※この作品はR-18です。

月虹の元で生くる者達   作:名も無き呟き

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藍華の過去です。

暗い(確信)


悲哀···罪と罰

貧しい街だった。

家々は朽ち果て、至る所で生き物の腐敗臭がたち込めていた。恐らく、その中には人間の死体もあるだろう。

その中で、生きるには、何でもやる必要があった。子供が、一人、また一人と骨になる様を見て、寒さを増す様を感じ、何度も死にたいと思った。でも、同時に死にたくないと思った。

 

兄の、仇を討つまでは。

あの紅い瞳をした男達を見返してやるまでは。

何としても、生きてやる。

そんな時に、主様に偶然出会った。

主様は、ふわりと私を外へと誘い、連れて行って下さった。何もかもが初めてで、衝撃的だった。目を見開き、足を硬直させた私に、主様は黙ってついていて下さった。

 

誰よりも優しく、そして誰よりも恐ろしい御方だった。

煙管の煙をくゆらせ、足下の死体を見下ろす目は、どこまでも冷たく、どこか妖しい光が灯っていらした。

 

そんな主様に連れられ、私は闇へと堕ちた。いや、私にとっては光なのだ。主様が居られるのなら、どこでもそこは光となって私を照らすのだ。

 

主様は、私に武術の手ほどきをして下さった。

毎日毎日、周囲の大人に助けられながら、汗を流し、時に血を味わいながら、歯を食いしばって、修行に耐えた。

 

そして、いつかの春。

桜がはらはらと、轟々と咲き散る季節。

あの紅い瞳は、どれも枯れ切り、色素が液体となって身体から抜け落ちていった。

 

その様を見ていた金色の瞳には、もう濁りなど無くなっていた。

 

代わりに、果てしない沢意が込められていた。

 

△▼△▼

 

「···藍華?」

 

「···」

 

藍華は、俺を抱き締めたまま動かない。

思わず不安になって見上げようとすると、何か生温い液体が俺の口辺りを濡らした。

 

舌で舐めてみると、ほんの少し甘く、それでいてしょっぱかった。

 

「···兄貴······」

 

不意に、彼女が"兄貴"と呟く。すると、また透明な雫が俺の口に当たった。

 

泣いている。

 

直感的にそう思った。

 

彼女は気づいていないのか、それとも気づいていてもやめてないのかわからないが、とにかく涙を流し続けた。

 

表情は、今にも泣き崩れそうだった。

 

流石に、こんな顔している彼女をこのままにしておくことは出来ない。

 

俺は、素早く立ち上がると、藍華をギュッと前から抱き締めた。

 

「···神威···」

 

彼女は、弱々しく俺の名前を呼ぶ。それを聞きながら俺は、言葉を慎重に選んで、彼女に語りかけた。

 

「···何で藍華が泣いてるのか、俺にはわからない。けど、だからって放っておくことも出来ない。···好きなだけ、泣きなよ。何も聞かないから、さ。」

 

「······ありがとう······」

 

彼女は、俺に礼を言って、そのまま俺の胸に顔を埋めた。

 

決して大声をあげて泣き叫ばず、僅かに、啜り泣くような声が漏れるだけ。

 

俺は、そんな彼女の髪を優しく撫でていた。落ち着く様に、慰める様に、そっと。

 

どれ位の間、そうしていただろうか。

 

突然、彼女が顔を上げて、身体を離した。

 

その眼には未だ僅かながら涙が浮かんでいたものの、指で拭いさってしまった。

 

「···平気?」

 

「···うん。」

 

彼女は、俺の問に返事をすると、ゆっくりドアの方へ向かって行った。どうやら、帰るつもりらしい。

 

「···送ろうか?」

 

「···いい。道は、もう覚えたから。」

 

何時もなら、無理矢理にでもついて行っただろうが、今回ばかりは出来ない。

 

一人になりたいのだろう。

 

其れ位なら、俺だってわかる。

 

「···アンタの話は誰にも言わないから安心して。それと···」

 

「それと···?」

 

彼女は此方を振り向きざま、俺の話を秘密にする事、そして何かを言おうとしていた。思わず身を乗り出して聞くと――

 

「···やっぱり何でもないわ。また近い内にお邪魔するわね。」

 

案の定あっさりとはぐらかされ、そのまま彼女は去っていった。見送る気も起きない程、俺はある事を考えていた。

 

涙を流しながら、藍華の呟いた"兄貴"という言葉。

それは、彼女にとってどんな意味を示すのだろうか、と。

 

「···。でも、今は聞かない方がいい気がする。あんなに悲しそうな藍華を見たのは、初めてだし···。」

 

彼女が話してくれるまで、待つしかない。

余計な詮索をして、これ以上彼女を傷つける位なら。

 

俺は、深い溜息をつきながら、藍華の去ったドアを見つめていた。




週末で三話も更新しちまったぜ。
また来週の週末かなー
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