「着いて来ないで」
蘭は立ち止まり博士の方を振り返った。
御座敷に繋がる通路はゲームスペースや大浴場から離れており、人通りがほとんど無かった。
「心配だから見守っているだけじゃないか」
「そんなのいりません」
御座敷の入口の障子を乱暴に引いた。
瞬間、
「っ」
まだ一枚仕切りの障子があるというのにアルコールの臭いが漂う。
そして、障子の向こうからは男たちの声が響いていた。
障子を少しだけ開いて中を覗く。
女性選手や関係者の姿はなく、あちこちで今日の大会の反省や労いの言葉が飛んでいた。
それだけならば蘭も戻ったかもしれない。しかし、一部の人間は酒に当てられて盆を使った宴会芸を披露していた。
「こりゃ、入りにくいな」
中を覗く博士の呟きに反応せずに蘭はスマホを取り出すと博士に取り上げられた。
「それじゃあ二回戦といこうか」
博士の顔がニヤリと笑うと蘭の手を引いてその場を後にした。
二人はエントランスに来た。
宿泊客のチェックインのピークは過ぎたのか受付カウンターには妙齢の女性が一人居るだけだ。
いくつかあるソファーには誰も座っていない。
天井のシャンデリアは明々としていたが、しんとした空気が何だか不気味だった。
「着替えさせて」
手を振り払った蘭は握られていた場所を擦る。
「ああ、さすがに夜に出歩くのに制服はまずいか」
「……」
「では一度部屋に行こうか」
博士は再び蘭の手を取るとエレベーターに足を向けた。
「あら、毛利さん」
エレベーター前で声を掛けられた蘭は博士の手を乱暴に振り払った。。
「あ、どうも」
声の主は慰労会の席で蘭に絡んできた男に説教をしていた女性選手だ。ジャージではなくTシャツにジーンズというラフな格好をしている。
「あの、どこかに出掛けるんですか?」
「ちょっとそこのコンビニに行くだけ」
そう言って女性は蘭に手を振りエントランスへ歩いていった。
「何も言われなかったな?」
博士が呟く。
博士の泊まる部屋の前で蘭の足が止まった。
「それじゃあ着替えてきます」
「どこへ行くのかね?」
博士に背を向けていた蘭が振り返る。
「服ならワシらの部屋にあるからわざわざに戻ることは無いよ」
部屋には誰もおらず、布団が五組敷かれている。部屋の隅には旅行バッグが並んでいた。
窓からは街灯といくらか店が営業していることを示す明かりしか見えない。イルミネーションの季節にはまだ早く、半月というのも相まって景色はほとんど見えなかった。
「ほれ」
蘭は渡された藍色の布を広げる。
それはこの旅館の浴衣だった。
制服を脱いだ蘭が浴衣に腕を通す。
「浴衣を着るのに下着を着けたままなのは感心せんなぁ」
博士は蘭のショーツを引っ張りながら言った。
「……」
無言で蘭はは腕を浴衣から抜くとブラジャーのホックを外し、カップを外す。
「これはこれは」
露になった乳房に博士は声を上げる。
ブラから解放された乳首はこれまで見たことが無いくらいに主張している。見るからに目一杯に張り詰めていた。
そして、
「おっぱい、大きくなった?」
ブラが見えた段階でそれは明確だった。
胸が少し溢れている。それだけではなく身体全体が肉付きが増えていた。二週間前に比べるとより女性らしい身体つきになっている。
触り心地だけで解らなかったが、正面から見るとそれがはっきりとしていた。
「まあ、抱き心地が良くなる変化だからいいか」
博士は蘭の脱ぎ捨てた制服を畳むとやることが無くなり、手慰みに蘭の乳首を弾く。
浴衣から胸がはだけ出ている。
蘭は何も言わなかったが襟を糺す時に博士の手を払った。
