※この作品はR-18です。

阿笠博士の爛れた日常   作:マグダス

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8月19日(金)「かえりみち」

 博士はハンドルを握り直す。

 

 現在走っている高速は、行きのような渋滞もなく、車のアクセルを緩める必要はない。車内には博士と蘭と少年探偵団が乗っている。園子は男と約束があるらしく別行動だった。

 

「疲れたかな?」

 

 博士はバックミラーを調整して後部座席を見た。元太がいびきをかいて眠り、光彦はメガネを掛けたままで船を漕いでいる。最後部の座席は光彦たちの座るシートに視線を遮られ女子二人の様子は見えなかった。

 

 博士は探偵バッジに話し掛ける。

 

「哀くん、寝ておるかね」

 

『起きてるわよ』

 

 博士は探偵バッジに話し掛けると間髪入れずに灰原からの返事があった。灰原は淡々と言葉を続ける。

 

『どういうつもりか知らないけれど、歩美ちゃんは寝かせてあげて』

 

「それは心配ないよ。やはり疲れておったのかな。こんなにぐっすり眠るとは」

 

 博士は灰原の言葉を流す。博士は光彦と元太のいる状況で灰原と歩美に手を出すつもりはない。

 

『ほとんど眠れなかったんだから仕方ないわよ。』

 

「昨日は何もしておらんし、恋バナでもしておったか?」

 

『そんなわけないじゃない。昨日の夜、博士が毛利さんにピアッシングしてたのを聞いて、歩美ちゃん怖くて眠れなかったのよ。』

 

「ふむ、やはり起きておったか。哀くんは眠たくは無いのかね?」

 

『一日の徹夜くらい平……ふあぁ』

 

「じゃ、なさそうじゃな」

『……うるさい』

 

 灰原は捨て台詞を吐いて通信を切る。博士が再び発信しても、電源を切っているのかまるで反応が無い。

 

「次のSAで一度休むか」

 

 肩を揉みながら博士は呟く。かれこれ三時間近く運転してきて若干疲れてきていた。

 

「博士」

 

 助手席から声が響く。

 

「いつになったら鍵を外してくれるんですか?」

 

 助手席に座る毛利蘭は前屈みで博士を上目で見ていた。

 

 薄いシャツの上にパーカーを着ている。パーカーのファスナーはきっちりと閉じられている。

 

「なんのことかな?」

 

「これですよ!」

 

 蘭は自分の胸を指差す。

 

「ワシには何も見えんよ。パーカーがどうかしたかな?」

 

「あぁ、もう!」

 

 蘭はファスナーを下ろす。パーカーから顔を出した蘭の胸の先端はピアスに合わせて歪に膨らんでいた。

 

「これです!ピアス。すごく痛いんです!」

 

「それは仕方ないよ、身体に穴を開けたんじゃから。しかし、穴から滲まんかったのは幸いじゃわい」

 

 博士は蘭の胸をちらちらと横目で見る。博士は疑問を口にする。

 

「ブラジャーはしないのかね?」

 

「したいですけどピアスにあたるとすごく情けない気分になるし、痛いので」

 

「しかし、ピアスの重さで乳首を引っ張られるから同じような気もするが」

 

「違います」

 

「そうか」

 

 博士は違いが解らなかったが、とりあえず相槌を打っておく。蘭はピアスの錘の部分、南京錠を服の上から指で挟むと、南京錠をゆらゆらと揺らした。

 

「博士、着けさせて楽しいですか?」

 

「もちろん。」

 

 蘭はファスナーを上げた。

 

「博士、私をセフレにするって昨日言いましたよね?」

 

「そうじゃな」

 

 博士は肯定する。

 

「新一が黙ってませんよ」

 

「おや、君たち付き合っておったのかね。それはおめでとう」

 

「……まだですけど」

 

「だろうな」

 

 博士はハンドルを握り直す。

 

「なら新一が口を挟む資格は無いよ、残念ながら。君が助けを求めない限り」

 

「じゃあ!」

 

 蘭が顔を上げる。

 

