これで完結という都合上R18の場面は一回しか書けないので、少しこだわってみました。まぁ、拘ったのはそういうことだけじゃないんですけど。
前編よりも出来というか展開が……ですが、あとがきのところまでちゃんと読むことをおすすめします。
「はっ……ふぁ、っ……ちゅ、っ……ん、ぅ……!」
ベンチに押し倒した万由里の唇を、士道はひたすら奪っていた。
触れ合わせる唇も絡める舌の動きも、心を苛む謎の恐怖と寂しさから暴力的になっている。
初めての万由里に対して、一方的かつ優しさの無い口付け。
だが万由里はそれを受け入れていた。
最初こそ身体を硬くして苦しげな呻きを漏らしていたものの、今や恍惚とした吐息を隙間から漏らし、暴力的な口付けに情熱的な口付けで応えてくる。
「っ、あ……はっ……んっ……ん、く……!」
交わる舌先に乗せて粘つく唾液を送り込み、万由里の口内に広げていく。
自分の所有物に名前を刻むように、自分の存在の証を焼き付ける。
躊躇いを見せず喉を微かに上下させ、自ら体内を侵食させていく万由里。
送り込む分全てを抵抗せずに受け入れ、自身の身体にどこまでも士道の存在を取り込んでいる。
「んっ……! ふ、ぅ……っ、あ……!」
高鳴る鼓動が無意識に手を動かし、万由里の胸元へと指を這わせた。
肌触りの良い純白の制服の上からでも指が深く沈み込み、動かすたびに万由里が悩ましい吐息を唇の隙間から漏らす。
直接触れれば一体どれだけの柔らかさを感じるのか。
どれだけ万由里は悩ましい声を上げるのか。
それを知るために、士道は交えていた舌先を静かに引き抜いた。
「ぁ……」
互いの舌先から濡れ落ちる唾液の筋が、万由里の切なげに揺れる瞳に映る。
その瞳を息がかかる距離から見つめることで、万由里は士道が求めることを理解して頷いてくれた。
一旦身体を起し、ベンチに仰向けで横たわる万由里の身体を見下ろす。
自らの身体を野外の空気に晒されることへの羞恥か、硬く瞳を閉ざし震えていた。
普段は無表情とも無愛想とも取れる万由里が羞恥に震える姿に、堪らなく興奮を煽られる。
「あ……し、士道……っ」
微かな怯えの滲む声を耳にしながら、制服のボタンを外していく。
一つ外すたびに万由里が大きく震え、その可愛らしい様子に心臓が飛び跳ねる。
全てのボタンを外して制服の前を開かせると、万由里は一段と強く震えた。
下から現れたブラウスの裾に手をかけると、妨げるように手首を掴んでくる。
だが士道はその手を振り払わず、万由里が自ら手を開くまで待った。
「……っ」
やがて力の抜けた指が開き、恥じらいを隠すように口元へ持っていかれる。
それを確認してから心置きなく、裾を捲り上げていく。
雲間から差す薄い月明かりに、徐々に露になる肢体。
小さな窪みを持つ腹部から、うっすらと鎖骨の浮かぶ胸元。
「――! 万由里お前、これ……!」
そして、男を惑わすための露出と透け具合を持つ黒の下着が。
間違いなく万由里がランジェリーショップで試着して見せた、肌の白さと艶かしさを際立たせる下着。
万由里はこれを買っただけではなく、あろうことか身に着けていたのだ。
デートの最中に度々スカートを押さえる動作を見せた理由が、今更ながらに理解できた。
「……こんなの着けてるってことは、最初からその気だったってことか?」
胸元と下着を冷たい夜気に晒されたまま、万由里は首を横に振る。
「……あくまでも、備えだけどね。何となく、こんな展開になりそうな気がしてたから……」
恥らいに視線を逸らしながら、ぽつりと呟く万由里。
もしかすると、万由里も士道と似たような想いを抱いていたのかもしれない。
互いの身体に、心に存在を刻みあいたいと。
「備えてたってことは、良いんだな。ここで、最後までやっても……」
「……うん……私は恥ずかしくて上手くできないから……あんたが、リードして?」
「……ああ。分かった」
万由里に自身の全てを委ねられ、士道はそれに応えた。
前についている下着のホックをそっと外し、黒いレースの包みを左右に開く。
日光を知らない白い膨らみと桃色の蕾が露となり、月明かりの下で微かに揺れる。
風に揺れる美しい花の如き光景に、美しさに息を呑みながら手を伸ばす。
「んっ……!」
