この『催眠』ってのでお願いします」
「それで良いんですか?」
これを選んだ理由を知ってか知らずか、女神の代理人らしい天使さんは穏やかな表情で俺へと問い掛けた。
もちろん、迷わず頷く。散々悩んだ末の決断だ。変えるつもりはない。
「では、勇者よ。願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています」
こうやって、俺こと
数多のチート能力から俺が催眠を選んだ理由はただ一つ。
もう魔王討伐なんてどうでもいい!
催眠能力で異世界ハーレム築き上げちゃおうぜ!
という魂胆である。
催眠。エロゲやエロ同人ではテンプレ的なものだが、ただ其だけと侮るなかれ。
能力の使い方によっては最強の武器足りうるのである。
例えば、最強の戦士を操ることによって、自分が戦わずに敵を倒したり。
どうやらこの催眠能力は人型で知能があればどんな相手にも聞くらしいので、魔王が人型であるなら自決させるのも手だろう。能力が聞く対象が同時には3人までなので、そこだけには気を付けておかねばなるまいが。
……まあ、何にせよ俺は魔王討伐とか興味ないんだけどな。
* * *
俺が下り立った地点は、周りの人に話を聞いた限り駆け出し冒険者の街『アクセル』らしい。
もう少し詳しく話を聞こうとすると、八百屋の店主は冒険者ギルドに行けばもっと詳しい話を聞ける、と面倒くさそうに教えてくれた。
なるほど、それもそうだ。
ここはゲームみたいな異世界なんだから、そういった類いの組織があるのも当然だ。寧ろそう言った考えが今まで出てこなかった辺り、まだ日本にいた頃の考え方が残っているらしい。
取り合えず、道を歩いていた裕福そうな勇者さん(何やら凄く強そうな剣を持っていた)に試運転気味に催眠能力を使ってみた結果、彼からそれなりにまとまった量の金銭を『分けて』貰えた。冒険者ギルドの登録にはお金が掛かるらしいし、先立つものは有るに越したことはない。
分かってはいたが、やはり『催眠』が中々便利な能力であることを実感できた瞬間だった。
だが、1つの問題点が発覚した。
《相手が催眠に掛けられた時にしていたことを覚えていた》のである。催眠と言ってもわざわざ『お前は○○をする』なんて事を言わずに、催眠に掛けるということを意識さえしていれば言うことを聞かせられる能力だったので、『お金を渡したことを忘れさせる』ことによって何とか事なきを得たのだが……次からは気を付けねばならないだろう。
まぁ、そんなわけで。やって来ました冒険者ギルド。
人に話を聞いては迷い、聞いては迷いの繰り返し。こんなことなら最初から催眠を使って案内してもらえば良かったかもしれない。
「……たのもー」
小声で呟きながら、ドアを開ける。……すると、真っ先に、かなりキツいアルコールの匂いが鼻を突いた。
思わず顔をしかめ、口の辺りを手で覆う。
どうやら、冒険者ギルドが経営しているらしい酒場が賑わっているらしい。
「んな真っ昼間から飲んだくれてんじゃねーよ……」
小さく毒づき、建物のなかを見回す。すると、割りと見付かりやすい場所にカウンターらしきものを発見。そして同時に、綺麗な女性ばかりが並ぶそのカウンターのなかでも特に際立って美人な一人の女性を視界に捉えた。金色のふわふわウェーブに、柔和な顔立ち。スタイルも中々素晴らしく、太っているという意味ではないが肉付きは良さそうだ。
(……何あれすっげぇ美人。……よし、あの人にしよう)
少しだけ年上そうだが、まあ構わないだろう。
問題は交際相手が居ないか――だが。それは後で聞くとしようか。居たら素直に諦めよう。寝取りには興味ないし、少々心苦しい。
標的を決め、俺はその女性が立っているカウンターへと向かった。
脳内で催眠を掛けることを意識しつつ『仕事が終わったら近くの広場へ誰にもバレずに来い』とだけ命令しておき、しかし現実では出来るだけにこやかに話し掛ける。
「あの、すいません。冒険者登録するにはここって聞いたんですが」
「……。……あっ、はい! 合ってますよ!」
「では、お願いします」
布石は張った。後は何でもないようにここを去るのみ。
少しした後、冒険者登録を終えた俺は平然とその場を後にしたのだった。