タダカツ一家は予定通りイッシュ地方を訪れていた。
ヒウンシティやライモンシティ、そしてソウリュウシティを観光していった。
特にライモンシティではスミレとソレイユにバトルサブウェイでのポケモンバトルを見せてバトルのやり方、ルール、そして戦略の立て方を教えていった。
ブルーベリー学園訪問前のホドモエシティのパーティー会場にて、
イッシュ地方のリーグの代表者達の演説を聞いている時、
(まだ続くのかこの演説。全くお偉い方の演説はどこに行っても長いものだな)
タダカツはスーツ姿でパーティーに参列していた。
「おい、そこの青二才何つったってるんだ」
(ん?)
後ろから声をかけられ振り向くタダカツ。
「相変わらずお高く止まっている姿は好きになれねぇな」
「これはヤーコン殿、お久しぶりでございます」
「フン、カロスでは随分チヤホヤされているようだが、まだ俺の目から見れば苦労知らずの青二才よ」
「恐れ入ります。ヤーコン殿のお口もお変わりなくて私も安心致します」
ヤーコン、ホドモエシティのジムリーダー兼ネジ山の鉱山会社の社長を務めている。
「あの情けなくて意気地がなかったポケモントレーナーのお前が今ではカロスの警察のお偉いさんとは調子に乗ってないだろうな」
「ヤーコン殿には本当に頭が上がりません。あの時は大変お世話になりました。ヤーコン殿に助けて頂いたおかげで私は今では妻と二人の子供に恵まれています」
それはタダカツがマーシュと出会う前の話。彼がまだ幼く世界を旅していた時のことであった。ホドモエシティで放浪してたタダカツはとある街の裏路地で壁にもたれながら座り込んでいた。バトルに負けたり、喧嘩し続けたりし、荒れ果て憔悴しきっていた。
「おい、お前そんなところで何してる?」
「?、おっさんは誰だ?悪いが今はバトルする気もないんだ。放っておいてくれ」
タダカツはその場から立ち去ろうとした。
ガシッ!
(・・・・・?)
腕を掴まれたタダカツは薄暗い顔で振り向いた。
「そんなみっともねえ面で俺様の街を歩くんじゃねえ、俺様はな、お前みたいなくよくよした奴を見るのが嫌いなんだ」
そう言うとヤーコンはじっと彼の目を見続けた。
「・・・・お前はここで野垂れ死ぬような奴には見えん、ちょっと俺と付き合え」
「離してくれ。俺はもうこうするしかないんだ」
「いいから黙って来い!」
そうして夜のホドモエシティの街道を連れて行かれるがままにとある民家に入っていった。
「そこに座れ」
ヤーコンに事務室のような部屋に連れて来られ接客用と思われる椅子に座らされた。
そして対面の椅子にヤーコンはドサっと腰掛けた。
「何故お前をここに連れてきたか分かるか?」
「・・・・分からない・・・」
タダカツはヤーコンから目を逸らしながら俯きボソボソと話した。
「フーッ・・・・・・」
ため息をつきながら何かを話そうとするヤーコン。
「これはただの親父の独り言だと思え」
「・・・・・・・・」
「ある男が一人いた。そいつはガキの頃から暴れん坊でな、家は貧しく、素行が悪いまま成長していった。やらされるがままに炭鉱で働き、周りから孤立していた」
「・・・・・・・・」
「しかし、ある時に一匹のモグリューに出会った。そいつは怪我をしていた所をその男のその場の気分で助けられた。それに恩を感じてか一向に奴から離れなかった。だがな一緒に炭鉱で働いてたら、自然と仲良くなってそいつの相棒となった」
「そのおかげか周りの連中とも仲良くなってな、そこから奴は生まれ変わったように真面目に働きやがて作業員グループのリーダーを務め、ポケモンバトルにも精を出すようになった」
「それからどうなったんだ?」
タダカツはヤーコンの話に興味を持ったのか、少しずつ耳を傾けるようになっていた。