手の平に硬くなった蕾が触れた途端、万由里が小さな喘ぎを漏らす。
そのまま膨らみを包んでしまうと、綿と錯覚するほどの柔らかさが手の平全体に行き渡る。
微かな弾力が抵抗を示しつつも、僅かに触れるだけで膨らみは容易く形を変えていく。
「あっ……は、あっ……ん、ぅ……!」
手の平で回すように揉み解すと、万由里の口から瑞々しい喘ぎが漏れた。
膨らみは力強く触れているにも関わらず、肌同士のすれる感触が微塵も無い。
万由里の肌のきめ細かさが、驚くほど滑らかに手を動かさせている。
途方も無く柔らかな感触と瑞々しい喘ぎに、心臓の鼓動が昂ぶっていく。
頭に上る熱い血潮に身を任せ、その膨らみに熱く口付けた。
「ふあっ! あっ、あ……ん、あぁ!」
自身の胸元が濡れていく感触に万由里が身を捩り、士道の胸や肩を両手で押して抵抗してくる。
しかしその抵抗はあまりにも弱々しく、力が欠片も込もっていない。
喘ぎも表情も快感が滲んでいて、全く嫌がっているようには見えない。
だから構わず大口を開け、膨らみの感触を貪る。
口の中で唯一の抵抗を示す僅かに硬さを持った突起も、舌で弄り味わいつくす。
「っ、あ! し、士道……は、ぁっ……そ、そこ……んっ……あぁ!」
いつしか万由里は士道の頭をかき抱き、胸元を蹂躙される感覚に恍惚の声を漏らしていた。
この場所が開けた公園であることを最早気にしている様子はない。
周囲に払う分の思考や感覚さえ全てこの愛の交わりに費やし、士道の存在を身体で深く感じているようだった。
「万由里……もう、良いか?」
万由里の胸元に自身の存在を深く刻みつけ終えた士道は、再び身体を起して万由里を見下ろす。
最後に行うのは、身体の奥深くへと存在を刻み付ける行為。
恥ずかしそうに頷いた万由里のスカートを捲り、その悩ましい下着を曝け出す。
「んっ……!」
僅かに濡れた白い太股に触れると、それだけで万由里が小さく喘ぐ。
指を腰元へ滑らせて下着を結ぶ紐を解くと、万由里の身体が震える。
薄布を払いのけて月明かりの下に全てを露にさせると、万由里が息を止めて羞恥に固まる。
現れたのは雪山の斜面を彷彿とさせる、太股の間へと下る滑らかな肌。
その抜けるような白さと美しさが、万由里の身体の反応が、興奮を大いに煽り刺激していく。
「あ……あんまり、見ないで……っ」
声音に凄まじい羞恥を滲ませているが、決して隠そうとはしない。
首元まで捲り上げられたブラウスを両手で硬く掴み、羞恥に耐え忍んでいる。
じっくり楽しめるような状況なら、視線でいつまでも苛めてやりたいほどに可愛い。
だが今は一秒でも早く存在を刻みつけ、刻まれたかった。
「……ごめんな……ちょっと、痛いかもしれないぞ……」
「……大丈夫……我慢、するから……」
肩で息をしながら、気丈に微笑む万由里。
その唇にもう一度口付けてから、士道は軽く腰を上げ――
「――っ!」
白く滑らかな肌の中へと、興奮に脈動する半身を挿し込んだ。
襲い来る押しつぶされるような圧力に、士道は快感の呻きを漏らしてしまう。
反面自身の身体の内を異物に抉られる痛みからか、万由里は表情を歪めていく。
「うっ……! っ……く、ぅぅ……ん、ぅ……!」
だが悲鳴を喘ぎに抑え込み、身を捩ることなく堪えている。
瞳の端に涙を滲ませつつも、士道の上着の胸元を縋るように両手で握り締めて。
自分の内へと潜り込んでいく士道の一部を、ただひたすらに受け入れていた。
「はっ……あ、ぁ……し、どう……」
根元まで完全に抉りこんでしまうと、万由里の苦痛の表情は幸福に彩られた微笑みへと変わった。
自分達の存在が一つになっているという事実に、士道も心の中に幸福を感じる。
間違いなく万由里という存在が、ここにある。
「んっ! う、うぅ! あっ、ああぁ! あぁぁっ!」
だが今ここに存在していようと、離れれば消えてしまうのかもしれない。
その怯えを誤魔化すかの如く、士道は万由里の内へと刻み始めた。
自身の一部を激しく打ち付け、執拗に何度も自分の証を残していく。
その度万由里が上げる瑞々しい喘ぎは、若干の苦痛を孕んでいながらも喜びに溢れていた。
「っ! しっ、士道っ! だ、抱いててっ! あ、あぁぁっ! はなさ、ない、でっ!」
必死に懇願しながら、両腕を背中に回してしがみついてくる万由里。
