??月??日(01月01日)
パソコンの液晶に映る認証画面にパスワードを打ち込むと画面が変わってサムネイルが画面一杯に並ぶ。
ほとんどのサムネイルは肌色率が高く、数少ない服を着た物もよく見れば学校の制服姿だ。セーラーやブレザーは当たり前で、何枚かはそれにランドセルが加わっている。笑顔でポーズを決めているのもあれば、写真越しでもわかり過ぎるほど緊張した面持ちで睨むような怯えているような微妙な表情でこちらを見ている物もあった。
ここは会員制の動画投稿サイト。そのうちの一つだ。入会条件はただ一つ、自分で撮った動画を上げること。他人の秘密と自分の秘密を共有する。それだけだ。
ソートを新着順に切り替えて一番新しく投稿された動画を開く。
サイト最大の訴求力を持つユーザーが新しい動画をアップしている。
数秒のブラックアウトを置いて映像が流れる。
音が分離されているのかパソコンの音量を大きくしても何も聞こえない。
最新の動画のはずなのに解像度が低く、肌と空間の境目がボケていた。
画面の向こうには分娩台に座る女性の姿がある。手足を鎖で縛られ、顔にはハンドタオルが乗せられている。規則的にたわむ鼻の部分から女性は相当に呼吸を乱しているのが解った。
画面が動く。どうやらカメラを誰かが持ち上げたらしく、被写体を天井に移した。
透明なシートが蚊帳のようにして空間を遮っている。それを誇示するようにカメラはシートの縁をぐるりと一週した。
映像の中心が女性に戻る。カメラが真横から乳房を映した。 カメラが一瞬がくついて画面端から筋肉質な褐色の腕が伸びてくる。
腕は女性の着ている浴衣に似た病衣の紐を解いて左右に開く。
たわわに実る乳房に光る肌は彼女の若さを推し測るには十分な破壊力だ。はだけた病衣が背徳感を加える。
肉付きの良い手足に反してたるんだ腹部を腕が触診するような手つきで押していく。
指先が膨らんでいるお腹に沈む。
移動する手を追っていたカメラが急に女性の顔を映した。タオルを被ってよく解らないが口元が活発に上下していることてうっすらと動きが読める。どうやら痛みを訴えているらしい。
要求が受け入れられたのか再度映った指先はさっきよりも押す力が弱まっている。
揉みほぐすような丹念な手つきをしているが、同じ場所を往復しているせいで不自然に思える。
白い肌が血行が良くなって朱を帯びる。
カメラがせりあがり腕の主の下顎が映る。アジア系の顔の作りではない。
無声映像で何を言っているのか判らない。無声を意識しているのか口の動きが小さい。
これは決してSNS内で珍しいことでは無かった。誰が最初かは不明だが発言を残さない技術として定着している。
もしもの場合に少しでも罪を作らない工夫だ。
画面の端から恰幅の良すぎる男が加わる。前述の褐色の男と異なり全身にだらしない脂肪を蓄えている。
男の手には開口器が握られている。中心に金属の湾曲した輪があり、その左右に革製のベルトが付いていて後頭部でバックルで留めるデザインだ。
顔を隠しているタオルの下半分が捲られる。身体つきからの予想通り若い女性だ。口をすぼめて本来の形を隠しているつもりらしい。
恰幅の良い男はすぼめられた指を入れて無理矢理に口を開かせる。
正確には指が口内に侵入した時点で丸くなっていた唇は横に伸びていたが。
開口器が歯茎の上に固定されると白い歯がウマ科の動物のように大きく露出していた。
しげしげと開口器を眺めていた二人の男だったが、褐色の方がカメラに向かって手招きをする。
再びカメラはがくついてタオル越しに女性の顔のアップを映した。
呼吸に合わせて上下していたので薄い生地なのかと思っていたがタオルは予想よりも糸が詰まっていた。
開かれた口は舌が涎の海に埋まっている。時々舌が何かを感じ取るように動く。
男が女性の顔上半分を隠しているタオルを指差す。道化のようなひょうきんなパフォーマンスをした後にカメラに向かって何かを指示する。
カメラが移動して頭の方から女性の身体を撮影する。
