※この作品はR-18です。

阿笠博士の爛れた日常   作:マグダス

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11月25日(金)「阿笠の家庭訪問」

「は……」

 

 玄関を開けた毛利蘭は口を開いたままその場で固まった。

 

「やあ」

 

 視線の先でにこにことしていた阿笠が手を上げる。

 

「お父さんなら二階の事務所ですよ」

 

 警戒した様子で蘭が話す。

 

「知っておるよ。さっき見たらいびきをかいて寝てたからな。丁度いいからこうして蘭くんの顔を見ていこうと思って」

 

「そうですか。私は元気です。それじゃ」

 閉められようとしたドアに博士が足を差し込む。

 

「そうつんけんしなくても良かろう」

 

「別に。博士がそう思うだけじゃないですか?」

 

 取り付く島もない蘭は博士の靴を押し出そうと履いているスリッパで爪先を踏みつける。「そういう態度を取られるとますますこっちも意固地になってしまうよ?」

 

「……」

 

 博士がドアに手を掛けてそう話し掛けると爪先を踏みつけていた力が緩む。

 しかし、最後の砦とばかりに無言でドアに力を込めていて開かない。

 

「うーん、諦めが悪いなぁ」

 

 博士はドアから手を離した。

 足がまだ挟まれているドアは半開きのままだ。

 すりガラス越しに見える蘭はドアにぴたりと密着している。

 

「観念して入れてくれないか? そろそろ足が痛くなってきたんだが」

 

「なら帰ったらいいじゃないですか」

 

 にべもない答えが返っくる。

 

 

「しかし、話を聞いた方が君達のためじゃよ」

 

 一瞬ドアを閉めている力が緩む。

 博士は無理に侵入することはせず、蘭が開けてくれるのを待った。

 日の入りが早くなり、夕暮れの時間になっても道路を歩く人が切れる様子は無い。 それは毛利探偵事務所の前の道路も同じで、むしろ帰宅時間にある今の時分は人の通り一番多いかもしれない。

 

 会社帰りのサラリーマンやOLに混じり子供連れの主婦の姿もあった。

 探偵事務所の入っているビルの三階、毛利親子の住宅の窓から博士は人波を見下ろしていた。

 二階の探偵事務所でいびきをかいて小五郎が寝ていたのは既に確認済みだった。

 コナンが居た時から探偵事務所に来ることはあっても、こうして生活空間に足を踏み入れた事はほとんど無かった。 事務所は小五郎が飲み空かしたビール缶がたまにそのままにしてあったが、こちらの方はさすがにそんなことはない。

 卓袱台の前に博士は座る。テレビを点けるでもなく辺りに視線を巡らせて周囲を見回した。

 博士の家に比べると大分小さな間取りだが、掃除は行き届き、物が整理された室内は広く感じられた。

 夕食の準備があるという蘭の後を追って台所に足を踏み入れる。

 

「豚汁かい?」

 

 鍋を開けた博士はまだ味噌が入っていないながらも煮込まれている具材とその横にあった味噌の入ったパックからメニューを予想する。

 蘭は黙々と包丁でキャベツを千切りにしていて答える気配すらなく、博士の存在など無視しているようだった。

 

「ま、いいさ。それよりも」

 

 視線が蘭の下半身に向いた。

 

「どうしてズボンに履き替えておるのかね」

 

 ゆったりとしたズボンを指差して博士は言った。

 博士が家に来た時には蘭は膝上のスカートを履いていた。しかし、博士が家の中に入るとすぐに自分の部屋に行きズボンに履き替えていた。

 

「……言う必要ありますか?」

 

「無い、さ」

 

 蘭のズボンのを引き下ろしながら博士は答えた。

 白いレースの付いたショーツが現れる。

 包丁の音が止まる。

 

「気にせず料理を続けなさい」

 

 包丁がまな板を打つ音が再開する。先程までリズミカルな音を立てていたが、今は初心者が切るようなゆっくりとした調子で包丁が動く。

 

 博士の手が腿の裏を撫でた。

 

「っ!」

 

 蘭が博士の方を振り向き手にしていた包丁を向ける。

 

「いい加減にしてよっ!バカじゃないのっ。こんな風にのこのこ来て!刺して下さいって言ってるみたいなものでしょっ」

 

 包丁の先が震える。

 

「落ち着きなさい」

 

 刃先を向けられていながら博士は冷静に答える。

 