巻き込んだ髪を襟から出した蘭は博士を見据える。
「それじゃあ、外に行こうか」
博士は軽い調子で部屋から出た。
◎
10月の上旬とはいえ夜風には冬の気配が差していた。吹き付ける風は身体から熱を奪い、散策する人影を少なくしている。
旅館のバス用の駐車場に二人の姿はあった。
浴衣に羽織を重ねている蘭の表情はこれからの事態が理解出来ているのか固い。さっきからきょろきょろと頭を動かしている。
駐車場には街灯以外には光は無い。半月の光は弱く、街灯が描く光の円から外れるとほとんど何も見えない。
博士は旅館から見えない位置、バスの後方で足を止めた。
駐車場の隅のこの場所は街灯の光がほとんど届かずに身体のシルエットが見えるだけだった。
「ワシの言いたいことは解るな?」
「……」
蘭は無言で浴衣を脱いでいく。帯を解き、腕を抜いて、肩の部分を下ろす。
狙ってなどいないのだろうがその仕草がひどく扇情的で博士の逸物が反応していた。
脱いだ浴衣を近くのフェンスに置いた蘭は胸と股を手で隠す。
「それじゃあ行こうか」
博士は蘭の手を引いて街灯の下に歩いていく。
「嫌っ」
片足が光の円に入った頃に弱々しい声が上がった。
博士は強引に手を引いて光の円の中に蘭を引き摺り出す。
光の下に晒された蘭は胸を腕で隠している。博士に片手を取られていて隠せないからか腰を引いて深く内股で歩いていた。
胸が変形していても蘭の手が緩む様子は無い。
街灯の真下、柱に蘭の両手を着かせた博士はそのまま身体を曲げさせて、腰を突き出させた。
臀部が光を浴びて白くなる。
うなじの辺りがほんのりと赤くなっている。
博士は蘭の横に立つ。
「恥ずかしいかね?」
「全然」
声が震えていて強がっているのが簡単に解る。
博士は指で蘭の背中を歩き、脇から乳房に手を伸ばした。
「んっ」
限界だと言わんばかりに固い乳首は手の動きに合わせて柔軟に変形している。
周りには人の気配は無い。しんと静かな空間に蘭のあえぎだけが響いていた。
「んっ、うんっ」
乳首を弄られる度に声が漏れ。搾られ、擦られ、引っ張られ、つねり上げられ、それに反応して甘い息と熱いあえぎ声が数少ない音だった。
「はっ、あんっ」
声に一層の熱が入る。
しかし、
「っ!?」
蘭は脱兎の如く闇の中に消える。瞬間、駐車場の入り口からバスが入ってきた。
「耳のいいことじゃ」
ゆっくりと博士が後を追うと蘭がきょろきょろと何かを探していた。
胸を片手で隠しているが、もう片方の手はフェンスに置かれていた。
「博士、あの、浴衣」
追い付いて来た博士がにやりと笑う。
「さあ?」
姿が闇に溶けて蘭の様子は窺えない。しかし、フェンスが音を立てている事から浴衣を手探りで探しているのが解る。
入ってきたバスはさっきまで二人がいた街灯のすぐ近くに停車した。
四列ある駐車場のうち向かい合っている二列がバスの駐車場になっている。
停車したバスから人が降りてくる。会話からどこかで渋滞に巻き込まれて旅程が崩れたらしい。乗客の苦笑いの声と若いバスガイドの涙声が駐車場に響いた。
「あのっ、浴衣っ」
蘭が博士の袖を引く。
「どこに隠したんですか?」
厳しい口調の囁きで問い詰める。
「さあ?」
博士の答えは変わらない。
「あっちも探してみようか」
博士は木の生い茂る林を指差した。
蘭はしばらく考えるような仕草をした後、
「楽しいですか?」
と言うと林の方に走っていった。
雑木林は博士が思っていたよりも薄く、五メートルも無かった。
