「すまんッ!」
博士は土下座していた。禿げた頭からはうっすらと汗も滲んでいる。園子と相談して下手に策を講じるよりも素直に謝罪するフリが効果的だという結論からこうして頭を地面に擦り付けている。
「えっ、あのっ、ちょっとっ…」
頭を下げられている蘭は狼狽している。二人が居るのはホテルのラウンジだ。インターハイの一回戦をなんとか勝ち進んだ蘭は帰ってきたばかりなのか制服のままでわずかに汗ばんでいる。
「あら、博士ったら素直に行ったの?」
缶コーヒーを買いに席を外していた園子が戻ってきた。手には缶コーヒーとスポーツ飲料が収まっている。博士は彼女との謀略の一つとして土下座をしているのだが、園子は博士の行動を以外そうに見ていた。
「蘭はスポーツドリンクで良かったわよね?」
「…ありがとう。」
差し出されたスポーツドリンクを受け取った蘭はそれを紅くなった頬に当てる。
「…夢なら良かったのに。」
蘭が呟く。
「ワシもそうなら良かったんじゃが、こうして残っている以上は言い逃れできんでな。」
博士は自分のスマホの画面を操作すると一枚の写真を表示させると蘭に渡した。それは蘭と博士が繋がっているいわゆるハメ撮り写真だ。もちろん博士はこれをわざと蘭の顔が写るように園子には退けてもらっている。そのために穏やかな蘭の表情が印象的だった。
「夢…じゃないんですね。」
画面を見つめる蘭が現実を噛みしめるように口を開いた。
「悪いことに蘭君は処女だったみたいじゃな。」
「…はい。」
蘭は未だにスマホの画面を見つめている。
「えっ、蘭ってばまだ処女だったの。てっきりあの推理オタクと…、ないか。甲斐性なさそうだもんね。」
「新一とはそんな雰囲気にならなかったし。」
蘭は園子に反論するが、蘭にとって繊細な話題らしい処女も百戦錬磨の園子にとっては意味が違うのかずけずけと質問をぶつける。
「処女喪失の感想は?相手が博士なのは不本意だった?やっぱり初めては工藤君にあげたかった?それとも…」
園子の矢継ぎ早の質問に蘭は目を赤くする。涙がこぼれないのは気持ちが崩れる一歩前で踏み留まっているのかもしれない。
「当たり前でしょ…。」
しかし、その努力は泡と消えてしまった。園子の無神経な質問に答えながら蘭は涙を流した。
「どうなさいました?」
土下座している老人を見下ろす少女二人という姿になのか、それとも泣いている蘭がただ事ではないと判断したのかホテルのカウンターの係員の若い女性が近づいて声を掛ける。
「あっ、すいません。痴情のもつれってやつです。」
泣いている蘭の代わりに園子が答える。
「…できれば静かにお願いします。」
附に落ちない顔をしながらも係員の女性は巻き込まれたくないという心情が見て取れ、それ以上の追及はなかった。
「ま、二人ともまだ言いたい事があるみたいだし、私達の部屋に来なよ。」
園子は蘭の手を引いてエレベーターに足を進めた。博士もそれに着いてきている。
「私…たち?」
蘭は園子の言葉に頭が追い付いていないのか園子の言葉をそのまま繰り返した。
「そ、私と、博士の部屋。」
意味を飲み込めた蘭は博士を見返した。博士はずれた眼鏡を直して照れ臭そうにはにかんでいた。
◎
「ふぅん。それじゃあ蘭は処女喪失の瞬間は覚えてないんだ?」
園子は自分の泊まる部屋に蘭を招き入れると彼女の記憶を確かめた。処女喪失の瞬間に立ち会っていたのだからわざわざ聞く必要も無いのだが、ボロが出ないように話を聞いたという事実が欲しかった。
「…起きたら股が痛くて、…隣に…裸の…博士が…。」
蘭は泣き止んでいたが、その声は悲壮感に包まれている。
「大丈夫。誰でも経験するんだから。蘭はちょっと大袈裟に捉え過ぎなのよ。処女じゃない程度で工藤君は蘭を嫌いになったりしないわよ。きっと。」
園子は蘭をあやすように抱きしめる。蘭も園子に腕を回して抱き返していた。
「それに考え方次第で工藤君をつなぎ止めることが出来るかもよ。」
回した腕を解いてそのまま蘭の手を取った園子は軽い笑顔でウインクした。それはいたずらを思い付いた子供を博士は連想した。
「え?」
蘭は意味がわからないといった顔をする。
「自分をおざなりにしたからショックで博士と寝たことにするのよ。」
