何故だ
逃げるは癪だが···
「······ん···?」
突然現れた真っ白な世界と、黒い何か。
いや、何かではない。
人だ。
真っ黒いマントを纏った、人。
瞬きを一つ。
やや視界がはっきりする。
此奴は、自分のよく見知った人だ。
「無事、蘇ったみてェだな。」
「···旦那?···えっ、ちょ、まって、何で死んでないの!!?」
霞がかった視界が急激にひらき、血が通わなくなっていた手脚に温かさが戻る。
何故、何故死んでいない?自分は死刑囚で、今日死刑が執行されたはずなのに。
何故······
「お前さん、覚えてないのか?俺が薬盛ったのを。」
「···薬?·········あ"!!」
そうだ、そうだった。
薬盛られて、意識なくなってたんだ。
「その反応だと副作用とかもなさそうだな。計画通り、と。」
あー、良かった。
そう呟く旦那に、私は叫んだ。
「何で死なせなかったンだよ旦那ぁッ!!!ふつー彼処までいったら死ぬのが定石だろ!?」
「何言ってンだ、主人公死んだら其処で話し終わっちまうだろーが。」
「でも私彼処でハッキリ死にたいって言ってンだけど!!?」
「あれは生存フラグだってよ。なーんか原作者的には其処で死なせるつもりでそういう風にしたらしいが、此処の作者がバッドエンド嫌いでハッピーエンド主義だから生かす事にしたんだと。フラグ回収乙。」
「はぁッ!?死亡フラグじゃなくて???何考えてんの此奴!!!」
「ンなもの俺が知るか。」
「じゃあ、今すぐ殺してよ旦那が!!!!」
「やだね。罪人の希望を一々聞く程俺は優しくねーよ。」
「ふざけんなぁぁぁぁッ!!!!」
「へいへい。怒るのはお前さんの勝手だが落ち着け。こんな所で騒ぎ起こしたらすぐ牢屋行きだっつの。」
「は?」
自分が寝ていた台を持ち上げ、今にも投げそうだった彼女が、その動きを止めた。
「此処は霊安室だ。一応防音加工だけど、それでもその台投げて壊れた音は響くっての。」
「···」
ガシャン、と台が降ろされる。
彼女は、無言で鋭い視線をこちらに向ける。
「ンな恨めしそうな顔すんなって。まっ、死にたいっていうお前さんの願いぶっ潰したのは俺だけどな。」
「···旦那一人の独断でやったの?」
「おう。」
「何で。」
「これ以上、団長の狂気増やさねェ為だよ。厄介事に巻き込まれんのは、もう懲り懲りなんだ。」
「···所詮は彼奴の為か。」
「さあな。···兎に角俺は自分に被害が来るのが嫌だっただけだ。」
「···」
完全に無言で無表情だった。
怒っているのだろう。
勿論、怒るのも予測済みだが。
「まっ、俺を恨むのも文句言いたいのもわかるけどよ、今はさっさと此処出て逃げな。」
「逃げろ、って···。······宇宙船あんの?」
「小型宇宙船の一機や二機無くなったって誰も気にしねェよ。お前さんらが暴れてくれたおかげでセキュリティもだいぶ低くなってるしな。」
「···はー。そのまま格納庫で爆発起こして死のうかなー···」
「安心しとけ。そういうやつのセキュリティは全部無事だからな。」
「···罰当たるよ?」
「どうだかな。日頃の行いが悪いのはお前さんだろ。」
「···あ"ー、もう、旦那の馬鹿ァ!!!」
「へいへい。ほれ、お前さんの服。これ着てさっさと行っちまいな。」
「···」
服をひったくった彼女は、一瞬でそれを身につける。そして傘を携えて、俺に背中を向けた。
「···いつか絶対罰当てに行くからな!覚えてろよ、コノヤロー!!!」
「期待しないで待っててやるよ。」
捨て台詞を吐くと、走り去る彼女。
なんとか、こちらの意図通り動かすことができた。
全く、二人揃って手間ばかりかけさせやがる。
こりゃ、この後も大変そうだ。
この労力、報われたらいいもんだ。
眠い