その様子は溢れる快感に耐えられないようにも、決して士道から離れたくないと願っているようにも思えた。
「っ……万由里! 離さない! 絶対、離さないっ!」
心が導くままに言葉を紡ぎ、儚い華奢な身体を強く強く抱き返す。
決して自分から離れないように。
決して消えてしまわないように。
「万由里……万由里っ!」
「あ、あぁ、あぁぁぁぁぁ――ああああぁぁぁぁぁ!!」
堪えきれずに迸った存在を、万由里の身体の奥深くへと注ぎ込む。
身体の内に決して消えない士道の存在を焼き付けられた万由里は、恍惚に溢れた悲鳴を夜の公園に響かせた。
腕の中のその身体が力を失くすも、背中に回された腕は決して解かれない。
士道もその抱きしめた身体を離してはいない。
まだ互いに刻み足りていないのだ。
もっと深く愛し合い、魂の底にまで互いを刻みあいたい。
だから士道は万由里を抱いたまま上半身を起し、その身体を抱え上げて突き上げ始める。
「ああぁぁぁ! はっ、あぁぁ! うあぁぁぁ!」
横になるのではなくベンチに座り込む形で、互いに向き合ったまま愛し合う。
抱え上げた万由里の身体を、上下に振り動かす形で。
身体の重さと重量が加わり強さを増した刺激に、万由里の口から激しい喘ぎが零れていく。
正面から士道の瞳を覗き込んでくるその表情は、快感と喜びに嫌らしく乱れている。
そんな堪らなく艶かしい表情を見せられれば、襲い掛かる以外に選択肢はない。
「あぁぁぁっ! んっ、うあぁぁ! はあぁぁぁっ!」
万由里のブラウスの裾を捲り上げ、再び胸元に顔を埋める。
食欲を満たすようにひたすらに食らいつき、際限なく味わっていく。
万由里は激しく突き上げられながらも、欲望に突き動かされる士道の頭を優しくかき抱き全てを迎え入れていた。
「はっ、あぁぁぁ! 士道っ! キ、スっ……キス、してっ! っ、うあぁぁぁ!」
徐々に身体を震わせてきた万由里が、蕩けた声で願いを叫ぶ。
士道は潜り込んでいたブラウスの中から抜け出ると、万由里に熱く口付けた。
舌を交え絡めながら、お互いの存在を取り込み奪い合う。
「むっ、ぅ! う、ぅぅぅ! んっ、ふうぅぅ、うううぅぅぅぅ――うううぅぅぅぅぅぅ!」
湧き上がる熱さの限界を迎えた士道が再び万由里の内へと存在を焼き付けた。
互いに唇で貪りあっていたため、くぐもった歓喜の悲鳴が上がる。
連続で迎えた絶頂に最早腕の力も失くし、後ろへ倒れかける万由里。
離さないで欲しいと願いながら、結果的には自分から腕を解いて離れていく。
仕方のないことだとは理解していても、離れたという事実を認識した瞬間堪えようのない悲しみが心に溢れてきた。
力付くでも、離れさせたくない。
「あっ……し、士道……っ……!?」
倒れかけた万由里の身体を支え、無理やりベンチの上でうつ伏せにさせる。
唐突な暴力染みた行為に万由里が混乱を示す中、構わず黒のソックスに包まれた膝を地面に付かせてスカートを捲り上げる。
「だ……だ、め……これ……恥ずか、しい……っ!」
無理やりこの体位へ持っていかれた万由里は、息を乱しながら途切れ途切れに声を絞り出す。
肩越しにこちらへ向けられる瞳は、今まで以上の羞恥に揺れている。
だが構わず力付くで暴力的に後ろから突き入れた。
「うああぁぁ! はっ、あ、ああぁぁぁぁ! ん、ううぅぅぅ!」
身体を力付くで押さえつけて、獣の交尾の如く半身を万由里の内部へと打ち込み続ける。
その激しさと今の体位への羞恥からか、地面を擦るような形で膝と脚を動かしもがいている。
だが力で押さえ込まれているのだから士道の下からは離れられない。
それを悟ったらしい万由里はベンチに縋りつくようにして縮こまり、自分を貫く衝撃にサイドのテールを揺らして必死に耐えていた。
「万由里……勝手に、離れるな! 離れないでくれ!」
華奢な身体を半身で抉りつつ覆いかぶさり、耳元で願った。
こんな容赦も慈悲もない真似をしてでも、決して離れたくないから。
「……じゃあ、絶対っ……! は、離さない、で……! 私を、絶対……!」
万由里は切なげに答えた。
士道が絶対に離さなければ、決して離れないと。
「万由里……っ!」
「し、士道っ! ふあっ、あっ、ああぁぁぁ――あああぁぁぁぁぁぁっ!!」
