※この作品はR-18です。

暁ちゃんと幸せになるまでのお話   作:ゆめかわ煮込みうどん

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久しぶりの最新話です。


二人は動き出す

 ――山村提督が執務室から出たのとほぼ同時刻。

 

 鎮守府駆逐艦寮廊下

 

(司令官も休憩中って言ってたわよね……)

 

 彼は何処にいるだろうか?

 

 鎮守府で任務外の時間に司令官を見つけるのはとても難しいということは、3年間一緒に過ごした暁にはよく分かっている。彼は常人より遥かに沢山の趣味を持っているのだ。

 睦月型の子達の遊び相手になっていたり、長門さんとトレーニングをしていたり、曙と釣りをしていたり、潜水艦娘と水泳していたり、憲兵の美代(みしろ)さんとチェスをしていたり、医務のおじさんや事務のおばさんと麻雀していたり、秋雲(オータムクラウド)先生とイラストを描いてたり、鳳翔さんと料理をしていたり、瑞鶴さんと弓道をしていたり、木曾さんと素振りをしていたり、千歳さんや隼鷹さん達とお酒を飲んでいたり……

 

 私が今思いついただけでもこれだけあるのだ、容易に見つかろうはずがない。

 

……ちなみに、司令官はこれだけ多趣味であるのに、そのどれもがかなりの技倆(うで)だった。でも、それだけを趣味にしている人達から見れば、まだまだ甘いのだそう。

 

 特に、弓を趣味どころか訓練としている加賀さんなどは、

 

「生半可な気持ちで弓(それ)を持たないでくれるかしら」

 

 などと、容赦ない台詞を浴びせるので、司令官はすっかり気が縮んでしまい、最近道場に通う頻度ががっくり落ちた。

 

「阿武隈さんを探そうかしら」

 

 この鎮守府に、感の強さで阿武隈に敵う者はいない。

その感の強さは、いなくなった人(もちろん艦娘も)の現在位置を探し当てることに大いに役立っている。

 本人は、全部感だと言っているのだが、その的中率は8割を超えていて、“人間レーダー”ならぬ“艦娘電探”の異名を取るほどだ。

 それらの無責任な人達とは違い、阿武隈は几帳面にも自分の予定を皆に伝えているので、司令官や、隼鷹など、ふらふらとどこかへ行ってしまう人に用がある者は皆、阿武隈の感に頼って探すというわけである。

 

「阿武隈さんはヒトヒトマルマル……11時頃に北方鼠輸送に出たから……そろそろ帰ってくる頃ね」

 

 それなら話が早い。司令官はすぐにふらふらと何処かへ行ってしまうが、出撃や遠征に出ている艦娘が帰ってくる時だけは絶対に執務室にいる。

 以前まではわざわざ母港まで出て迎えてくれたのだが、流石に将官になるとそんな暇も無くなってしまったので、執務室で報告を受けるという形で妥協しているようである。本人は、不服そうであったが。

 

……つまり阿武隈が遠征終わりということは、今頃2人でお茶を飲みながら世間話でもしているのではないだろうか。

 

 私は足を執務室に向けた。

 

 

 

* * *

 

 

 

 ――数分後

 

 執務室前

 

「さて、今日の任務はもうないけれど……」

 

 軽巡、阿武隈が執務室を出たところだった。

 本当は提督と一緒に執務室を出るつもりだったのだが、せっかく入れてもらった紅茶がもったいないということで、全て飲み干してから席を立ったのだ。

 

「久しぶりのお休みだし、お姉ちゃん達(長良型)と過ごそうかなぁ」

 

 

 

* * *

 

 

 

 阿武隈は、この鎮守府一多忙な艦娘と言われている。

それもそのはず、高い能力値とカンストした練度に加え、軽巡で唯一甲標的を扱えるという特殊な艤装を持つため、出撃任務の軽巡枠には優先的に据えられる。

 低い火力と高い雷装という偏ったステータスを逆に武器にし、【甲標的、魚雷×2】での開幕雷撃要員としての運用や、高い夜戦火力を活かした【甲標的、主砲×2】など、装備を変えることで様々な局面に対応できる万能型(バランスファイター)として大活躍するのだ。

 

 勿論のこと、偵察機も積めるのだが、彼女の場合、低火力が災いして他の軽巡との差別化が図れないために滅多に用いられない。その役割は神通や大淀の方が長けている。

 

 また、軽巡にして大発動艇の運用が可能となり、遠征の軽巡枠にはまず間違いなく彼女が入る。

 天龍、龍田の二人と共にすっかり睦月型(子供達)に懐かれてしまい、プライベートな方面でも引っ張りだこなのである……遊び相手として。

 

