光彦君を先に行かせて哀と管理棟に併設されている喫茶店というか軽食屋というか、メニューにラーメンがあるから食堂と呼ぶべきか迷う、お洒落とは無縁な内装の角の窓際テーブル席に座った。
木製のテーブルの上にはインスタントコーヒーがシンプルなカップに注がれている。
エアコンの利いた室内は外の冷気との温度差のせいで暑いくらいで、スキーウェアを脱いだ。
対面に座る哀が目を細めてコーヒーを飲む。いつ見ても小学生とは思えない所作に思わず年齢が一桁だということを忘れてしまう。
カップを置いた彼女が口を開いた。
「今日の予定は?」
「予定? あ、君たちのか」
「他に何があるの?」
まだ見ていなかった指令メールを確認しようとスマホを取り出すと哀が手のひらをこちらに向けて渡すようにジェスチャーしたのでスマホを手に乗せる。
慣れた手つきで操作した彼女はほんのしばらく画面を流し見した後、こちらにスマホを放った。
「おっと」
大きな弧を描いたスマホを捕まえる。どうやら計算して投げたらしくこちらがキャッチすると哀は顔を窓の外に向けた。
「お」
釣られて窓から見えるゲレンデに視線を移すとリフトに乗っていた光彦が歩美ちゃんたちの所に滑っていくのが見えた。
何やら宮脇が影になって子供二人の姿が見切れてしまっている。最初は転んだ元太を歩美が助け起こしているのかと思ったがいつまで経っても元太は起きる様子もなく、しばらくして光彦が近づくと歩美に抱きついた。
「なにしてんだ?」
そんな言葉が自然と出た。
どうやら歩美の服をはだけさせて手を入れさせているようだが、その真意が読めない。
そもそも意味なんて無いのかもしれない。
返ってきたスマホの画面を見るとメールの画面が開かれていた。
『今日のノルマ
・外でおしっこ(撮影)
・上半身裸でご飯のツーショット(撮影)
・売春(録画)
↑これはこっちで相手見つけて、後でメールする
』
園子らしくない固い文面は博士が打ったメールだろう。いつもの彼女ならもっと文章は軽い。
画面を待ち受けに戻して顔を上げると哀がこちらを見ていた。
「トイレ、行く?」
なんとなく気まずくて声を掛けた。
「まだいい」
拒否された。
メールの指令をすぐさまこなすかと思ったが、彼女にも考えがあるらしく、外をぽつりぽつりと過ぎていく少人数のグループを見送っていた。
その流れを見ていた哀は他愛もないことを話すように質問してきた。
「あなた、歩美ちゃんとまだ付き合っているのよね?」
「そうなるのかな」
「だったら今のままでいいと思ってないわよね? このままじゃ彼女、博士の子供を産むことになるわよ」
あまりにもその話し方が普通すぎて答えを窮してしまう。
なぜなら、
「それは仕方ないかもね」
「……本気で言ってるの?」
「そもそもが元締めとしてあの人がいるからね。あの人が産ませたいと思っているなら僕に出来ることはない」
あまりにもその話し方が普通すぎて答えを窮してしまう。
なぜなら、
「それは仕方ないかもね」
「……本気で言ってるの?」
「そもそもが元締めとしてあの人がいるからね。あの人が産ませたいと思っているなら僕に出来ることはない」
これは自分がどう足掻いても変わらない事実だ。博士が園子の上にいる以上、反抗すれば社会的に抹殺されてしまう。
それに、
「正直、一時の気の迷いの気だったと最近は思ってしるんだ」
哀はその答えも想定していたように年不相応に黄昏た視線を外に向けて冷ややかな声で尋ねてきた。
「いつから?」
「先月の中頃かな。そう思ったら急激に自分の中で歩美ちゃんに対しての気持ちが冷めてね。一気に盛り上がったから冷めるのもこんなものなのかもしれないね」