だから士道は決して離さず、後ろから強く抱きしめる。
そしてひたすらに万由里の存在を自らに焼付け、自らの存在を万由里に焼き付けた。
自分の身体が動く限り、いつまでも。
気が付けば月はかなり高く昇っていた。
眼下の街並みは闇の中に数え切れないほどの灯りを輝かせ、宝石のように綺麗な光景を作り出している。
高台公園にも完全に暗闇が訪れていて、月明かりがなければほぼ真っ暗で何も見えないほど暗い。
そんな公園で火照った身体を冷たい夜気に冷ましながら、士道と万由里は寄り添ってベンチに座っていた。
「……それで、何でこんなことしたのか教えてくれるわよね」
士道の制服の上着を羽織った万由里が、微かに息を乱した状態で尋ねてくる。
改めて聞かれると自分でも良く分からなかった。
根拠のない不安に見舞われ衝動のままに襲いかかった、では誰も納得してくれないだろう。
だが他に理由はないのだから、そう答えるしかなかった。
「……こうしないと駄目だと思ったんだ。正直何の根拠もないけど、こうしないとお前がいなくなるような、消えちまうような気がして……」
「……そんな不確かな理由で乙女の純潔を奪うなんて最低。しかもこんな開けた野外で。とりあえず何か言うことあると思うんだけど」
「はい……申し訳ありません……」
無愛想とも取れる表情に軽蔑を浮かべ、凄まじい睨みを向けてくる万由里。
野外であることを抜きにしても明らかに最低の行為なのだから、その反応も正当なもの。
反論の許されない士道にできるのは、縮こまって謝り倒すことだけだった。
「……でも、何となく私も似たようなこと感じてた」
「万由里……?」
万由里は徐に士道から視線を外すと、金色に輝く満月に近い月に視線を注いだ。
どこか達観したような、それでいて諦めにも似た悲しい表情を浮かべながら。
「私が感じてたのは、本当は会っちゃ駄目なのに一日だけ会うのを許されてるみたいな良く分からない感じかな。もちろんそんなことありえないけど、何だか考えるたび胸が痛くなって不安で堪らなくて……」
乱れた制服の胸元を押さえ、言葉どおり不安の滲む呟きを漏らす万由里。
とはいえ確証も根拠もない恐れからくる不安だ。
あんな下着を身に着けていたわりにさほど積極的でなかったのは、その不安があまりにも現実味のないものだったからなのだろう。
存在を刻みあった今となっては、士道もいまいち現実味を感じない。
「……でも良い思い出ができたし、消えたとしてもあんまり心残りはないわ。むしろこんなところで初めてを奪われたって考えると、自分から消えたくなってくる」
冗談染みたことを口にしながらも、怒りの込もった鋭い視線を向けてくる。
まぁ女の子にとって大切な初めてだったのだから、ロマンチックな要素が皆無なのが不満でも仕方ない。
罪悪感から万由里の視線を避け、士道は明後日の方向を向いた。
「そ、それはともかく……本当に心残りがないのか? またデートしようって、お前も言ってくれただろ?」
「ん、そうね……じゃあ、一つだけ。士道に愛してるって言われてないことは心残り」
「それだけなのかよ……もっと他にないのか?」
「突然聞かれたってあんまり思い浮かばないし。だから今の所はこれくらいかな。もちろん言ってくれるわよね。こんな場所で、あんなことしたんだから」
頬を染め、俯きがちに呟く万由里。
もちろん存在を刻み付けたいがためだけに欲望に身を任せ、襲い掛かったわけではない。
万由里に愛を抱いていなければ、士道も野外で行為に及べるような度胸はなかった。
だから心を込めて、愛してると口に――
「……いや、やっぱり言わない」
――しようとして、止めた。
万由里もこれには驚いたのか、恥じらいもかなぐり捨てて不機嫌極まる表情を向けてくる。
「何で? あれだけのことしたくせに、愛してるの一言も言わないなんてどう考えてもずるいじゃん」
「消えずに会いにきてくれたら、ちゃんと言ってやるよ。それまでは絶対言わないからな」
今では消えることなどありえないと思っているが、万が一という可能性もなくはない。
その可能性があるのなら、絶対に会いにきてくれるようにしておきたかった。
「……最低」
万由里はむっとして視線をそらす。
ちょうどその時、再び士道の携帯が鳴った。
