マッドファーザーも面白いですよ❀.(*´ω`*)❀.
人っ子一人、獣一匹見当たらない夜。
さらに時折音を立てるのは、寒風に吹かれて揺らぐ枯草だけ。
恐ろしい程の静寂だ。
――バサバサバサッ!
不意に、はっきり見えていた満月が揺らぐ。
そして風も、枯草を弄ぶものでは無い、全き別の音を立てた。
僕は、月から目線を外す
ゆらり、ゆらり
大きな影が一つ
赤い火影の中に、身を投じた
ふらり、ふらり
大きな影が二つ
赤い火影の中に、身を投じた
あれ?おかしいな
いつものあの人が、来ない
僕達の好きな眼をした、女の人
何か、あったのかなぁ?
僕はちょっぴり心配だ
まあでも、いつも後をつけてるわけじゃないし、
僕達のように気紛れに、フラリと現れるから、
何かがあった、とは考えにくい
そこで僕は、その場に留まることをやめる
路地裏の陰から、少し広くて明るい通りに出る
闇の中は良く見える、僕達の眼
明るくなると見えづらいけど、
昼間に比べれば、断然見える
眼をよーく凝らして、
遠い遠い場所を見る
うん、やっぱり来てない
見えるのは、堅くて、冷たい
四角いものばかり
僕は、少しガッカリだ
今の時間帯しか、この目は活用できないのに
でも、落ち込んではいられない
次は、夜風を思いっ切り吸い込む
途端に、色々な種類の匂いが、
僕の感覚を、翻弄する
物が燃えてる匂い
舐めると気持ちの悪くなる、液体の匂い
昔からどうしても苦手な、黒いガスの匂い
他にも沢山あったけど、
あの人の匂いはなかった
いや、見つけられなかった
悲しいな
僕達の鼻は、眼程優れてない
鼻は、僕達の天敵の方が優れている
彼処まで細かく分かることに、
昔は憧れたものだけど、
今はそうでもない
それに、鼻で見つけられるなんて、
露程にも思ってない
あくまでも、一応
だから、これはもうどうしようもない
最後、僕は耳に全神経を集中させる
どんなに僅かな音も、聞き漏らすまいと
ザワ···ザワ···
枯草が揺れる
パチッ!パチッ!
火の粉が爆ぜる
――!――!
別の人間が何かを叫ぶ
···駄目か
人間の声は幾つか聞こえるけど
どれもこれも、あの人の声ではない
最後の望みだった耳でさえ、
何も情報を掴めなかった
僕は思わず項垂れる
何時もなら、ああ、来ないんだな、と
すっぱり諦められるのに、
今日はとても悲しい
何と無く、今日は来てくれそうな
予感がしてたのだ
僕達特有の勘とでも言うべきだろうか?
まあ、答えは出ない上に、
見つからない時点で、
もう此処に居てもしょうがない
トボトボと、歩いて帰る
寒いな、寒いよ
悲しいな、悲しいよ
会いたいな、会いたいよ―――!
「···あら?あんた···どうしてここに?」
え、
いま、
なんて―?
声に驚いて顔を上げる
すると、会いたかった人が目の前に居た
少し驚いて、でも嬉しそうに僕を見ている
あ、ああ、やった!
嬉しいな、嬉しいよ!
良かったな、良かったよ!
僕の勘、間違ってなかったよ――!
嬉しさのあまり、
しゃがみ込む、あの人の胸に飛び込んだ
ああ、これだ
満月色の眼
向日葵の匂い
鈴の音の声
「···ふふっ、ここまで来てくれるなんて、余っ程寂しかったのね?よしよし。」
そして、僕の頭を優しく撫でる温かい手
僕の大好きが、全部此処にある
「···っと。」
あれ
手を離した
いつもより早い
急いでるのかな?
「···」
いや、違う
急いでるなら、すぐに行ってしまう筈だ
「···」
僕を···見てる?