「新一のことじゃから証拠を集めるじゃろうな。そうしたら中出しされたことやピアス穴を開けられたことが確実にバレるじゃろう」

 

「それは……仕方ないです」

 

 蘭は悔しそうな声を上げてまた俯く。

 

「刑事告訴不可避じゃろうな」

 

「そこまで解っているならどうして」

 

「……しかし、捕まって破滅するならお供が欲しいなぁ」

 

「はぁ」

 

 蘭は気の抜けた返事をする。

 

「胸とラビアにピアスをしてる写真をネットに流したらいいかなあ」

 

「!?」

 

 蘭の表情が固まる。博士は蘭の反応を待った。蘭は固まったまま動かない。

 

「傷害か強姦か、考えてみたら罪状なんていくらでも付くし、流出なんて微罪を躊躇ってしまう理由が無いな」

 

 顎に手を当てて博士は小さく笑う。

 

「……新一には言いません。だから博士、お互い悪い夢だったと思って終わりにしませんか?」

 

「どうしようかな。ワシもまだ破滅したくはないしな」

 

「じゃあ!」

 

「君が新一と付き合えたら考えてみよう」

 

「は?」

 

 蘭は再び間の抜けた声を上げる。

 

「蘭くんが新一と付き合うっていうことは新一が蘭を心配する正当な理由が出来ることになる。けれど、過去の性遍歴を咎めるのはマナー違反じゃ。だから、蘭くんが新一と付き合えた段階でワシとの関係を清算してあげよう。」

 

 蘭の顔が一瞬明るくなるがすぐに曇る。詭弁だということは博士も理解しているが蘭が拒絶しても単に玩具が一つ減るだけなので無茶を言っていく。

 

「あの、ピアスは?」

 

「もちろん外してあげるよ」

 

 蘭に視線を移すことなく博士は前を見ている。蘭は博士の魂胆を察したように息を呑む。

 

「付き合い始めたらってことですか?」

 

「そう」

 

「すぐにバレるじゃないですか!」

 

「大丈夫じゃろ。穴が塞がるまでプラトニックな関係で済ませておけばいい。一年もすれば穴も塞がるよ」

 

「そんな」

 

 蘭は腕を抱く。乳首の南京錠を労わっているようにそろそろとした動きだった。

 

「悲観する必要はあるまい。これまでだって付き合っているようなものだったんじゃ。一年程度清純なふりをするくらい訳ないじゃろ」

 

「人を淫乱みたいに言わないで!」

 

「誤解じゃよ。ワシはただ君の精神的な負担を軽くしてあげようとしただけだよ。」

 

「なら、ピアスを取って下さい!」

 

「仕方ないなあ。」

 

 博士はSAにハンドルを切る。

 

「お昼を食べてから外してあげよう」

 

 それを聞いた蘭は前屈みの体勢のままで助手席に深く座った。

 

 SAはバスやトラック、自家用車で駐車場がほとんど埋まっており、博士は高速道路沿いの日当たりの強烈な場所に停める。

 

「さて、それじゃ哀ちゃんは子供たちを起こしてから来てくれ。みんなには休憩所のレストランで食事と伝えてな。ワシは蘭くんのピアスを外してから合流するから。それじゃあ、蘭くん行こうか」

 

「……はい」

 

 博士は車のエンジンを切る。それと同時に車内を循環していた冷気が止まり、気温がグンと上がったような気がした。

 

 博士がドアを開けるとまとわりつく暑さが体を包む。博士は大きくため息を吐いた。

 

「早く行きましょ、博士」

 

 蘭はドアを閉めるとスタスタとSAの施設の方に歩く。博士も後を歩く。

 

 そして、100メートルばかり歩き、駐車場から歩行者用のコンクリートブロックの敷き詰められた舗装路に足を踏み入れた蘭は博士の方を振り向く。

 

「それで、どこで外すんですか?」

 

「無難にトイレじゃないか」

 

 博士がトイレに目を移す。しかし、トイレは男性、女性の両方が列を作っていた。

 