「だが、いいことばかりではなかった。ある時炭鉱で事故が起きてな、そいつの率いたチームが落盤の影響で外部との連絡が取れなくなって孤立してしまった。その採掘コースは奴の提案から開拓されたコースで決して安全じゃなかった。それを強行した為、チームのメンバーから批判されまくってな、焦って戸惑ってた奴を置いてモグリューは助けを呼びに一人で穴を掘ってどこか行ってしまった」
「閉じ込められて長い時間が経った時に上から穴が開いて一筋の光が灯った。穴から人の声が聞こえた。それはチームを助けに来た救助隊の声だった。何故この場所が分かったのか聞いてみるとそいつの相棒のモグリューが必死になって穴を掘って遠くにいた人を案内して助けたというのだ」
「事情を聞いてそいつがモグリューの元に駆けつけると身体中土埃や傷だらけの上、野生のポケモンに追われたりしたから、体力も消耗してた。しかし、それでもへっちゃらな様子で奴と触れ合った。奴は一筋の心の汗を流しつつ、モグリューを抱きしめた。奴とモグリューは掛けがえのない仲になった」
「やがてその男は懸命に働き、その業績が認められ、一つの鉱山の経営を任されて、その街のジムリーダーにまで登りつめた。その後、一人の女性と結婚して、娘も生まれて幸せに生きている」
「その男はその後どうなったんだ?」
タダカツは興味津々でその話の続きを聞こうとした。
「フンッ」
ヤーコンは一つのモンスターボールを投げ出して一匹のポケモンを出した。
そのポケモンはちていポケモンドリュウズだった。
ドリュウズはモグリューの進化系、それを見たタダカツは勘付いた。
「その男とはあんたのことか?」
「フンッ、気がつくのが遅えんだよ。そうだよ。俺のことだ」
ヤーコンはドリュウズを撫でながら話をした。
「お前はかつての俺と同じ目と雰囲気をしてる。ポケモンバトルの腕も悪くなそうだが、その二本の棒らしいのはなんだ?」
「これは刀(カタナ)と言って、ジョウトの地に古より伝わってきたものだ。それにこの刀は私が先祖より受け継いできた大事なものだ」
「ふーん、そのことは今はいい、名前を言うのが遅れたな。俺様はヤーコン、このホドモエシティのジムリーダーにして、ネジ山鉱山会社の社長もやってる。お前さんの名は?」
「私はタダカツ、訳あって今は放浪の旅に出てるしがないポケモントレーナーだ」
「それで、なんであんな所に居たのか話す気はないのか?」
「・・・・・・あまり言いたくないが、話を聞かせてくれた礼に私の事を話そう」
それは彼が生まれた村での生い立ちについてのことであった。
村での忍者のポケモントレーナーになる為、幼い頃よりポケモンバトルや忍術の特訓といったスパルタ指導で少数の仲間と共に英才教育を受けていた。だが、成績はタダカツが最下位でどんなに頑張ってもポケモンバトルや忍術の成績は悪いばかりでそのうち彼はすっかり落ちこぼれになってしまった。
「はあ、俺は忍者としてもポケモントレーナーとしても才能がないのか。くそっくそっくそっ・・・・・・」
タダカツは嘆きながらも努力に努力を重ねてやっとの思いで卒業試験に合格した。
「おい、タダカツ!」
「んっ?なんだ?」
「卒業してもお前は最下位の馬鹿忍者なんだから俺や他の連中と関わるのはやめろよ?」
「!?、そんな、これまで一緒に頑張ってポケモントレーナーや忍術修行の苦痛に耐えてきた仲じゃないか!」
「はあ?そんなもんお前しか思ってないぞ?誰もお前を仲間だなんて認めてないぜ」
「・・・・・・・!!」
「お前は事実上落ちこぼれのダメ忍者なんだ。今まで卒業するまで組んでもらっただけでも感謝するんだな」
「これからは俺たちに二度と関わらないでくれよ。お・ち・こ・ぼ・れくん、はははははははは」
男達はさっさと立ち去っていった。
「こ、こんなことって・・・・・・・」
帰路についていたタダカツは裏切られたショックでぶつぶつ独り言を言いながら歩き続けていた。
家に着いた彼はすぐさま荷物をコソコソと纏めて袋に詰めた。
そして彼の両親に置き手紙を書いて自宅から出ていってしまった。
手紙にはこう書かれていた。