確認してみるとメールやら着信やらがそれなりの量溜まっていた。
量も然ることながら、メールの文面は時間を負うごとに過激になってきている。
「……相当怒ってるな。そりゃそうか、もうこんな時間だしな」
流石にそろそろ帰らなければ皆が心配してしまう。
名残惜しいし微かに不安も残っているが、もうお別れの時間だ。
「また、会えるよな?」
「たぶんね。私が消えたりしない限り」
「そんなこと言うなよ……余計不安になるだろ」
「ん……じゃあ、こういうのは? もし私が消えた時は、愛してるって言ってくれたら化けてでも出てきてあげる。それまでは絶対出てきてあげない」
士道に上着を投げ返し、仕返しとでもいうようにニヤリと笑う万由里。
これではどちらにしろ愛してると言ってやるしかない。
校門前でのやり取りと同じく、万由里に勝つことはできないようだ。
「……その時は言ってやるから、絶対出てこいよ? 約束だからな」
「良いけど、あんたも私が会いにきたら言ってくれるって、約束して」
「分かった。約束する」
「ん、じゃあ指きり」
細い小指を立て、万由里は無表情で催促してくる。
ちょっと子供っぽくて恥ずかしいが、どうせそれ以上に恥ずかしいことにこの場所で励んでいたのだ。
躊躇いなく自らも小指を絡め、約束を交わす。
指を離す瞬間、万由里の耳下のイヤリングを月明かりが照らした。
光を反射したイヤリングが金色に輝く様は、まるで満月の如く綺麗な煌きだった。
「……また会いましょ、士道」
「ああ……またな、万由里」
別れの言葉を残して万由里はどこかへと歩いていく。
士道はその後姿が見えなくなるまで眺めていた。
瞳に焼き付けるように、あるいは記憶に焼き付けるように。
何か途轍もなく長く密度の濃い夢を見ていたような気がした。
やたらにリアルだったことは覚えているものの、夢の内容は曖昧だ。
まるでモザイクやノイズがかかっているかのように、そこに存在しているのに見ることができないのに似ている。
とはいえ夢の内容などそんなものなので、大した問題ではない。
むしろ問題なのは――
「おっ! 目が覚めたか、おにーちゃん!」
――年頃の女の子なのに腹の上でパンツをチラチラさせながら飛び跳ね、蹴りに近いジャンプを執拗に繰り出している妹の方だ。
「そりゃあ腹をトランポリンにされれば誰だって起きるだろ。もう慣れたけどさ」
「な、何ー! それならもっと激しくダンシングだー!」
驚愕に目を見開き、ツインテールを揺らして激しいダンスを踊る白琴里。
とはいえ動作が素早く激しくなっただけで、加わる衝撃はどちらかといえば低くなっている。
全く意味が無いどころか下手をすると足を滑らせてベッドから転げ落ちる。
「あー、はいはい。転ばないうちに止めなさい……?」
足を掴んで動きでも止めようかと考えた直後、琴里のパンツが丸出しになった。
その瞬間、士道の頭に不可思議な疼きが生じた。
恥ずかしげもなく晒している琴里の水色と白の縞パン。
疼きはそれに対して違和感を覚えさせるというか、何かを思い出させようとするかのように頭を刺激してくる。
それは決して無視してはいけない感覚に思えて、士道はじっと視線を注いでいた。
「な、何かおにーちゃんの目がやらしい! 妹のパンツがそんなに気になるのかー!?」
「ん? あ、いや……?」
ただそんな士道の姿は、琴里からすれば非常に危険な様子に映ったらしい。
まぁ自分の下着を吟味するように真剣な瞳で視線を注がれれば、当然の反応だ。
今まで恥じらいなど見せなかった癖に、バッとスカートの裾を押さえつけて頬を真っ赤に染めている。
しかしその自分の下着を見せないように隠す動作が、またも頭の奥に疼きを生じさせた。
そのせいで視線を外せないでいると、身の危険を覚えたのか琴里が素早くベッドから飛び降りた。
「わー! おにーちゃんの朝ごはんのおかずにされるー!」
ちょっと下世話な悲鳴を口にしながら、琴里が部屋の外へと駆けていった。
純白のセーラー服を翻し、結った髪を揺らしながら。
その後姿に再び疼きが生じ、今度は何かを思い出しそうになる。
「……?」
しかし思い出すことができなかった。
記憶の中にはあるはずだというのに、ノイズやモザイクに邪魔されているかのように。