つまり博士との過ちは新一にも責任があるとしてしまう。博士はこれで蘭を納得させられるのか疑問に思ったが園子が自信満々だったので任せた。園子も蘭を大事にしているのは知っていたし、今回の機会を作ってくれた後始末は彼女にしてもらうのが筋だと博士は再考した。正直、クスリを使わずに蘭との関係を続けるには写真で脅すしか方法がないと思っていただけに園子の自信に博士は賭けた。クスリで現実をねじ曲げるのはまだ避けたかった。
「そんな。新一を騙すなんて…できない。」
蘭は当然ながら拒否した。園子の案は蘭の倫理観として許されないのだろう。
「ま、無理強いはしないけどさ。一年近く会ってないんでしょ?」
「…うん。」
蘭の倫理観などは園子も承知していた。それを崩すのが今回の策だった。
「しかもあのルックスに文武両道と来たら、もしかしたら蘭ってば捨てられたかもよ?」
「…し、新一とはただの幼なじみだし。捨てられるとかの関係じゃないから。」
蘭は明らかに動揺している。
「京極さんの例だけどさ、一芸にずば抜けてると女の子が寄り付くらしいわよ。彼は辟易してたけど、正直寄り付く女子の気持ちは解るもの。」
「それが新一となんの関係が。」
「事件を華麗に解決する彼のことを他の女子が放っておくと思う?相手からしたら工藤君って超優良物件なんだから。中身は推理馬鹿だから私は興味ないけど。」
「…。」
これまでも女子にちやほやされる新一を博士も見てきた。経験談を混ぜた園子の観察を蘭がどう捉えるかは謎だったが、惚れっぽい園子の言葉は言い換えればミーハー心理を突いたものだ。
「蘭に足りないのは積極性よ!それも自分が依存するんじゃなくて、させるタイプの。彼が蘭から離れたくないくらいメロメロのふにゃふにゃの骨抜きにするのよ。」
園子のアドバイスはある意味で正解だろうと博士は思う。しかし、園子の言葉に含まれる「骨抜き」とは精神的な依存ではなく肉体的な依存である。
「そうは言っても園子も京極さんを引き止めれてないじゃない。」
園子の言葉を理解したのか蘭は顔を紅くしている。
「いやいや、大事なのは心を自分から離れさせないことよ。愛情で押しつぶすくらいの気持ちでさ。」
園子は冷静に返答する。確かに京極との遠距離恋愛真っ最中の園子が言っても説得力が低い。
「…ちょっと重くない?」
「なに言ってるの。あの朴念仁に首輪を着けるのはそれくらいしないと。幼なじみだからってほったらかしにしてたら他の男に行くんだって事を見せ付けてやるのよ。」
実際には一つ屋根の下でこないだまで一緒に居たのだが、二人は工藤新一が江戸川コナンになっているのを知らない訳でこうして『蘭を放置または捨てた』説を真剣に話していた。
園子が不安を煽るのを聞いていた蘭だったが途中から不安を口にしている。
「じゃあ京極さんが他の人にのめり込んだら?」
「そうなる前に手を打つ。遅れたら相手には悪いけど退場してもらうわ。どんな手を使ってもね。」
園子は暗い笑みを浮かべる。
「園子、絶対に京極さんの前でその顔しちゃダメだよ。」
「んっ、当たり前じゃない。裏の顔を彼氏に見せるようなヘマはしないわよ。」
園子はそう言うと蘭の唇を奪う。
「え?」
一瞬で唇を離した園子の顔を呆然と蘭が見つめている。そして我に返ったのか一瞬で顔を真っ赤にした。
「あら、かわいい。」
園子がからかうようにして蘭の頬を両手で挟む。
「ちょっ!」
蘭の反論を園子は両手で頬を押しつぶして物理的に遮る。
「今さらキスの一つくらいでムキにならない。これからセックスするんだから。」
「は?」
頬を解放された蘭が間抜けな声を上げる。
「初体験の記憶に無いじゃ将来絶対後悔するわよ。それに床上手は手っ取り早く男を捕まえられるし。」
そう言いながら園子は蘭のシャツに手を伸ばすとボタンを外そうとした。
「いやっ!」
園子の手を蘭は振り払いボタンを外されたシャツを掴んで中のキャミソールを隠していた。
「女同士で恥ずかしがることはないでしょ。」
「博士も居るのよ。」
「ええ。それに何か問題ある?」
こともなげに園子は答えると着ていたシャツを脱ぎブラを外す。ブラによって形作られていた胸は拘束から解放され重力によって垂れている。
