※この作品はR-18です。

月虹の元で生くる者達   作:名も無き呟き

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痛たた···

もー、背中にナイフと背骨と肋骨骨折って何ですか。

殺したいんですか?

ねえ、私のこと殺したいんですか?


塩味の果実

ゴロン、とベッドに転がる。

 

私以外誰も居ない部屋の中で、ボフッ、と音を立てて枕の長方形が歪む。

 

···疲れた。

 

その一言に尽きた。

 

△▼△▼

 

眠くはない。だが、精神的な疲れが祟ってか、頭がぼーっとする。仰向けになると、電灯の灯が真っ直ぐ目に入ってきて眩しい。

 

ゴロリと寝返りを打って、殺風景な部屋の壁紙をじっと見つめる。

 

ああ、何も感じたくない。

 

ああ、何も考えたくない。

 

微かな眠気とともに脳裏を支配する倦怠感。

 

張り詰めた神経が少し弱まる。

 

弱まると、諦めた自分が出てきた。

 

このままじゃ、神経切れて死ぬ···

 

と、"自分"が思った。

 

が、瞬間的に、

 

駄目、"死ぬ"なんて言っちゃいけない!

 

と、別の"自分"が否定した。

 

すると、すぐさま復活する神経の張り詰め。

 

横たえた身体を跳ね起こし、辺りを注意深く見つめる。

 

机、窓、椅子、箪笥、壁···

 

何一つ変化はない。

 

「···はー······」

 

深い溜息をついて、乱暴に頭をベッドに落とす。

 

いつも、いつもこうだ。

 

何も無いのは分かりきってる。

 

なのに、余計な事をする。

 

それに安堵している自分と、怒りを覚える自分。

 

どっちが本当の私なのだろうか?

 

分からない。

 

···分からない?分からないなんてないんじゃないの?

 

また、まただ。

 

わからないと切り捨てる自分と、答えはもう出ているだろう?と嘲笑う自分。

 

いーかげんにしてくれよ!!!!

 

心の中で、怒鳴る。

 

けど、またまた冷静な自分が諌める。

 

怒鳴ったからってどうにかなるの?どうにも解決なんてしないでしょ?

 

···そんなこと、既にわかってる。わかってるんだよ。でも···

 

"でも"じゃない。素直に認めなさい。今の"自分"は怒っていても、冷静でも、無感情でもある、と。

 

···

 

否定したいのはわかる。けど、否定した所で何の解決にもならない。

 

···

 

そしてこの感情達を突き放すことは出来ない。

 

···

 

何故なら、これらは全て――という天秤の上の······

 

···もういい、やめて。

 

喋らないで。

 

何も言わないで。

 

黙って、私を一人にして。

 

···

 

···自分に対して何ムキになってんだ、馬鹿。

 

△▼△▼

 

「···」

 

壁に背を向けて、机のある方角を向いて目を閉じる。

 

ベッドの、柔らかく包み込むような感覚。

 

枕の、僅かな抵抗力と反発力の感覚。

 

心地好い。

 

眠れそうにはないが、ある程度の休息にはなる。

 

あー、疲れた。

 

今度は口に出して呟く。

 

誰からも返事は返ってこないが、それでいい。

 

机の上に置かれた時計に目をやる。

 

現在、時刻は三時。

 

依頼時間は、夜中の三時。

 

まだ、半日もある。

 

「···あー···」

 

本当はもう少し寝っ転がっていたかったが、机の上に散らばる紙が気になった。

 

身体を起こして机の上の紙を取る。

 

そこには、素っ気ない文章で、依頼時間が夜中の十二時に早まったことが記されていた。

 

「···」

 

一通り読み、何か細工がないかを念入りに確かめた後、グシャッと潰してゴミ箱に捨てた。

 

ガサッ、と音がして紙が中に入ったことを示す。

 

なかなか、無意識でも命中率が上がった気がする。

 

何訳の分からんことで喜んでるんだ、と思いつつも、他の紙の処理を続ける。

 

手紙、メモ、依頼書、請求書···etc

 