「そんな風に脅しちゃいかん。殺人がどれだけの人間の人生を狂わせるかを君は良く知っているはずじゃ。年始にはとりあえずの問題は解決するのに、ここで短絡的に事を起こすのは賢明じゃないぞ」

 

 慌てない博士に腹を立てているのか刃先を近づけながら蘭は涙声で話す。

「そんな他人事みたいに態度、ありえないっ」

 

「他人事なんて思っておらんよな。何せ、君のお腹に居るのは間違いなくワシと君の子供なんじゃから」

 

 蘭が包丁を下げた。

 声は鼻声に変わり掛けていて、目尻から溢れた涙が頬に跡を残していた。

 

「だったら、もう少しこっちの事情も考えてくれてもいいんじゃないですか?」

 涙を拭う様子もなく、赤くなった瞳で博士を見据える。

 

「きょ、今日は、君にプレゼント、というか届け物を持ってきたんじゃよ」

 

「届け物?」

 

 怪訝な表情で見る蘭から逃げるように台所から離れた博士はリュックを持って入り口の前まで戻ってくると跪いて、中から白の不透明なビニール袋を取り出した。

「これは?」

 

「出してくれれば解る」

 

 自信満々な博士の様子に毒気を抜かれたように蘭は包丁をまな板に置いて博士に近づくとビニール袋を受け取り、ゆっくりと袋から中身を取り出した。

 袋に入っていたのは薄桃色の妊婦帯だった。

 

「この前見た時にそろそろ必要かなと思って……」

 

 自信満々で渡したくせに言葉尻が不安そうに小さくなる。

 

「ふざけないでっ!こんなの用意するならさっさと病院に連れていって」

 

 妊婦帯を乱暴に袋に戻しながら蘭が吠えた。

 

「そんな大声出さないでくれ。毛利君が起きたら色々面倒だ。口が固くて融通の利くような医者となるとなかなか都合を付けられなくてな。なんとか年末年始に捕まえられたのは正直ラッキーだったんじゃよ」

「わざわざそんな人……」

 

「そうは言っても確かな腕のある医者を水面下で探すのはかなり大変なんじゃよ。よしんば捕まえても噂通りとは限らんし。失敗する訳にはいかないからな」

 

 弱々しい態度から一変して責任を痛感している風に真剣な面持ちで博士は言った。

 

「その帯だって蘭くんの身体のことを考えて買って来たんだよ。いずれ堕ろすとはいえ、現状妊娠しているんだから母子共に異常なく日々を過ごす必要がある。」

 

 博士の剣幕に押されるように蘭は袋に戻した妊婦帯を取り出してぼうっと見つめる。

 

「せっかくだから一回だけでも着けてくれないか? それで合わなかったら持って帰るから」

「……じゃあ一回だけ」

 

 渋々といった様子で蘭は妊婦帯で腹部をカバーした。

 

「どうかね?」

 

「ちょっとだけ楽ですね。それにお腹が冷えない気がします」

 

「なんと。お腹が冷えてたのかね!?」

 

「いつもじゃありません。ここ何日か冷えた日にちょっとお腹が重たいなっていう日があったので」

 

「うーん、ギリギリだったか。それじゃ妊婦用の腹巻きも買って来なくてはな。これからもっと寒くなるし」

 

「あ、あの、そこまでしてもらわなくても」

 

 嬉しそうにぶつぶつと指折り数えて揃える物を声に出している博士に声を掛ける。

「遠慮することはない。お金はあるし、子供というより孫に買うような感じじゃ。ちょっとわくわくするよ」

 

 どことなく話題が飛んでいる博士を見て蘭の肩から力が抜けた。

 

「あの、夕食食べて行きますか?」

 

「おや、どういう心境の変化かね?正直、刺されはしないまでも追い出されるくらいは想定しておったが」

 

「そっちが良いなら今すぐ追い出しますけど?」

 

 蘭が拳を握る。

 

「いや、ご相伴に預かるとしよう」

 

 蘭がハッとした顔で博士に尋ねる。

 

「あ、でも哀ちゃん一人で食事させることになっちゃう。呼びましょうか?」

「いや、いい。実はもしもの場合を考えて今日は園子くんに預けておる」

 

「……園子」

 

 寂しそうに蘭が呟いた。

 

「もしかしてまだ仲直りしとらんのかね?」

 

「出来るわけないじゃないですか」

 

 蘭は質問に即答で返すと目を臥せた。

 

「あんなひどい裏切り、簡単に許すなんて無理です」

 

「あっちもそこまで恨まれるのは予想外だったろうな。せいぜい二、三ヶ月で怒りも収まると考えておったじゃろうに」

 