「無理そうじゃな」

 

「……他は?」

 

 博士はキョロキョロと辺りを見る。SAは敷地は広いが建物は休憩施設と屋台、そしてトイレしかなく、残りの敷地は公園とドッグランが占めている。

 

「施設の隅は?」

 

「却下。」

 

「あっちの遊具は?」

 

 博士は公園を指差す。

 

「人がいるじゃないですか!」

 

 蘭の言う通り公園の遊具では小さな子供がわいわいとはしゃいでいた。近くでは大人が木陰で子供たちを見守っている。

 

「どうせ見知らぬ他人じゃよ」

 

「蹴りますよ?」

 

 蘭が右足を浮かせる。

 

 博士は顎に手を当ててウンウンと悩む。しばらく博士が唸っていると蘭は大きなため息を吐いた。

 

「……今がピークでしょうからお昼ご飯を食べたら外して下さいね」

 

「おや、いいのかい?」

 

「恥ずかしい思いをするよりマシなだけです」

 

 蘭はそう言うとスタスタとSAの休憩施設の自動ドアに足を向ける。

 

「ワシは子供たちを見つけてから行くよ」

 

 先を歩く蘭に聞こえるように少し大きな声を博士は出したが蘭の反応は無かった。

 

 博士は無言を返事と捉えて休憩施設の外の屋台を物色していく。焼きモロコシ、たこ焼き、じゃがバター。食欲をそそる香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 

「博士ぇ!」

 

 香ばしい匂いに混じり声がする。

 

「博士、こっちだよ!」

 

 博士がキョロキョロと見ていると元太が走ってきた。

 

「博士、昼メシここのにしようぜ!」

 

「ワシは構わないが他のみんなの意見はどうなのかね?」

 

 元太の眉が歪む。

 

「僕たちは反対してるんですけど元太くんが独断で決めちゃうんです」

 

 歩いてきた光彦が両手を上げて首を振る。その少し後ろで灰原と彼女に手を握られた歩美が続く。

 

「仕方ないなあ。どれか一つだけ買ってあげよう」

 

「えぇー」

 

 元太はあからさまに不満な声を上げる。

 

「多数決ではどうやら屋台は却下されているみたいだし、ここは我慢してくれんか」

 

「……仕方ねぇな」

 

 元太はショーケースに並ぶ香ばしい食品を厳しい目付きで眺め始める。博士は元太がちらりと歩美を見たのを見逃さなかった。

 

 考えること数分、元太は選んだたこ焼きを入れたケースからつまようじでたこ焼きを口に運ぶ。そうして自動ドアから中に入ると蘭が立っていた。レストランというよりフードコートといった感じで壁際にお店があり、中央はテーブルと椅子が並ぶ。ほとんど満席だった。

 

「ごめんね。混んでて席取れなかったよ」

 

「いえ、謝らなくていいですよ」

 

「そうだよ。こんなに混んでるんだから仕方ないよ」

 

 光彦と歩美が異口同音に蘭を労う。蘭はさっきまでの辛辣な様子は消えていていつもの「優しいお姉さん」になっている。

 

 光彦はカウンターの上に掲げられているメニューを吟味している元太の隣に走っていく。灰原と歩美は蘭の近くで席が空くのを待っていた。蘭は自販機に凭れている。

 

「蘭お姉さん。」

 

「なに?」

 

 歩美が心配そうな顔で蘭に話しかける。蘭は笑顔で答え返す。

 

「おっぱい大丈夫?」

 

「……大丈夫よ」

 

 蘭は表情を固くして答えた。

 

「痛くない?」

 

「大丈夫。そんなに痛くないから。ちょっと邪魔だけど」

 

 歩美を安心させるためか、蘭は殊更に軽い調子で話す。心配そうな顔をしていた歩美の顔がすこし綻んだ。歩美は心底心配していたのか蘭の返答に笑顔になる。

 

「なら、取らなくてもいいじゃないか」

 