……ちなみに、この鎮守府で大発動艇を運用できる艦娘は、他に響ことВерный(ヴェールヌイ)や、改二になった皐月、霞などがいるのだが、響は練度カンスト艦として、比較的最近着任した駆逐、軽巡クラスの艦娘達の訓練を担当しており、そちらにかかりきりで滅多に遠征には出ない。

 

 遠征には最大で三艦隊同時出撃もあるので、残った彼女達はそれぞれの艦隊に1人ずつ編成されるという訳である。

 

 

 

* * *

 

 

 

「あの提督ったら本当に人使いが荒いんだから……」

 

 そのくせ、自分の思いすら満足に表現出来ない不器用さんだなんてね、というつぶやきを発する前に、聞き慣れた声が私を呼んだ。

 

「あ、阿武隈さん! 司令官見てない?」

 

 そこに居たのは暁だ。だが、今朝見た暁とは別人のような……まるで戦意高揚(キラキラ)状態のような輝かしい笑顔だ。

 

「提督ならさっきまでここにいたわ……会わなかった?」

 

 こくりと頷く暁。三階から降りるのに階段は二つしか無いから、綺麗にすれ違ってしまったらしい。

 

「用があるの?」

 

 そう問うと、

 

「ええ! とっても大事な!」

 

 と、さっきの笑顔で答えるのだ。思い悩んでいたことが吹っ切れたとしか思えない、きっと姉妹か誰かが相談に乗ったのだろう。

 

「それならちょうど良かった。提督も暁ちゃんのことを探していたわよ」

「え、暁を? ……何か知ってる?」

 

 不思議そうに首を傾げる、その表情は、阿武隈の知っている三年前のそれと殆ど異ならない。

……ただ、少しだけ、女性らしさが増した。彼女がこんなにも色っぽい笑みを浮かべることが、今まであったであろうか?

 

 何故だかわからないけれど、様々な記憶が一気に呼び起こされた。

 柱島(ここ)で建造された日のこと、彼女達と仲間になった日のこと、初めて誕生日を迎えた日のこと、第二改装を終えた日のこと。

 

……そして、彼(提督)に恋をした日のこと。

 

 その記憶たちは暖かで、優しくて、微笑ましくて、それでいて悲しくて、切なくて、飢えを感じさせる。

 

……ああ、暁ちゃんが不思議そうにこっちを見つめている。きっと私は深刻そうな表情(かお)をしているのだろう。

 笑わなきゃ、ここで笑わなくちゃどんな表情をする? そう自分に言い聞かせる。

 

「多分暁ちゃんがいそうな所を探していると思うわ。普段よくいる場所に行ってみたら?」

 

 無理やり作った笑顔で押し出した言葉はこんなにも平凡なもので。

 

「ありがとう、行ってくるわね!」

 

 駆け出そうとする暁ちゃんを見つめる私の心は、こんなにも切なくて。

 

「……暁ちゃん」

 

でもこう言った、これは私の本心。

 

「上手くいくといいね」

「……」

 

 暁ちゃんは一瞬きょとんとした表情をしたかと思うと、顔がみるみる赤くなっていく。蚊の鳴くような声で尋ねてくる。

 

「……知ってたの?」

 

 まだ何も言っていないんだけどな、とつぶやき、今度は自然な笑顔で返す。

 

「“感”……かな」

 

 

 

* * *

 

 

 

「あ〜、あぢぃ〜」

「……隼鷹、私まで暑くなってくるからいい加減辞めてよ、それ」

 

 母港に隣接した演習場そばの土手の木陰で駄弁っているのは、軽空母の隼鷹と私、千歳だ。

 

「いいじゃねぇかよぉー……飲む酒もないし、今のアタシはもう大破状態(瀕死)なんだ」

 

 目を閉じて、少し過去に記憶を遡る。先日、同僚である軽空母の龍驤が改二改装を終え、お祝いパーティーをしたのだ。

 その時に限度を超えて飲みまくった挙句、深夜まで暴れまくった隼鷹と医務のおじさんの二人が、憲兵の美代くんに捕まって一ヶ月の禁酒令を布かれたたのだ。

 

 提督の提案で、禁酒令を破れば、今度は出撃を一ヶ月禁じられる事となり、流石の隼鷹も酒を控えているという訳である。

 

「禁酒令、もう解除されたじゃない」

「肝心の酒が酒保にないんだよ……あの提督、補給サボッてんな……」

「ま、大破状態ならドック(お風呂)にでも行ってくる事ね。回復するかもよ」

「……面白みのない奴になったね、千歳」

「どっちがよ」

 

