乾いた寒風の吹く駅前のロータリーを抜けて雑居ビルの三階にあるネットカフェに入る。
「いらっしゃいませ」
カウンターを挟んだ先で店員が静かに挨拶する。
三時間コースの手続きを済ませて奥に進む。
カウンター最寄りの間仕切りの無い席には小学生らしき女の子が二人座ってマンガを読んでいる。正月の気配が残る三が日だというのに。
ドリンクサーバーの置かれた細い廊下を通り蜂の巣のように同一の扉が並ぶ個室ゾーンを歩く。
窓に面しているのはカウンターと仕切りのない数席だけで、利用者のほとんどが選ぶだろう個室は薄暗い蛍光灯の灯りの中にあった。
天井の光は移動するときのためのものであり、個室にはそれぞれアームの付いたテーブルライトが付いている。
蛍の光のように丸い光体が薄闇の中で使われている部屋を知らせる。
携帯の画面を確認しながら目的の場所を探す。
徒労を覚悟していただけに、扉を開けた瞬間に雷に打たれたように固い表情でこちらを振り向いた少女の上玉加減を見た時は思わず上を向いてしまった。
「君がソノコちゃん」
「あっ、はい」
掲示板に書いてあったハンドルネームの名前を出すと目の前の少女ははっとしてうなずいた。
片仮名だったし、普通に偽名だろう。
長い髪を高い位置で結びポニーテールにして、暖房が利いているのにコートを着ていた。
ライトに照らされたデスクには女性誌が置かれている。
「早く入って」
「ああ、すまない」
促されて個室に入って引き戸を閉める。一人用の空間に二人はやはりせまい。
目の前の女の子は下を向いていたが何か口ずさんだ後に顔を上げる。
「それじゃあ座って」
ソノコが座っていたリクライニングチェアから腰を上げると代わりに座るように指示すると自分はデスクの下にもぐり込み、待ち構えるようにして上目遣いにこちらを見た。
ソノコを脚で挟むようにしてリクライニングチェアに座る。
すぐに股間に手が伸びてきてファスナーが下ろされるとベニスが外気に触れた。
意外と逞しい指がベニスを包む。何か運動部に入っているのかもしれない。
二十歳の大学生だとプロフには書いてあったが、それもどこまで本当なのかは怪しいけれど。
「本当に三千円でいいの? 安すぎない」
あまりの慣れた手つきでベニスをしごく少女に思わず質問する。値段交渉はトラブルの元だが、今回は値切り交渉ではないので大丈夫だろう。
「相場だって聞いてますけど?」
しごくスピードを緩めながらも止めることはせず、ソノコは他人事のように答える。
「安かった、ですか?」
「いや、大丈夫」
噛み合わない会話になってしまったかもしれない。
会話が途切れたソノコはベニスをしごくスピードを上げる。
本番なしの相場を知らないあたりこんな「ウリ」をした経験がないことが解る。自分の価値を理解し吊り上げるのがこの年頃の特徴で、値段が最も個人差が出る。もっと幼ければ自分の価値を他人に任せ、年齢が上がれば身丈に見合った値段を提示する。
要するに買いにくい年代の少女だった。
見たところすれた様子もなく、優等生然とした雰囲気をしている。少しばかり化粧が濃いのは残念だが、それを差し引いても十分に当たりの部類に入る。
しかし手の動きは堂に入ったものだ。指さばきで的確に男の情欲を高めている。
鈴口から溢れるカウパーを啜りあげる。
「咥えても、いいですか?」
「ああ、頼む」
ごつごつとした手のひらを放して口を大きく開いてベニスを咥える。
擦られて敏感になった竿をソノコの舌が撫でる。
乾布摩擦のような手コキとは違う、柔らかな舌でねっとりとした唾液がペニスに塗られていく。
ゆっくりと頭が前後に動くが、いきなりヌこうとはせずにこちらの様子をちらちらと見ながら少しずつ動きが大きくなる。
人の往来のある施設であることを考慮しているのか、ベニスを咥える口を必要以上にすぼめて密閉していてフェラの音が立たない。
歯を当てないようにしているのか顔が伸びて馬面になっている。
舌が絡み射精欲が高まっていく。
それを察したのか、ソノコは口を開いて僅かに外気を取り入れてフェラのスピードを速める。
「いくよっ」
「きやっ」
射精する直前に口からベニスを引き抜くとソノコの顔にめがけて精液を放出する。
白濁した液体が鼻梁を汚して瞼を閉じさせる。
前髪が精液にまみれて額にくっついている。
数秒呆けていたソノコは自分の惨状に気が付くと張り付いた前髪を横に分ける。
「すまない」