 そばで聞き耳を立てていた博士が声を上げる。博士は蘭の斜め前から隣に移動する。蘭は博士から離れようと凭れていた自販機から腰を離すが博士に手首を掴まれてしまう。

 

「逃げなくてもいいじゃないか。」

 

 言葉とは裏腹に博士の声に蘭を非難している様子は無い。

 

 それは蘭にも分かっているのか、博士が手を掴んだ瞬間は逃れようと力を込めていたが、下手に騒いでも良いことはないと判断したのか今は再び自販機に凭れている。

 

「さて、どれにしようかな。哀くんがカロリー計算を辞めてしまったからな。今は自分で節制を心掛けないといかん。」

 

 博士はカウンターの上のメニューを流し見ていく。

 

「高血糖で倒れてくれると私は大助かりなんだけど」

 

「ホッホッ、そんな嘘はいかんな」

 

 灰原の辛辣な一言を博士は受け流す。確かに博士が体調を崩せば今の悪夢のような状況の維持は困難だ。博士もそれは自覚している。しかし、それだけだ。灰原がCIAを頼らないのは今までの仕打ちに逃げないことから歴然だ。そうなると歩美はともかくとして蘭のような他人の負担を自分が受ける理由は無い。博士が体調を悪くすればなにかと手頃な灰原を使う頻度が増えると考えるのが自然だ。それは灰原自身も理解しているだろう。

 

 元太と光彦が歩いてくる。

 

「博士ぇ、俺、カツ丼とラーメンが食べてぇ」

 

「僕もです」

 

「そんなに食べられるかい?」

 

「大丈夫だぜ(です)」

 

 心配して尋ねた博士に二人は威勢よく返事をする。さっきまで寝ていたおかげかSAを見る目が爛々としている。

 

「博士、なんで蘭姉ちゃんと手を繋いでんだ?」

 

 元太に言われて蘭はあわてて博士の腕を払う。

 

「ちょっと蘭くんが立ちくらみをしたみたいでな。倒れないように手首を掴んでおったんじゃ」

 

 博士はあらかじめ用意しておいた答えを口にする。博士を疑う理由のない二人は蘭に心配の声を掛ける。

 

 博士が食券を購入して渡す。蘭に遠慮してか交換に行かない二人に博士は優しい口調で諭す。

 

「軽い貧血だろうからあんまり心配せんでもいいぞ。」

 

 博士の言葉に安心したのか二人は食券を交換しにカウンターに向かう。団体客が出発したのかテーブルには空きが目立つ。

 

「ワシらも席に着こうか」

 

 博士たちは丸いテーブル二つに別れて座った。元太、光彦、灰原、歩美は一つのテーブルを囲み、博士と蘭は二人でもう一つのテーブルを囲む。わいわいとはしゃぐ男子二人に釣られて歩美も思い出話に花を咲かせる。どうやら焼き物体験は楽しかったらしく、歩美も声が大きくなっていた。

 

 そんな少年探偵団を博士は孫を見るように眺めた。しかし、灰原と歩美をどうしても性的に見てしまう。

 

 灰原は薄い長袖にジーンズという格好で博士の視線を弾くが、着るものを購入する前に博士にチェックされている彼女はピッタリと体のラインが出るものしか無い。後は小学生にしては攻めた服しか持っていない。

 

 逆に歩美は格好で博士から身を守るという発想は無いのか太ももが大きく露出しているミニ丈のオーバーオールを着ている。日焼けした小麦色の肌を惜しげもなく晒している歩美は博士の視線に気づく様子もなく旅行の楽しかった部分を話している。

 

「博士」

 

 呼ばれて博士は視線を対面に座る蘭に移す。

 

「人が少なくなったので食べたら外に行きましょう」

 

「トイレが人目は無いぞ」

 

 外だと見られる可能性があるし、なによりトイレという博士は密室に蘭を連れ込みたかった。

 

「そうですけど、博士、女子トイレに連れてってくれますか?」

 

「無理じゃな」

 

 博士の断言に蘭は大きく息を吐く。さっきからこそこそと話す蘭につられて博士も声をひそめている。

 

