東京とは言っても、23区から離れてしまえばそこそこ田舎である。特に四方を山に囲まれた山間部は人口流出と高齢化問題という地方と変わらない悩みを抱えている。
そんなわけで空き家らしき家を待ち合わせ場所に指定されても特に不思議はなかった。
むしろ今日の主旨を考えると人に見られる心配がほとんど無いこの空間は絶好の場所にも思える。
しかし、
「暑い」
電池が切れているのかわからないが、リモコンの液晶には何も映らなかった。シャツの首周りを左手で摘まみ、右手を団扇にしてみるが生ぬるい風がくるだけで涼は取れない。涼める場所が無い分、田舎はきつい。
別荘のつもりで建てたのか知らないが、外装はログハウスみたいに丸太を使い、内装は壁材が邪魔で丸太が見えない。ここの家主はどんな意図でこんな無駄をしたのだろう。
「いやぁ、暑いですなぁ」
「そうですねぇ。嫌になりそうですよ」
自分とは違い、本物の団扇を片手にアロハシャツを着て、ハンドタオルで禿げた頭から滲む汗を拭いている壮年と思われる男に話し掛けられる。
男はビジネスマンの営業スマイルよろしく嘘臭い笑顔を貼りつけている。アロハシャツがそれを助長して、まるで詐欺師のような雰囲気を醸していた。
「そう言いながらも帰る様子、無いじゃないですか」
「せっかくこんな田舎まで足を運んで無駄足だったとしたくないので」
「そうですなぁ。無駄にはしたくないですなぁ」
核心の話題を避けている自覚はあるが、それは目の前の男も同じようで、中途半端な所で話を区切ると、そのまま離れていった。
同じイベントに参加する同士ではあったが、内容的にはライバルだから仕方ない。結局は順番を決めることになるだろうが、それでも一番を取ることには意味がある。
思考に耽っていると窓から白いワンボックスが砂利を踏み締めるのが見えた。
「来たみたいですよ」
「来ましたか」
男はおもむろに服を脱ぎ始めた。アロハシャツを脱ぎ捨て、履いていたズボンを座っていた椅子の背もたれに掛ける。ズボンから現れたボクサーブリーフはペニスの形に浮いている。気が早い。
「やっほぉ!居るぅ?」
勢いよく玄関のドアを開いて、鈴木 園子が夏の暑さを吹き飛ばさんばかりの声を上げた。ノースリーブにミニのデニムスカートを合わせて如何にも夏休みを満喫している高校生という雰囲気だ。確か今年受験だと言っていたはずだがそんな様子が欠片もない。
「暑っ!」
一瞬遅れて部屋の室温の感想を漏らす。窓を開けたとはいえ、入ってくる風も生ぬるい。
「そうは言っても、リモコンの電池が切れてるみたいで。エアコンが付かなかったんだよ」
「えぇ!マジで!」
「マジで」
リモコンを渡すと園子は電源ボタンを連打した。一向にエアコンが起動する様子は無い。
「園子、どうしたの?」
園子の荷物なのか、大きなキャリーバッグを持った若い男が入ってきた。顔の彫りは深く、目鼻立ちがはっきりとしている。外国人かハーフだろうか。
「カルロス、あなた電池持ってる?」
「一応持ってるよ」
カルロスはキャリーバッグとは別に持っていたカバンからセロハンに巻かれた新品の電池を取り出した。二十年近く前に呼んだ法外な手術費を取る凄腕医師の漫画で見たことのある大きながま口のカバンをリアルで初めて見た。
「はい」
「ありがとう」
カルロスは電池を入れ替えると、リモコンを園子に返す。受け取った彼女がリモコンの電源ボタンを押すとエアコンが冷気を吐き出し始めた。室内の温度が下がる。
部屋が涼しくなって来たところで今日の主賓の入場となった。
ファーの付いた手錠に、いかにも誘拐されたと言わんばかりに無骨な黒い目隠し、ヘッドホンで聴覚を奪っている。もし、大人がしていればテレビの企画かと思ってしまうかもしれない。
しかし、それらを着けているのが年端も行かない少女だとすれば意味が大きく変わる。
二人いるうちの片方の少女は背を伸ばして平然としている。まるで危険を感じている様子がない。ハーフショーツにポロシャツというラフな格好をしている。
対してカチューシャを着けている少女は見るからにわかりやすく怯えている。淡い青のワンピースをパタパタとせわしなく伸ばし、辺りを窺うようにきょろきょろと首を動かしている。視覚と聴覚が利かない状況でも肌に触れる空気や、埃くさい空気を吸えば、自分がただならない場所に来ていると感じ取ったのかもしれない。