男は両手でタオルの両端を摘まんでゆっくりと下に下ろす。
きっちりと整った眉が映ると動きは更に緩慢になり、やがてカメラのレンズ越しに大きな瞳と目が合った。
言葉がなくても画面の向こうの女性の絶望が伝わってくる。拘束されて無駄だと理解しているはずなのに手足を動かして逃げようとしている。長い髪は高い位置でポニーテールにされていて顔を隠すことはできなさそうだ。
せめてもの抵抗なのか表情が見えないようにカメラから顔を逸らす。が、顎を掴まれ視線をがこちらに向けられる。
タオルが再び女性の顔を隠す。
足しか映っていないが男二人は向き合って何かを話し合っていたかと思うと足元に落ちる影がじゃんけんを始めた。
恰幅のいい男が買ったらしく、逸物をズボンから出して女性の秘所を貫いた。
腿に手を添えて意外な俊敏さでピストンで女性の身体を揺らす。
胸が上下していて声が無くても女性が喘いでいるのが判る。
男が女性に覆い被さり勃起している乳首を甘噛みして引き伸ばす。丸くたわわな乳房が釣鐘の形に変わる。
女性も最初のうちは静かにしていたが、顔が映されたあたりから身体に汗が浮いてきていた。
男が一段と大きく腰を動かす。数回女性に腰を打ち付けて逸物を深く埋めて身体が震える。
逸物を引き抜くクスコで膣内を見せる。
白濁した液体が赤い内肉を汚していた。
「いい画は撮れたかい?」
ビデオカメラの映像を確認するカルロスの後ろから阿笠博士は覗き見る。
「まあまあですね。良くも悪くも今の蘭の身体に負担はあまり掛けられないので」
「そうじゃな。しかし、何人くらいが気付くかな彼女が妊婦だって」
「バレバレでしょう。お腹押した時に「赤ちゃんが」って言っちゃってますし」
「そこの音声を削ったとしたら?」
「それでも結構な人数が妊婦だって気付くと思いますよ」
「うーむ」
博士は腕を組んで考えを巡らせる。
妊婦をビデオに収めて投稿している動画も少数ながらサイトでも出回っている。そこまで面倒を見ない人間が大半なので自然と数が少ないのだ。
ロリコンがユーザーのほとんどを占めるサイトの特性上、投稿される物も相応になっている。
結論として蘭の動画が人目に触れる機会は少ないだろう。
「もっとたくさんの人に蘭くんのカラダを見てもらいたいな」
「嫌ですっ」
悲鳴のよいな絶叫が室内に響く。
タオルを振り落とした蘭がこちらを見下ろしていた。
「まさかどこかに投稿するつもりですか?」
「希望はあるならそこにも流すが?」
「馬鹿じゃないですか。そんなことをしたら私、死にますよ」
「それは怖い。なら止めておくとしよう」
博士はSDカードをカメラから抜いて蘭の目の前でライターで溶かした。
溶けたプラスチックの臭いが広がる。
「これでいいかな?」
蘭は一息吐くと腕を曲げて鎖を鳴らす。
「鎖、外してください」
「なぜ?」
「なぜって、もういいでしょう!いい加減寒いんです。身体にも良くないし、それに……」
蘭は苦々しい顔して言葉を切った。
「お腹の子にも毒かい? なんだかんだで自分の子だからな。愛情を持つのは仕方ないよ。それでも堕ろすのかい」
「…………はい」
「僕としては堕胎はしたくないな。三月、いや二月まで待ってくれないかな? それなら薬で陣痛を促して出産を早められると思うから」
「大丈夫なのかね。そんな未熟児で産ませるようなこと?」
「書類はなんとでもなりますし、ちゃんとした設備の病院ならばNICU(新生児集中治療室)で保育器に掛ければ。普通よりも入院が長引くとは思いますけど」
「そうか。それで君はどうする?」
博士が蘭の方を向く。
「ここで一つの命を終わらせるか。それとも人知れず産むか。一生を左右するからな。ちゃんと意見を聞かないと」
蘭の瞳が揺れている。確実に堕胎すると覚悟を決めて来たつもりだろうが、産む選択肢を与えられて大いに迷っているようだ。視線をあちこちに向けている。
「もちろん君の子だとは言わないよ。二歳くらいまで施設に預けてワシが養子で迎えよう。蘭くんは時間を見つけて会いに来ればいい」