瞼まで汚れればいいと考えていただけに、自分のコントロールが失敗して顔全体に精液が飛んでしまった。
ソノコは床に置いてあるポーチからウェットティッシュを取り出すと顔に当てて、そこで動きを止めた。
「これが狙いだったんでね」
そう。精液を落とそうと思うなら化粧を落とすか洗わなければいけない。
そうでなくとも瞼を汚せばアイシャドーを洗い流すか拭き取る必要がある。
ウォータープルーフだったのかシャドーが瞼に滲んでいた。
ソノコはデスクから抜け出ると、一目散にトイレのプレートがある方へ下を向いて早足で駆けていく。
取り残されて手持ち無沙汰になり、デスクの脇にあった消臭ミストで臭いを払う。
デスクの下に目を向けるとティッシュの入っていたポーチがぽつんとあった。
拾い上げてデスクの上に置く。
しばらくしてソノコが戻ってきた。
「やっぱり素顔の方がかわいいよ」
ノーメイクの顔を見て率直な感想を口にする。
シャドーなんかしなくても十分に大きな瞳に、厚塗りしていたであろう口紅が落ちて薄桃色の唇。
同じく厚く塗っていたであろうファンデーションも洗い流されて肌の色合いが暗くなった気がする。
ソノコがこちらに手を伸ばしてライトを消した。
用事は済んだので財布から五千円札を出して渡す。
「あの」
「機会があったら、またよろしく頼むよ」
おそらく彼氏に命令されて従っているのだろう。
彼女の無知に勝手に理由を付けて帰ろうとしているとドアに手を掛けると反対の手首を掴まれた。
玄関にカバンを置いた歩美は靴を履いて灰原 哀を待っていた。
足元に置いたカバンの数は二つ。自分と灰原のだ。
玄関前の廊下の電気は消されていている。
外の光をほとんど取り込まない廊下は玄関のガラスを透過する光で色を得ていた。
昨日まで入れ替わり立ち替わり人の行き来していただけに物音のない今の状況が少し不思議な気分だった。
廊下に面した部屋の一室のドアが開く。
中から灰原と宮脇が出てきた。
満足げな顔の宮脇に対して灰原は心底疲れた表情を浮かべている。彼女は今回の旅行で二十人近くの男と交わっている。その疲れが貯まっているのかもしれない。
それを見た歩美は隣に立つ男と不安を払うように手を繋ぐ。
隣の男、轟は歩美の不安を察して繋がれた手を強く握り安心させた。
灰原と視線を合わせると安堵したのか歩美の表情がほんの少し緩んだ。
「大丈夫?」
「平気」
心配そうに近寄る歩美を灰原は片手で突き放した。
もう一方の手は口を押さえている。
それが何を意味しているのかを予想するのは今の歩美には簡単なようで、突き放されたまま後ろに退いた。
歩美も十人以上を相手していたのだが、何故か正月からこちらは男の相手は全て灰原に集中し、轟の相手だけをしていた。
「哀ちゃん、口の中を見せてあげたらどうですか」
後ろを歩いてきた宮脇の言葉に灰原は手を離して口を開く。
白濁した溜まりの中に舌が浮いている。
見せつけるように舌を転がし精液をかき回した。
玄関のドアが開く。
「そろそろ出発しようか」
顔を出した博士の言葉に宮脇は時計を確認した。
午前十時。
帰りは全員一緒に蘭たちが駅からここに来た車で帰ることになっている。
半日掛かりになるのを予想しての行動だ。
「おや、蘭くんはどうしたのかね?」
玄関先に蘭の姿が見当たらない。
「おそらくもうすぐ来ますよ」
宮脇が答える。
「それにしても園子くんはなかなかに良い性格をしているな」
昨日乱交に耽っていた園子だったが、京極から帰国予定だとメールを受けるとすぐさま東京に帰ってしまった。
「あの淡白さが彼女の良い所なんですが」
「それは判っておるよ。あの傍若無人な性格のおかげでおいしい思いが出来るからな」
「全くです」
スーツケースを引いて蘭が部屋から出てきた。
来た時と同じジャケットを来ている。下にはジーンズを履いていた。
「せっかくプレゼントしたのにお気に召さなかったかい?」
博士は蘭にスカートをプレゼントしていた。
「こんな短いの履けるわけないじゃないですか」
「学校の制服だってこんなものだったろう」
蘭はスカートを包装していた紙袋ごと博士投げつけた。
袋から出てきたのは膝上十五センチのミニスカートだった。
「お腹の心配をしてるのかね? 帰りは車だから冷えることはないぞ。」
「だからです。どうせ車の中でろくでもないことをするつもりでしょう」
「まあ、そのつもりだが」
やろうとしていた悪戯がバレた子供のように博士は言葉を詰まらせた。