「ほら、たまにいるじゃないか。高速で男性用トイレを利用する女性」

 

「若い人はいません!」

 

 小さい声で蘭は抗議する。博士たちの周りにはまだ利用客がいるが声が届いた様子はなかった。

 

 その利用客も団体客はほとんどいなくなり、今は家族客に客層がシフトしていた。

 

 博士たちはそれぞれにカウンターで取ってきた料理を乗せた盆をテーブルに置く。元太はラーメンとカツ丼という組み合わせ盆がほとんど見えない。一方で光彦は同じくラーメンに、元太とは違いミニチャーハンが盆に乗っている。

 

「やっぱり元太くんみたいには食べられそうにありませんから」

 

 光彦は自分の盆を見た博士にそう答えた。

 

 灰原と歩美はSA近くの特産品を使った名物を謳う餃子定食を盆に乗せている。白い大きな羽根の付いた餃子がしゃきしゃきのキャベツを囲む。確かに名物を標榜するだけに香ばしく食欲を掻き立てる匂いとビジュアルをしている。

 

 博士はとろろ定食を乗せた盆をテーブルの上に置いた。光彦と元太が不思議そうな視線を向ける。

 

「博士、それ旨めえのか?」

 

「もちろん。旅先で不味い料理を食べる趣味はないぞ」

 

「ふぅん」

 

 元太はそれだけを聞くとカツ丼を食べ方始めた。レンゲからこぼれ落ちそうな量を口に入れると咀嚼もそこそこに飲み込む。

 

「蘭さんは少なくないですか?」

 

 光彦が蘭の盆を眺めて尋ねる。蘭の盆の上にはスムージーの入ったプラスチック容だけが乗っていた。

 

「昨日食べ過ぎちゃったみたい。」

 

 席に着いた蘭が答える。

「そうですか。お大事に」

 

 光彦は蘭の答えに納得したのか視線を盆に戻し料理を再び口に運ぶ。

 

 

「一時間後に出発しようか」

 

 とろろ定食を食べ終えた博士はお腹をさする。

 

「それじゃ博士、ちょっと遊んでくるぜ!」

 

 料理を食べ終えて盆を返した元太は光彦を引き連れて外に出て行く。盆を返したその足で外に連れ出される光彦は渋々といった様子で元太に付いていく。帰路を急かすと思っていた元太が素直に聞き入れてくれたのが博士は以外だった。 

 

 既に盆を返した博士は蘭と一緒に灰原と歩美のテーブルに移動している。灰原は黙々と料理を口に運んでいるが、歩美の方は箸を置いて博士と蘭を落ち着かない様子でちらちらと見ている。

 

 家族客もほとんどが出発したSAは利用客がちらほらいる程度でフードコートもがらんとしていたが博士たちは一つのテーブルを囲む。

 

「博士、私たちも」

 

 蘭が博士に目を向けるとおもむろに博士の手を取る。

 

「あ、ああ」

 

 蘭の握る手の力に博士は椅子からずり落ちそうになる。かろうじて膝を地面に着かずに済んだ博士は灰原と歩美を見る。

 

「それじゃワシは蘭くんのピアスを外してあげてくるよ。戻ってきたら出発するから」

 

 博士は蘭に手を引かれて施設から外に出る。まぶしい日差しから来る太陽熱が博士の腕を刺す。蘭はどこに連れて行こうか迷うようにきょろきょろとしていた。

「ちょっ」

 

 蘭に腕を引かれていた博士は今度は彼女の腕を取り公衆トイレに連れ込む。蘭は入り口前で立ちすくむが、辺りを見回して博士の後に続いた。

 

 ライトが付いていない薄暗い公衆トイレの中は誰もいなかった。蘭は大きく息を吐く。換気扇の音が響き渡るトイレの構内は外に比べるとだいぶ涼しい。消臭剤とタバコの臭いが混じり合い独特の臭いが充満している。

 

「ちょっと消臭剤の臭いがきついなぁ」

 