「はい、それじゃあご対面~」
園子が動じていない少女の、カルロスが怯えている少女の目隠しを外す。目隠しに隠れていた容貌はどちらも美少女と言って差し支えないレベルだった。
憮然というより毅然とした態度という表現がしっくりくるような強い瞳に、ウェーブのある髪が少女の雰囲気をぐっと大人に見せる。顔や体つきはまだまだ少女のそれであるのに、まるでこちらを値踏みするような冷ややかな視線をしていた。
もう一人の少女は前の少女が強烈なインパクトだっただけに拍子抜けだった。
視線は床とこちらを交互に泳ぎ、当然のように隣で平然としている少女の服の袖に縋っていた。二人は友達なのか、その動作には迷いがない。
「こっちのクールなのが灰原 哀ちゃん。で、おどおどしてるのが吉田 歩美ちゃん。ほら二人とも、挨拶」
「……こんにちは」
後ろに立っている園子に急かされる形で吉田 歩美は挨拶をした。声は小さく、隣の灰原 哀と紹介された少女の服を掴んだままで不安がこちらにまで伝わってくる。
一方で、歩美に服を掴まれている灰原 哀は腕を組み、こちらを見据えて全く挨拶する気配は無い。隣の歩美がチラチラと視線を送るが、彼女は澄ました顔を崩さない。
「私はこっちのクールな子がいいですねぇ」
ショーツ一枚で待機していた男が灰原 哀を指差して言った。
「そっちは相当なじゃじゃ馬よ?」
「だから良いんじゃないですか。そんな子を足腰立たなくなるまで犯すのが、私好きなんですよ。良いですか?」
男はそれまでの張り付いた笑みとは違う邪な笑顔を作った。こちらを向いて尋ねる。
「構いませんよ。でも、なかなか意思の強そうな子ですけど良いんですか?」
「だからこそです。そんな子を「教育」するのが私のライフワークなんです」
拳を握りながら男は力説する。
「ちなみに、哀ちゃんには私が保護者として、歩美ちゃんにはカルロスが保護者として入るから」
「あ、そうですか」
男は露骨に残念そうにしている。その肩に園子が手を置いた。
「当たり前でしょ。発情したゴリラに行儀よくセックスさせるみたいなもんよ。壊されないように見張らないといけないと。大丈夫よ。私達はアウトなプレイをしない限りは口出ししないし、どちらか言えばサポートする立場だから」
「サポート?」
思わず声が漏れてしまう。
「そ、サポート。カルロスは凄いわよ。」
「そんなことありませんよ」
園子の言葉にカルロスは苦笑を浮かべた。
「ほう。私もカルロス君の凄い所を見たいですねぇ」
いつの間にか男は灰原の肩に両手を置いていた。
「まあ、後から交代するとして、今はこっちで愉しみましょ」
そう言って、園子は男から灰原を奪うと、その肩を押して奥の部屋に消えた。それを追う形で男も部屋に入っていく。
残された吉田 歩美に視線を移すと、彼女は視線を反らしてしまう。
「それじゃあ、僕らも行こうか」
がま口のカバンだけを持ったカルロスは園子らの入った部屋の対面のドアを開いて中に入っていった。
泣きそうにしていた歩美の視線に合わせる形で屈んで、頭を撫でる。手を頭に乗せた瞬間は身体を震わせて警戒していた歩美だったが、頭を出来るだけ優しく撫で、空いた手で彼女の手をほぐすと少しだけ緊張が取れたのか、手を握ると握り返してくれた。そのまま手を繋いでカルロスの入った部屋に向かった。
部屋は子供部屋らしく、人形やシステムデスクが置いてあった。
カルロスは慣れた様子でクローゼットから布団を敷いている。フローリングにカーペットが敷かれているとはいえミスマッチに想えた。
「本当はパイプベッドがあったんだけど、前回壊れちゃって。園子がいきなりここを使いたいなんて言うから間に合わなかったよ」
よく見ればフローリングのワックスに斑がある。点では無く面のそれはベッドの名残だろう。
布団を敷いたカルロスはシステムデスクに椅子を差し出して座るように促して来た。差し出された椅子に歩美を座らせて、近くにあった丸椅子に座る。
「歩美、こんにちは。私の名前はカルロス。」
カルロスは英語の教科書の和訳のように味気ない挨拶をする。
「こんにちは」
俯く素振りを見せながらも、歩美の視線がカルロスに向いた。
カルロスはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その際がひどく似合っている。
続く形で自己紹介しようとするとカルロスは手のひらをこちらに向けて制した。
「プレイヤーの情報は出来るだけ入れないようにしてるんだ。そちらのほうがお互いに都合がいい」
そう言われては口を閉じるしかない。彼の口振りからするとイベントの参加者ではなく、園子が連れてきた何かしらのプロのようだ。
「それじゃあ、とりあえず一回歩美とセックスしてくれるかい? その後にレクチャーするから」
そう言ったカルロスはデスクに凭れていたデスクに座り直した。
彼に促されて歩美と顔を見合わせる。誤算だった。最初に歩美とセックスするのを一回目を競うと思っていたから心証を良くしようと紳士的に接してみたが、彼はそもそも競うつもりはないようだ。
しかも悪いことに歩美はこちらをすがるように見ている。おそらくカルロスが相当な人物なのを知っているのだろう。会話から二人は初対面のはずだが、園子の友人だと仮定すれば彼女が危険人物と判断したのだろう。だとすれば、いくらか優しい可能性があるこちらを頼るのも不思議はない。
残念ながらその期待に添えられるような人格者ではない。歩美の正面に立つ。
空気で高さを調整出来る椅子は低く、歩美は身体を反らせて浅く座り、爪先がキャスターに触れて、背凭れに頭を預ける。へそを曲げた子供にも見えた。
「おじさん、する?」
「うん」
それだけ聞くと歩美はお尻を浮かせてワンピースの中に手を入れる。機械のように動きに迷いがない。正直、さっきまでびくびくしていた少女と同一人物とは思えない。心なしか表情もリラックスしているようにも見える。
「ちょっと待った」
「え?」
歩美の腕を掴む。ショーツに手を掛けた歩美はこれから叱られる子供のように不安を目に浮かべている。
「いや、別に怒らないからね」
「あっ、うん……」
不安は早々に取り除く。まだ彼女とは良好な関係でいたい。
「スカートを持ち上げて」
腕を離して、自分の手の甲でスカートを摘まんで指示する。歩美はショーツから手を離してスカートの端を摘まむと、自分の方に引き上げる。床にあぐらで座る。
スカートの中からコットンのショーツが現れる。白地に小さく猫が刺繍され、両端には無意味にあしらわれた小さなリボンがある。肢体が通る輪を締めるゴムは緩み、太ももの隙間からちらりと幼い丘が顔を見せていた。
「これって普段から使ってるの?」
ショーツを指差して尋ねる。
「うん。結構お気に入りかな」
「そうなんだ」
一つ疑問が浮かぶ。
「なら、今日着てくるべきじゃなかったんじゃないかな。歩美ちゃんも今日がどんな日か解ってるよね」
歩美の表情が沈む。
「解ってるけど、園子お姉さんに一番のお気に入りのを履いてくるように言われたから……」
どうやら、園子は歩美の中ではかなり高い位置にランクされているらしい。
「汚さないようにしないとね」
「うん」
胸の高さに上げスカートを下ろさせて太ももに影を作らせる。薄地のワンピースは光を透過させて太ももを青に染める。歩美はスカートの中を覗かれるというのは恥ずかしいらしく、それも自分が見せているという事実が一層羞恥を加速させているようで、視線を歩美に向けると顔ごと視線から逸らした。
「楽しいの?」
「楽しいよ」
スカートを揺らして透過する光を調節していると歩美が声を掛けてきた。どうやらこの背徳的な感覚は被害者には何の感傷も与えないらしい。
「はやくシよ」
歩美が急かす。どうやら本人にはセックスの方が精神的に楽らしい。
後ろにいるカルロスを見ると彼は持ってきたカバンの中身を確認していた。まだレクチャーとやらは始まらないらしい。歩美の足を通しているショーツの輪を内側に引っ張った。
「止めて、お願い。ショーツ伸びちゃう」
「じゃあ、自分で伸ばそうか。それと股を大きく開いてね」
歩美はスカートを自分のへその下あたりで丸めると足を左右に開いて、ショーツの股に手を掛けて横に引く。幼い丘が露になる。肉付きのいい丘は俗に言うモリマンを予想させる形を形成し、たてすじを濃くしている。本来のこの年齢ならばスジは細く、ぴったりと閉じられているのが普通だが、歩美のスジは太く、スジから具が見える。それは彼女の経験を誇るように赤く照っていた。