 蘭が悔しそうに唇を噛んだ。

 

「夏休みの話を信じずに全てをワシのせいにしてしまう選択肢もあったろうに、まったく、損な性格だね」

 呆れとも感心とも取れる微妙な声の調子で博士は話を切った。

 

「それで、さっき見たが今日は豚汁に豚カツの豚づくしみたいじゃったが大丈夫なのかい?」

 

「はい、豚肉はまだあるのでそれを揚げればいいだけですから」

 

「しかし、揚げ物をしていたにしては台所は綺麗だったよ?」

 

「……」

 

「……」

 

 二人は顔を見合せる。

 

「嘘だね」

 

「……はい」

 

 小さく肩を落として蘭が答えた。

 

「どうしてそんな嘘を付いたのかね?矛を納めたとはいえそこまでする理由にならんだろ」

 

「……博士に言われてから気が付いたんです。それで今さらやっぱり無しはなんだか言い難くて」

 

 恥ずかしそうに肩を寄せる蘭。

 

「無理はしなくていいよ。気持ちだけ頂いておこう」

 

 博士がそう言って帰ろうと立ち上がった途端、

 

グゥーーーー

 

 動物のうめき声のような腹の音が響いた。

 

 蘭が小さく笑う。

 

「これは失礼」

 

「やっぱり食べていったらどうですか?」

 

「そうだね。それじゃ豚汁だけご馳走になろうかな」

 

 蘭が台所に戻っていき、やる事の無い博士はその後を追った。

 大体の料理を終えた蘭は付け合わせのサラダに使うトマトを切っていた。

 白磁の小皿に野菜が盛り付けられている。

 ふと博士の目に透明なビニールに入ったままのきゅうりが目に入り、手に取った。

 

「蘭くん、これ貰っても」

 

「いいですよ」

 

 声を掛けられた蘭はちらりと博士を向いて頷く。

 答えを聞くやいなや博士は蘭のズボンを下げて、揃えられている足の間にきゅうりを通した。

 

「ちょっと」

 

 予想外だったのだろう。足にいきなりきゅうりを差し込まれた蘭は慌てたように博士を見た。

 

「なにかな?」

 

 きゅうりで股を擦りながら博士は蘭を見た。

 

「食べるんじゃなかったんですか?」

 

「そんなこと一言も言ってないよ。セックスはいいから今日はこれを差させてくれんか」

 

 きゅうりをクリトリスに押し付ける。まるで反り返る逸物が蘭の股間から伸びているようだった。

「……その、居るんですよ?」

 

「赤ちゃんのことかい?子宮まで突き刺すような真似はせんから心配いらんじゃろ?」

 

 わくわくしているのを隠せない博士は言葉を弾ませた。

 わざわざ濁して言わなかった事を博士に言われたのに腹を立てているのか蘭はわざとらしく股を閉めた。

 

「な、この通り」

 

 片手で拝む博士に蘭が冷やかな視線を送る。

 しかし、セックスをしないという条件はそれなりに魅力的だったらしく、蘭は包丁を置いて足を肩幅に開いた。

 

 

「じゃあさっそく」

 

 了解と取った博士はきゅうりを股から引き抜くと蘭の膣口にあてがった。

 きゅうりが呑み込まれるように中に入っていく。

 

「んっ」

 

 きゅうりはほとんどを呑み込まれ、握るほども出ていない。入りきらなかった分も指で押せば中に収まりそうだった。

 

「ひうっ」

 

 抜けないように支えている人差し指をで押し上げると蘭が驚いたようなな声を上げた。

 本能的に引いた腰は却ってきゅうりの先端で子宮口を押してしまったようですぐに前に突き出してバランスを取っている。

 子宮まで届かないことが解っている博士は、子宮口を執拗に責める。

 予測は口にしたが、何の約束もしていなかった。

 蘭はあえぎ声を口にしながら段々と膝が折れ、手を着いて床にへたり込んだ。

「めしぃ」

 

 玄関から小五郎の声が響いた。

 慌てて股間に入っているきゅうりを引き抜こうとする蘭を博士は制止する。

 

「このまま」

 

 博士は抜けようとするきゅうりをショーツで留める。

 白のショーツに極端に鋭角な突起が浮かぶ。

 尚も引き抜こうとする蘭のを掴む。

 

「頼むから言うことを聞いてくれ」

 

 懇願する口調とは裏腹に有無を言わせない圧力を蘭に加える。

 じっと見据えられた彼女は威圧されたのか呆然とした顔で頷く。

 

