博士の宣告は、灰原の精神に相当なダメージを与えていた。灰原の博士に向ける視線には伺いを立てるように媚びるか、自分が捨てられるかもしれないという恐怖しかなかった。
FBIの温情はこの数ヵ月で確かに肌に感じる優しさを彼女に与えたが、それは殺人薬を作っていた過去を消してはくれない。精算する機会をFBIが奪ってしまうのを彼女、「宮野 志保」は耐えきれなかった。
「博士、次はどうすればいい?」
最大の変化は彼女の自主性の喪失だろう。数日は奉仕に撤したが、ある瞬間から博士の肉人形に撤するようになった。
それは文字通り博士の好き勝手に犯されるこれまでの彼女だったならば策を練り回避するか、軽減の為に口淫や手淫を前戯で博士を鎮めたりした。
しかし、今の彼女からは一切の戸惑いも感じなければ、行為を受け入れている様子もない。ただ、性交の肉体的な反応のみの「幼い肉」だった。
「哀君、素直なのは結構ぢゃし、こちらの意図を察して体位を変えてくれるのは大変嬉しいが、マグロなのは感心せんな。身体が痙攣しておるから感じておるのは解っておる。」
「だったら命令すればいいじゃない!身体を振り乱す淫倍な様が見たいなら命令すればいい。お前は娼婦だ。売女だって。そうすれば私は喜んで乱れるし、何なら博士以外にだって抱かれるわ。」
灰原はここ数日で完全に精神が病んだらしい。聡明な彼女は常人では理解出来ない方程式を立て、そして見事に袋小路に嵌まったようだ。さっきまで放心していたと思ったら、突然目に光彩が蘇り独り言を呟くと再び自分の世界に籠る。
それに対しての博士の機転は早かった。精神に変調が見られた段階で小学校を休ませ、一日をかけて自分の存在理由を再認識させた。案の定彼女からは「姉の仇打ち」という目的は消えていた。カウンセリングもどきの精神への刷り込みでそれを再認識させる事で灰原を日常に支障が出る前に対処が出来たのは幸いと言えるだろう。
しかし、精神の病みが改善されたとはとても言えず、それをわざわざ監視から放すのは情報が漏れる危険を侵してでも張りたい「罠」があったからだ。
「いってらっしゃい。」
「…行ってきます。」
生気の薄い灰原は一応の外出の挨拶を交わし玄関から出ていった。察しが良すぎる彼女の事だから自分が「罠」の為の「餌」であることも既に気付いているか、学校で過ごせば否が応でも気付くだろう。その上で、少年探偵団の瑞々しい姿に対してどう対応するのか。自分を鼓舞するか、卑下するか。
明るい結果だけは生まない事を確信しながら博士は自分の実験室に消えていった。