5千字で収めたいと思ったら結構無理やりな展開となってしまいました。
――時刻はヒトサンマルマル……午後1時
艦娘寮、第六駆逐隊の部屋
「はぁ…………」
一人溜息をつき、佇む暁がいた。
「司令官は……私を…………」
最近彼への想いは強まるばかり。でも、自分から仕掛ける勇気もない暁は一人、部屋で悩んでいる。
と、その時、部屋の隅で白い物が動いた。否、“者”と言った方が正しいか。
「司令官がどうしたんだい?」
「ぴゃあああああぁぁぁぁ!」
そう、この部屋いたのは暁一人ではなかった。
「響!? いつからいたの?」
「え? ああ、ヒトフタサンマル……午後12時半位からここで寝ていたよ」
この響と呼ばれた銀髪の少女……いや、もう女性という表現の方が正しいかもしれない。彼女は特Ⅲ型駆逐艦の二番艦であり、暁の妹にあたる。
練度は既にキャップに到達し、ロシアと協力開発されたソ連仕様の艤装を用いて第二改装を済ませ、Верный(ヴェールヌイ)と名を変えている。だが、本人の希望と、周囲の思いも一致し、今でも“響”の名で呼ばれている。
背はこの三年でぐっと伸び、第六駆逐隊だけでなく、駆逐艦娘の中で一番高い。
暁もかなり背が伸び、現在、成人女性の平均身長よりやや高い160cm近くあるのだが、彼女はそれを更に上回る。流石に空母級や戦艦級の面々には遠く及ばないが、それらの中には提督である山村より高い者もいるので、まぁ一般的に見ると彼女でも充分長身の域に入るだろう。
それを見た皐月などは、
「ボクも改二になったのに、何で二人みたいに背が伸びないのさ!」
と、ぴょんぴょん跳ねながら怒るのである。可愛いな、と暁は思う。自分も三年前はこんな感じだったのだろうか。
…………ちなみに身長には恵まれた二人の特Ⅲ型であるが、胸部装甲に関しては二人共神に見放されたらしく、かなり薄い。新参の浜風が二人とドック入りした時に、殺気に似た視線を感じたというのは誇張もあるが事実なのである。
……とにかく、この部屋には暁だけでなく、響がいたのだ。
(聞かれちゃった……)
暁は自分でも分かるくらいに顔を真っ赤に染めて机に突っ伏している。響も少し驚いた体ではあるが、このような様子の姉を放っておくつもりは毛頭ない。
「……司令官と何かあったのかい?」
「……」
暁は何も答えない。
しかし響も引き下がらない。というか、大体察しがついているので、確認の意が大きい。今度はこちらから推測を立てていく。
「司令官とケンカでもしたのかい?」
これは全くの当てずっぽうである。
彼らがケンカしたことは何度かあったが、大抵暁が“ぷんすか!”している間に司令官の方から謝りに来ていた。
今回のように暁が元気をなくす事は初めてのパターンである。
案の定暁は首を横に振る。
「……じゃあなんだい? 司令官が誰かといちゃついてたのかい?」
多分これだろう。そう思って響が放った言葉に、暁はわかりやすいくらいに反応した。
「ふぇっ? 誰かそんなことしてたの?」
目を若干潤ませながら問う暁を見てクスクス笑いながら響が応じる。
「まさか。この鎮守府で司令官に本気で迫る艦娘は暁しかいないよ」
ギョッとする暁に吹き出しそうになりながら響がさらに続ける。
「気づいていないとでも思ってたのかい? 暁が司令官を好いてるって事は、新参含めて皆知ってることだよ?」
「ぴゃあああああぁぁぁぁ! って! 何で知ってるのよ!」
「え、暁の様子見て気づかないわけないじゃないか。もちろん、拡散したのは私だけどね」
「……恨むわよ」
「寧ろ感謝して欲しいくらいさ」
長女と次女の皮肉合戦が始まりかけたその時、部屋の戸が開いた。三女と末っ子が帰ってきたのである。
「あぁーつかれ……あれっ? 二人共居たんだ。暁は秘書艦業務かと思ってたけれど」
「お昼に皆で集まるのは久しぶりなのです」
雷と電である。この二人は暁や響ほど背が伸びず、二人共平均そのものといった背丈だ。二人共鳶色の髪を持っているが、雷の方が僅かに明るい色をしている。
また、胸部装甲についてだが、雷は姉二人とさして変わらず薄い。…………しかし、電は違った。
「電……今日もそんな大型バルジ引っさげて、挑発のつもりかい?」
「……故意にこうなった訳じゃないのです」
「分かってるからこそ妬ましいんだよ」
そう、一人だけ飛び抜けて胸部装甲が厚いのだ。
まぁ飛び抜けて、とはいえ、それは“第六駆逐隊の中では”というだけであり、電でも駆逐艦娘全体からしてみると平均的な大きさである。どちらかと言うと、姉たちが小さすぎたのだ。
「まぁこっち座りなよ。暁が重大な悩みを告白するらしいから」
「ちょ、響! 勝手に話を……」
「「どうしたの!? 暁(ちゃん)!!」」
「……」
下の妹二人にキラキラした目で詰め寄られ、言葉を失う暁に、響が無慈悲な(?)声でトドメを刺す。
「大人しく白状しなよ」
しばらく俯いて唸っていた暁だが、肩の力を抜き、長い溜息をひとつつくと
「……どこから話せばいいの?」
観念した暁に向けて、響がここぞとばかりに悪い笑みを浮べる。
「もちろん、彼の着任からだよ」
* * *
――十分後
「話しちゃった……何もかも………………」
真っ赤になって震える暁の姿があった。
「でもまさか暁がキスまでいってるとはね。まだ全く手を出せずにいるのかと思っていたけど」