 博士は蘭を掴んでいない方の手で鼻をつまむ。蘭は博士の言葉に無反応で俯いている。蘭は一直線に個室トイレの前に歩いていった。蘭は腕を掴まれていることを気にする様子もない。博士は蘭に引かれる形では個室の中に入ると蘭は鍵を閉めた。

 

 天井が無い個室はドアを閉めたからといって空気の流れが滞ることは無い。奥行きのある設計だったが二人で入るにはさすがに狭かった。密着する必要は無かったが、十分な距離が取れるわけでは無かった。

 

 博士は便座に座る。自然と目線の高さも下がり、丁度蘭の胸の先端に重なった。

 

「さて、と」

 

 博士は手を蘭の着ているパーカーのファスナーに掛けるとゆっくりと引き下ろす。ファスナーが下がり終えるまで蘭は後ろに手を回して、顔を博士から背けていた。

 

 身体のサイズに合っていないTシャツはパーカーの拘束から解き放たれた乳房の弾力でパーカーをだらしなく押し退ける。シワで乳首がシャツに浮くということは無いみたいだが、胸がいつもより下の位置で膨らんでいた。

 

「ピアスはどこかな~?」

 

 博士は蘭の乳房を手のひらで外側から内側に円を描くようになぞる。やがて手のひらに突起した乳首が当たる。博士は乳首に触れた指を下にずらすと小さな南京錠が蘭から伸びていた。

 

 博士は南京錠をつまんで軽く引き下げる。突起してシャツに浮いた乳首が南京錠に連動して頭を下げた。博士は何度も引き下げては放してを繰り返す。

 

「博士、痛いです。」

 

「おや、すまん。つい夢中になってしまった」

 

 弄んでいると蘭が小さな声で抗議する。自分たちの他に人はいないが、蘭はその声量で続ける。

 

「外してくれるって約束ですよね?」

 

「もちろん」

 

「だったら早く外してください」

 

 蘭がシャツの裾を掴むとそのまま脱ごうとしたが、博士も蘭のシャツの裾を掴んでいて肋骨まででシャツが止まる。

 

「なんですか?」

 

「脱がんでもいい」

 

 博士は蘭がシャツを放すとシャツの裾から手を這わせる。お互いに汗をかいている二人の肌は触れあうと吸い付くように密着するので博士は指で蘭の肌を歩く。しばらくのクライミングの末に博士は蘭に着けているピアスを探り当てた。

 

「なかなかセクシーじゃな」

 

 蘭の南京錠をつまみながら博士は呟く。

 

「早く外してください!」

 

「そう焦らなくてもいいじゃないか」

 

 博士ははピアスから手を放す。そして、シャツから腕を抜くとピアスのあった位置のシャツを引き伸ばしてその根元を絞った。

 

「なんのつもりですか?」

 

「薄々気付いているんじゃないか。これから何をされるかなんて」

 

 博士はポケットから裁断ではなく普通のハサミを取り出すとそのまま蘭のシャツの絞った根元に刃を入れた。裁断用に比べると格段に切れ味は鈍く、ハサミが布を噛まないように博士はゆっくりと刃を進める。

 

 ハサミが布を両断して絞っていた分のシャツの布がトイレの床に落ちる。博士が手を放すと絞った布が開き、蘭の乳首やピアスが露になった。

 

 博士は南京錠ピアスを弄る。それに連動して蘭の乳首が左右に揺れる。

 

「少しは馴染んだかな?」

 

「そんなわけないじゃないですか!」

 

「だろうな」

 

 博士はポケットから小さなプラスチックケースを取り出す。開かれたケースには錠剤が種類ごとに仕切られており、そのケースからねずみ色の鍵を博士は取り出す。

 

 博士は取り出した鍵を南京錠の差し込む。そして鍵をひねると南京錠から掛け金が外れた。

 

博士は蘭に手を差し出す。

 

「なんですか」

 

「スマホ」

 

「……車に置いてきました」

 

「君がそんな迂闊なわけがない」

 