朝食を済ませ、学校へ行き、放課後を迎える。
それだけ時間が経とうと不可解な頭の疼きは消えなかった。
むしろ日常のそこかしこの場面で何度も強い疼きに襲われ、その度に何か思い出しそうになる。
そしてやはり、何かに遮られているかのように思い出すことが出来ない。
それは何とももどかしく、同時に謎の悲しみや寂しさが込み上げる疼きだった。
「あれ……?」
夕日に照らされ淡くオレンジに染まる校門前。
下校する生徒達が作り出す雑踏。
何故だろうか、この光景には頭の疼きだけではなく強いデジャヴを覚えた。
別に何の変哲もない、放課後の校門の様子だというのに。
「む、どうしたのだシドー? 早く帰って夕餉にしよう。私はお腹が空いたぞ!」
「ん? あ、いや、何でもない」
空腹にしてはやたら元気そうな声を十香が隣で上げた。
無視してはいけない感覚だった気がしたものの、朝から夕方までかけて結局思い出せないのだから何も出来ることはなかった。
唐突に生じたデジャヴに校門前で立ち止まっていた士道は、少し離れた十香の下に小走りで追いついた。
「よし、帰るか。まだ夕食には早すぎるけど、十香は何が食べたいんだ? リクエストがあるなら今のうちだぞ?」
「し、シドー……その、何だ。見られていると、なかなか恥ずかしいな……」
「恥ずかしいって……何言ってるんだ、十香?」
何故か十香は恥らいながらも満更でもなさそうな表情を浮かべていた。
夕食のリクエストを聞いた程度でこの反応は明らかにおかしい。
疑問に思った士道は俯く十香の視線の先、十香の手に目を向けると――
「――って、な、何で手繋いでるんだ……?」
――何故か士道と十香の手が固く繋がれていた。
そんなことをした覚えは全くないというのに、ご丁寧に指まで絡められている。
偶然手を繋ぐことがあるとしても偶然指まで絡めることはまずないだろう。
非常に不可解な現象だった。
手を離すことも忘れ疑問に眉を寄せる士道と、恥らう十香に下校中の生徒達の視線が注がれる。
見るだけでは飽き足らない生徒たちが口々にはやし立てたり、呪詛を唱えたり、嬉しそうにマジひくわーと声を上げる。
「……っ?」
そんな居心地悪い状況にも関わらず、士道が感じたのはまたもデジャヴ。
ただ今度は見たことがあるような光景だという感覚だけでなく、この後どこかへ向かったという感覚をも覚えた。
それがどこかは分からないものの、ぼんやりと方向くらいは分かるような気がした。
無視するべきでないと分かっていながら今までは何もできなかった。
だが今回は違う。
この感覚に身を任せて辿っていけば、何か大切なことが分かるような気がした。
「シドー……?」
「……悪い、十香。ちょっと用事ができたから、一人で帰ってくれるか? 帰ってきたら、十香の好きなもの作ってやるからな」
「む……うむ、分かった」
士道が手を離してしまったせいか、夕食の献立が自分の好きなものになるにも関わらず不満げな十香。
周囲の生徒の一部も不満げな声を漏らしていたが、そちらはどうでも良い。
名残惜しそうに去る十香の後姿を、疼きを感じながら見送る。
十香の姿が見えなくなってから、士道は曖昧な感覚に任せて歩き出す。
その足は商店街に至ると、あろうことかランジェリーショップの手前で立ち止まった。
「な、何でこんなところにくるんだよ……もしかして心の中では入りたがってる、とかじゃないよな……?」
度重なる女装のせいで無意識の領域に女装癖が身に付いたのかと恐怖する士道。
しかし幸運なことにそれは違ったようだ。
不思議と思い出せなかった夢の記憶が部分的に露になってきて、それが分かった。
それは女の子とデートしている夢だった。
ただモザイクやノイズがかかっているかのように、誰なのかを思い出すことはできない。
その少女が下着を身に着けた姿を目にしたり、感想を求められたり、ふざけて女性用の下着を着せようとしてきたり、とにかく夢の中のデートでこの場所を訪れたのだ。
朝から続いていたもやもやとした感覚が拭えて、やっとすっきりした士道。
だが理由が分かっても、ここで帰ってはいけない気がした。
だから再び、気の赴くままに歩き出す。
しばらく歩いていると、癖になるような甘い香りに鼻先をくすぐられた。