 ケラケラと笑い出す。

 

 新規着任した艦娘は大概、この2人が鎮守府の軽量艦隊の主力であることを聞いて驚く。

 こう見えて2人とも改二改装を終えている上に練度キャップ到達、また着任後二年オーバーという熟練艦娘(ベテラン)なのだ。2人の航空打撃力は、下手をすると正規空母にも匹敵するという……

 

 

「今日は千代田が見えないね。いつも千歳にベッタリなのにさ」

「あー、千代田(あの子)なら……」

 

 北西の水平線を指さす。

 

「今頃呉で演習に明け暮れてるはずよ。もう少しで練度キャップ到達ってことで演習部隊には全部参加してるみたい」

「はぁー、そりゃあ気の毒なこったな」

 

 気の無い質問と、気の無い答え。私も隼鷹も、こんなだらけた時間がとても好きだった。

 

……絶対に口に出して言う2人ではないけれど。

 

「……ところで」

「うん?」

「さっきの提督よ。どう思う?」

「どう思うって……いいんじゃねえの? まさか冗談じゃあるまいし」

 

 

 

* * *

 

 

 

――30分程前

 

 私は炭酸飲料のボトルを2本持って、隼鷹の待つ土手に着いたところだった。

 

「はい、グレープで良かったわね」

「おっ、待ちわびた〜。多謝多謝……」

 

 隼鷹が、市販の炭酸飲料の口を開け、豪快に飲み始める。

 

「かーっ! 炭酸がここまで美味いとは今まで気づかなかったなぁ!」

「普段は酒ばっかりだもんね」

「それはそれさ。酒は人類の友って言うぜ?」

「誰の言葉よ」

「アタシさ」

「つまんない」

 

 クックックと低く笑う。

 

「おっ、珍しいのがいるぞ」

「ん? 巡洋戦艦(金剛型)の子達かしら?」

 

 この土手は駆逐艦、巡洋艦、軽空母などの軽量級の艦娘達の演習場に面している。だが、戦艦や正規空母などの重量級の艦娘たちの演習場は別にあるため、ここに大型艦達がやって来るのは珍しい事なのだ。

 

……ちなみに、誤解を予期して先に解いておくと、軽量級、重量級というのは決して体重による区分ではない。

あくまで運用コストや、攻撃力での区分である。

 

「いや、あれだよあれ」

 

 隼鷹が顎で示す先には、提督が腕を組みながら歩いていた。

 

 提督はかつて、艦隊が帰還する度に母港へ出て艦娘達を労っていたということは、有名だ。しかし、今の提督は昔と違う。今では正式ではないにせよ将官となり、負う責任も仕事も増え、母港で提督を見かけることは少なくなった。

 

 その提督が、心ここに在らずといった体でふらふらとほっつき歩いているのである。

 

「そういや長門が、今日の提督の勤務は午前だけとか言ってたね」

「ってことは自由時間かしら。でも、制服を着てるわよ」

「にひひ……とりあえずちょっかいかけに行くか!」

 

 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべたかと思うと、隼鷹は駆け出し、提督を呼んだ。

 

「提督~! 何似合わない面で考え込んでいるのさ」

 

 提督は深刻そうな顔を上げた。

 

「ん、ああ隼鷹と千歳か……何でもないよ」

「何でも無さそうだから聞いてるんですけどね。どうかしましたか?」

 

 提督は一瞬ためらうようにして、こう言った。

 

「暁を探している」

 

 重々しく答えた。私と隼鷹は顔を見合わせ、目で言葉を交わす。

 

(暁ちゃんを探してるって……いつもベッタリなのに? 今日は何で一緒にいないのかしら……)

(知るかよ! でも顔が本気(マジ)だぜ? 喧嘩でもしたんじゃないか?)

 

 それを聞いた訳でもないが、提督がまた口を開いた。

 

「その……今日はもう休みにしたからね。どこへ行ったか分からないんだ」

「そ、そうなんですか……」

 

 またも隼鷹と無言のやり取りが始まる。

 

(喧嘩って訳でも無さそうね)

(でもこんな萎れた提督滅多に見ないよ。何かマズイことでもしちゃったのかも……)

(まさか、あなたじゃあるまいし)

 

 これまた不審そうな私たちを見て、提督は力なく笑うと、ぽろりと言葉をこぼした。

 

「彼女には伝えなきゃならない事があるんだ」

「「……」」

 