「園子っ!」
あわてた様子で蘭は博士と園子の間に体を入れて博士の視界から園子を守ろうとする。
「なにやってるの?」
園子は蘭のやりたいことも言いたいことも理解している。その上でとぼけた。
「博士も私の裸なんて見飽きてるわよね?」
「まあ、ほどほどにな。」
二人の受け答えに蘭は両者を一瞥する。その顔は驚きに満ちていた。しかし、しばらくすると何か考え込むように俯いてしまった。
「もしかして…」
「セフレよ、セフレ。私は京極さん一筋なんだから。」
蘭の言葉を先読みして園子は疑問に答える。いつの間にかスカートも脱いでいた園子は博士に近づくとチャックに手を掛けて下ろすとブリーフの切れ目から博士の逸物を取り出した。
「蘭を女にしてくれたチンポよ?」
「…」
園子の言葉に蘭は唖然としていた顔を歪めた。その間に園子は逸物をしごいていき下を向いていた逸物を起き上がらせた。
「どうしたいの?」
園子の手コキを無言で見つめていた蘭が口を開いた。園子の言動の真意を探っているのだろう。
「言ったじゃない。初体験を覚えてないのは後悔するって。だからこうして博士に協力してもらって初体験の仕切り直しをしましょ。」
園子はしごいていた右手を蘭に伸ばすと、空いていた左手で逸物の根元を握りキスをした。
◎
「ちょっと意外じゃったな。」
「何が?」
博士の感慨に園子が答える。蘭は園子のバスルームでシャワーを浴びている。二人はそのままでも一向に構わなかったし、博士としては汗の匂いを感じたかったが蘭は頑なにシャワーを譲らなかった。
「蘭君がまだ騒がないことがじゃ。」
何よりも冷静になられたら厄介だ。落ち着いて考えれば園子の言葉は詭弁だと論破されるだろう。そうなると危ないのは博士だ。
「心当たりがあるんでしょ。工藤君が寝とられるなんて蘭にとっては最悪の絶望なことじゃない?それを煽れば腹を括るわよ。」
蘭と一緒にバスルームに消えた園子が蘭に何か吹き込んだのは明らかだった。園子は濡れた髪をドライヤーで裸のまま乾かしている。
その様子を肴に博士は逸物で遊んでいるとバスルームのドアが開き、表情の固い蘭が制服姿で出てきた。
「せっかく流したのに汗臭いシャツをまた着るって、蘭って汗フェチ?」
「着替えたくても無いんだから仕方ないじゃない。」
からかう園子に蘭は真面目に答える。蘭が視界から意識的に博士を外しているのは博士にも解った。
「あっ、こら、待てないの?ステイ!」
博士は園子の後ろに回ると両手で園子の胸を無遠慮に押し潰す。園子の胸は相変わらず手に吸い付きながらも圧力を加える度に受け流すために変化していく。
ぐにゃぐにゃとひとしきり園子の胸で遊んだ博士は蘭と視線を合わせる。ばっちり視線が交差する。
「あのっ、ちょっと忘れ物を取りに…」
部屋から逃げるように踵を返そうとした蘭の手を園子が捕まえる。
「逃げるの?」
インターハイという負けられない勝負の余韻もあってか園子の言葉に蘭は足を止める。
「乙女なのは構わないけどさ、博士に処女あげちゃったんだから一回も二回も変わらないって。」
園子は続ける。
「それに言ってるじゃない。床上手が一番男の手綱を握れるんだから。我慢して博士とセックスした方が後々絶対役立つテクになるから。」
園子の言葉に耳を傾けていた蘭の異変に博士は気づいた。目の焦点は合っているしこちらを向いているが、表情が薄くなっている。
「新一の、ため?」
「そうよ。蘭と工藤君の幸せのために蘭は博士に抱かれなくちゃいけはいの。」
「…わかった。」
園子との朧気な問答を終えた蘭はそのままペットに横になると気を失った。
「こりゃ。」
「いた~い。暴力はんた~い。」
博士が園子のおでこを小突くと園子は大げさにリアクションする。
「あれは君に合わせて作ったクスリなんじゃからな。多分蘭君の体の中じゃこれまで経験したことのないホルモンの流れで大混乱しておるぞ。」
「そんなに危ないクスリだったの。」
博士の言葉に園子は驚くが恐れている様子はない。
「君みたいに貪欲なチャレンジャーならホルモンも受容体も耐性が出来る。気づいたおるとは思うがクスリの使用量は最初の三倍近くまで増えておるんじゃぞ。まあ、危ないクスリではないから構わんのだが。」
