右目が結膜炎でかゆい。
過去編って言うかなんつーか···まあ過去編の続きですね。
面影···夢で逢えた者の追憶
「···っ!!」
胸に手を当てて、動悸を確かめる。
心臓が早鐘のように打ち、背中にはべっとりと冷や汗をかいていた。
あんな、生々しい夢を見たのは久しぶりだった。
まさか、母の生きていた昔の記憶をあれほど鮮明に思い出してしまうとは。
ガチャ
唐突な音に、俺は飛び上がった。
「···あら。起こしちゃった?」
彼女だ。
ふわりとシャンプーの香りが鼻につく。
「···いや、別に。」
「そう。」
俺は、彼女の方を向かずに返事を返した。
彼女は、何気なく俺の隣に腰掛ける。
横を向くと、
「っ!?」
俺は思わず後ずさる。
そんな筈はない。
彼女の瞳は、琥珀に近い色の筈。
俺の、紫に近い青色の瞳とは似ても似つかない。
案の定、彼女は怪訝そうに此方を見ている。
「···?何をそんなに驚いてるのよ。」
「···」
もう1度じっくりと彼女の顔を見直す。
瞳は、何時もと同じ色。
顔の形も、肌の色も、全く変わっていなかった。
じゃあ、さっきのは一体―――?
「···」
彼女は俺から視線を外し、窓の方をじっと見ていた。
少しだけ目を細めて、口元は軽い微笑みのようなものがある。
「···っ!?!?!?」
バタンッ!
「···っ!?ちょ···大丈夫?」
俺は、ベッドから転がり落ちた。
頭の中は完全にパニック状態だ。
幾重にも渦巻く疑問が、濁流の様に押し寄せて、正常な判断が不可能な状態···謂わば別の意味で理性を崩壊させていた。
「···。とりあえず、シャワー浴びてきたら?···考え事は、1人の方が纏まるわ。」
彼女の声は優しい。
俺は、ヨロヨロと立ち上がると、浴室に入った。
△▼△▼
「···アイツ、一体どうしたっていうのよ。」
神威の態度が、非常に挙動不審だ。
私の瞳を見て後退り、私の横顔を見てベッドから落下した。
その時の神威の目は、幽霊を見たような恐怖と驚きに満たされていた。
「···考えられるとすれば、私を通して別の誰かを連想してる事だけど···誰なんだろう。」
一番有力なのは、近親者だ。
でも、妹の神楽ちゃんは生きてるし、お父さんの星海坊主さんも生きてるし···
あっ···
△▼△▼
「···ふう。」
シャワーを浴びると、だいぶ気持ちが落ち着いた。
そう、よくよく考えてみれば、以前から何と無く気がついていた事だった。
藍華の面差しや性格は、何処と無く母さんに似ている。
目を細めて笑う時や、精神的に辛い事を言われても平然としている姿は、非常にそっくりだった。
···明かしてしまうと、実は母に似ているのも俺が惚れた一因だ。
「タオル置いておくよー。あ、あと着替えも。」
外から彼女の声が聞こえる。
俺は、体に付着した泡を流し、置いてくれたタオルを使って体を拭き、着替えた。
「···纏まった?考え事。」
洗濯物を干していた彼女がヒョイと顔を出す。
「···ん?うん。大した事じゃないから。」
適当に嘘をついて誤魔化し······た。
「···。じゃあ、私でかけるわ。···来るの?」
「いや、帰る。んじゃ。」
彼女は注意深く俺を見つめていたが、やがて何かを察したように憐れみとも取れる視線を向けた。
内心狼狽えたが、そのまま背を向けて窓から部屋を後にした。
△▼△▼
「···ふう。」
秋が近づいてきて、だいぶ日差しも弱まってきたが、まだまだ油断は禁物だ。
傘を片手に、フラリフラリ江戸の街を歩く。
私は、朝の出来事を未だ引きずっていた。
美しく幸せ、それでいて残酷で儚い悪夢を見せられていたからだ。
心做しか、心臓の鼓動が今尚早い。
「···あら、神楽ちゃん。こんな所で蹲って、何してるの?」
私は、飛び上がった。
「っ!?」
見慣れてる筈の藍華の顔が、一瞬母親の顔に見えたからだ。
「···藍華アルネ?何でもないアルヨ。」
「···そう。」
藍華は興味深げに私をしげしげと見る。いたたまれなく感じながら、何故面影が重なるのかを考えた。
藍華の、眼、鼻、口、頬·········
「···あのさ、こんな所で立ち話もアレよ。喫茶店でも行かない?」
私はその申し出に、にべもなく飛びついた。
△▼△▼
「···美味しいアル。」
「あら、意外と少食ね。もっと食べるかと思ってたわ。」
少食―――と言うよりも食べ物が喉を通らなかった。先程から至った、一つの結論のせいで。
どう切り出すべきか、そんな事を悩んでいると、藍華から、思いもよらない質問がきた。
「···ねえ、私はそんなに神楽ちゃん達のお母さんに似てる?」
「···!?」
驚き、その一言に尽きた。
何故母を知っているのか、母と会ったことがあるのか、様々な疑問が浮かんでは消える。
「···。全部神威から聞いたのよ。朝神威も妙だったからもしかしてと思ったけど、神楽ちゃんもなのね。」
固まった私を見ながらクスクスと笑う姿も、よく似ている。
「···じゃあ、兄貴が藍華の事どう思ってるかもわかるアルカ?」
「···私と神楽ちゃん達のお母さんを重ねてみてるって言いたいんでしょ。···ああ、大丈夫。気にしてないから。」
言おうとした言葉は喉の奥で沈む。藍華が、非常にあっけらかんに言い放ったからだ。
「···いいアルカ?兄貴は、藍華の事···母さんに似てる意味で好きアルヨ?」
やっと絞り出せたのは、僅かな心配と、兄貴を馬鹿にする要素が入った言葉。
違う。こんなこと言いたくないのに
「···。もし、本当にそうなら、私はとっくにあいつを捨ててるわ。···まっ、
非常に皮肉のこもった台詞だ。
中途半端な自分の慰め言葉に、思わず腹が立った。
「···」
「···ふふ。兄妹そっくり。」
「!?」
藍華は驚く私をよそに微笑んだ。目を細めて、優しげに、穏やかに。
「···!?」
その表情は、
私の、私達の母と、
残酷な程、
瓜二つだった···
藍華は本当に何処と無く似てるんです。
仕草とか、癖とかが。
もち、神威が惚れた理由の一つです。
その他もありますが。