 蘭はパーカーからスマホを出すと博士に渡した。受け取った博士は蘭にレンズを向けるとスマホからシャッター音が響く。

 

「これこれ、動くんじゃない。」

 

「でも」

 

 蘭は身じろぎしてレンズから身体を隠そうとするが、博士はスマホで彼女を追う。

 

「まあ、隠さないのは褒めるがな」

 

 博士はスマホでメールを送り、蘭にスマホを帰す。受け取った蘭は画面をタップしてメール画面を開くと一斉消去した。

 

「あれま。いいのかい。新一とのメールもあるだろうに」

 

「いいんです」

 

 博士は蘭の乳首に垂れ下がる南京錠を摘まむとゆっくりと掛け金を外す。ピアス穴がふさがろうとしているのか掛け金は抵抗があった。掛け金が外れた穴は収縮して再び南京錠を通すのが難しそうだった。

 

 博士はまたポケットに手を入れる。引き抜いた手には爪楊枝が握られていた。

 

 蘭が喉を鳴らす。

 

「どうやら察しておるみたいじゃな」

 

「あの、博士、その爪楊枝は?」

 

「もちろんピアス穴の保持用じゃよ。日を改めてバーベルピアスをプレゼントしてあげるよ」

 

 博士はピアス穴に爪楊枝を通す。ピアスと違い肌の色に爪楊枝は馴染んでいるが横に伸びる棒はどこかの民族の慣習といった雰囲気で南京錠に比べるとエロくなかった。

 

「はみ出した部分は折ろうか」

 

 博士は爪楊枝を深く刺していく。爪楊枝は収縮したピアス穴より大きかったらしく、スムーズには通らなかった。それでも博士は乳首を摘まんで爪楊枝を溝まで通すと爪楊枝を折った。

 

 乳首から博士は手を離す。折られた爪楊枝の破片ははみ出ておらず、蘭のピアス穴をきれいに埋めている。

 

「とりあえずの応急処置じゃ」

 

 蘭は黙って博士を見下ろしている。博士はもう片方の乳首もハサミを使って露出させた後、同じようにピアス穴に爪楊枝を通すと、ハサミではみ出している部分に切り込みを入れて切った。

 

 博士は蘭から顔を離す。切り口から乳首だけを露出している蘭は非常に滑稽だった。

 

「蘭くん、もう一度スマホを貸してくれ」

 

 蘭はパーカーのポケットからスマホを出すと乱暴に博士に突き出す。スマホを受け取った博士はレンズを蘭に向ける。

 

「それじゃ、両手でピースをしてくれるかな」

 

 蘭は素直に両手を肩の高さでピースを作る。

 

「ハイ、チーズ」

 

 博士の声に追従してシャッター音が響く。どうやら蘭は考えるのを辞めたらしくひたすらに博士に蔑みの視線を送っているが、その目からは光が消えていた。

 

 トイレのドアが叩かれる。瞬間、蘭の目に光が戻る。

 

「博士」

 

 さっきまでの蔑みの視線が嘘のように怯えた目で博士を見た。

 

「博士。大丈夫ですか?」

 

 再びドアが叩かれ、続けて光彦の声が聞こえた。蘭の体が固まる。心なしか身体の色が白くなった気がした。

 

「どうしたんじゃ」

 

 博士は声を上げる。

 

「まだ帰りませんか?」

 

「そろそろ帰るかね?」

 

「はい」

 

「それじゃあ、みんなに車に乗っておくように言っておいてくれ」

 

 博士は車の鍵をドアの上から投げ渡す。

 

「うわぁっ!」

 

 光彦は捕まえられずに落としたようで金属音が校内にこだまする。

 

「それじゃあよろしく頼むぞ。ワシももう少ししたら行くよ」

 

「ゆっくりいいですよ」

 

 光彦の足音が遠くなる。足音が聞こえなくなると蘭が深く息を吐く。

 

「さてと、ワシも行くかな」

 

 博士はドアの鍵を開けて、蘭をトイレに残して車へ向かった。

 

 




なんか芋い(地の文が)。
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