「それでいい」

 

 博士は台所を出て小五郎を迎えた。

 

「お邪魔しとるよ」

 

「ありゃっ、博士。家の方に来るなんて珍しいですな」

 

 まだアルコールが残っているのか小五郎の顔は赤く、口調も怪しい。

 

「いやなに、知り合いから日本酒を貰ってな。ワシは飲まないから君にあげようかと思って」

 

 博士は妊娠帯の入れていたリュックから一升瓶を取り出した。

 

「地方の酒蔵のやつだが、かなりの銘酒だそうじゃ。ワシは日本酒には疎いから良くは知らんが」

 

 一升瓶を受け取った小五郎の顔が綻ぶ。どうやら酒の銘を知っているらしい。

 

「いいんすかこんな良い酒」

 

「かまわないよ。どうせ飲まないからね」

「それじゃあありがたく、蘭、コップ持ってきてくれ」

 

 瓶を抱き抱えて小五郎がちゃぶ台の前に座った。

 

「もうっ。飲み過ぎよ」

 

 ぶつぶつと小言を口にしながらコップを手にした蘭が台所から出てくる。

 小五郎は早速瓶の蓋を開けて、澄んだ液体を受け取ったコップに注ぐと一気に半分を飲み切る。

 

「うめぇっ」

 

 感嘆の声を上げて更に酒を注ごうとすると、

 

「今日はおしまいです」

 

 蘭が軽々と一升瓶を持ち上げる。

 

「えー」

 

 小五郎が不満そうな声を上げた。

 

「まあまあ。そんなに旨い酒なら少しずつ味わって呑めると思って今日は蘭くんの言うことを聞いてあげたらどうだい」

「そう……っすね」

 

 贈り主の言葉なだけに言い返しにくいのか小五郎の歯切れは悪い。

 酔いが残る赤ら顔でもそれくらいの分別はあるらしい。

 

「じゃあ用事も済んだし帰ろうかな」

 

「夕飯食べてったらどうっすか。あんな良い酒貰ったお返しってわけじゃないですけど」

 

「いや、遠慮しておくよ。家で哀くんが待っておるかもしれんし」

 

 博士はそう言って玄関に向かった。

 その途中蘭に

 

「後できゅうりの写真をワシにも送ってくれ」

 

 と、小五郎に聞こえる声で話し掛け玄関を出て行った。

 

「きゅうりの写真って、そんなに珍しいか」

「は、花っ、きゅうりの花がお店にあったからそれの写真を撮ったのを見せたらなんか気に入ったみたい」

 

「ふぅん。でもお前、博士とメールしてたのか」

 

「博士のとこでバイトしてるんだもん。連絡する手段は必要でしょ。ちなみにメールじゃなくてLINEね」

 

「ふぅん」

 

 テーブルに食事を並べる蘭を見ながら小五郎は気の無い声を漏らした。

 トレイに乗せたサラダをテーブルに並べた蘭が腰を下ろそうとした時、

 

 ポキッ

 

 何かが折れたような軽い音が響いた。

 

「んあっ」

 

 半ば寝ていた小五郎が音に反応して頭をもたげる。

「何の音だ。蘭、どうした」

 

 眠そうに半目で辺りを見回した小五郎は目の前で不自然に中腰で固まっている蘭に声を掛けた。

 自分の名前が呼ばれた事に弾かれたように小五郎の方を見た蘭は何事も無いようにそのまま座る。

 

「膝が鳴ったからちょっとびっくりしただけ」

 

「運動不足なんじゃねぇか。勉強も大事だけどよ、たまには身体を動かさねえと」

 

「家の事をしてるから運動不足って事は無いと思うけど」

 

 痛い所を突かれたのか小五郎は話題を帰る。

 

「そういや最近、英里と会ってないそうだな」

 

「私も聞いてるよ。最近お母さんとまた喧嘩したそうね」

 あしらうように小五郎の言葉が荒くなる。

 

「俺の事ぁいいんだよ。それよりもおめぇの話だ。どうして会わねぇんだ?」

 

「大した理由じゃ無いよ。お互いに都合の着く日が合わないだけ」

 

「ふぅん」

 

 それ以上問い詰めるでもなく小五郎は自分の豚カツを口にすると、冷蔵庫からビールを出してプルタブを開けた。

 蘭は立ち上がってトイレに入るとお腹を押さえ、

 

「会えるわけ無いよ」

 

 と、呟いた。

 

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