顎の辺りを眺めていた僕は、
目線をあげて、ご主人様と目を合わせた
···いや、何と無く違う
僕だけど、僕じゃない
目を鋭く光らせて、僕の首の辺りを見ている
なんて、悲しそうな眼なんだろう
何も言わないけど、
僕には、今にも泣き出しそうに見える
「···首に巻いているのは、彼奴の···」
あっ、そうか
今僕の首には、もう一人のご主人様の布切れが
巻いてある
恥ずかしい話だけど、この前、
もう一人のご主人様が熾した、
焚き火に近づきすぎて、
首の毛が燃えてしまったんだ
幸い、火傷はせずに済んだけど、
黒い毛が所々禿げて、肌が見えちゃった
その時、もう一人のご主人様が、
ごめん、と僕に言いながら、
自分の服の裾を破いて、僕の首に巻いてくれた
今は毛も生えたけど、
首に巻いてあるのが慣れちゃって、
そのままにしている
「···彼奴は、ちゃんとあんたの面倒見てるのね。あんた、幸せ?」
そうだよ、と言って
僕は頷く
僕自身は、充分過ぎる位、
幸せだ
「そう。なら良かった。」
優しげな笑みを浮かべているご主人様
先程見た、悲しさは一切ない
「···そろそろ行かないと。ごめんね。」
そっか、もうバイバイの時間か
ご主人様は、名残惜しそうに僕を見て
姿を消してしまった
僕は、薄暗い路地裏に戻って考える
ご主人様の、幸せ?という質問
僕は、そうだよ、と答えたけど
この質問は、僕の方が聞きたかった
△▼△▼
二年前、二人のご主人様が、
急に二人じゃなくなった
満月色の眼をしたご主人様の方が、消えたんだ
僕は心配して、随分探し回ったけど、
紅い髪のご主人様が、
大丈夫だよと言ったから、
ご主人様を信じてやめた
それから一年
とある麗らかな春の日
僕は、いつもの様に、
紅髪のご主人様を待っていた
三日に一度、顔を見せるようになってたから
今日は来る日だった
あ、来た
そう思った瞬間、僕はある違和感を感じた
ご主人様が、笑ってないのだ
唇をギュッと噛み締めて、肩を震わせていた
驚いて、僕は自分からご主人様の所へ駆けた
ご主人様が、僕に気付く
一瞬驚きつつも、走ってきた僕を抱き抱え、
足早に家の中に入った
入ってまず、
突然過ぎて困惑気味な僕を床に下ろした
ガタンッ!
急激な物音に、僕は跳ね上がった
見ると、紅髪のご主人様が
椅子を乱暴に引いて、座った
バンッ!
今度は机を叩く
僕は再び跳ね上がる
何故?
如何して?
ご主人様は、こんなに乱暴じゃない筈
何時だって、優しくて笑顔だ
僕は、恐る恐るご主人様の顔を見る
顔は引き攣り、眼は据わって、
口がわなわなと震えていた
怒っている
直感的に、そう確信できた
普通なら近づくべきじゃないけれど
僕は、あえてご主人様の傍に擦り寄った
意外にも、ご主人様は
僕を抱き上げて、膝の上に乗せた
膝の上で丸くなる僕
それを見て、ご主人様はポツリと呟いた
「···藍華······」
え?
ご主人様···なんで···
満月色の眼をした、ご主人様の名前呼んで···
泣いてるの···?
「······俺がっ、俺が······守れなかった······。······処刑台に、登らせたんだ······!」
う···そ···
嘘だよね?
冗談だよね?
「······嘘なんかじゃ、ない。······もう、彼女はこの世に存在しないんだ·········!」
ご主人様は、僕の疑問を裏付けるように、
はっきり言い切ると、
ボロボロと涙を零した
僕も悲しくて、一緒に泣いた
△▼△▼
それからなんやかんやあって、
僕だけ満月色の眼をしたご主人様に再会した
最初は信じられなかったけど、
撫でる手つきや、匂いや、声は、
ご主人様そのものだった
嬉しかった
すぐにでも、紅髪のご主人様に伝えたかった
けど、どうしても伝えられなかった
だって···満月色の眼のご主人様に頼まれたから
会いたくない理由じゃないけど、
今会う理由にはいかない、と言われて
△▼△▼
僕が仲介して会わせようとしても、
たぶん無理だろう
けどね、僕はまた二人で居る所を見たい
何故かって言うと、
最初の最初···二人のご主人様が一緒だった時が、
僕にとっても、ご主人様達にとっても、
一番幸せな時間だったって分かったから
僕は守り続ける
僕は待ち続ける
僕は望み続ける
いつの日か、このささやかな願いが叶うように
皆さんどちら派ですか?
私は何方かと言えば猫派っすね。