地獄絵図の様を傍に見ながら、俺は駆け抜ける。
途中突っかかってくる馬鹿な敵を殺しながらも、意識は一点に集中させる。
―『確実に、一人以上夜兎は居るかと···!!』
「どこだー?」
ひたすら走る、走る、走る。
一際、血なまぐさい場所に着いたとき、奴は居た。
全方位敵に囲まれても、すぐに全員倒してしまう。
その鮮やかな戦い方、圧倒的な『強者』の匂いに、一瞬当てられる。
コイツだ、夜兎は。
深く考える間を与えず、奴に向かって突撃していく。
目だけをこちらに向けた奴は、素早く其処から飛び後退った。
正面に着地する。
よくよく奴を観察する。
フードを被り、日除けの布を巻いた顔は、表情が読めない。ただ、金色の眼だけが氷のような感情をこっちに突き刺してくる。
白金の髪に、白い中華服、金の縁取りがしてある。ズボンは黒。女か?
「ねー強いー?」
「確かめればいいだろ、自分でさ。」
くぐもった声。
「そうだねーまーアンタより俺の方が強いよー」
「···話してるヒマなんて無いの、こっちには。」
いきなり、鉄パイプが降ってきた。
正確に言うと、奴が振り下ろしてきた。
やはり読み通り、夜兎らしい。華奢な腕して勢い良く、こっちを狙ってきやがる。
難無く避ける。また狙ってくる。避ける。足下に振り落とされた。
「そんなんじゃ殺せないよー」
また頭を狙って振り落とされた鉄パイプを、今度はしっかり手でつかむ。
ガッ、バキンッ!!
そのまま手で、真っ二つに折ってやる。
「ーーー!!」
「ね?言ったでしょ?」
ブンッ!!
勢い良く、奴に向けて折った鉄パイプをぶん投げた。
ドンッ!!
と衝撃波が地を走り、爆発音が宙に轟く。
突然、爆煙の中から乾いた破裂音がした。
シュンッ!!
奴が放ったであろう、弾丸が空を裂き、俺に向かって飛んでくる。さっきので死ななかったとは、強者なのか、それとも幸運だっただけか。
「銃とかじゃ殺せないって、判ってんでしょー?」
正確に頭部を撃ち抜こうとする弾丸を、手で握って止めた。
「効かねェ弾は撃たねェよ。」
すぐ近くで声がした。
瞬間、背筋がぞわっとする。
とっさに、後ろに飛んだ。
身体を見下ろすと、服が斜めに大きく斬り裂かれ、そこの皮膚から血があふれ出ていた。
―いつの間に?
俺が弾に意識を集中させた、その僅かな瞬間、そこで一息に俺の間合いに到達し、斬ろうとしたと言うのか。
前を見て、奴をみる。さっきまで持っていなかった筈の短剣を、今は両手に二本、しっかりと握っていた。フードは外れ、布が巻かれた顔が露になっている。息は乱れてすら、ない。
この瞬発力だけで言うと、俺をも凌ぐ可能性がある。
―こいつは、強い。
斬られた部分だけでなく、全身の血が煮えたぎる。
「···イイネ。」
久し振りに、楽しめそうだ。
俺は笑った。
△▼△▼
ガキッ、ギャンッ!!
金属と金属がたたきつけられ合う音。
骨に響く、互いの蹴りの衝撃波。
殴ったり、蹴ったり、斬ったり、発砲したり。
戦っていて、気づいたこと。
・奴は女である。
・スピードは俺よりも勝るが、パワーは格段に劣っている。
・身の使い方、武器の使い方、それを用いた戦い方、応用力にも富んでいる。
・おそらく、本業は暗殺者である。
気になるのは、暗殺者のところ。
なぜ、正面戦闘を主とせず、どちらかと言うと隠密性を求められる暗殺者が、夜兎とは言え俺の相手をしているのか。
奴の瞬発力や高い凡庸性など、正にそれではないか。
敵の大将の意図が読めない。
考えながらも、攻撃を続ける。
当たったり、かわされたり。
相手の攻撃も同様に、当たったり、かわしたり。
とある一撃、奴が姿勢を低くした。足を狙うつもりか。
―チャンス、しめた!
頭ががら空きなのだ。殴れば一発で終了できる。
拳を振り上げた。そのまま、奴の後頭部に振り下ろす。
だが、避けられ、それは布と皮膚をかすった。
足に痛みが走る、ふとももを刺されたらしかった。
『この野郎···!!!』
お互いの声が重なった。
見ると、今まで顔を覆っていた布がさっきの一撃でほどけたらしく、やつの顔面から滑り落ちていっていた。
「曝すつもりはなかったのに···ったく。」
奴は顔面を上げた。そして、ゆっくりと笑った。
「···久し振りー、やほ、神威。」
「······お前······ッ!!」
白金の髪。
白い肌。
金色の眼。
間延びした声。
それに反して、氷の笑みを含かべた顔。
「藍···華·········ッ!!!!」
奴は、紛れもなく、彼女だった。
こ、小指が悲鳴を···