(父上、母上、拙者は何もかも未熟ゆえ世界を旅しながら修行して参ります。帰るのはいつになるかわかりませんが必ず帰りますのでどうかわがままをお許しください)
タダカツは今まで貯めた金を資金にし、世界各地に旅に出た。
そして、彼はカントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、アローラ、ガラル、パルデアそしてイッシュにまで場所を転々とし、修行の旅を続けてきた。
だが、イッシュについた時に活動資金が底をついた。夜のホドモエシティにて、チンピラと喧嘩し、ポケモンバトルもポケモンセンターで回復する前だった為、ポケモン達の体力が弱っていたのであっさりと負けてしまった。
そこで憔悴して生きる希望を失い、失意のどん底で街の裏路地に壁にもたれながら座り込み哀愁を漂わせてた。
(もう何もかもがどうでも良くなった。このまま死を待つだけか・・・・。クソつまらない人生だったな)
そう目を閉じて眠りにつこうとした所をヤーコンに見つかり今に至る。
「っとまあ、これが私の下らない人生な訳だ」
「ふん、それが今のお前に至る訳か。確かに下らないな」
それを聞いたタダカツは黙って顔を下に向けていた。
「だが俺から見れば今のお前はただ逃げているだけの情けない男にしか見えん。そんな奴がこの世を渡っていける訳がねぇ」
「っ!あんたに何が分かる!?私が一体どれだけ苦労し続けてきたことか!?」
タダカツは怒りのあまり椅子から勢いよく立ち上がって怒鳴った。
「だがお前はまだ完全に力を発揮しきれていない。かつての俺と比べたらお前はバトルの腕も悪くなさそうだ、頭の回転も決して遅くはねぇ、俺の目に狂いがなければお前には才能がある。そんな奴がここで諦めるのか?諦めるのならここから出ていきな」
「・・・・・・」
「諦めたくないのなら俺に付いて来な、みっちりしごいてやる。どうだ?」
「私は、私は・・・・・、まだ諦めたくもこんな所で死にたくもない!あんた、いや、ヤーコン殿!私に生きる希望を教えて下さい!」
「そうこなくてはな!今夜はここで泊まるといい、明日からみっちりしごいてやる!」
こうしてヤーコンはタダカツを自身の会社の作業員として働かせながらジムでポケモンバトルの戦術や戦闘用の道具の使い方を教えることにした。
タダカツは泥や土埃で汚れ、汗を垂らしながらネジ山で働いて、仕事がオフの日にはヤーコンからポケモンバトルの特訓を受けていた。
そんな生活を続けているうちに一年が経過した。
「お前は俺の特訓に文句言わずよく耐えた。もう俺から教えることはない。カロスの実家に帰って親父さん達に心配かけたことを詫びながら自分の人生を歩むといい」
「はい、短い間でしたけど大変お世話になりました。ヤーコン殿、このご恩は一生忘れません。本当にありがとうございました!」
そうしてホドモエジムの下から去りつつ道を歩いていた。
「あのー、タダカツさんですよね?」
「ん?」
タダカツが振り向くとそこには桃色の髪をした少女がいた。
「あなた、タダカツさんですよね、初めまして」
「そうだけど、君は?」
「私はタロ、私のパパはヤーコンです」
「ヤーコン殿の?確かあの人にはかわいい娘さんがいると聞いていたが、君のことか。私に何か用か?」
「パパからあなたの事をよく聞いていました。とってもバトルが強いと聞いてます。そこでお願いがあります。私と付き合って下さい」
「はい!?!?」
「私はずっと見ていました。あなたはパパの大変な特訓を受けながらもポケモンを家族のように大切にし、優しく接している上に刀という物で夜に修行しているのがかっこよかったです。それにちょっとドジッぽくて慌てふためく姿もとてもかわいかったです」
「それを見ているうちにあなたの事が段々忘れられなくなってしまって、それが恋なんだとわかりました.....」
「・・・・・・・」
「ですから、こんな私でもよかったらどうか付き合ってください!」