歩美と出会って3ヶ月余りが経っている。
その間に彼女との作った思い出はセックスか輪姦される場所への送り迎えの記憶しかない。
風俗嬢に会うのと変わらないと思ったら、いくら貴重な一桁の少女といえども愛情を持ち続けるのは難しい。
「そんなのわかってたことでしょう。理解して好きになったんじゃないの?」
こちらの心の内を読んだのか、哀は呆れたように溜め息を吐いた。
「そのつもりだったんだけど、やっぱりそう簡単に割り切れないね」
そう率直な気持ちを吐き出すと哀はテーブルの上のコーヒーを横に退けて頭を深く下げた。
幸い利用客はまばらな上にソファーの背凭れが彼女の姿を遮っているおかげで誰もこちらに目を向けた人はいなかった。
「何のつもりかな?」
「私はどうなろうと構わないの。でも歩美ちゃんは助けてあげて。あの子、まだ自分がしてることの重大さがきちんと認識できてないの」
それは同感だ。歩美はセックスを嫌がるわけではなく集団で乱暴にされるのを怖がっているだけで、一対一ならば暗い顔をしながらも特に拒否する素振りは見せない。
そして、終わったらシャンプーの匂いをさせて帰ってくるその慣れた様子に気持ちが萎えるのだ。
「善処するよ」
哀はその言葉にすがるようにゆっくりと頭を上げた。
信用はしていないが任せる相手は他にいないらしい。
コーヒーのおかわりを注文しようと手を上げようとした所で哀が席を立って外に行ってしまったので、あわてて会計を済ませて追いかけた。
暖かな室内から雪が斜めに降る外に出ると急激な気温差に一瞬皮膚の感覚が麻痺して、その後に刺すような寒さが襲ってきた。
手に持っていたウェアを着て哀の後ろを歩く。
ゲレンデを離れて車が数台停まっているだけの駐車場に向かう。
来た時に比べてうっすらとコンクリートに雪が積もっている。
除雪した雪が山を作っている端に哀は足を止めると、おもむろにズボンを下ろした。
後ろを向いた格好の彼女の白いお尻と同時に膝あたりまで垂れたカテーテルが見えた。
昨日光彦たちを連れてスキーに行った後に、残された歩美と哀、それに園子の友人の蘭はカテーテルを尿道に付けられたらしい。
何も手を出さなかった昨日だが、唯一の決まりはカテーテルの栓は大人たちしか外さないと言うものだ。
蘭には歩美たちに内緒でこれを守っているうちはセックスをしないことを条件にした。
少女二人については特に聞いていないけれど、哀の様子から何かしらの条件を付けられているのだろう。
そのせいで三人はトイレに行くのを誰かしらに伝えなければならなかった。
「取って」
振り向いた哀がカテーテルを握りこちらに栓を向ける。膝までの長さしかないカテーテルは彼女のへその下の高さまでしか上がらなかった。
「……カメラ」
カテーテルの先から尿が出てくるのを待っていると不機嫌そうな哀の声が聞こえ、そこで彼女がカメラを出すのを待っていることに気づいた。
スマホを取り出してレンズを向ける。
哀はカテーテルを下に向けた。
半透明な管を色の薄い尿が流れ落ち、雪を溶かしていく様を彼女の全身が写るように撮影する。
写真がネットに流れるのを想定してか手のひらで顔を上半分を隠す。
管が入っているせいで排尿のコントロールが出来ず、薄黄色の液体は膀胱が空になるまで流れていくことになる。
口を強く結び下半分しか見えない顔は無表情だ。それがいかにも彼女の気の強さを表しているようだった。
管から最後の滴が落ちると哀はこちらを見て目で写真が撮れていることを尋ねてきたのでスマホの画面に今しがたの彼女の写真を表示して見せる。
哀は目線を画面に移して痴態が写っていることを確認するとズボンを上げた。
一話が短い。そして会話が少ない(反省)