雪道を一台のワゴン車が走っている。
白の車体は雪に溶け、音もなくゆるゆる進む様子は家に忍び込んだ泥棒を思わせる。
灰色の轍に沿って車を走らせる。
林道を抜けると隠れ家のようにして一件の建物が目に入る、
一番下層はシャッター前だけ雪を除けて車の出入りさせることが出来るようにしている。
階段を登った先には大きな玄関がある。外からはよくわからないが窓の配置から更にもう一階上もありそうだ。
「こんなに乗り心地がイマイチな車に乗ったのなんて何時ぶりかね」
車から降りた老紳士という言葉が似合うスーツに身を包んだ老人がステッキで雪を突いた。
車には彼と運転手しか乗っておらず、知的な外人風な運転手は一瞥して来た道を戻っていく。
老人は人の良さそうな笑みを浮かべて車を見送ると建物の方に向き直る。
車庫を囲むコンクリートには雨垂れの跡があり、その上の木造建築には若干の色味の差があり築年数三十年といった所か。
最上階には窓が一つしかなく、おそらくは広い屋根裏部屋になっているだろう。
「いらっしゃいませ」
玄関を開くとフリルの付いたエプロンを着たボブカットの少女、歩美が床に手を着いて頭を下げながら老人を出迎える。
「今日はご足労頂きありがとうございます。短い時間ではありますが、楽しんで頂けたら幸いです」
抑揚の乏しい台詞は言わされていると容易に想像出来る。
「はい、よろしく」
孫を見るような優しい目で歩美を品定めしながら老人は握手を求める。
出された手はすべすべしていた。
老人が靴を脱ぐのを見計らい歩美がくるりと後ろを向く。
白い背中が露になる。
それもそのはずで白のエプロン以外歩美は何も身に着けていない。
少女らしいきめ細かい肌を存分に露出させている。
マシュマロのようなもちもちした尻を眺めながら歩美の後ろを歩く。
いくつかあるドアを素通りして一番奥の妙に軽薄な色合いのドアに入った。
部屋の中は薄暗く奥の方はカーテンで仕切られている。
手前には着ている物の違いはあれど社会的な地位の高そうな人間が仮面を着けてパイプ椅子に座っていた。
老人も持ってきたバッグから仮面を取り出し装着する。
二人いる先客のうちの一人は見知っている。以前、歩美を使ったパーティで意気投合した相手だった。
「どうも」
「ああ、久しぶりですな」
お互いに仮面姿でしか面識はない。
「あなたもですか?」
「というと、あなたも?」
「ええ、昨日いきなり園子くんからメールがありまして。今日の予定を全てキャンセルすることになりましたよ。年末で重要な要件がなくて本当に良かった」 先客は軽く笑った。
「現役の人間は大変ですな。こちらはもう余生なので暇で仕方ありませんよ」
「そんな。まだまだ元気じゃないですか」
他愛もない会話をしていると目の前に歩美がやって来て装飾の一切無い黒いメニュー表を開いた。
「fish?」
「meat?」
老人らは見開きのページの自分の側に書かれている単語を口にする。
「これってどういうことだと思います?」
「夕食の選択、ではないのははっきりしてますね」
歩美の肩を撫でながら老人は答えた。
用件が済んだらそのまま解散が暗黙の了解になっている。それを破って親交を持つつもりも無い。だからといって選ばない訳にはいかなそうだ。
「とりあえず魚にしときます。仮に食事のメインだとしたら肉は少しキツいので」
食事の席があるとしても参加するつもりは無いがとりあえず選ぶ。
「私は肉ですかね。」
「若いですなぁ」
「そうでもないですよ」
先客は謙遜しているが、仮面を着けていても溌剌とした雰囲気が滲み溢れている。
こういう人物は老若男女問わず注目され、それに答えることの出来るいわゆるカリスマの類いだ。
だからこそ半ば四六時中監視されているような環境に晒され、息抜きにこうした秘密の集まりを好むのだろう。
歩美がカーテンの先に隠れる。どうやら布の先にも空間があるらしい。
すぐさま歩美が戻って来た。
「案内します」
「おや、あちらの方たちが先じゃないんですか?」
もう一人の先客をちらりと一瞥する。
「あの人はいいの」
素に戻る歩美。
老人は先客と一緒にカーテンをくぐる。
黒の布に挟まれた一メートルもない隙間に収まる。
二つのドアがあり、それぞれに画用紙に達筆な筆遣いで『肉』と『魚』の字が書かれている。
「それじゃ、私はこちらみたいなので」
先客は躊躇することなく『肉』のドアを開き中に入った。
老人も『魚』のドアを開き中に入る。
くぐもった息遣いが響く。
部屋は暗闇で何も見えない。
天井の明かりが点く。
目の前にはアナルをこちらに晒して膝を着いている。
既に先客の相手をしたようで、本来ならぴったりと閉じているはずの菊門が半開きで魚の口のように収縮を繰り返している。 耳には大きなヘッドフォンを着けて音という音を遮断しているようだ。
腕を後ろで縛られて、おそらく重りが入っているであろうネックウォーマーのような物を首に着けている。
それだけが身体を隠す唯一の被服だった。
顔を横に向けて荒く息をしている。黒い目隠しをしていて表情は読めないが、彼が自ら望んでこの状況にいるとは考えられない。
少年の口の猿ぐつわを外す。
「助けてくださいっ!」
頭を振って猿ぐつわを弾いた少年、光彦は声高に叫ぶ。
「朝起きたらこの格好で、訳もわからない内に乱暴されてるんです」
混乱しているらしい。朝からだとしたら結構な時間が経っているが、口の拘束を外されたのは初めてだったのか光彦の口は止まらない。
「ああもうっ。どうしてこんなことに。僕は単に歩美ちゃんとセックスしたかっただけなのに。なのになぜに拘束されて大人の相手をしなくてはいけないのですか」
老人が何も知らないと思ったのか光彦は自分本位な不満を口にする。
「まだ元気みたいですね」
「?、ええ。お尻は痛いですけど」
言うだけ言って少し落ち着いたようだ。
「まったく、余興とはいえ男を相手にするのは気が滅入りますね。唯一の救いは年端も行かない少年ということですか」
「あの、どうして僕なんですか? 元太く、もう一人いたはずですけど」
「それだったらたぶん隣であなたと同じ目に会ってると思いますよ」
さっきの魚か肉かという質問はこの少年か少年の友達かを選ぶためのものだろう。隣が妙に静かなのが気になるが、光彦が口を塞がれていたことを考えるともう一人を同じように塞がれていると考えれば当然かもしれない。
とりあえず、逸物をアナルに収めてから考えることにしよう。