「ちょ、ちょっと待ってほしい。確かに私は独身だが女と付き合ったこともないんだ。しかも君はまだ小さい、ご両親のもとにいた方が幸せだよ。それと私のこれから向かう道は君には過酷な所だ。君を連れて行くわけにはいかない」
「私を子供扱いですか!そんな事はよくないです!私はもう9歳で、ポケモンバトルも出来ます!」
タロは両手を交差してバツマークを掲げた。確かに9歳でもポケモンバトルは出来るがまだ旅に出て修行するには少し早過ぎると思えた。そこでタダカツはこう言った。
「確かにその年齢でポケモンバトルできるのはすごいけど世の中とてつもなくバトルが強い上に悪い奴らだって多い。それに君を危ない目に遭わせたらヤーコン殿に合わせる顔がなくなる」
「君がもう少し大きくなって一人前のレディになれたら付き合っても良いかもしれないな」
「本当?嬉しい、私が一人前のレディになったらタダカツさんに認めてもらえるような人になってあげます。その日まで待っていてくださいね?ここでお別れですけど、私はタダカツさんのお嫁さんになれるように頑張ります。それまで元気でいてくださいね」
タロはニコニコしながら自宅へと帰った。
「あの目は本気だった。もし彼女が一人前の女性になったらあの可愛らしい姿だからきっと美女になれるはずだ」
そう彼女の成長した姿を想像しながらカロスへの帰路についた。
やがてカロスの実家に帰ったタダカツは両親から大目玉をくらい特に父親から殴られたりした。だが、彼の目はかつての濁った目ではなくて希望に満ちた目をしていた。
その後かつての落ちこぼれのイメージとはかけ離れ忍者としての技量も優れ、ポケモンバトルも村で一番になるまでに成長していた。そして、忍者としてのチームのリーダーの役割を任された。
しかし、その後悲劇に襲われて再び絶望しながらクノエシティに来てマーシュと出会い現在に至る。
ここで場面はパーティ会場に戻る。
「もうあれから何年経つのでしょうか。あの時ヤーコン殿に助けてもらえなかったら私は野垂れ死んでいたでしょう」
「フン、あんなとこで死人が出たらワシの責任になってしまうからな。だからあえて助けたまでよ」
「ところでヤーコン殿、ご令嬢のタロ殿は元気でいらっしゃるのでしょうか?」
「タロのことか、今はあいつはブルーベリー学園で学生生活をしとるよ。何か周りの男どもからプロポーズされたりと大変らしいけどな」
「そうですか、タロ殿はそんなに大きくなられたのですか」
「お前、まさか娘に変なことしようと考えてないだろうな?その時はどうなるか分かってるだろうな?」
「い、いえ、決してそのような悪しき感情は持っていません。ただ昔、タロ殿と少しお話ししたことがあります。それが気になっただけですから」
「ならいいがな」
タダカツはあの頃タロから受けたプロポーズに悩んでいた。自身はマーシュと既に結婚しており子供も二人いる。そんな中彼はどう話してタロを説得すれば良いか分からず考え続けていた。
そしてブルーベリー学園訪問当日、この日は仕事で来ている為、マーシュと子供達は先にカロス地方に帰らせていた。
スーツできちんと身なりを整えた彼は地下鉄から降りてエントランスロビーに来ていた。
「ここがブルーベリー学園か、海底の資源プラントを併設しその上の海の中に人工島を建設するとは大した物だ」
「これはこれはようこそおいで下さいまして、タダカツさん。僕はこのブルーベリー学園の校長、シアノです。あなたの事はよく存じ上げていますよ」
「初めまして、私はカロス警察のタダカツと申します。以後よろしくお願いします」
タダカツとシアノは互いに握手した。
「講演まで時間がありますから、是非我が学園の中をご覧ください」
「では、お言葉に甘えて」
