×年下男
〇擬人化ゴアマガラ過渡期(こちらの表記が好きなので使っております)×サムライ系女子ハンター
※別シリーズ「ドSトンカチ~」の登場人物がおります。時系列はこちらが先になります
※僅かに加筆しております
「これも、美味しいですね」
もぐもぐと驚くべき上品さで大量の食事をその身に流し込む目の前の男は、笑顔でそう言ってのけた。
「あれ、コノエさんツッコミはまだですか?」
「なっ、おま……」
「ああ、やはり人間には刺激が強過ぎるんですね」
衝撃に言葉も無い私に、彼は「次からは顔はこのままにします」とまた笑ってみせる。いや、そういう問題じゃないんだよ。
──私の押し掛け恋人は、つい今し方、角を生やした眼窩の無い化け物の頭をしていた。
「お前、まさかモンスターなのか」
「はい。今お見せした通りの半端モノですが」
笑顔を崩さないリュイに、一瞬何でもない事の様に思えそうになってくる。いやいや伝説の、竜を娶った勇者でもあるまいし、というかこれは現実である。
「死にそうなガノトトスみたいに、口をぱくぱくさせてますね」
「ばっ…まな板の上のサシミウオにもなるに決まっている!」
ようよう口を出た言葉は下らない罵りで、二の句を告げる前に私の眼前に彼の顔があった。
「すみません」
唇に、唇が触れた。
「貴女に危害を加えるつもりはありません。それだけは今、誓えます」
うっ、真摯な目が私に迫る。
追求してはいけないと、それが語る。
「貴女に、あまり偽りは言いたくないので。
コノエさんだけに、僕の一番大事な事をお伝えしてみました」
「それは一体どういう…」
かしゃっ、と、音がして、キッチンで皿を片付けていたソノエの存在に気付く。
丁度こちらにやってくる所で、慌ててリュイを見遣ると、きちんと『普通の人間』の姿に戻っていた。本当に私にしか見せないつもりか。
「とても怖い顔をしていますね」
「それは『嫌と思われるだろう』というお前の意思を投影しただけだろう。何と言えばいい、そう、呆れているというか、」
言葉の続きを考えている私に、リュイは少し目を見開いて動きを止めた。
「投影、ですか。そうですね、僕の矮小な器を露呈してしまった様です。
確かに僕は半端者に成り下がり、あまつさえ人に身をやつして暮らしてきた。自分の同胞を狩って武器を作り、殺してきた。
ただただ、自分の運命を受け入れたくないばかりに」
光の無い瞳、歪んだ笑みを浮かべる口元、私は背筋に薄ら寒いものが走り、小さく震えた。
こいつは、本当に本当に人間ではないのだ。もっと何か、大きななにか。ぶつけられる寸前だというのに、その感情の塊は無意識に私を後ずさりさせた。
「どうして貴女はアレに触れられて、僕はこうして半端者として死にゆく運命を背負わなければならないんでしょう」
「僕は、確かに貴女に嫉妬しているのでしょうね」
私は、彼に何の言葉を掛ける事も出来ず、ただ阿呆の様に口を半開きにしている他無かった。
精精三十年近く生きただけのちっぽけな人間には、図り知れない孤独と渇望に、押し潰される。
「おまえ、は」
絞り出した言葉に、にんまりとリュイが嗤う。
「今迄も、そしてこれからも、僕は只の出来損ないです」
だから、貴女が欲しい。
言葉は、宙に浮いた。
私に届く間もなく、彼は私に覆い被さる。
(泣いているのだろうか)
全く動かなくなった彼の頬に、恐る恐る触れる。
大きく震えた身体を抱き留める強さはまだ無い。だから。
私はそっと、『彼』の冷たい頬を撫でた。
……………
旧い、伝承だった。
『純白の龍は廻り廻り、黒き蠢く蛹から、再び祖なる龍に出逢い姿を変える。
殆ど明かされる事の無いこの伝承が、風吹く村に伝わるのは、かの村の更に更に奥地、禁足地に天廻龍が宿る故である』
草臥れた書物は其処で終わっていた。
男は書物を閉じると、大事そうに背負った背嚢を下ろしてそれを仕舞う。
漸く得た情報だ、これをシナト村へ携えて行けば。
高い位置で結んだ髪が、それぞれ勝手な方向へ揺れる。意志の強そうな目元に、上がった口の端と無精髭。
鍛えられた体躯は、人当たりの良さそうな表情とは裏腹にバランス良く筋肉がつき、戦闘能力の高さを感じさせる。
「いやー、欲が疼くねえ」
彼の名は、エルド。
──『捕獲王』と呼ばれている。
…end.