林を挟んだ先にあったのは遊具が並ぶ広場だった。滑り台やジャングルジム、シーソーなどが置かれている。
隅にあるベンチが唯一の街灯に照らされているだけで、他には月明かりの薄い光があるだけだった。
ベンチの右手には旅館のシルエットだけが見える。
博士は促すように蘭をベンチに座らせる。
街灯の光の円に入ってから蘭は辺りを警戒していた。
「そんなに気にする必要も無いじゃろう」
蘭の隣に座った博士は彼女の肩に手を回すと、擦るように乳首を弄る。
夜風に当たってひやりと冷えた蘭の身体は、緊張から解放されていたのか、幾分か柔らかくなっていた乳首が博士の指の熱をついばむように再び固くなった。
蘭は俯いたままで答えない。
「そうそう知り合いと鉢合わせすることなんて滅多にないさ」
「私、空手の大会に来たのに、どうして裸にされてるんですか?」
やっと重い口が開かれる。
「まあいいじゃないか。これも青春の一ページってことで」
博士はベンチから腰を上げると蘭の胸を両手で鷲掴みにした。
ぐにゃぐにゃと揉むと呼ぶにはあまりにも粗雑な動きが繰り返される。
初めの内は人形のように澄まし顔をしていた蘭も、胸に赤みが出てきた辺りで顔を歪ませた。
「もっと」
「ん?」
「もっと優しく!」
「りょーかい」
嬉しそうに博士は答えるとさっきまでのうどんを捏ねるような動きからゆったりと愛撫する動きに変化した。
赤く血流が良くなっている胸はぬくぬくと暖かい。
すると、突然蘭は博士の手を取るとベンチの後ろの木陰に隠れた。
「なんじゃ?」
「しっ!」
不平を漏らす博士を黙らせる。
「あー、終わった、終わった」
「何、入賞くらいで満足してるの?」
「ちげーよ、やっと解放されたから」
「ああ、そっち」
ドラマのような軽妙な会話が聞こえてくる。
話している男女はどうやら恋人らしく、手を繋いで仲睦まじい様子だった。
「あれ、彼女は確か」
女性の方に博士は見覚えがあった。
浴衣とジャージの違いはあるが、フレンドリーに蘭に話し掛けていた記憶がある。
「なあ、彼女は?」
博士は蘭に耳打ちする。
「……同じ代表の、それだけです」
何か言おうとしたみたいだが、蘭は話を切った。
「ふぅん」
博士は質問したのに興味なさそうに相槌を打つ。
さっきまで博士たちが座っていたベンチに二人が座る。
蘭の喉が鳴る。
お互いを見合せていた二人の距離が近づく。
「んっ、んっ」
舌を絡ませていた男が女性の浴衣の中に手を入れると浴衣が斑に波打つ。
「あっ、あっ」
舌足らずな声を女性が繰り返す。
博士は蘭の後ろに回り込むと胸を羽交い締めの要領で胸を掴んだ。
「あっ、やめてっ」
光景に釘付けになっていたのか蘭は驚いたように博士の手を離そうと腕を自分の胸と博士の腕に挟み込もうとした。
それでも目の前の二人に遠慮してか声が小さく、囁くような抗議だった。
二人の行為が更にヒートアップする。
浴衣を上半身だけ脱いだ女性が男性に股がる。鍛えられた肉体は見るからに硬そうで、今手にしている物と比べようがない。 握り絞めれば指の間から張りのある脂肪の塊がにゅっと溢れた。
対して目前にある脂肪は小ぶりで、男の手にすっぽりと収まり切ってしまっている。
「やはり、これの差かな」
蘭に聞こえないように博士は呟くと胸が波打つように力を入れた。
「ふっ、んっ」
立っていられなくなったのか蘭が中腰になる。博士は引き上げるように胸を圧迫した。
蘭は素直に従って立ち上がる。
――カサッ
「っ!?」
動いた拍子に踏んだ枯れ葉が音を立てた。
「誰だ?」
男性が振り返る。