タダカツはシアノに学園内を案内された。エントランスロビー、教室、購買部、さらにメインのテラリウムドームは世界有数の海中超巨大庭園となっていて、そこでは多くのポケモンが生息しており、さらにはテラリウムコアによってパルデア地方で近年出回ってるテラスタルオーブというボールを使ってのポケモンバトル、テラスタル現象によるバトルが可能になっている。
(テラスタル、パルデアにてよく見かけたがここでも見られるとは知らなかった。私も新人警官達の指導の為にもテラスタルオーブは早めに手に入れるべきだな)
そうして視察しているうちに講演の時間になり、学園内の講堂に全生徒や教員が集まり、定期集会が始まった。シアノ校長らの長話や定期的な学園の活動方針など聞いていて退屈な話ばかりだった。やがてタダカツの番が来て、タダカツは演説台に立った。
「皆さん、カロス警察からやって来ましたタダカツです。皆さんはポケモンとは何か、人とは何か、考えた事はありませんか?難しい話だと思いますが、これはこの世の全ての生き物にも関係がある話です。ポケモンは現在、私達人間の社会に必要不可欠な存在でありますが人間が誕生した時に既にポケモンは存在していました。知識のない我々人間はポケモン達の恩恵を得て文明を築きました」
話を聞いてる生徒達は意外な内容に不思議がるようにざわつき始めた。
「人間社会とポケモンの社会には共通点があります。それは心。負の面としては主なものとしては弱肉強食、弱きものは強きものの糧となる、これはどんな世界に行っても存在する非情な面があります。ですが、反対に正の面はどんな時でも人もポケモンも他人を思いやる温かい心があること。どんなに能力が優れていても人もポケモンも他者を思いやる気持ちがないと社会は成り立たずいずれ破滅する、皆さんもポケモンと触れ合ってどんな気持ちが湧きますか?」
「色んな気持ちがあります。憎しみ、妬みからポケモンを道具としか見ない者も少なくない、しかし、これだけは覚えておいて下さい。どんなに人とポケモンは善悪、信念の形が違っても絆の力が全てを語ると。私はそれを知って欲しくてこの学園に来ました。どうか今言った事を忘れず学生生活を楽しんでください」
演説が終わると無数の拍手が鳴り響いた。そしてタダカツは来賓席に戻り集会が終わるまで長く席に腰掛けていた。
やがて集会が終わり、来賓室で一人で休憩していた。
「フーッ、あまり堅苦しい話はしたくないが、ここの生徒達に今回の話が通じてくれれば良いがな」
すると、来賓室のドアをノックする音が聞こえ、タダカツはドアに向かった。
開けてみると、一人の教諭がタダカツに話しかけた。
「タダカツさん、タロっていう生徒から手紙を預かっています」
「!?、タロ殿から!?」
教諭から渡された手紙は桃色のラインが入った可愛らしいデザインの小封筒だった。
タダカツは教諭に礼を言ってドアを閉めるとすぐさま椅子に座り小封筒を開け、中の手紙の内容を読んだ。
(タダカツさん、カロスのチャンピオン戦、お疲れ様でした。私は父の背中を見て、将来は父のジムを継ぐことが私の使命だと小さい頃より教わり続けていました。しかし、父に連れられて来たあなたを見て想いは徐々に変わっていきました。どんなに挫折しても決して諦めない貴方の信念と意志の強さ、その姿は私にとって夢の王子様のようなものでした。カロスに帰ると貴方は奥様とお子様とで円満な家庭を守り続けるでしょう。ですが、それで構いません。私と貴方もう愛し合えないと分かりました。貴方と私の関係は忘れてください。それで私の迷いは晴れます。どうぞお幸せに。 タロより)
「くっ・・・・・・・・・」
そこには苦しげな顔をした男が一人椅子に座り込み、沈黙を貫いてた。
その日の夜。
ブルーベリー学園 学生寮にて。
とある部屋にて桃色の髪をした少女はベッドに座り、薄暗い部屋の中、窓からの月の光で照らされてた。
「・・・・・・・・」
コン、コン
部屋の扉からノックする音が聞こえ、少女は「はいっ」と返事して開けた。
そこには一人の人物がおり、暗くて顔は見えなかった。