意外とたまるものである。

 

塵も積もれば山となる、と言ったところだろうか。

 

いやいや、塵ではないのだが。

 

片付いてスッキリした机は、やや汚れていた。

 

雑巾あったかなー、と箪笥の中を探す。

 

すると、小綺麗で、まだ未使用と思われるものが見つかった。

 

水で濡らすべきか一瞬悩んでから、ドアを開けて廊下に出た。

 

静かで、ひんやりとした廊下。

 

やや足早に廊下を進み、迷わず"給湯室"と書かれた部屋に入った。

 

蛇口を捻って水を出し、雑巾を濡らす。

 

念入りに絞ってから、もう1枚乾いた雑巾を拝借する。

 

濡れたままでは、細菌が発生して良くないから。

 

△▼△▼

 

あの後小一時間を、部屋の掃除に費やした。

 

机が綺麗になると、どうしても他の場所が気になってしまったからだ。

 

几帳面、とはちょっと違う。

 

凝り性、と言われればそうかもしれない。

 

まあ、どちらにせよ、綺麗にしたいという欲求が私の中にあるだけ。

 

「···雑巾、洗わないと···」

 

ふと手に持った雑巾を見る。

 

真っ白だった雑巾が、やや薄汚れて灰色になっていた。

 

意外と、汚れがあったのだろう。

 

箪笥とか、机の下とか。

 

再び給湯室に赴き、今度はバケツに水を汲んで洗剤を垂らす。

 

少し泡立った水に、乾いたものも濡れたものを両方突っ込んで、ゴシゴシと洗う。

 

十分くらい洗うと、水が少し汚れて、雑巾が白くなっていた。

 

いい状態だ。

 

洗った雑巾を、洗剤水を流した後水で満たしたバケツに入れて洗剤を落とす。

 

雑巾は、しっかりと洗剤を落とした後、固く絞って水を切った。

 

そして、広げて干す。

 

バケツは、中をよく流した後逆さにして置いた。

 

△▼△▼

 

時間は進み、現在午後七時。

 

何をしていたかと言うと、もう、単純にボーッとしていた。

 

ボーッとというと聞こえが悪いし、厳密には他のことをしていたのだが、お目を煩わせる様な事なので割愛させていただく。

 

「起きてるー?来ないから、ご飯持ってきたよー?」

 

「·········」

 

ドアの外から声が聞こえる。

 

起き上がって開けようかと思う前に、ドアは空いて女の人が入ってくる。

 

「···ってあら?起こしちゃった?」

 

「···いえ。」

 

「ならいいけど···。あ、ほら、ご飯持ってきたの。あんまり食べないから少なめの量にしてあるわ。」

 

そう言って、差し出したお盆に乗っかっているのはカレー。出来立てなのか、湯気を立てている。

 

「···ありがとう、ございます···」

 

ベッドに座ってそれを受け取る。

申し訳ない、と思った。

 

「お礼なんていいのよ。···私もここで食べていいかしら?」

 

「···どうぞ···」

 

お盆の上に、カレーが二つ乗っかっている事に、今更気づいてしまった。

 

△▼△▼

 

「んー♪やっぱカレーは美味しい!」

 

「···(モグモグ)」

 

「ねー、藍華も······って食べてるのか。」

 

あはは、と苦笑するお姉さん。

 

言わんとしたいことはわかっていた。

 

"そう思うでしょ?"

 

と、同意を求めようとして、私が口に含んでいるのを見て、その言葉を言うのをやめたのだ。

 

私はそれに気が付かなかったふりをして、未だ苦笑を続けているお姉さんを傍目に、カレーの感想を考えていた。

 

正直に言えば、このカレーは美味しい。

 

辛すぎず、かと言って甘過ぎず。

 

野菜の味も感じられて、美味だ。

 

とはいえそんなことを一々全部言う様では長い。

 

簡単、且つ簡潔に、"美味しい"とだけ伝える。

 

「···美味しい、です···」

 

すると、お姉さんは目を輝かせた。

 