「バイアグラみたいな物?」
「もっと複雑な代物じゃよ。体に無理矢理多幸感を与えながらも麻薬と違い依存性との兼ね合いを着けた、ワシにとっての自信作じゃ。」
博士は胸を張りながら答える。基礎は灰原に創薬してもらったが改造していくうちに灰原の調合した成分はより強力な物に置き換えられた。そして、園子に渡す前には必ず灰原で試している。
「すごい自信ね。」
「哀くんが協力してくれておるからな。身体が小さければそれだけクスリの反応が解りやすい。」
「私の感想ってもしかしていらない?」
園子が不満そうに声を上げる。
「そんなことはない。哀くんの身体がクスリに耐えられなくてイキ狂う事があるからな。それは危険ラインとしているから、後は君の身体とクスリの相性を確認しながら調合してるから意見はかなり重要じゃよ。」
「…ねぇ、博士。一回でいいからさあのチビッ子に試す前に私にクスリをくれない?」
園子の言葉に博士は迷う。クスリが興奮作用に特化しているのは灰原への臨床があってこそだ。灰原は平気な顔でクスリを飲んでくれているが、まだ未調整でタダの危ない代物による弊害は強い中毒性を出している。彼女がイキ狂いながらも禁断症状が出たらクスリは完成という灰原の献身、もとい犠牲の上で園子は愉しんでいる。
「壊れるかもしれんぞ。」
「私には耐性があるって自分で言ったじゃない。あのちっちゃいのが耐えられなかった代物で私が今もらってるのよりも少し、三歩くらい強力なやつをお願い。自分が消えちゃうくらいの体験をしたいの。」
園子はしなを作り博士の背中に胸を当てる。博士は背中を圧迫する二つの柔袋とその先端のコリコリした感触を愉しみながらも心配していた。彼女はいつの間にこんな破滅願望が芽生えたのかと。
それと共に博士に彼女への破壊衝動を感じた。それは灰原に加える緩慢な破壊衝動とは違う文字通りの刹那的な衝動だと理解しているし、廃人にしてしまうには園子は社会的に大きすぎる。何よりも便利な駒である彼女をみすみす手放す理由が無い。
「ま、君が構わないなら。じゃがワシは責任持てんよ。」
「オッケー。」
博士は灰原に処方した薬物の中で今の園子に使っているクスリに近い物を思い出していた。
◎
「さて、と。」
園子に逸物を綺麗にさせた博士は私服のカバンが大きめのポーチを取り出すとその中から血圧計と体温計を取り出した。
「博士、そんなの持ってたの?」
「哀くんがバレンタインにくれたんじゃよ。」
「色気無いなぁ。」
園子が呆れたように呟いた。
「彼女なりにワシを心配してくれたんじゃよ。それにこうして役立っていることを考えると義理チョコよりも嬉しいもんじゃぞ。」
博士はうつ伏せに気を失っている蘭を仰向けにすると彼女の腕に血圧計のベルトを巻きながら答えた。
「上は85、下は48。心拍数は56っと。低血圧による気絶かな。経過を見ないといかんが危ない成分は入っておらんかったから時間が経てば目を覚ますじゃろ。」
「良かったぁ。」
園子が安堵する。時間が経つにつれ雰囲気に流された園子も悪ノリしてしまった自覚が生まれたのか、博士の逸物を舐めながらしきりに蘭を心配そうに見ていた。寝息は聞こえなかったが、薄い制服のシャツは蘭が呼吸するたびのわずかな背中の運動を知らせてくれた。
博士には医学知識はほとんど無かったが、灰原とのやりとりの中で自然と薬学関連は素人よりもずいぶんと身に付いた。
「目を覚ますまでにワシらは下で食事でも済ませるか。」
「あら、寝てる間にシないの?今なら無抵抗で蘭を犯せるのに。」
蘭に心配が無いことを知った園子は蘭のスカートを開き上げて白いショーツを引き下ろすと彼女の鬱蒼とした肉扉を博士に晒す。
「今回の目的は蘭くんの貞操観を弛めることなのを忘れてないか?」
「あ、そういえば。」
園子は本当に忘れていたようで、博士の言葉にはっとしている。
「無理矢理にシても蘭くんが強情になるだけじゃ。」
「そうね。明日も試合あるし、蘭の心を乱すのは明日の方がいいかもね。」
散々蘭の心を引っ掻き回しておいてと博士は思ったが口にはせず、園子と一緒に蘭を部屋に放置して二人は食事に出掛けた。
園子が暴走し出したので切ります。