その後、月の光が雲によって遮られ光の方向を変えた。その光が扉の方に向いた時、目の前の人物の顔が照らされた。
「こんばんは、タロ殿」
「あっ、タダ・・・カツ・・・・さん?」
現れたのはタダカツだった。
「ひとまず部屋に入ってください。ここでは先生達に見つかってしまいます」
タロはタダカツを部屋に招き入れ、扉に鍵をかけた。
「こんな時間にどうやって学園の、しかも女子寮の中に入れたのですか?」
「なに、私は潜入偵察は得意としているのでこれくらい朝飯前です」
「・・・・・どうぞベッドに腰掛けてください」
タロが座るとタダカツはタロの隣に座った。
「手紙ありがとうございました。タロ殿の気持ちが少しは聞けて嬉しかったです」
「でしたらお話ししなくてもわかるでしょう?早くお帰りください」
「・・・・・・・・・すみません、その要望には答えられません」
「なぜ!?あなたは私の気持ちをどれだけ踏み躙れば気が済むのですか!?」
「踏み躙る気は全くありません!あなたの気持ちはずっと忘れずに覚えていました。私が妻と結婚しても、子供が生まれても忘れた事は一度もありません!」
「なら、これ以上私に惨めな想いをさせないでください・・・・・・・」
タロは目から大粒の涙を流しながらタダカツを見続けた。
「タロ殿、いやタロ、私は不倫するつもりはない。妻と別れるのも眼中にない。最低な男だろう。軽蔑するだろう。だが、どんなに非難されようと私にとって君もマーシュも大切な人だ。それだけはわかってくれ」
「・・・・・・・・・」
「付き合う事は出来なくてもこれだけは出来る」
そう言うとタダカツはタロを思いっきり抱きしめた。
「!?タダカツさん、そういうのはよくないと思います!離してください!」
「いや聞かない!私は君を悲しませたくない。君を満足させるならどんな目に遭っても構わない!」
するとタダカツはタロの髪を軽く払いながら頬に口付けをした。
「満足させられないかもしれん、だが、これくらいはさせて欲しい。私の妻と等しいくらい愛しいタロ」
「・・・・・バカ、本当にあなたはおバカさんです。私をこんな事で許すと本気で思っているのですか・・・・・・」
タロは目を閉じながら静かにタダカツの胸に頭を埋めた。
二人はゆっくりと流れる時間の中、お互いの結ばれない愛を確かめ続けていた。
やがてタダカツは抱きしめたタロを離し、タロと見つめ合った。
「ふふ、愛しいタロですか、もしあなたが誰かにこんな風にやったらパパに全部言いつけちゃいますからね?」
「おおー、怖い怖いさすがヤーコン殿の娘だけはある。だが私は決して君を裏切るような事はしないと約束する」
「嬉しい、ですがもうそろそろ行かないとイッシュ本土への最終電車が出て行っちゃいますよ?」
「あ、もうこんな時間か、タロ、また会う時にまでもっと綺麗になっていなよ。君を狙う男はいっぱいいそうだし、君なら本当に大切にしてくれそうな人と出会える気がする」
「はい!」
「もし、何か困ったことがあればいつでも私を呼ぶといい、どんなところからだってすぐに駆けつけてあげるからな。また会える日を祈ってる」
「お待ちしてます、タダカツさん今日は本当に幸せな一日でした」
お互い微笑みながらタダカツは部屋を後にし、こっそりと学園を出て地下鉄に乗ってイッシュ本土に向けて帰って行った。やがてタダカツはイッシュに着いて、電車から飛行機に乗り継いだ。
帰路の飛行機の中にて。
「やれやれ報告書やレポート作成など仕事が山盛りだ、帰ったらまた忙しくなるだろうな」
タダカツはスッとポケットからスマホロトムを取り出し、とある画面を映し出した。
(あの小さかったタロがここまで成長するなんてな、時とは残酷なものだな。遠くからでも見守ってるよタロ)
スマホロトムの画面に映っているのはタダカツの首にしがみつき、お互いを寄せ合うように撮った二人のツーショット写真だった。
そして、しばらく写真を見てからスマホロトムをしまい、仮眠をとった。
続く