「だよね!今日は私が作ったから藍華の好みに合うかちょっと心配だったんだけど、杞憂だったわ。ありがと、藍華!」

 

「···いえ、別に···」

 

満面の笑顔なお姉さんの顔を直視出来なくて、目を逸らした。

 

そう、確かに美味しかった。

 

美味しいと思った。

 

けど、作ってもらったこと、持ってきてもらったことに罪悪感があって、喜んでくれているお姉さんを見ていられなかった。

 

「···」

 

私が目を逸らしたのに気が付いたのだろう。

 

お姉さんが、少しだけ悲しそうな顔をする。

 

ああ、また、誰かを悲しませてしまった。

 

誰かに、迷惑をかけてしまった。

 

ほんと、迷惑ばっか。

 

「···。ごめん、なさい···」

 

謝った。けど、お姉さんは穏やかに笑って私の頭を撫でた。

 

「何で謝るの?貴女は別に悪い事は何もしてないわ。それに、謝るのは私の方よ。貴女は一人の方が好きなのに、無理矢理付き合わせて、嫌だったでしょう?ごめんなさいね。」

 

「···あ、私は、別に···」

 

違う。

 

嫌な訳ない。

 

そういう訳じゃない。

 

ただ、私は、迷惑を――

 

「無理して否定しないで。私、昔からどうも人が嫌がってるのを見分けるのが下手くそな性分でね···つい余計なお節介をして、嫌われたりし······。···ほら、お盆貸して。」

 

膝の上に乗っけていたお盆を取り、自分のお皿を重ねて持ち上げるお姉さん。

 

その動作は、非常にテキパキと行われていた。

 

「···あの、私···」

 

「片付けは私がやるからいいわ。夜中から仕事なんでしょ?ゆっくり休んでいた方がいいもの。」

 

お姉さんはハキハキと話すと、私の部屋を出ていった。

 

△▼△▼

 

「···ごめん、なさい。ごめんなさい、お姉さん···」

 

泣きたかった。

 

誰にも頼らず、一人で生きる――

 

それが私の決意だ。

 

でも、幾ら何でも、あの態度はなかった。

 

善意からやってくれた事なのに。

 

ただ、私が、負い目を感じたからって、あんな冷たい態度をとる必要はなかった。

 

ただ、私が、前以外見ないと決めたからって、あんな無愛想な態度で接することは無かった。

 

恥ずかしくて、厭で、情けなくて、申し訳なくて、堪らない。

 

けど、泣けない。

 

いや、泣くものか。

 

泣いたからって、さっきに戻れる訳じゃない。

 

むしろ、泣けばさらに罪悪感を増すだけだ。

 

泣いちゃダメ。

 

怒っちゃダメ。

 

···無感情に、過ごさないと。

 

△▼△▼

 

「···」

 

窓から夜空を仰ぎ見る。

 

綺麗な三日月が、あと少しでてっぺんに着く位置にいる。

 

あれがてっぺんに着いたなら、私は何も考えない機械と化す。

 

"殺す"という目的でのみ動く機械になる。

 

そうして、終わったら、無愛想な石像になる。

 

また、同じ様なことを繰り返す。

 

ねえ、

 

誰か、

 

···止めて。

 

この狂った様な連鎖を、張り詰めた一本の糸を、切ってください。

 

終わらない地獄を、終わらせてください。

 

自分じゃ止めらんない。

 

自分じゃ止まらない。

 

お願いです。

 

――解放して。




「そうに決まってるじゃなーい♪」

ファッ!?

「何よ、私は変なことで嘘つかないわよ?」

え、え、冗談ですよね?

「話聞いてるの?今言ったでしょーが。···あ、もしかして日本語理解出来てない?」

理解してるよ?理解してるけど···

「なら、問題ないよね?」

え、いや、大あり···

「えい♪」

ザクッ(背中に三本目のナイフ)

グハッ!?

「何本刺したら死ぬかな〜♪」

ぎゃあああああ!!!

⚠見せられないよ!⚠

···(チ───(´-ω-`)───ン)
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