7月1日(金)
「ねぇ博士、蘭の処女いらない?」
「は?」
火照った身体を冷ますためにベッドに寝ていた博士はシャワーを浴びてドライヤーをかけていた園子の言葉に間抜けな声を返してしまう。
「何を言っておるのかね、君は。蘭君は新一というベストパートナーがおるじゃないか。」
「欲しくないの?」
園子は博士の返しを予想していたのかほとんど間を置かず言葉を返した。
「欲しくないと言えば嘘になる。」
「でしょ。」
「しかし、無理矢理はなぁ、」
「小学生に手を出しておいて今さら何言ってるのよ。」
「この二人はいいんじゃよ。」
博士は隣で突っ伏している歩美と彼女に膝を貸している灰原を撫でながら答える。
「問題は彼女の後ろじゃよ。」
「眠りの小五郎?」
「いや、そっちは心配しておらん。問題は母親のほうじゃよ。」
「あぁ。」
博士の言いたい事が解ったのか園子はため息をついた。
「妃弁護士にかかればワシは破滅するからな。」
「私が手を回してもいいけど?」
「いや、そもそもなぜにそんなに彼女を傷つけるような話題をするんじゃ?」
ドライヤーが終わった園子は身体にタオルを巻き、博士のベッドに腰掛けた。
「蘭ってさ、かなりモテるんだよね。」
「そうじゃろうな。」
「でも、本人は新一一筋なのよね。」
「一途で結構じゃないか。園子くんみたいになっては新一も気が気ではないよ。」
博士の言葉に園子の目が光る。
「それよ、それ。あの推理オタクは蘭と両想いなのを解ってるから蘭を放ってどっか行ってるのよ!おまけに留年して私達の同い年の後輩になっちゃったし。」
「まあまあ。」
ヒートアップしてきた園子を博士はなだめる。博士としては高校という尺度で新一の価値は計れないとは思うが、財閥の令嬢としては学歴はステータスとして思う所があるのか園子は真剣に怒っているようだった。
「ほら、彼は知識量ならとうに高校生以上じゃから。」
「だからって高校を卒業できるわけじゃないじゃない。」
「もしもの時は大検という手もあるではないか。」
園子はさっきより深いため息をつく。
「蘭も言わないけど新一君に同じような事を言われたみたい。」
「そうなのか?」
「はっきりとは言わないけどね。だけど一度きりの高校生活よ。しかも同じ高校!ラブラブしたいに決まってるわ!」
「しかし、こないだ空手の合宿とかで約束をドタキャンされたじゃないか。ラブラブではないにしても親友としては寂しかったのではないかね?」
「少しだけね。でも人の見本になるのがリーダーの役割だってお祖父様もおっしゃってたし、主将が不参加じゃインターハイ前に部の纏まりが取れないじゃない。」
「…」
「何よ?」
園子の意見が意外だった博士は彼女をまじまじと見つめる。
「いや、園子くんらしくないというか、少し意外だったのでな。君の口からしっかりしたリーダー論が出るとは。」
「これでも鈴木財閥の一員だからね。」
園子は文字通り胸を張る。その拍子にタオルが取れてしまったが園子はそのまま自分の制服を取りに裸のまま腰を上げた。
「で、どうして毛利さんの処女を奪う話に繋がるのかしら?」
眠っている歩美の頭を撫でていた灰原が口を開いた。
「彼女が一途なのはとても良いことじゃない。あなたみたいに男を漁るよりも。」
灰原の毒に園子の顔が歪む。
「くっ、私が言いたいのは蘭ばっかりが損してるってこと。新一君も探偵ごっこに熱中してたら蘭が盗られる危機感があったら放浪しないわよ。」
「ワシは?」
園子の計画には博士のことが一切触れられていない。計画が露見すれば真っ先に博士に矛先が向くのは明らかだった。
「別に彼から蘭を寝取れって言ってるわけじゃないのよ。蘭と新一の絆を切るには博士じゃ弱いから。ただちょっと蘭に隠し事が出来るだけ。」
「新一にバレるんじゃないか?」
「女の演技力を侮ってない?蘭が誰かとヤってもそれで幻滅するならそこまでの男ってことね。」
「恐いなぁ。」
博士は園子の性倫理観に素直に感想を洩らす。
「蘭が今の状況に満足してるのはいいんだけど、あっちが女を囲ってそうな気がするのよね。」
「オイオイ。」
「だから蘭の所に釘付けにする方法を考えたの。現地妻に現を抜かしていると本妻に逃げられるの法則よ。」
「…。」
園子の突拍子もない発想に博士は閉口してしまう。確かに新一は焦るがすぐに帰ってくるのは現状不可能だ。
「で、どうする?」
博士が考えていると、いつの間にか園子が制服を脇に抱えて目の前に立っていた。
「ワシが断ったら?」
「私とどこかのイケメン達との乱交会。もちろんイケメン達には後から裁判やって社会的に消えてもらうわ。そうすれば蘭が心配なら嫌でも帰ってくるわよ。」
「うーむ。」
新一が江戸川コナンと明かせば解決するが、「黒の組織」があるから出来ない。何より博士はこのチャンスを逃したくなかった。
「それはいくら何でもトラウマにならないかね?」
「お酒の席での失敗って怖いらしいわね。自分の記憶が曖昧でとんでもない行動に出ちゃうんだって。あくまで事故。飲まされて抵抗出来ないし仕方ない。」
「…」
「どう?」
「…まあ、乱暴されるよりは優しくされる方がマシか。」
博士の言葉に園子は手を叩いた。
「よし、決まりっ!それじゃどうやって蘭に仕掛ける?」
「そうじゃなぁ…」
そのまま博士と園子はお互い裸のまま如何に蘭が口外出来ない方法で犯すかを真剣に議論した。
「バカじゃない?」
灰原の言葉も二人には届かなかった。