「私たちは駅までで結構です。電車で帰りますから」
「たち」と言っているからには歩美たちも連れていくつもりだろう。
「お金はあるのかい。哀くんたちはお金を持ってないよ?」
「東京まで行ったらお父さんに迎えに来てもらうので大丈夫です」
蘭の答えに博士は嘆息する。
「駄目と言っても聞かなそうじゃな。歩美ちゃんと哀くん、話があるからちょっとこっちに来てくれるかな」
外に呼んだ博士は何かを二人に話している。
腕を組んで目を閉じたままの哀に対して歩美の方は口に両手を当てて真剣な表情で話しを聞いていた。
駅の構内は帰省からのUターン客で歩くのに不自由するほどではないが混雑していた。 その中を蘭が歩き、歩美と哀がその後ろに続く。
長野駅から行ける所まで電車移動をした。今は次の電車を待つ傍らで休憩を取っている。
何かを買う余裕はない。
都心まではまだ距離がある。
構内のプラスチック椅子に三人は座る。
蘭が別荘で轟に持たされた水筒から温かいお茶を注ぎ歩美と灰原に配った。
「ありがとう」
礼を言って二人はお茶を口にする。身体から力が抜けた。
「蘭お姉さん」
歩美は不安そうな顔をしていた。
「大丈夫」
蘭は力強く答えた。
「私に任せて。さすがに都心までの三人の電車代は無いけど、東京まで行けばお父さんに迎えに来てもらえるから」
自分に言い聞かせるように別荘で口にした台詞を繰り返す。
歩美が頷く。
「それよりも歩美ちゃんたちは平気? 博士たちと何か話した後に深刻そうな顔をしてたけど」
「250人」
「哀ちゃんっ」
顔を逸らしてはぐらかす歩美の代わりに灰原が答える。
「新年度が始まるまでに二人で250人とハメ撮りしたら解放してくれるって言われたの」
解放されるのは歩美だけだが、そこまで言う必要はないと哀は判断する。
今回は蘭の正義感に乗ってはいるが、正直迷惑と思っていた。
博士たちはどうしようもない変態だが、約束はそれなりに守っている。
今回は自分たちが手を出さないという条件が付いていた。道中で誰かに売られる可能性もあったが、それもハメ撮りのチャンスと考えれば、むしろ電車移動は可能性を潰す悪手かもしれなかった。
それでもそこまで考えが回らなかった歩美は蘭の提案に飛び付き、蘭も年長者として年下を守るという逃避(・・)が出来ている。
灰原は今日三人か四人を相手出来なくても自分が少し頑張れば帳尻を合わせられると考えたのだった。
車中で話すつもりだったが蘭の誘いを助けと捉えている今の状況では話しにくい。
それに、
(今さら意見を引いたら博士たちは確実に何かする)
という確信めいたものがある。
ここは静観するのが無難だと灰原は判断した。
「250人……」
怒るかと思っていた蘭が真剣な表情で呟いたのが少し意外だった灰原と歩美がぽうっと見上げると蘭は手を振って思考を中止した。
「ところで産むの?」
灰原の唐突な質問に蘭が答えに詰まる。
「今からどこかの産科に行けば処置も間に合うはずって博士たちが言ってたわよ。私としては博士に一泡噴かせられるからアリだと思うけど」
「そんな当て付けみたいな理由で」
「そんな理由じゃないと、あなた産む選択肢しか持てないんじゃない?」
「それは……」
ここ一月の蘭のお腹への労り方は口にはしなくても新しい命に愛情を持っていることがよく解る
加えて正月のビデオ撮影での一件で蘭が胎児を守ろうとする姿勢を目の当たりにしている。
蘭の中で急速に出産に意思が傾いているのだ。
蘭の表情が急速に曇る。
「……蹴ったの」
「……」
「お腹蹴ったの、赤ちゃん。それもビデオ撮られてた時に。何するんだって感じで一回だけ。そしたら急に産みたいって思っちゃったんだ」
年下に話す風ではなく、独白するように淡々と蘭は話す。穏やかな表情は諦観しているようにも見えた。
「もちろん博士は憎いよ。言いたくないけど殺したいくらい。でも、月並みだけど子どもには罪はないの」
灰原は一度顔を臥せた後にもう一度蘭の顔を見る。
「解ってるとは思うけど博士がまともな出産をさせてくれるなんて思ってないわよね?」
「もちろん。でも誰からも気付かれないようにするには博士を頼るしかない」
灰原は蘭と睨み合って、視線を外した。
「蘭お姉さん」
歩美が蘭の服の袖を掴む。
券売機の前で東京までの切符の値段を探す。
「八王子までは三人で行けそうね。そこからお父さんが来てくれるといいけど」
財布の中を確かめながら蘭はスマホで最安値のルートを検索する。