 思わず2人とも口をつぐんでしまった。

 “私的な用”とでも言うのならまだしも、“伝えなくてはならない事がある”というのだ。それではまるで……

 

「馬鹿正直なのか、それとも冗談なのか……。前々から気になっていたからこの際はっきりさせておくけどさ」

 

 二人揃ってため息をつく。隼鷹がずいと、顔を寄せて単刀直入に言った。

 

「暁に気があるんだね?」

「……ああ」

 

 少し戸惑っていたが、提督は驚くほど素直だった。もう隠せるものでもない、と開き直っているのだろう。そしてまた力なく笑うと、こう言った。

 

「阿武隈に怒られちゃったんだ。提督が態度をはっきりさせなきゃいけない。逃げてちゃいけないってね」

 

 隼鷹が重々しく頷く。

 

「それなら早く行ってやりなよ。あの子(暁)はずっと待ってたんだ」

 

 暁が(物好きにも)この提督に気があるのは知っていた、と言うか暁も割と積極的にアプローチをかけていたので艦隊のほぼ全員が気づいていた。

……それには響の広報活動が大いに貢献しているのだが。

 

 とにかく、暁が提督を好いている事ははっきりしていたのだが、提督はこれまで態度を決めかねてずっとふらふらしていた。

 

 艦隊一の練度、補強増設による応急修理要員(ダメコン)常設、交代制とはいえ秘書艦を任され、さらにたった1人のケッコン(特別改装)艦というこの上ない名誉まで与えて贔屓しているくらいなのだから、提督に全く気がないということは考えられなかったが、だとすると尚更、提督の態度が定まらないのが腑に落ちなかった。

 

 ある時などは、大型戦艦の武蔵といい雰囲気になり、長門を本気で怒らせたりもしたものだった。長門は艦隊の中でも特に彼女達駆逐艦への面倒見がよく、提督と暁の何とも言えない関係を年長者として暖かく見守っていた訳で、

 

「今は彼(提督)も決心がついていないが、いずれは腹を括るさ」

 

 にこにこしながらそう陸奥に語ったという。そんな長門だからこそ、提督が他の者に現を抜かしていたのを見て、つい熱くなってしまったのだ。

 

……実はこの時、提督と武蔵、大和とビスマルクの、提督+大型戦艦の4人で2組に別れて賭けをしていて、負けた提督、武蔵の2人が“1週間恋人”という罰ゲームを受けていたのだ。

 2人とも堅気というか馬鹿真面目なので、律儀にも1週間恋人を演じ続けようとしたという訳なのだが、4日目に長門が提督を本当に殺しそうな勢いで迫ったのを見て、罰ゲームを課した大和、ビスマルクが必死に止めに入って事を収めたという次第である。

 

 隼鷹が、今度はにっこりと……何時ものニヤニヤした笑いではない、彼女には珍しい、無垢な、打算も冗談もない笑顔。私から、彼に言った。

 これは、2人の気持ちの代弁。

 

「やっとはっきりさせましたね」

「ああ、迷いはないよ」

「じゃあそんなシケた表情(かお)してんじゃないよ。自信が持てないのはわかるが、意気地無しは嫌われるぞ?」

「いつも通りの、頼もしい提督でいてくださいよ」

「……」

 

 提督は、クククッっと(本当に、独特な笑い方だよね)身を屈めて笑った。

 次に上げた顔には、不安そうな色は消えていた。少なくとも、表面的には。代わりに浮かべていたのは苦笑い。

 

「頼もしくなったね、お前達……」

 

 少し長めの黒髪をかきあげて呟いた。不器用にお礼を言っているということは、付き合いの長い私達にはすぐにわかった。

 

「ここへ来てすぐの頃は大破祭りだったのにね……」

「提督のお陰で、成長限界(キャップ)に到達するまで成長出来たさ」

「もちろん、人間的にもね」

 

 だから、にっこり笑って送り出す。いつも通りの彼なら、何も問題ないから。

 

「さ、こんな所で駄弁っている場合じゃありませんよ」

「そうだね、早く行きな。善は急げ、だ」

「そうするよ……あ、そうだ」

 

 提督は歩きかけて止めるとこう言った

 

「隼鷹、お前の禁酒令は解除だ。提督の権限で許す。ありがとな」

「よくわかってるねぇ〜、どういたしまして」

 

 

 まさか隼鷹がいつもに増して優しかったのはこれが狙いだったのだろうか……

 

 

 

 

 




遂に暁が練度キャップに到達し、ケッコンする事が出来ました。
本格的に艦これを始めてから半年くらいかかりましたね。
凄く嬉しいです。
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