「……時間を、時間をください」
苦悩の表情で絞り出すような小さな声だった。
満足な答えを得た博士が蘭を縛る鎖を外す。
自由になった右手で同じく解放された左腕に付いた鎖の跡形を撫でた蘭は病衣を糺して二階に力ない足取りで降りて行った。
後ろから服を着ていない歩美が早足で追いかける。
「哀くんは追いかけないのかい?」
部屋の隅で腕組みをして固まっていた哀は博士たちの元に歩いてくる。
「本当に削除したの?」
「意味がわからないな」
「惚けないで。そのビデオカメラカードが二つ入れられるタイプでしょ。博士が一回握った弱みをやすやすと手放すなんて考えられない」
「ふむ。やはり哀くんの目は誤魔化せんか」
博士はカメラからもう一枚SDカードを取り出す。
「それで、これを君に渡せばいいのかな?」
「話が早くていいわ。あの子が自殺なんてしたら江戸川君に会わせる顔がないのよ」
「それはワシも同じじゃよ」
「博士は会った瞬間に殺されないかの心配をしたら?」
「そうじゃな。そんな気が起きないほどに蘭くんを堕とす算段を着けんといかんな」
哀の口撃にも博士は悠々としている。
「別にこのまま流す真似はせんよ。身バレは誰も幸せにならないからな。それにもしもそのまま流しても見る人間はほんの一握りだよ。ここの住人には高校生なんてレアリティの無い、二十歳以上の女性を買うのと大して変わらないし」
哀が溜め息を吐いた。
「だから見逃せって?出来るわけないじゃない。少数にしても見られたら特定されるリスクがあるのに」
「それが楽しいんじゃないか」
「博士がでしょう。こっちはびくびくしながら毎日を過ごしてるんだからっ」
言ってしまって哀はしまったという顔をする。
「ほう。澄ました顔をしてたからもう諦めたと思っていたが、内心ではそんな風に思っていたか。安心しなさい。哀くんの動画は最後の最後までとっているから」
「結局は流すつもり?」
「そのつもりはないが、君の態度次第かな」
咳払い。
「そこで取り引きといこう」
「取り引き?」
哀が露骨に警戒する。
「これを見逃してくれたら歩美ちゃんに解放されるチャンスをあげよう」
カードを睨んでいた哀の瞳が動揺する。
「もちろん解放された後は他の人間にも手を出させなように言っておく。どうだね、悪い話ではないだろう」
「私は捕まったまま?」
「君に手を出すなというのはかなりの無理が必要でな。自分では解らないかもしれないがかなりのファンがいるんだよ。哀くんは」
「その言い方だと歩美ちゃんはいないみたいに聞こえるけど?」
「歩美ちゃんは基本的に一回きりで二回以上はここに招待された面子だけだから。それに良くも悪くも歩美ちゃんは年相応のセックスしかしないから」
「6Pが年相応?」
自嘲気味に笑う。
「いや、まあ知識を含めてということで」
「解っているわよ」
哀が手を腰に当てる。
「いいわ。でも私も手伝うから」
「歩美ちゃんをかい」
「他に何があるの。どうせ無理難題を吹っ掛けるつもりなんでしょ。いいわよ、それをクリアしてあげる」
哀は宣言して階段を降りて行った。
唸りながら頭を掻いている博士にカルロスが話かける。
「そんなに悩むようなことかな? 確かに哀は聡明過ぎる女の子だけど、主導権はこちらにあるわけだし」
「そういう訳にもいかなくなった。あまりに無茶な条件を出してしまっては手放す気がないと思われて従ってくれんだろう」
「発想を変えては?」
「というと?」
「厳しいけれど無理じゃないと彼女たちが思うハードルを設定するんです」
「それが難しいんじゃないか。クリアされても歩美ちゃんを手放すだけだから痛手はないが、余裕を持ってクリアされるのは面白くない」
「だから裏で手を回すんです。色々と邪魔をして焦らせるんですよ」
「でもそれって面倒くさくないか」
「別に博士がやらなくてもいいんですよ」
「その言い方だと何か考えはあるのかな?」
カルロスは力強く頷いた。