「そうよねー。でもそこまでいったのならその日の晩とかに襲っちゃえばよかったのに」
「それよりも、そこまでアプローチされておいて未だに手を出さない司令官さんに驚きなのです」
皆言いたい放題である。
「で、本題なんだけど」
響が身を乗り出す。
「暁は司令官とどうなりたい? 恋愛的に愛し合いたいのかい? それとも結婚カッコガチかい? それともセッk」
「ストップ、響。顔が怖い」
霰もない事を口にしかけた姉の面子をギリギリのところで雷が救う。暁はといえば、一度観念すると遮るものは何も無いようで、驚くほど素直に質問に答えていた。
「あんまり先走りたいとは思わないけど……私の思いに限って言えば……カッコガチまでいきたいかな…………」
「はわわ……」
完全に乙女モードに入った暁を見て何故か電も赤面し、俯く。そこへすかさず、ヒビキ=フリーダムが攻勢をかける。
「暁は電を見習うべきさ。電が美代さんにするような積極性があれば司令官もイチコロだよ」
「誰が積極的で大型バルジなのです!!」
「ちょ、電。バルジは関係n」
フリーダムすぎた次女は手痛い反撃を受けた。
* * *
「ごふっ……と、とにかく、暁は司令官と恋愛的な関係になりたいっていうのは確かなんだね?」
「うん……」
しばらくダウンしていたようやく響が起き上がり、話題を戻す。
「よし、それならこの鎮守府の面々は皆協力者だ。最後に決めるのは暁だけど、機会ならこちらでなんとか作る」
「そうよね。とりあえず今日の司令官の夜食に色々混ぜt」
「「それはダメ(なのです)!!」」
電は多分道徳的にとか二人の気持ち的にどうかと思ったのであろうが、暁は違う。
山村司令官のトラウマの根本が女性との関係、ひいては媚薬にあるという事を知っているのは彼女だけだ。
彼はそれの影響で友を傷つけ、しかもその直後に喪っている。謝ることさえ出来ずに友はあの世へ行ってしまい、それ以来ずっと自分を責めているのだ。
もし、彼が薬を飲んでしまったら?彼はきっと一人で抱え込んでしまい、かえって逆効果であろう。
「えー……じゃあ何なのさ。暁はそういうのしたくないのかい?」
ジト目で響がブーブー言う。ここで何を思ったのか暁が叫んだ。
「そりゃあ私だって司令官とえっちなことしたいわよ!!」
……
……
……
数瞬の静寂。
あの響でさえ、暁が昼日中に大声でそのような事を叫ぶ暴挙に出ようとは思っていなかったのだ。
「えっと……何か言ってよ………………?」
その時、部屋の戸が勢いよく開かれた。
「暁、年頃の女の子だからそういう気持ちを持つのも解るけど、もう少し小さな声でお願いできるかしら。廊下によく響いていたわよ」
柱島鎮守府の主力空母。加賀である。
「ぴゃあああああぁぁぁぁっ!」
「……今日何回目かな、これ」
「さぁ……」
「今日も鎮守府は平和なのです……」
「……とりあえずどのような経緯か聞いてもいいかしら?」
* * *
「…………」
もうヤダと全身で表現する暁に、フリーダムな会話を重ねる正規空母一人に駆逐艦三人。
「なるほど。それなら話は簡単ね」
「どういう事なのです?」
「司令官が暁に好意を抱いていないはずが無いもの。程度の差こそあれどね。好きでもない人に、自分の弱みを語るかしら?」
「確かに……」
「指輪だってそう。指輪は一定の功績を立てれば、何度でも支給されると、書類にあったわ。彼、もう幾つかストックしてるんじゃないかしら」
第六駆逐隊の面々は、司令官のデスクにただ一つ、鍵がかかって開かない引き出しがある事を思い出した。何度聞いても教えてくれなかった引き出しの中身。
デリカシーの欠片もない一部の艦娘の間では司令官の好みの女性の写真集があるのだ、などというにべもない推測が立てられていた。
「でもそれが本当なら……」
「そう。提督が別の艦娘とケッコンカッコカリするのを躊躇っているととれるわね」
「って事は、暁一人をカッコカリの相手に決めてるってこと?」
「全て推測だけど、それが正しいとするなら、そうなるわね」
山村提督は知る由もないが、ここで加賀の推察は完全に正しい。加賀が続ける。
「少なくとも暁。貴方の提督は、貴方の思いを無下にするような人物ではないはずよ、それは貴方が1番分かっているはずでしょう。大丈夫。貴方なら鎧袖一触、自信を持って」
普段クールで、どちらかと言うと無口な加賀がここまで饒舌になって激励してくれている。妹達も、ふざけてはいるがなんだかんだ言って私の事を親身に考えてくれている。
「そうよ……そうよね! 司令官なんてレディーの魅力でがいしゅういっしょくなんだから!ありがとう!皆!加賀さん!」
加賀は大人の微笑(と、暁は思った)をたたえて、後ろを指さす。
「お礼なら後ろでカンペ持ってるあの子達にも」
そこには、天龍型軽巡の二人と、第五航空戦隊、通称五航戦の瑞鶴が、こちらをのぞき込んでいた。
「俺達も応援してるからな!」
「提督の応じ方によっては……私からもお仕置きがいるわねぇー……」
「暁ちゃんは提督さんかぁ……ま、頑張ってね!」
皆、思い思いに激励の言葉をかける。
「皆……」
「決心はついたのです?」
「うん! 行ってくる!」
駆け出す暁、きっと行先は執務室だろう。宴好きで、ところどころ幼いところがあって、セクハラ常習犯で。その癖、人を思いやるのが上手で、部下の絶対的な信頼を失わない。
あの提督の元へ…………