跳ね退けようとしていた蘭の片手が博士の腕を力強く握り、もう一方の手は樹に触れている。
手に伝わる鼓動が早くなる。
「よそ見しない」
股がっていた女性が男性の頭を両手で挟んで自分の方を無理矢理向かせた。
「知らないふりするのがマナーじゃない?」
「そうだな」
男性は少し考えるような仕草を見せた後に自分の浴衣をずらし、逸物を外に出した。
女性の浴衣に逸物が隠れる。
「いいのか?」
「うん」
女性が男性の手を自分の股にあてがう。
「こりゃ、前戯の必要なさそうだ」
股から抜いた手をベンチで拭いながら男性が答える。
女性が腰を深く沈めた。
蘭に覆い被さるような格好で博士もそれに合わせて逸物を蘭の腟に挿入する。
「あっ、あっ、あっ」
「っ、っ、っ」
女性の身体が上下するのに合わせて博士は腰をピストンさせる。蘭は息を吐くような掠れた声を漏らしていた。
「あ、イくっ」
男性が女性を強く抱き締める。そこから約10秒、二人の時間が止まった。
「早漏かい」
ピストンを止めた博士が吐き捨てるように言った。
二人は無言でさっきまでの甘い雰囲気だが、どこか空気が張り詰めている。
「なぁ」
男性が口を開いた。
「うん?」
「これからどうする?」
「これからって、今さっき大会が終わったばっかりなのにそんなの考えてないわよ」
「そうじゃなくて。俺たち、の」
「あ」
「結婚、しないか?」
「……、……はい」
「おお」
木陰に隠れている博士が小さな声を上げる。
逸物は未だに蘭の中に収まっていて、焦らすように腟内を刺激していた。
蘭は口に手を当てて二人を見ている。
浴衣を直した二人は腕を絡ませると来た時よりも一層仲睦まじそうな空気を纏わせて旅館に戻った。
博士の腕を掴む蘭の手に力が入る。
辺りが静寂に包まれた。
「それじゃ、これを出したらワシらも戻ろうか」
博士が腰を蘭に打ち付ける。
「あっ」
蘭の声が静寂の中に響いた。
「あっ、あっ、あっ、あっ」
博士のピストンに合わせてリズム良く蘭が啼く。普段の自制したあえぎではなく、園子が漏らすような快感に身を任せているのが容易に解る声だった。
蘭が両手を樹に付いた。
博士のピストンが小刻みになる。
「イクぞ」
「っ!」
逸物が脈うち、精子が飛び散る。
「何の真似かね?」
寸前に逸物を抜いた蘭の腰には精子の溜まりがいくつも出来ていた。
博士が尋ねる。
「赤ちゃんが」
深呼吸。
「赤ちゃんが、出来ました」
◎
「今度来た時に話し合おう」
博士は浴衣を蘭に返すとそれだけ言って蘭と別れた。
蘭は大浴場に来ている。脱衣場には人がおらず、湯煙が籠る浴室には老齢の婦人が二人ばかり入っているだけだ。
壁に掛けられた時計は10時を過ぎている。
「やっほ」
隣からの声に蘭が驚いたような表情をした。
「蘭ちゃんも今からお風呂?」
にこにこと幸せそうな笑顔で先ほどの女性が声を掛けた。
「何かいいことあったんですか?」
蘭が尋ねる。
「もう、とぼけちゃって」
「……何の事ですか?」
「さっき隠れてたの蘭ちゃんたちでしょ?」
蘭の動きが止まる。
「あ、別に責めてる訳じゃないのよ。状況からして私たちが後から来たんだし。ただ、ね」
女性が蘭の方に身体を向けた。
「今からの季節は風邪を引きやすくなるから外で裸なのはさすがに注意しないとって思って。彼氏にも伝えといて」
それだけ言って女性は浴室のドアを開けた。
「彼氏なんなじゃ、無い」
目から涙が落ちた。
アニメ風に前編AB、後編AB+エピローグにしてみてましたが、読みやすくなった、と思いたい