「……ん? ああ、きなこパンか。そういえば、ちょっと小腹が空いたな……」
まだ夕食の時間には早いものの、小腹を満たすために一本だけ購入する。
夕焼けに照らされた道を歩みつつ一口齧りつくと、またしても記憶を覆い隠していたノイズが剥がれ落ちた。
夢の中のデートでも、こうしてきなこパンを食べていた。
誰かと一緒に手を繋いで、歩きながら。
そしてパンを落としてしまった士道に、変な条件をつけて自分の分を分けてくれた。
その変な条件は、何か自分を喜ばせるようなことを言うこと。
最初に口にした台詞は、お前のことが好きだ、という何の芸もない台詞。
当然駄目出しを食らったが、最終的には分けてもらえた。
しかし駄目出しを食らってから分けてもらうまでの間の記憶は、未だモザイクに覆い隠されている。
思い出そうと意識を向けると、心に奇妙な悲しみや寂しさが生じた。
何故こんな感覚が生じるのか。
その理由を、そして自分が何を忘れているのかを知りたくて、士道は記憶に導かれるまま夕焼けに染まる商店街を歩いた。
曖昧な記憶に導かれるまま商店街を彷徨い歩き、最後に訪れたのは高台公園。
そこで夕日を眺め、沈む瞬間や雲を照らす最後の輝きを目にしたことで、士道は夢の内容をほとんど思い出した。
夢では放課後に商店街を一緒に歩いてデートをして、ここ高台公園で共に夕日や夜の空を眺め――この場で狂おしく愛し合った。
思い出せないのはそんな凶行に及んだ理由や、商店街での喜ばせるための言葉、最後に交わした何かの約束、そしてその少女が一体誰なのかということ。
これだけはどうしても思い出すことができなかった。
ノイズやモザイクがかかっているどころか、記憶に何か厳重なロックでもかかっているかのようだ。
ここまでくると、何物かが意図的に記憶をブロックしているのではないかと思えてくる。
そもそもあれが夢なのかどうかさえ、今の士道には確証が持てない。
夢にしては感覚があまりにもリアルだった。
重ねた肌の滑らかな感触、抱きしめた身体の温もり、互いに愛し合う幸福感。
それらは全て自身の身体に刻み込まれているかのように、目を閉じればはっきりと感じられる。
だというのにこれ以上のことが思い出せなかった。
どうしても思い出さなければいけないはずだというのに。
「……もう、こんな時間か」
物思いに耽っていたせいか時間を忘れていたらしく、いつのまにかあたりは真っ暗になっていた。
しかし周囲には仄かに月明かりが射している。
きっともう月が昇ったのだろう。
月明かりの元を辿るように何気なく空を見上げた時、士道はそれを目にした。
「――っ!」
記憶の隠された部分を強く刺激する、美しい満月を。
その金色の輝きを、士道はこの場所で間違いなく目にした。
別れ際、少女と何かの約束を交わした直後に。
月そのものではなく、少女の身に着けた何かに反射した輝きを。
指輪ではない。
髪飾も違う。
そう、アレはたぶん――イヤリング。
「あ……!」
そのイヤリングの輝きを思い出した時全ての記憶が溢れ出し、世界が歪んだ。
まるでノイズやモザイクが一斉に剥がされたかのように。
まるでその記憶こそが閉じた夢の世界を開く鍵だったかのように。
「万由里……?」
少女の正体は――万由里。
この場で狂おしく愛し合った理由は、万由里が消えないよう互いの存在を刻みあうため。
最後に交わした約束は、消えずに会いにきたなら愛していると言ってやることと、消えてしまったなら愛してると言えば化けてでも出てきてくれるということ。
やっと全てを思い出せたが、あまり嬉しくはなかった。
結局、あれは全て夢だったということなのだから。
約束を交わす前からすでにこの世に存在していない万由里と、デートできるはずがなかった。
「そう、だよな……あれが現実の出来事なわけ、ないもんな……」
本当に夢なのか疑うほどリアルだったとはいえ、結局は夢の中でしかあり得ない出来事。
落胆と悲しみに溜息を漏らし、言いようのない虚脱感に襲われる。
疑いようもなく答えが出てしまったのだから、この場にこれ上留まっても意味はない。
それをはっきり理解した士道はベンチから腰を上げ、早く家路に着こうと思った。
「けど……」
今は忘れてしまっただけで、もしもあれが何らかの形で現実となった時間だったなら。
あり得ないと理解しつつも、そんな一縷の望みを捨て切れなかった。
何故なら万由里は約束してくれたのだ。
愛してると言ってくれれば、絶対に出てきてやると。
細い小指を絡めて繋がりを作り、誓ってくれた。
そんな言葉が元々消えていた万由里に届くとは思えない。
届いたとしても、歴史や世界に誰かが手を加えでもしない限り、出てこられるとは思えない。
「万由里――愛してる……」
それでも、想いを口にした。
万に一つの可能性があるのなら、縋りたかった。
士道の決して小さくない呟きは、夜の風を堪えて辺りに広がっていく。
この場の空気に、この世界に、深く染み入っていくように。
「………………」
しばらくして、士道は辺りを見回してみた。
どこかに純白の制服を纏った無愛想な顔をした少女はいないかと。
だが辺りには人気の無い公園の様子と、人工の光で輝く街並みが見えるだけ。
暗闇の中には、誰も姿を現さなかった。
まるでこれが現実だとでも言うように、冷たい風が吹くばかりで。
「……もう、帰るか」
最後の望みを失くした士道は、街並みに背を向けた。
悲しみはあれど、不思議と心は晴れやかだった。
夢の中とはいえ、消えてしまったはずの万由里と幸せな時間を過ごせたのだ。
現実にはもう起こりえない出来事を思い出として記憶に残せたのだから、士道の望みが何でも叶う理想郷でしか実現できないような夢を見せてくれた神様か何かには、感謝こそすれ恨む気持ちは微塵もなかった。
「じゃあな、万由里……」
士道は最後に別れを告げた。
すでにこの世には存在しない、夢の中でもう一度だけ会えた相手に。
そしていつもの日常へと戻るために、満月を背に足を踏み出した。
胸に抱えていくのは互いに楽しんだデートの記憶と、互いの愛を交わした情熱に満ちた記憶。
例え夢の中であろうと、デートの時に感じた楽しさは本物だったから。
例え夢の中であろうと、士道が万由里に与えた愛は、万由里が士道に与えてくれた愛は、嘘偽りのないものだったから。
「……愛してる」
変わらぬ愛の気持ちを思い出の地に残し、士道は薄闇の中いつもの日常へと帰り始めた――
「――っ!?」
帰路へと足を一歩を踏み出した瞬間、視界が突然暗闇に包まれた。
何かに瞳を覆われたらしく、目蓋に滑らかで暖かい感触がある。
何事かと驚く士道の耳元に、今まで誰もいなかった背後から誰かが囁いた。
「……だーれだ」
あまり抑揚の無い声の中に、隠しきれない嬉しさの滲む声で。
先刻に倍する驚きに見舞われた士道が振り返ると、そこには満月を背に一人の少女が立っていた。
「万由、里……な、何で……?」
純白の制服を身に纏い、長い金髪とサイドのテールを風に揺らした、無愛想な表情に穏やかな笑みを浮かべた少女――万由里が。
「化けてでも出てやるって、約束したでしょ……それに私の大切なものをこんな場所で奪ったんだし、ちゃんと責任取ってもらわないと、気がすまない」
万由里はそう呟くと、胸の中に身を預けてくる。
何故ここに万由里がいるのか。
そもそもここは現実なのか。
疑問はたくさんあったが、今は細かいことはどうでも良かった。
約束どおり万由里が出てきてくれただけで、また会えただけで、十分だった。
「……ああ、ちゃんと取るよ。だからもう、絶対消えないでくれ」
「ん、あんたがちゃんと、愛してるって言ってくれるなら考えとく」
視線を合わさず、頬を染めて答える万由里。
士道はその頬に手を当て無理やり顔を上げさせると、まっすぐに瞳を覗きこんで言った。
「愛してる、万由里……」
「私も、愛してる。士道……」
互いに愛を伝え合い、熱く唇を重ねる。
そして再び、月明かりの下で身体を重ねた。
これが夢なら、また夢の中で会えるように。
これが現実なら、また消えてしまわないように。
士道と万由里は互いに愛を囁き、いつまでも心と身体に深く互いを刻み付けていった。
めでたくハッピーエンド……?
夢か現実かはご自由に解釈してください。私の中では決まっていますが。
ちなみに総タイトルの「ハーフアウェイク」とはそのまま訳すと「半分起きている」みたいな意味ですが、場合によっては「夢現(ゆめうつつ)」という意味になります。これの意味は「夢と現実」、あるいは「夢か現実か区別し難い状態」です。